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<東京怪談・PCゲームノベル>


親子のイロイロ



「どーにかしてくれ」
「……あたし、何か別の事で来た筈なんだけど……しょうがないなぁ」
 本当に困っているのだ、という視線を受け、法条風槻は溜息をつきながら了承した。
「千両さんと小判君が喧嘩って珍しいね……」
「喧嘩の原因は、千両が小判のプリンを食べたからだ。小判は二階で奈津と一緒にこもっておる」
 菊坂静の言葉に藍ノ介は溜息混じりに答える。
「なら私は小判君を説得してみるわ。落ち着かないと話にならないものね」
 そういうと、小坂佑紀は階段を上がって二階へ。
 階段を上がって真正面に扉。でもそこからではない場所から声が聞こえる。
「あそこね」
 聞き覚えのある声は嗜めるような奈津ノ介の声だった。
 襖は閉まっているその部屋、佑紀は一声かけてそれを開いた。
「小判君、喧嘩したらしいわね」
「千パパが悪いんだもん」
 体育座り、背中を向けてつんつんと。いつも元気に揺れる二本の尻尾も今日はへたりとしていた。
 佑紀はそんな後姿に苦笑しながら奈津ノ介の隣に腰を下ろす。
「こんにちは、もう僕ではお手上げです」
「そんなに頑固なの?」
「はい、それはもう」
 苦笑しながら奈津ノ介は答える。
 佑紀は背中を向ける小判をじっと見た。
「プリン食べたかったの?」
「……」
「私が買ってこようか?」
「……」
「ずっとこの調子です」
 奈津ノ介は溜息一つついて、佑紀に言う。
 小判は何を言っても今まで答えてくれないようだ。
「小判君、ずっと怒ってちゃ奈津さんも千両さんも困るわよ」
「だって……プリン……」
 何か言いかけたが、小判は口を閉じる。
 ただたんに怒っているのではないような雰囲気を佑紀は感じる。
「どうして怒ってるの?」
 佑紀はゆっくり、なだめるようにその理由を聞いた。
 小判はしばらくの沈黙のあとに、ゆっくりと答え始める。
「プリンはね」
「うん」
「千パパのために買ってきてたんだけど……千パパ勝手に食べちゃったんだよ」
 語調はだんだんと下がっていく。どれほど小判が渡す事を楽しみにしていたのかが、伝わってくる。
「小判君は千両さんが大好きなのね」
「うん、でも今は嫌い」
「そんな事言っちゃ駄目。今すぐ許せとは言わないけど、あとでちゃんと許してあげようね」
 佑紀は小判に近づいて頭を撫でる。耳がぴこっと動いて少しくすぐったそうだった。
「……自分でとっても渡してあげたかったんだよね、お仕事お疲れ様ーって。なのに……千パパの馬鹿ー」
「なら、それ言っちゃえば? ね?」
「言うの?」
「何事も溜め込んでちゃ駄目よ、言うとすっきりするわよ、きっと」
 小判は振り返り、佑紀と視線を合わせる。
 佑紀はちゃんと受け止めてくれるわよ、と小判を励ました。
「すっきり……千パパ、大好きなんだけど、千パパにとって俺、きっと二番目だんだよ。俺の一番千パパなのに」
 と、小判はしゅーんとしつつ話しだす。
 それを静かに佑紀と奈津ノ介は聞く。
「千パパが忙しいのは俺のせいで、でもそれ何も言わないし……千パパよく俺置いてどっか行っちゃうし……きっと隠れて彼女に会ってるんだよ!」
「千両さんに彼女……ないです、それはないですよ、小判君」
「私も彼女いるようには思えないわ……」
「いる、絶対いるよ!」
 小判はそう言うが、二人はそうは思えないと顔を見合わせる。
 けれども小判はいると一点張り。
「まぁ、仮にいるとしても……それでも千両さんは小判君のこと大事だと思いますよ」
「ええ、私もそう思うし、千両さんのほかにも小判君を好きな人はいっぱいいるわよ、ね?」
「……でも……でも……」
 うーっと膝に顔を埋めて小判は黙る。
 なんとなく、小判がその本当にいるかどうかわからない千両の彼女に嫉妬しているのはわかる。
「どうしたらいいんでしょうね……」
「うーん、千両さんに謝って貰うとか……かなぁ……あとは彼女がいないのをしっかり言ってもらうとか」
「そうなりますよね」
 と、何やら階段を上がってくる足跡がする。
 そして騒ぎつつ、部屋の前へ立つ気配。
 襖をはさんで、千両が小判の名を呼ぶ。
「小判君、ほら、ちゃんと話す機会よ」
「…………」
「ずっとこのままは嫌でしょ? ほらほら」
 佑紀は小判の腕を持って立たせると襖を開け、小判の背中を後押しした。
 小判はそれでもうつむいて、千両と視線を合わせようとはしなかった。
「小判たん……俺が、俺が勝手に食べて……ううっ」
「さっさと謝りなさい、ほら」
 なかなか一番重要な事がいえない千両を風槻がほらほらとつっつく。
「うん、早く謝らないとタイミング逃しちゃうよ」
「うっ……お、俺が、勝手に食べて……楽しみにしてたんだよな、そうだよな……ごめん、ごめんよ小判たん!!」
「千パパ……」
 二人の間には沈黙。
 と、奈津ノ介がここじゃあ狭いしと階下へ移動する事に。




 千両と小判はちゃぶ台を前に座る。
 そして周りには何かあったときのために全員待機。
「小判たん、プリン食べて、本当に悪かったと思ってる」
「うん。それはわかってる……プリン食べたのは怒ってない……多分」
「え?」
 その先の言葉を小判はなかなか言わない。
「小判君、ちゃんと言わなくちゃ」
「う……」
 佑紀が促して、小判はじーっと千両を見る。
「プリンは……千パパにあげようと思ってたんだ……けど勝手に食べちゃうから……」
「じゃあ、これを小判君があげてやり直しすれば良いよ」
 小判の言葉を聞いて、静はプリンをとん、と目の前に置く。
 小判はいいの、と聞いて静が頷くとそれを千両に差し出す。
「い、いつもお仕事お疲れ様ー」
「あ……ありがとう」
 双方照れつつはにかみつつ。
「ちゃんと仲直りしたみたいね、よかったじゃない。ま、折角だからこっちのプリンも」
「や、出さなくていい!! 出さなくていい!」
 止める千両を気にせず風槻は台所へ。
 そして帰ってきたその手には先ほど作ったプリンが。
「見た目大丈夫だし。できてるんじゃないかな」
 少し食べてみると立派にプリン。
「普通にプリンだな……プリン……千両が作れるならわしにも」
「無理だと思うわ」
「僕もそう思うなー」
 藍ノ介の呟きは佑紀と静に一刀両断。
 そんな様子を奈津ノ介がみて笑う。
「そういえば、小判君、もう一個、言う事あるんじゃないの?」
「あー……」
「何だ?」
 佑紀に言われ、小判は千両を見る。
 その視線には何か凄みがあった。
「千パパ、千パパには……か、彼女っているの? お仕事とか言って彼女に会いに行ってるとか……」
「小判、千両が仕事で会うのは大体、遙貴だぞ」
 千両が答えるより前に、笑いながら藍ノ介が言う。
 その言葉を受けて、小判は千両に確認をと聞いた。
「そうなの?」
「そう」
 こっくり頷いて、千両は答える。
 嘘は言っていないのは誰にもよくわかった。
「そっか、そっか! ならいーや! 千パパ大好きー!」
「小判たんっ!!!」
 二人ひしっと抱き合って。
「元通り、だね」
「そうみたい」
「一件落着のようね。ま、よかったわ」
 こうして親子の喧嘩は無事に終わったのでした。




「助かった」
「んー? ああ……」
 夜、皆帰って、小判ももう寝ている。
 藍ノ介と千両は二人で屋根に上がり酒を酌み交わす。
「気にするな」
「貴様にしては珍しくオツムが回ってくれて驚きだったな」
「うるさい」
 千両は藍ノ介をからかうように言った。
「……そのうちちゃんと話すんだろ?」
「ああ、話す。ただ、今はまだ早いからな。姫も望んでない」
「小判、嫉妬するぞ、きっと」
「う…………でも、姫は俺より小判が大事なんだよな」
 しゅーんとしながらこくんと一口。
「姫の子、みたいなもんだからな……」
「汝も同じようなもんだろう」
「そうだといいんだが……ま、仕事で会っているのは遙貴ってことになったから、口裏あわせ頼むか……」
「でもバレても彼女じゃないから大丈夫だろう。彼女、ではない」
「気持ちの問題だっ! 姫は、姫は俺にとってなぁ!」
「あー……わかったわかった……」
 そのうち解る真実を、今はまだ伏せて。




<END>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【5566/菊坂・静/男性/15歳/高校生、「気狂い屋」】
【5884/小坂・佑紀/女性/15歳/高校一年生】
【6235/法条・風槻/女性/25歳/情報請負人】
(整理番号順)


【NPC/小判/男性/10歳/猫】
【NPC/千両/無性別/789歳/流れ猫】
【NPC/奈津ノ介/男性/332歳/雑貨屋店主】
【NPC/藍ノ介/男性/897歳/雑貨屋居候】

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■         ライター通信          ■
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 いつもお世話になっております、志摩です。
 親子は、ちゃんと仲直りしたようです。
 ノベル執筆中にプリンが食べたくなってしまいました(笑)
 さてさて、最後にちょっと謎を残しつつ、いずれわかる事でございます!
 このノベルで一つでも気に入ってくださる所があれば嬉しく思います!
 それではまた会えるときを楽しみにしております!