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<東京怪談・PCゲームノベル>


R/B ダイヤの4


 その日の朝、なにか嫌な予感がしていたのだ。
 家を出る時に首をかしげたりもしたと言うのに。その時は預けていた品を受け取りに行くのを重要視してしまったのである。
 アンティークショップレンへの預けていた数珠を取りに行くという選択を、啓斗は選んでしまった。
 その結果がこれである。
 まんまと蓮にしてやられた。
 あれやこれやと問等を繰り返した後、手の中にはトランプが一枚。
 ダイヤの4が描かれたトランプは説明された通りの効果をもたらした。
 はっきりと見えた光景は……。
「………」
 しっかりと口を閉じたまま蓮を見る。
「なんだい? ああ、何を見たかは言わなくてもいいよ。どうにも出来ないだろうから」
 蓮の言葉は確かに事実だ、これは啓斗が一人でしなければならない事。
 だが、それでも……これはあんまりだ。
 薄暗い店内で、啓斗の周囲だけが更に暗く濁り、重苦しい雰囲気を発している。
 原因はカードの見せた光景だ。
 よりによって、夜倉木有悟を写真に納めなくてはならないなんてどうかしている。
 場所は外、しっかりとカメラを構えて夜倉木を撮っている啓斗の姿。
 何故あの写真嫌いがターゲットなのか?
 なぜあの男なのだと……。
 否定的な言葉は幾らでも浮かんできて、それこそ眩暈すら覚えた。
「少し、考えさせてくれ」
「好きにおし」
 ふうっと、蓮が呆れたようにキセルの煙を吐き出した。
 さて、これからどうするか?
 悩み出した啓斗が我に返った時。時計を見た啓斗が慌ててアンティークショップから飛び出していったのは、たっぷり一時間ほどが経過した後だった。



 とにかく写す相手がいなければどうにもならない。
 何時でも確認できるように手首の辺りにカードを貼り付けておく、こうすれば服に隠せて目立たなくてすむ。
「よし」
 この時間ならアトラスにいる頃だと向かったはいいのだが、この時も気を付けるべき相手の存在を失念していた。
 入り口付近に来ても尚、どうしようかと迷っている啓斗に編集長こと、碇麗香が優しく微笑む。
「あら、守崎くん。中に用事?」
「おはようございます。はい、相手が居れば話ですが」
 毎日忙しそうで、今もこれから出かける途中であったようだ。
「それはちょうど良かったわ」
「……!」
 確実に裏のある笑顔は、自然と獲物を見つけた猛獣じみていた。何かしら仕事を押しつけるつもりに違いない。
 何か、良くない物でも憑いているのだろうか?
 そんな事すら浮かんだが、肩には何も感じなかった。元凶がトランプと言われればそれまでだったが。
 やはりどう思考したところで、するべき事は決まっているのを再確認させられただけである。
「今は、出来ればその……」
 どうやって急いでいるのだと伝えれば良いかを悩み出した啓斗に構わず、麗香が告げた頼み事は意外な方向。
 今の啓斗にとって願ってもない幸運だった。
「資料がたりなくて困ってるのよね、バイト料は出すわ」
「!」
 困ったように手の中でもてあましているカメラに、啓斗の目が釘付けになる。
 もう一つ大事なことを忘れていた。
 写真を撮るにはカメラが必要だと決まっているのに。
 カードに見せられた光景では、携帯のカメラや使い捨ての物でもない。昔からあるしっかりとしたものだ。
 それすらも指示どおりにしなければならないのだとしたら、ここでこのカメラを手に入れておかなければならない。
「いえ、それなら平気です」
「助かるわ、詳しくは夜倉木くんから聞いてね」
 ポンと肩を叩き、麗香は忙しそうに出かけていった。
「………」
 名前を聞き思わずあっけにとられる。
 なんて偶然。
 なんてタイミング。
 今まで無駄にしてしまった時間を取り戻すかのような幸運に、啓斗はカメラを握る手に力を込めた。



 目的地はどんな家や店を建てても、必ず持ち主が居なくなってしまうと言ういわく付きの土地。
「辺りに隠れている場合、啓斗の方が見つけやすいと思うので頼みます」
「ああ、居るのは間違いない。どこが怪しいとかはなかったか?」
「そうですね」
 独りごちながら手元にあるメモに視線を落とす。
 一見して無防備だとは、普段から考えればあり得ないことだが不意を付くことが出来る。
 体を傾け、カメラを隠すようにシャッターを切れば撮れる状態にセットし、行動に移す前に再確認しておく。
 トランプの模様はかなり薄くなっているが、消える早さが突然変わったりしない限りまだ余裕がある。
 次に撮る条件。
 外で、しっかりレンズをのぞいて撮る事。
 条件はそれだけなのだから、どんな状態でも構わないのだろう。
 場所に関しても、狭い場所では周りの物を使って回避されてしまうから空き地は返って都合が良い。更に言えば、夜倉木が逃げ回る可能性を考えても遮蔽物がないのだから写せる範囲はかなり広い。
「証言によると北西の方角で事故や事件が多発したそうですが……これ以上は解りませんね」
「そうか……夜倉木」
 振り返る直前にカメラを構えシャッターを切る。
「どうかし………っ!?」
 レンズ越しに見えたのは、振り向きざまに弾かれたように右へと飛ぶ姿。
 あの速度では例え撮れたとしても足か残像でしかないだろう。
「啓斗?」
 驚き、僅かに目を見開く夜倉木。
 この失敗は大きい。間違いなく警戒心を抱かせてしまったに違いない。
「なんでもない、ただ試し撮りをしていた」
「……そうですか? なら写らないように下がってます」
 言い訳と持つ金池問いの言葉を逆手に取り、背後へと移動する。
 これはまずい。
 空き地の外に出られてしまっては厄介なことになってしまう。
 外へと踏み出されるよりも早く、啓斗は空き地の入り口に立ち塞がった。
「そこにいればいい」
「啓斗? 一体、何を」
 僅かに動く足に合わせ、啓斗も体重をじりじりと移動させる。
「気にしなくていい、構うな」
「無茶なことを言いますね」
 当然不自然さに確信する要因を与えてしまったが、逃げられるよりはずっとましだ。
 写真に撮られることも嫌い。
 どうしてかを聞かれるのも苦手。
 それだけ知っていれば、後の行動は大体読めてくる。
 外に出られるのはここだけだ、塀を伝えば逃走は出来るがそこまで不自然な動きはもっと追いつめなければしないだろうし、そんなに動いてはすぐに写真に納めてしまえる。
 結果として夜倉木に出来るのはのらりくらりとかわす事だけ。
 なら啓斗は目的を果たすまで、諦めずに写真を撮り続ければいい。
 気になるのは残りの時間だが、間に合いさえすればいいのだ。
「すぐに終わる。一瞬だ」
「……良く解りませんが、取りあえずそれを降ろしてください」
「嫌だと言ったら?」
「啓斗……っ!」
 額から流れ落ちる一筋の汗を見逃したりはしなかった。
 めずらしく動揺する姿に優位を感じるが、それすらも容易く覆されてしまうのだと知っている。
 短く言葉を交わす間にも淡々と扱える状態へ灯っていく。
 当然夜倉木がそれに気付かないはずがない。手の中の物を信じられないような目で見ながら、何時でも回避できる体勢を取るのも忘れていなかった。
「それ程のことか? そんな筈ないだろう」
「啓斗がそう言うのなら、そうかも知れません」
「かもじゃない、そうなんだ。誰がだってそう言う。そもそも……前は出来たんだ。今度だって出来るだろう」
「……状況が、違います」
「違わない」
 まだ駄目だ。もっとよく見ないと逃げられてしまう。
 二度目を失敗すれば、仕切り直す時間はあまりにも大きなタイムロスだ。
 三度目は果たして出来るかどうか?
「最近気付いたんです。昔よりもっと感覚が鋭くなってきて来ていると、だから……やめにしませんか。意味がない」
「俺だってこんな事したくない、だけどやらないとならないんだ」
「何故です啓斗?」
「平行線だな、もう時間だ」
 トランプを確認するなり強引に話を打ち切り、啓斗は大きく前に一歩を踏み出した。
「………!?」
 左?
 右?
 それとも……。
 相手に合わせて移動していては間に合わない、どう動くかは賭に近いが、どう動けば写らずにすむかを考えれば答えは限られてくる。
 他には一切目をくれずに後ろへと飛ぶ。
「!」
 どんと僅かな衝撃を持って啓斗の体を受け止めたのは、背後へと回り込んでいた夜倉木。
 位置は捉えた。
 だがそれだけじゃ足りない。
 足を踏み、動きを止めながら写真を撮ろうと……。
「くっ!」
 靴を踏んだ感触がおかしいのだ。
 中身が、ない。
 ほんの一瞬前にあった気配も消えている。
 とっさに気配を探ろうとしたその瞬間、気付いた時には手の中の物を奪い取られてしまっていた。
 楼籠景射を使ったのだとしたらなんて大人気ない。
「………」
「………」
 やはりとても手強い相手だ。
「それを返せ」
「嫌だと言ったら?」
 最早強引に打って出る時間はない。
 こうなったら最後の手段だ。
 手を前に突き出し、啓斗はそれでも……最後の最後まで迷いながら、消えかけたカードを見て仕方なくその言葉を口にした。
「時間がないんだ、一枚で良いから撮らせろ。訳は後で話す!」
「………!」
 鬼気迫る言葉とカードを見て全ての事情を察したらしい。
「そう言うことですか、どうぞ」
「はやくっ」
 すぐにカメラは返され、どうにか絵柄が消えしまう前には間に合った。
 何とも微妙な表情で写っていたと解ったのは、もう暫く後のことである。



 帰りの車内にて。
「それにしても、本当に写真嫌いなんだな」
「いきなり撮られたら誰だって驚きますよ、啓斗は違いますか?」
「……まあ、確かに」
 少し考え、言われてみればとっさに写らないようにはしてしまう。
 ああまで大きなアクションは流石にしないが。
「………」
 写真が苦手だと言っていた割に、今の機嫌は悪く無さそうだ。
「今撮るのはやめてくださいね」
「撮らない、そもそもフィルムがない」
 選ぶのは他人なのだから、選択肢は多い方が良いだろう。
 そう思って撮れるだけ撮っていたのだが……。
「まだ一枚残ってますよ。ほら、ここがゼロになってない」
「え? ああ、確かに」
 信号の停車待ちでカメラを手にした夜倉木が説明を……。
 カシャッ!
「!」
 一瞬だった。
 気がつけばフラッシュの光が残像として網膜に残り、目の前で楽しげにカメラを構えている。
 これは、確かに驚く。
 気持ちは解らないでもないのだが……。
「次は、もっと上手くやらないと駄目ですよ」
「………っ! 誰があんたなんか撮るか!」
 少しでも同意しかけたことは、絶対に言う物かと固く心に誓うのだった。




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0554/守崎・啓斗/男性/17歳/高校生(忍)】

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■         ライター通信          ■
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発注ありがとうございました。
R/B ダイヤの4をお届けします。

楽しんでいただけたら幸いです。