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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


目指せ、百物語!

「夏と言えば百物語よね」
 みーんみんみん、と蝉が必死に鳴く声が響く中、碇・麗香(いかり・れいか)の呟いた言葉に三下・忠雄(みのした・ただお)は真っ青な顔でぶんぶんと首を横に振った。だが、そんな三下の拒否行動は碇に何の反応も引き出せず、眼中にすら留められない。
「そういうことで、怪談を百個集めて来て」
「無理ですよー」
「やる前から決め付けない! そうね、一人ひとつ怪談を話してくれる人を呼んで、毎回5話くらいずつ収録するのも面白いかもね。一気にやるより読者を惹きつけられるかも。そうだ、さんしたくんだけじゃ百話も集められないだろうから、後であの暇そうな怪奇探偵にも頼んでおこうかしら。きっと楽しい話が聞けるわよ。ね、さんしたくん」
「楽しくないですー! 全然楽しくないですー!」
「泣いてないでさっさと人材探しに行く!」
 アトラス編集部に、碇の怒鳴り声と、うわーんわんわんと三下が泣く声と、蝉の声が響いた。


 一ヵ月後。三下は絶望的な顔で涙を流していた。あれだけ碇に怒鳴られたにも関わらず、夏が終わるまでに百話全部を揃える事が出来なかったのだ。このままでは絶対に碇に雷を落とされる事は間違いない。が、今更どうしようもない。
「どうしよう……どうしましょうー」
「まあー、怒られるのを覚悟した方がいいんじゃないでしょうかねぇ」
 縋り付いてくる三下に、のんびりと答えたのは加藤・忍(かとう・しのぶ)だった。にこにこと微笑みながら、手に持ったお茶を啜る。近頃だんだんと寒くなって来たので、熱めのお茶が美味しい。
「そんなー……最初っから僕に百話集めろ、なんて無理だったんですよー」
「私に言われましてもねー」
「何とか、編集長に怒られないで済む方法ってありませんか……」
「ないでしょうねぇ」
「あううう……」
 すぱっと答えた加藤に、三下ががっくりと肩を落とした。
 三下の雀の涙ほどの名誉のために一応記述しておくが、三下もきちんとした記者である。碇からこの仕事を任せられ、三下は三下なりに人材探しを必死に行ったのである。
だが、頼みの綱であった某怪奇探偵はお盆やら何やらで幽霊ラッシュで忙しいらしく仕事を頼めず。
 そして、どうせ聞かねばならぬのなら、確実に怖いだけの話よりは、多少なりとも愉快さがあったり、優しい感じや切ない感じの話を聞く方が、読者的に面白い、というより三下の心臓的にショックが少ないと考え、そういった話をしてくれる人を重点的に探してしまったのが敗因であった。怖い話と言うのは、どっちにしろ怖いのである。恐怖の沸点が低い三下なら尚更。
 そんな情けない肩を加藤は労わるように優しく叩き、顔を上げさせる。
「そんなあなたに、一ついい話をお聞かせしてさしあげましょう」



 ある記者が、盆の夜に出るという噂のある、船幽霊の取材に行ったそうなんです。記者は乗り気ではなかったのですが、編集長の命令で行かなければならず、泣く泣くと取材に出たのですが、その噂のある地元で立ち往生してしまいました。そこは噂を怖がる人や、信心深い人たちが多くて、船を出してくれる人が見つからなかったのです。
 しょうがないので、記者は何とか船を借りて、一人で夜の海へ出ることにしました。趣味で釣りを嗜んでいたのでね、免許は持っていたらしいのです。まあ、それが運の悪さだったのでしょうね。
 記者が船を出して暫く経った頃。突然、船が動かなくなりました。すわ故障かと焦った記者がいろいろと船を調べまわっていると、沖の方から光が近付いて来ました。
 記者は初め、その光を他の漁船か何かだと思い、助けを求めようと声を張り上げました。しかし、その光がだんだんと近づいて来るにつれ、記者の顔は青褪めて行きました。その光は、噂の船幽霊だったのです。
 ぼろぼろの茶色い布を纏った老人が、片手に灯りを持って、片手に半分に切られた大きいペットボトルを持って、海面の上に立っていました。
「最近は柄杓の代わりがあってねぇ」
 そう言って、船幽霊はそのペットボトルで海水を汲むと、記者の乗っている船へと注ぎ始めたのです。記者は慌てて船の奥に仕舞われていたバケツを持ってきて、必死に水をかき出そうとしましたが、船幽霊が水を注ぎ込むスピードの方が速くて、間に合いません。もう駄目だと、記者が諦めかけたときです。
 今度は陸の方から、松明の光のような炎がふよふよと近付いて来ました。船幽霊がその炎を睨み付けて言います。
「陸の者よ、邪魔をするのかい?」
 すると、炎がゆらりと揺らめき、どこからか声が答えて来ました。
「こんな間抜けを仲間にする気か」
 声が言うと同時に、記者が持っていたバケツに小さな火が燃え移りました。記者が慌ててバケツを放り投げると、バケツはころころと転がって行き、底を上にして止まりました。底には、大きな穴が開いていました。
 その穴を見た船幽霊の灯りが大きく揺れたと思うと、記者は気を失いました。次に気がついたときは病院のベッドの上だったそうです。



「間抜けなお陰で命が助かったという、いい話です」
「……全然、よくないんですけど……」
 加藤の話に出て来る記者に自分と重なる部分があるからか、三下はどんよりと気落ちした様子で答えた。それに、加藤はにやりと笑って、三下の耳元に口を近づける。
「そうそう。これにはまだ続きがあるんですよ。実はね、記者が病院で意識を取り戻したとき、横に編集長もいまして。気がついた記者に編集長はこう言ったそうです」
 加藤がすぅっと息を吸い、まるで地獄から響く呼び声のように、低くドスの効いた声で言った。
「原稿を落としたなぁ〜!」
「ぎゃああああああっ!」
 取材用に与えられた一室に、三下の悲鳴が木霊した。











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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【5745/加藤・忍/男性/25歳/泥棒】


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■          ライター通信         ■
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こんにちわ。ライターの中畑みともです。
今回は『目指せ、百物語!』にご参加頂き、有難う御座いました。
またご縁がありましたらご参加下さい^^