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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


三下の明日はどっちだ!? 三下が勇者!? 第三話 宝剣帰還

「ええと、とりあえず、ここまでをまとめてみても良いですか。幾つか疑問もあるんですけど」
『ええじゃろ』
 まず三下がエクスガリバーに許可を取ってから話し始める。
「エクスガリバーさんは最初、剣の墓場に居たわけですけど、どうしてそんなところに?」
『ワシはずっとマスターを転々として来たのじゃが、この島国に着いて央助殿とであったのじゃ』
 昔を懐かしむように話すエクスガリバー。三下は黙ってその話に耳を傾けていた。
『前のマスターに棄てられてしまったワシをゴミ捨て場で拾ってくれたのが央助殿じゃった』
「棄てられたんですか!? 自称聖剣なのに!?」
『うるさい。ヤツはワシの本当の価値に気付かなかったんじゃ。目の曇ったヤツじゃったよ! ヤツの話は置いておいてじゃ。央助殿に拾われたワシは姿を金属バットに変えた。それと言うのも央助殿が野球少年だったからじゃ』
 それは前回、何となく聞かされていたことだ。
 前回は棄てられただけに、野球少年だった央輔にどうにか好かれようとでもしたのだろう。
 エクスガリバーの中ではギリギリ剣と呼べる範囲であるバットに変身したと言うのだ。
『突然、央助殿に棄てられた時にはどうしたのかと思ったが、まさか央助殿が……サッカー少年になっていたとは……』
 やはり棄てられたらしい。
「じゃあ、その棄てられた時に宿敵とやらに捕まって、剣の墓場に置かれた、と?」
『そうじゃ。自慢じゃないが、ワシ一人では何もできんからの』
 確かに自慢できない事だが、そこに食いついて話を逸らすべきではない。
 今は、今までの話のまとめをすべきだ。
「じゃあ、その剣の墓場が東京中に現れるようになったのは、何故なんですか?」
『ワシが助けを呼んだからじゃよ。ほとんどの輩はあの墓守にやられてしまったから、結局ワシは外へ出られなんだが』
 こんな金属バットの所為で何人もの重症患者が出されたのか……と思うと、この金属バットをどうにかスクラップに出来ないかと考えてしまうが、これから何処かへ帰るらしいから、それはそれで良しとしよう。
「じゃあエクスガリバーさんが帰るって言う泉の貴婦人、ですか? その人は何処にいるんですか?」
『剣の墓場と同じような異空間じゃ。そこに行くにはワシが入り口を開いてやる。じゃが、その奥にいるであろう我が宿敵は主らが討ってくれよ。ワシは一人じゃ何もできんからの』
「な、なんで、その貴婦人さんの所に宿敵が居るんですか?」
『泉の貴婦人の許にはワシの鞘が置いてある。鞘にはマスターを不死にする力があるからの。その鞘を渡さんとしたためであろう。貴婦人には宿敵を遠ざける力は無いからの』
「では最後に。その宿敵って何者なんですか?」
『我が宿敵とは、パーブニルという邪竜じゃ!』
 ……またパチモンだ。
「……パクるにしても、なんか混じってません? アーサー王とジークフリードは別物ですよ?」
『パクるってなんじゃ。何一つパクって無いぞ。超オリジナルじゃ』

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● さくせんかいぎ というより ざつだん

「という事はです」
 エクスガリバーから聞いた話を受けて、パティがふむと唸る。
「つまり、貴方はひとりでは何も出来ない能無し、と?」
『そ、そんなわけなかろう! ワシは聖剣じゃぞ!?』
「でも、今の話を聞けばそういうことですよね?」
『う……ぐぬぬ』
 押し黙るエクスガリバー。
 いささか失望の眼差しで金属バットを見たパティはため息をついた。
「……こんなものがウチの組織にあっても、ただの笑い種ですね……」
「そ、そんな事よりパティさん!」
 パティの独り言を遮って元が声を上げる。
「あの背の高いイケメンがまた関西人に戻ってる!」
「うぃ〜っす」
 元が指差す先に冷宵・煉戯(さまよい・れんげ)が居た。
「変身、ですか。器用なことしますね!」
「私と基ちゃんみたいでしょ!?」
「違うわ! 誰やねん、その長身のイケメンて! ワイはワイやっちゅーねん! 変身なんぞするか!」
 とりあえずツッコミをこなした後、煉戯は咳払いを一つして、話を仕切りなおす。
「ちょぉっと戦利品の後始末に手間取ってなぁ。追いつくのが遅なってしもたわ」
「戦利品?」
「ちょっと剣の墓場の剣を……な」
 どうやら気に入ったモノは保管、別の売れそうなモノは換金してきたらしい。
「ズルイ! 何で私も誘ってくれなかったのよぅ! 私だってお小遣いピンチの時のヘソクリが欲しい!」
「また今度な。今はやる事あるんやろ?」
「うぅ〜」
 恨みがましく睨み続ける元から逃げて、煉戯は三下に近寄った。
「ほら三下さん。早いトコ、その貴婦人さんトコに行こうや」
「あ、そ、そうですね。エクスガリバーさん、お願いします」
『ワシは……ワシは能無しなんかじゃ……』
「わ、わかってますから、早いところお願いします!」
 その後、数分間の説得の末、やっとエクスガリバーは次元の門を開いた。

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● ぼうけんのとびら

 住宅街にある普通の道。
 その上に、空間がパックリ裂けたような穴が空いていた。
 奥は色とりどりの光がモヤモヤとしており、上下左右に壁は見当たらなかった。
 これが次元の門であるらしい。
「あの、この門って大丈夫なんですか?」
 門を前にして三下が不安そうな声を出した。
『何が不安なんじゃ?』
「いや、だって、出口はアレですよね?」
 三下が指差す方向、やや距離があって光が見える。
「地面とか、見当たらないんですけど? パティさん、杖ついてるんですよ?」
『大丈夫じゃろ。目に見えない地面がある……と思う』
「自信無いんですか!?」
『うるさいのぅ! 心配ならお主が先に行って確かめてみればよかろう!!』
「そ、それはそうですが……」
「がんばれ、三下さん!」
「期待してますよ」
「男見せたれや〜」
 仲間たちに物理的にも精神的にも背中を押され、退路を断たれた三下は意を決して門に飛び込んだ。
「えいっ!」
 ジャンプして入り込んだ先、モヤモヤの光が支配する空間に、三下はバタリと転がった。
 穴の中には、目には見えないが、確かに地面らしきものがあるらしい。それに左右にも壁が存在しているようだ。少し狭いが、人一人ぐらいは通れる。
「……だ、大丈夫みたいですね」
「よぅし、私達も続けー!」
「おー」「おー」
 こうして一行は門を潜っていった。

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● ぼうけん いずみのちかくのもり

 門を潜った先は枯れ木が乱立する、秋から冬の森のような場所だった。
 地面は死んだような薄いベージュ。
 枯れ木はその大地から吸い上げる物が無く、当然の如く、その枝に葉をつけることは叶わないのだろう。
 そして、育ちも悪いのか、背も低い。このメンバーの誰か二人が肩車をすれば天辺に届きそうなくらいだった。
「……なんか、寂しいところね。もっと可愛いところを想像してたんだけどな」
「敵の親玉が居る場所らしいですから、これぐらい出ないと雰囲気が出ないのでは?」
「霧も出てきて、見通し悪いったらないわ。これで方向わかるんか?」
 三人とも文句とも取れるような感想を聞き、エクスガリバーはふんと鼻(?)を鳴らした
『昔はこんなところではなかったわい。あの憎き邪竜が棲みついてからと言うもの、この森は姿を変えてしまったのじゃ』
「……そんな事、よく知ってますね?」
 三下が謎に思って尋ねる。
 確か、エクスガリバーはマスターを転々としている、と聞いた。
 元々は泉の貴婦人の許に居たのだろうが、そこからエクスガリバーが離れてからパーブニルがこの森に棲みついたのだとしたら、エクスガリバーはどうしてその事を知っているのだろう?
『ワシと鞘は知覚を共有しておる。鞘は喋ったりする事は叶わんが、鞘が感じた事は全て、ワシも感じられる、という事じゃよ』
 そーなんですかー、と三下が納得したように頷いた。
 剣と鞘は一心同体、という事だろう。未だにこの金属バットが聖剣、などとは信じられないのだが。
「質問ついでに、私も良いですか?」
 パティが話に混ざる。
「邪竜パーブニルと言うのはエクスガリバーさんの宿敵でしたね。でしたら、何故エクスガリバーが一人の時に、完全に壊さなかったんでしょう?」
 剣の墓場では、エクスガリバーを封印するだけで、破壊しようとはしてなかったように思える。
 墓守を使ってエクスガリバーの目覚めを邪魔するだけで、宿敵とも呼べる相手を放置して良いのだろうか?
「そりゃあれやで、パティさん」
 煉戯がニヤついた顔で、自身ありげに胸を張る。
「ワイが思うところ、その邪竜ってのはオスやな?」
 エクスガリバーに確認を取ると、『うむ』と唸っていた。肯定だろう。
「という事は、や。逆に宿敵とも呼べる相手に、寝込みを襲うような真似できるやろか? かと言って、勝手に動き回られて力を増強されても困るっちゅーこっちゃ!」
「つ、つまり、男と男の勝負は常にタイマンって事ね!」
 意味も無く頬を上気させた元が付け足す。
「そや! 男と男のタイマン勝負! これは燃えるで!」
「一対一のガチンコ! きゃー、男臭〜い!!」
「なるほど、男の世界って事ですか」
 三人が納得する中、三下だけは首を捻りまくる。
「いや、エクスガリバーさんが僕みたいなマスターを連れてる時点で一対一ではない気がしますが……」
「三下さん、無粋」「無粋!」「無粋ですね」
「総スカン!?」
『どーでもいーから、先へ進むぞ!』
 エクスガリバーに促されて、一行は泉を目指して歩き出した。

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● そうび

「ねぇ、思ったんだけど」
 歩いている途中で、元が口を開く。
「エクスガリバーってさぁ、いまいち聖剣っぽくないよね」
「そりゃ、金属バットやしな」
「どう見ても聖剣ではないですね」
 三人に言われ、エクスガリバーは『うぬぅ……』と唸った。
「だから、ちょっと思ったんだけど、このバットを装飾してみたらどうだろう?」
「装飾、ですか?」
 パティが首をかしげて周りを見回す。
 装飾に使えそうなものは無い。強いて言うなら、木の枝ぐらいだろうか。
「ちょっと材料が足りないのでは?」
「私が魔法で出すからオッケ。可愛いリボンとか出しちゃうよ!」
「それって、聖剣のベクトルから離れてへんか?」
「そんな事無いよ! きっと似合うって!」
 金属バットに可愛いリボン。
 想像するだに、絶対に似合わない気がする。
「さぁ、三下さん、そのバットを渡して!」
 笑顔で手を出す元。
 その手を見て、三下は苦笑を浮かべた。
「それが、手に張り付いたみたいに離れなくてですね……。ホントに呪われてるみたいなんです」
「聖剣なのに呪い、ですか」
 パティの非難がましい目に、エクスガリバーは『うぬぬ』と唸ってから答える。
『一人じゃ何もできんからの』
 エクスガリバーの生きる知恵と言うやつなのだろう。
「むぅ、まぁ良いわ! やりにくいけど、三下さんに持ってもらったまま、飾っちゃおう!」
「それでも諦めないんですか!?」
 いつの間にか、元は両手一杯に煌びやかな装飾グッズを持っていた。
『ほ、本気か!? 本気でワシを『それ』で飾るつもりなのか!?』
「本気も本気よぉ! 今よりグッと聖剣っぽくしてあげるから、感謝してよね☆」
『わ、若いの! 三下! 逃げろ!』
「いやぁ、これはもう、観念しちゃった方が良いんじゃないですかね……」
 ギラつく瞳の元から、どう頑張っても逃げられないような気がしたのだ。

● エクスガリバー の かっこよさ が 3 あがった(?)

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● ジャリュウ パーブニル が あらわれた

 もうすぐ泉が見える、と言うところで、やっと敵が現れた。
 かなり近いところから足音が聞こえる。
 墓守の時にも聞こえてきたが、それよりもかなりの重量と禍々しさを孕んでいるように思える。
『おでましじゃな。気をつけろよ、皆の衆!』
 エクスガリバーの警戒を促す声で、全員が身構える。
 そして、木々と霧の奥から、巨大な存在感をもって、竜が現れた。
「……でか」
 煉戯が呟くように言う。
 確かに、その竜はとてつもなくでかかった。
 ズシンと踏みしめる脚の太さは、大木のように太い。
 それの付け根にある胴は船のように大きい。
 その更に先に付く頭は、もはや霧にかすんで見えないほどだ。
 だが、驚くほどに輝く瞳は、一行を威圧するように睨み付けている。
 グルルと唸っている口からは火の粉がポッポと灯り、何とかパーブニルの高さを把握する事はできそうだ。
「……十数メートルぐらいですか。ちょっと頭を潰すには苦労しそうですね」
「上がだめなら、下から崩せば良いじゃない!」
「そう簡単にも行きそうにないで……」
 大きな黒い鱗に覆われた脚は、とても頑丈そうだ。
 下から崩すにしても骨は折れるだろう。
「これは三下さんとエクスガリバーさんに頼んで、墓守の一件のように片付けてもらうのが一番楽そうですね」
「そうね! 三下さーん?」
 元が後ろを振り返って呼びかけるが、返事は無い。
「あ、あかん! 三下さんの役に立たんスキルが発動してもた!」
 煉戯が声を震わして三下を見やる。
 そこには倒れ伏した三下が。
『これ、若いの! 戦う前から倒れてどうする!?』
 どうやらパーブニルの威圧感に当てられて気絶しているらしい。
 エクスガリバーの声にピクリとも反応しない。

● へんじがない ただのしかばねのようだ

「くそぅ、役に立たんヤツやで!」
「こうなったら私の気付け魔法で……!」
「ちょっと、そんな余裕も無いみたいですよ」
 ズシンとパーブニルの巨大な脚が地を震わす。
 そして、咆哮。
『グオオオオオオオォォォォ』
 ビリビリと、半径数キロ以内の物を全て震わすような雄叫び。
 獅子はウサギを狩るにも全力だと言うが、竜も人を狩るのに全力を出すつもりらしい。
「やばいで、これ」
「でも、やるしかないよね!」
「……これは私の目の心配もしなければいけないかもしれませんね……」
 煉戯はMD型の記録媒体を取り出し、元は杖を構え、パティは眉間とこめかみをウニョウニョとマッサージする。
 一応、これで戦闘体勢は整ったらしい。

「本気で蹴散らしても良いんだけど……でも、こういう戦いに必要なのは演出よっ!」
 元が声高らかに叫び、何処からか取り出したるはホイッスル。
 大きく息を吸い込み、その息を思い切りホイッスルにぶつける。
 ホイッスルの音に全員が元の方に目を向けた。何故かパーブニルも。
「パティさん、煉戯さん! 作戦D!」
 言いながらテレパシー的な魔法で作戦を教える。
「……なんとも面倒な作戦ですね……」
「いや、だがこれは燃えるで! さすが元ちゃん!」
「作戦DのDはドラマチックのDよ!」

 作戦会議の時間を与えてしまった事を恥じたパーブニルが地面を踏み鳴らす。
 地面はひび割れ、パーブニルの足元の木はボロボロに踏み潰されていた。
「まずはその大きさからどうにかした方が有利かもしれませんね」
 パティはパーブニルの凄まじい足音を頼りに、そちらに顔を向ける。
「やれやれ、出来れば使いたくない能力なんですがね」
 そうぼやきながら、ゆっくりと瞼を持ち上げる。
 その瞬間、パティの不思議な色に光る瞳に、全ての世界が凍ったかのように冷たく、凛とした空気が漂う。
 パティの瞳はスッとパーブニルを捉え、呪いの引き金を引く。
 聞こえない呪詛の声がパーブニルを取り巻き、込められた呪力によりその身体に呪いをかけた。
 パーブニルの身体は見る見ると小さくなり、今となっては枯れた木の上にチョコっと顔を出す程度の高さになっていた。
 それを確認したパティはすぐに瞼を下ろし、眉間を押さえる。
「痛たた……。やはりこの力を使うのは憂鬱ですね……」
 しきりに目の辺りをマッサージしながら、パティは戦線を退いた。

「三下さん」
 パティは倒れている三下の横に立って呼びかける。
『だめじゃ。全然ピクリともせんわ』
「ふむ、こうなると少々厄介ですね」
 まだ痛む目をグリグリとマッサージしながら、パティは唸る。
「ちょっと荒事で解決してみましょうか」
 そう言ってパティは三下の脇腹に爪先をぶつける。
「はうっ!?」
「おはようございます、三下さん」
「あ、あれ? ここは?」
「泉の近くの森です。しっかりしてくださいよ、勇者さん」
 パティに言われて、三下は気絶する前の状況を思い出す。
「は、はわわ、そういえば巨大な竜が!?」
「そうです。今も元さんと煉戯さんが戦ってます」
「そ、それは大変です! 早く逃げないと! あんなのに勝てっこありません!」
「勇者にあるまじき台詞ですね……」
 眼精疲労とは別の頭部の痛みを感じて、パティはまたウニョウニョとこめかみを押さえた。
「なんにしても、あの竜を倒さないと、そのバットの呪いも解けませんよ」
「あ、そうでした……」
「だったら、立ち向かってみたらどうです?」
『そうじゃ、三下! あの邪竜を倒すのじゃ!』
「エクスガリバーさんも、ここで力を発揮しなければ、本気でただの棒以下ですからね」
『う、ぬぅ……』
「頑張ってください、期待してるんですから」
 パティは三下の手を取って起き上がらせる。
「……ぼ、僕、頑張ってみます!」
『おお、やる気になったか、若いの!』
 三下はガッチリとエクスガリバーの柄を握り締め、その大地を踏みしめた。
「やる気になったなら、早めに行った方が良さそうですよ」
「え!? どういうことです!?」
「なにやら作戦Dとかで、こちらが劣勢のようですから」
「よ、よく意味がわからないんですが」
「詳しい事は、後から元さんにでも聞いてください。今は急いでパーブニルを倒してください」
 言いながらパティは目をウニュウニュとマッサージする。
「さっきから、その目、どうかしたんですか? ……あ、もしかしてそれもあの竜に!?」
「いえ、これは……。あ、そうですね。あの竜にやられました。ですから、私の敵討ちのためにも頑張ってください」
「わ、わかりました! パティさんはここで待っててください!」
 そう言って三下は走って戦場に向かっていった。
 それを見送ってパティはフゥとため息をつく。
「作戦D……やたら面倒な作戦ですね」
 もう一度ため息をつき、パティもノロノロと戦場へと歩き出した。

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 戦場に三下が辿り着いた時には、先に戦っていた煉戯と元は倒れていた。
「煉戯さん! 元さん! 大丈夫ですか!?」
「あ〜、ワイらはもーだめやー」
「三下さん……、私達の分も、敵討ち、頼んだわよ……」
「煉戯さん! 元さん!!」
 だが三下の呼びかけに二人は応えず、コテっと首から力をなくしてしまった。
「くっそう! 邪竜パーブニルめ! 許さないぞ!」
『よし、若いの! すぐに片付けるぞ!』
「わかりました! 全力で行きます!」
 三下がバットを掲げると、バット全体が光に包まれる。
 そしてそれを上段に構えてパーブニルの脚にぶつける。
「てや!」
 コンと、あまり痛く無さそうな音がして、バットのほうが逆にひしゃげた。あと、元がつけたリボンもするりと落ちてしまった。
 だが、それが実はかなりのダメージを与えたようで、パーブニルは苦しそうに吼え始めた。
「もう一発! えい!」
 そしてもう一撃。
 やはりあまり中身の伴ってない音がして、バットが凹む。
 だがやはり、パーブニルは苦しそうに吼えて、その場に倒れ伏した。
「や、やった!」
 なんともあっけない、と言うか間の抜けた最後であるが、パーブニルはそのまま動かなくなり、どうやら死んでしまったようだ。

● パーブニル を たおした

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● ぼうけん いずみのちかくのもり

「やった、やりましたよ、煉戯さん、元さん! 仇は討ちましたよ!」
「おお、そりゃ良かった。おおきになー」
「頑張ったじゃん、三下さん。作戦Dも成功ね!」
 三下の背後には煉戯と元が元気よさげに立っていた。
「あ、あれ!? お二人とも、どうして!?」
「あ〜、それがな。元ちゃんがどーしてもドラマティックに最終戦闘を仕立てたかったらしいからな」
「やられていく仲間、そこで真の勇者としての自覚を覚える三下さん! きゃー、燃えるわー!」
「それにしても安っぽ無かったか? 最後やってグダグダやったやん」
「そんな事無いわよぅ、ちゃんと作戦成功! 万々歳よ!」
「……そ、そんな」
 呆然とした三下はその手からエクスガリバーを取りこぼしてしまった。
「……あ、外れた」
「呪いが解けたみたいですね。おめでとうございます」
 ノロノロと歩いてきたパティも合流する。
「コイツの呪いが解けたっちゅー事は、泉も近くにあるんか?」
『見てみろ、そこに泉があるわい』
 地面を転がっているエクスガリバーに言われて回りを見回すと、霧が晴れ、すぐそこに綺麗な泉が見えた。
『さぁ、そこにワシを還してくれ』

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● ぼうけん いずみ

 三下はエクスガリバーを持って泉の縁に立つ。
「……投げ入れれば良いんですか?」
『バカいうな! ワシは泳げんぞ!』
「そりゃそうでしょうけど……」
 そんな話をしていると、にわかに泉が輝き始め、その中から綺麗な女性が現れた。
「聖剣エクスガリバー、よく帰ってきてくれました」
『久しぶりじゃの、貴婦人』
 どうやら現れた女性が泉の貴婦人らしい。
「うぬぬ……私より美人かも……でも可愛さなら負けてないんじゃない?」
「元ちゃん、そう言うのは後にしよや」
 なにやら元と煉戯がボソボソと喋っていたが、一応スルーする。
「では泉の貴婦人さん? エクスガリバーさんはこの通りお返しします」
 三下はエクスガリバーを差し出し、泉の貴婦人に預けた。
「ありがとう。……ですが、安心も出来ませんね」
「どういうことですか?」
 浮かない顔の貴婦人を見て三下が尋ねる。
「先程の戦いは見せてもらいましたが、パーブニルはあれで死んだわけではありません」
「そうなんですか!?」
「はい。あの竜は何度と無く転生する無限の竜。いつか蘇ってエクスガリバーとの再戦を狙ってくるでしょう」
『じゃが、貴婦人にはワシは扱えまい』
「じゃあどうしてここに帰ってきたんですか?」
『お主ら人間には関係の無い戦いじゃ。巻き込むわけにも行くまい』
「私達は新たな勇者をここで待ちます。勇者が現れる前にパーブニルが襲ってきたら、どうしようもありませんが……」
「それなら良い案がありますよ」
 そこで身を乗り出したのがパティ。
「私が鞘ごとエクスガリバーさんを預かります。そうすれば貴婦人さんにパーブニルが襲ってくる事もないでしょうし、私にもエクスガリバーさんの声が聞こえるという事は三下さん程度には扱えるでしょう」
『いや、じゃから、お主ら人間には関係なくてだな……』
「私も魔人マフィアの頭領ですよ? 普通の人間ではありませんよ」
『う、うぬぅ……』
「……決まりですね」
 何も言わせないようなパティの笑顔。
 泉の貴婦人も何となく苦笑していた。

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● エピローグ

 こうして一応の終結を迎えた聖剣騒動。
 エクスガリバーと鞘はパティに預けられ、今のところパーブニルの襲撃も無いらしい。
 元、いや基は騒動が終わった後に諸々も話を聞かされ、何となく納得していつもの生活に戻っていった。
 煉戯はいつの間にかパーブニルの死体から牙やら鱗やらをくすねて、それを換金して財布をあっためたらしい。
「……よし、出来た」
 三下もいつもの生活に戻っている。つまりヒラとしてアトラス編集部で働いているわけだ。
「編集長〜! できました〜」
 今回の騒動を原稿用紙にまとめて、それを編集長である碇に見せに行く。
「どれどれ?」
 碇はそれを受け取り、パラパラと目を通す。
 数分間それを眺めて、一つ頷く。
「まぁ、及第点でしょう」
「や……やった……」
 少しでも認められた気がして、三下の目からは鱗がこぼれる勢いだった。
 これも勇者として頑張ったからだろうか?
 だが、しかし
「で、写真は?」
「……へ? 写真?」
「そうよ。証拠写真」
「あ……ありません」
「じゃあボツね」
 ガリガリとシュレッダーが鳴く。
「ああああ!?」
「証拠写真も無しに、こんな記事載っけられないわよ。ただの嘘八百じゃない」
「そ、そんなぁ……」
 結局、三下はいつもの三下であった。

● おわり


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【6604 / 環和・基 (かんなぎ・もとい) / 男性 / 17歳 / 魔法使い(神聖都学園三年生)】
【4538 / パティ・ガントレット (ぱてぃ・がんとれっと) / 女性 / 28歳 / 戦士(魔人マフィアの頭目)】
【5584 / 冷宵・煉戯 (さまよい・れんげ) / 男性 / 18歳 / 盗賊(探し物屋『インビジブル』)】

【NPC / 三下・忠雄 (みのした・ただお) / 男性 / 23歳 / 勇者(平社員)】

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■         ライター通信          ■
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 パティ・ガントレット様、皆勤賞おめでとうございます、ありがとうございます! 『三下はだめなヤツでこそ』ピコかめです。
 どうにか勇者に仕立て上げようかとも思いましたが、やっぱり何処までもダメなヤツの方が三下っぽいですよね。
 ともあれ、三下勇者伝説はこれで終わりです。ありがとうございました!

 結局、エクスガリバーもお邪魔する事になりました、よ。
 鞘−エクスガリバー=得の方がデカイ! と言う計算式でお願いします。
 なんつっても不死身ですからねぇ……。
 ちょっとバカっぽい金属バットが付いてくるぐらい、大丈夫ですよね!
 では、また気が向いたらよろしくお願いします!