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<東京怪談・PCゲームノベル>


IF 〜神様と巫女2〜


 この世界に生きる人の半分が神様。
 もう半分は巫女。
 こうも沢山の神様が居ると混乱してしまいかねないが、逆に上手く行っている。
 初めからそうだったからかも知れないし、あまりに多すぎるとそれがあたりまえになってしまうからかも知れない。
 どんな理由にしろ、みなもは今日も何時も変わらず精一杯おつとめをするだけだ。
 通い慣れた道を行き、見慣れた建物への扉へと手を伸ばす。
 しかし……。
「!?」
 固いはずのドアノブから返ってきた感触は、ゼリーのよう手応えのなさで潰れてしまう。
 よく見れば建物全体も柔らかい素材に変わっている。
 暫く建物が同じままだと思ったら、すっかり油断していた。
 僅かに上がった心拍数を抑え、はたと気付く。
 崩れてしまったノブで、どうやってドアを開けばいいのだろう。
 建物を一周し、色々と試し。
 どうにか最初の扉を両手で押せば中へと入ることが出来たのだと気付いたのは、三十分後のことだった。



 ホッと胸をなで下ろすみなも。
「よかった……」
 中もフワフワとした素材で作られている。
 このまま横になって昼寝をしたらどんなに良い気持ちだろうと考え、神様がそう言う気分なのだと気付く。
 案の定、広い空間の中で寝転がりながらゲームで遊んでいる姿を見つけた。
「おはようございます、神様」
「いつも元気そうだね、みなもは」
 眠そうに床の上を転がる神様のやる気はかなり低い。
 これは中々に大変そうだ。
 巫女にとっては、神様に心地よくお仕事をしてもらうのも大切なお役目。
 ここに来た時。多少出鼻をくじかれていた経緯を頭から閉め出し、気合いを入れ直す。
「神様」
「しっかり、とかって? むりむり、ぜったいにむり。今日はこのまま寝ちゃいたいんだ」
 何かを提案するより前に完全否定されてしまった。
 一緒に何かをしようと提案したかったのだが、神様にはお見通しだったようである。
 やはりみなもには遠回しに動いてもらうことは出来そうにない。
「お勤め、してからにしませんか?」
「えー、眠いなぁ、凄く眠い」
 やる気を出してもらうどころか、逆にだらりと手足を伸ばす始末。
「神様ぁ」
「眠いからやりたくないもーん」
 こんな時、他の巫女達も同じように困ったりしている。
 やる気を出してもらう為に色々な手を尽くす訳だが……中にはとても上手な人がいて、みなもにはそれを凄いと思わずには居られない。
 いつかその人のようになれたらとは思うが……まだまだ道のりは遠そうだ。
 結局はここに来た時と同じ、色々と試してみてもドアから入った時のように、正攻法でお願いするしかないのである。
 みなもにとっての正攻法、それは……。
「今日は、遊びませんか? その後でお仕事にしましょう」
「ん〜、どーしよっかなぁ?」
 コントローラーを持った手をおろし、ちらりとみなもに視線を移す。
 後になんて言葉を続くかを待っているのは、火を見るよりも明らかな事実だ。
「遊ぶのはどうです? きっと楽しいですよ」
「遊ばせてくれる?」
「神様が望むなら」
 いつものやりとりだが、それだけに勇気がいるその言葉。
「じゃあ、あそぼっ」
「はい、神様。でも、お勤めしてからだともっと楽しいと思いますよ」
「えー」
「神様ならすぐ終わりますから」
「仕方ないなぁ。約束だよ、みなも」
「はい、もちろんです」
 楽しそうな神様の笑顔は見ているだけで幸せになれるけれど、本当に大変なのはこれからだ。
 もっともそれは神様のお勤めのことではなく……。

 パチン。

 指を鳴らす軽くてかわいい、そんな音。
「………はい、おしまいっ」
「お疲れ様です」
 冗談か嘘のように思えるが、やる気にさえなってくれたら指先一つで終えてしまう。
 見た目とは違ってとても複雑で、傍目には理解すら及ばない事をしているのだ。
 きっと。
 たぶん……。
 そうなのだと信じたい。
「さあ、遊ぼうみなも!」
 楽しそうに神様はそう言って、ぐいぐいとみなもの手を引いた。




 さっと空を撫で、床の上の物をどこかへと移動させて広い空間を作る。
「みなも、ここに立って」
 手を引かれながら窓際へと場所を移す。
「こうですか?」
「うん、日当たりは良い方が気持ちいいからね」
 肝心なところを濁す言葉は、いつもの事ながら心拍数があがってしまう。
 どう尋ねようかを考える前に足を撫でられる。
 足から膝のすぐ下までを押し伸ばすような動きは、まるで何かを固く固めているかのようで……。
「えっ!?」
 ような、ではなく本当に固まっている。
 この場に立った時そのままに固定された足は指一つは疎か、力を入れたり抜いたりも出来なくなっていた。
「ここはしっかりとしてないとねっ」
 驚いているのに気付いているはずなのに、神様は構わずに次の手順に入ってしまう。
「さあ、みなも。体を後ろに倒して」
「えっ、え? きゃあ!?」
 お腹の辺りを思い切りよく押され、当然後ろへと倒れ込むのだが膝から下はビクともしない。
 とっさに手をついてしまったけれど、柔らかくなっていた床のお陰でまったく痛くなかった。
 けれど不自然な形で足を固定されているせいで、ピンと伸びた太ももが今にもつってしまいそうだと悲鳴を上げている。
「すぐに痛くなくなるから。っと、その前に……」
 思い出したように神様が手を挙げると足にかかっていた負担がなくなり、みなもの体が宙へと浮いた。
「こっちも固定しないと」
 下へと垂れ下がった髪をすくように撫で、足と同じように変化させてしまう。
「苦しくない?」
「は、はい……思ってたより平気です」
 ポンと腹部を叩かれたが、みなもの体は微動だにしなくなっている。
 それは不自然なブリッジのような姿勢で、支えているのは固められた足と髪だけだが……しっかりと固定されていると不思議な安定感が
あった。
「じゃあ続けるよ、ここからが大事なんだ」
 足を揉むように押すその動作は、まるで粘土遊びのよう。
 丁寧にみなもの体をこね違う物へと作り替えていく。両足が一つになり幅広く伸ばされ、腹と胸も同じようにこね伸ばされていく。
 柔らかく変化していく体は、みなもがここに来たときに触れた家や床、家具の全ての材質と同じ、あるいはそれ以上の柔らかさだ。
 本当なら一瞬ですんでしまうことを、神様は楽しそうに時間と手間をかけている。
「一体……何を?」
「すぐに解るよ」
 撫でられた頬からおうとつが消えた。
 頭も動かせなくなり、天井だけを見上げているが体に触れる手があるから怖くはない。
 こうして色々遊びはされても、心まで作り替えることはないのだと知っていたから。
 腹の奥まで押され、ようやく何を作りたいかが解ってきた。
 みなもの体は大きなベッドへと変化していく。
 人の体温を保ち、横になれば鼓動をそのまま感じることが出来るベッド。
 とても寝心地が良さそうで、確かにここで寝たらさぞかし気持ちよく寝られるだろうと思うが……残念ながら今のみなもはベッドで寝て
もらう方の立場だ。
「ずいぶん柔らかくなってきたね、寝心地もよさそうだよみなも」
「あ、ありがとうございます?」
 今のみなもはベッドなのだからそれは褒め言葉になるのだが……なんだか複雑な気分である。
「これぐらいでいいかな」
 ポンと叩いた体は完全にベッドに変化していたが、今でも変わらずに話せるしシーツへと変化している箇所は手のように自由に動かせる。
「うん、完成っ」
「きゃっ!?」
 軽い勢いを付けて飛び込んできた神様の体を、大きなベッドへと変化した体で柔らかく受け止めた。
「んー、きもちいいー」
 頬ずりされる肌が少しくすぐったいけれど、喜んでもらえるのならそれもいいかと思えてくる。
「やっぱりみなもが一番だよ」
「そうですか?」
「うん、他も試してみたけどね。気持ちよくなかったよ」
「そ、そうですか?」
「そうだよ、暖かくて気持ちいいしね」
 手を前へと突き出すように伸ばし、何もない空間から肌触りの良さそうなタオルケットを作り出し上からかける。
「喜んでもらえて私も嬉しいです。おやすみなさい神様」
「おやすみ、みなも」
 胸の膨らみを枕代わりにして目を閉じた神様を抱きしめ、気持ちよく眠れるように出来ることをしよう。
 優しく唄う子守歌。
 少しでも気持ちよく眠れるよう。
 少しでも長く微睡んでいられるように。
 歌声は神様が眠り、みなもも一緒に眠ってしまうまで続けられた。
 目が覚めた後。
 ベッドの姿から戻してもらうのにもう一波乱もあるのだが、それはまだまだ先のことだ。





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1252/海原・みなも/女性/13/中学生】

 →もしも、全人口の半分が神様だったら?
 そして、残り半分がその神様に仕える巫女だったら?

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■         ライター通信          ■
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※注 パラレル設定です。
   本編とは関係ありません。
   くれぐれもこのノベルでイメージを固めたり
   こういう事があったなんて思わないようお願いします。

発注ありがとうございました。
楽しんでいただけたら幸いです。