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<東京怪談・PCゲームノベル>


黄泉還りの第二夜/獣達の啼く夜sideβ

オープニング

私が人間じゃなくなった時、精神崩壊を起こさなかったのはあの子がいたから。
 研究所で同じ被検体として連れて来られたあの子。
 あの子がいたから、私は私でいられた。
 だけど、ある日…研究者の一人からあの子は死んだと聞かされた。
 だから、私は研究所を逃げた。
 私を支えるあの子のいない場所で、私は私でいられる自信がなかったから。
 優しいあの子の名前はそう…菊花という名前だった…。


※※黄泉還りの第二夜※※


「菊花?」
 生梨覇が優の持っていた一枚の写真を見ながら問いかける。
「そう、菊花。可愛くて…優しい子だった。もう死んだけれど…」
 優が俯きながら言うと、生梨覇が気まずそうに「ごめんなさい」と答えた。
「いいよ、あの子が死んだから私は研究所を逃げる事を決意したんだ…」
 優が無理しながら笑顔で答える。その姿が痛々しくて生梨覇はポンと優の頭を撫でるようにした。
「そういえば、海斗は?」
 優雅回りをキョロキョロと見回しながら生梨覇に問いかける。
「海斗なら買出しに行ってるわ。お腹空いたでしょ」
 確かに、と優は呟く。時計を見れば時間はもう昼過ぎ。優や生梨覇だけじゃなくてもお腹が空く時間だ。
 その時、ガタンッ!という音と共に海斗が倒れこむようにして部屋に入ってきた。
「海斗!?」
 生梨覇が慌てて海斗に駆け寄ると獣から引っかかれた傷のようなものが体中についていた。
「…ど、どうしたのよ、これは…」
「……俺なら心配ない、見た目の傷が派手なだけで実際はそんなにダメージはないから」
 イタタ、と顔を歪めながら海斗は「よっ」と掛け声をあげて壁に背を預ける。
「…生梨覇…その写真は…?」
 海斗がその写真をみながら小さな声で呟く。
「…?あぁ、この写真はあの子のモノよ。研究所で知り合った子らしいわ…もう死んだらしいけれど…」
 生梨覇の言葉に「……そうか」と海斗は呟いて部屋を出ようとする。
「どこに行くのよ…」
「アイツのところ。ここはアイツの家だから薬箱とかどこにあるか分からないし」

 そう言って貴方の部屋に来た海斗が告げてきた事実は優にとって、もっとも残酷な事だったのかもしれない…。
「よぉ、仕事か?悪いけど薬箱貸してくれないか?ちょっとドジっちまってさ。それと…一つ言っておく事がある。まだ生梨覇にも、もちろん優にも言ってない事だ」

 ―俺を襲ってきたのは、優が研究所で親しく、そして死んだはずの『菊花』という少女だった。


視点→陸・誠司


「これでどうですか?」
 海斗の傷を塞ぐために治癒の符を使う。じわじわと治っていく傷を見ながら「さっきの事、聞かせてください」とちらりと海斗を見ながら問いかける。
「さっき言った通り。優より少し小さな女の子に襲われたんだよ」
 いてて、と愚痴るように海斗が言う。傷口を見れば引っかき傷にような物で、人間ならばこのような傷を作ることは不可能だ。
 この傷はどう見ても――…。
「獣の傷跡…?」
 そう、例えるなら猫などに引っかかれたような傷。猫と例えるには傷が深いのだけれど。
「よし、これで傷口は塞がりました。無理をすれば傷口がまた開くかもしれませんから、暫くは安静にしてください」
「サンキュ…問題は俺をおそってきた菊花という少女だな。生梨覇が言うには、優と同じ被験者で大事な友達なんだと」
 それを聞いた誠司は驚きに目を見開いた。優を連れ戻そうとしている研究所はよほど優を逃がしたくないらしい。同じ被験者…それも優にとって大事な存在である少女を追っ手に選んだのだから。
「でも話が合わないんだよ」
 海斗の言葉に「何がです?」と誠司が問いかける。
「菊花…つまり俺を襲った少女は死んでるはずなんだ。それは生梨覇が言っていた。生梨覇も優から聞いたみたいだから間違いはないと思う」
 確かに海斗の話が本当ならば話のつじつまが合わない。死んだ少女が海斗を襲うなど出来るはずもないのだから。
「死んでいるとわざと優さんに教えたのか…あるいは別の薬の効果で生き返ったのか…もしかしたら、優さんには…自分でも気づいていない何か重大な秘密があるのかもしれないですね」
 研究の秘密が漏れるかもしれない、それだけでわざわざ仲のよかった友人を『刺客』に選ぶはずがない。
 それに死んだはずの少女が何故、今生きて海斗を襲ったのか…。
「…とにかく、優さんと生梨覇さんにこの事を伝えなくては…」
「あんま、言いたくないけどな」
 確かに、と誠司はつらそうな表情で呟く。菊花の事を知れば優が悲しむのは分かりきった事なのだから。


「…なん…ですって…」
 事情を説明すると生梨覇は驚き、優はキョトンとした顔で「何を言ってるんだ…」と呟いた。
「優さん、落ち着いて――…」
 聞いてください、と続くはずの言葉は口から発されることはなく優に遮られた。
「何を言っているんだ!菊花は死んだんだ!海斗を…人を襲うなんてありえないだろう!」
 優の怒りも最もだ。話を聞いただけでは菊花を侮辱されたと思われても仕方がない。それが―…心を支えていた人間の事ならば特に。
「優、落ち着いてっ。体調も戻ってないんだし…」
 ぜぇぜぇ、と息を切らせながら叫ぶ優の顔色はいまだに戻っていない。具合が悪そうなのは誰が見ても一目瞭然だ。
「菊花は優しい子だった。人を襲うのが嫌で、研究者に逆らって殺されたんだ!菊花が人を襲うはずが―…」
 その時、優の身体がグラリと揺れて床へと倒れた。
「優さんっ!」
 倒れた優を抱き上げる。額に触れると熱く、興奮したせいで熱がぶり返したようだ。
「とりあえず寝かせないと…」
 ぐったりとする優をベッドに寝かせて、三人は何ともいえないような表情で互いの顔を見合わせた。
「…何でこの子は…こんなにも苦しい運命を背負わなきゃならないのかしら…」
 ポツリと生梨覇が呟く。まだ17歳、普通ならば同じ年頃の女子高生と流行の服やアクセサリー、恋の話できゃあきゃあと騒いでいる年。
 もしかしたら誠司と恋に落ちる可能性だってあったのだ。
「…おい、何か…変な感じがしないか?」
 海斗の言葉と同時にガシャン!と窓ガラスの割れる音と共に一人の少女が姿を現した。
「…うわぁ。あの顔見たら傷が痛む」
 襲われた時の事を思い出したのか、海斗が苦笑混じりに呟く。
「ユう、どコだ。ゆウヲ、つれテいク。それ、キッかの…おし、ご、と」
 喋り方がおかしく、瞳に生気を感じれず空ろな瞳で少女が三人を見やる。
「誠司っ、あたしと海斗であの子を近場の公園におびき寄せるわ。だから優を守って!」
 いいわね、と誠司の返事を待つことなく生梨覇と海斗は菊花と名乗った少女を割れた窓ガラスから連れ出すように部屋から姿を消した。
「…生梨覇さん、海斗さん…」
「…誠司…」
 ハッと呼ばれた声に振り向くと、優が涙を瞳いっぱいに溜めながら震えていた。おそらく―…いや確実に今の騒動を見てしまったのだろう。
「…優さん……」
 菊花なんだね、震える小さな声で呟きながら誠司に抱きついていた。
「…どうして、死んだはずなのに…どうして…」
 何で、どうして、暫くの間、優はその言葉ばかりを繰り返していた。声を殺しながら泣く優に誠司は苦しそうに目を伏せた。
「…菊花のところに連れて行って…。あたしの目で確かめたいの。本当に菊花なのか…」
 優を連れて行く、その事に誠司は反対するつもりはなかった。
 もしかしたら、優の顔を見て、菊花が元の菊花に戻るかもしれないと考えたから。
「分かりました、一緒に行きましょう」
 もし、菊花にまだ話し合えるだけの意思があるのなら、誠司は助けたいと思った。どんな形でも…どんな結末を辿ろうとも、優と菊花、二人が納得する形で助けたいと思った。そのために自らの手で菊花を葬る事になってしまっても…。傷ついて、泣くのは自分だけでいい。自分が傷つくことで優と菊花、二人の悲しみを減らし、笑顔を見せてくれるのならそれでいいと誠司は心の中で呟いた。


 公園に着くと、すでに海斗と生梨覇が菊花と戦っている姿が見えた。だが、攻撃を喰らっているのは海斗と生梨覇だけで、菊花には傷一つ見当たらない。
 二人が菊花より弱い、それは考えられない。優の大事な友人、それを考えて二人は菊花に対して攻撃が出来なかったのだろう。
「…誠司、これをあげる」
 そう言って優が渡してきたのは牙のような形をした手のひらに収まるサイズのもの。
「これは…?」
「お守りだよ、今後…きっと役に立つはずだから」
 そう言いながら優は菊花の前に立ちはだかった。
「菊花!!」
 海斗達に襲い掛かろうとする菊花を押さえ込み、馬乗り状態になった。
「菊花、あたしだよ、優だよ!きっ…」
 ざしゅ、と鈍い音が響いたと思ったら優の肩から血が噴出していた。菊花の獣のような爪が優の肩を裂いたのだ。
「ぅぁ…あぁっ!」
 公園の砂場に肩を押えながら優が倒れる。どくどくと流れる血が砂場を赤く染めていた。
「優さん!」
 誠司が真っ先に優へと駆け寄り、残る二人も痛む身体を引きずるようにして優の元へとやってきた。
「ユう、を…ツれて…イク。キッかの…オシゴと…?ユうは…キッカの…、えも、の……チガう、友達…、優は菊花の…友達…」
 言葉を言い終わると同時に絶叫のような叫び声を菊花があげ、頭を抱えて倒れこんだ。
「菊花ぁっ!」
 流れる血など構わずに優は菊花の元へと走りよった。すると菊花の額に妙な印のようなものが浮き出ていて、菊花はそれを押さえながら苦しんでいた。つまり額の印こそが菊花を操っていたもので、現在菊花を苦しませているものなのだろう。
「誠司っ、何とかならないの?菊花を…っ」
 優に縋られ、誠司は海斗を癒したように治癒の符を使う。だが効果は一向に現れない。
 それどころか―…。
「…これは…」
 治癒の符を使った場所、つまり菊花の身体がスゥと消えかけていくのだ。
「…優、菊花は一度死んだんだよ。癒すと言うことは…浄化を意味するはず。お別れ…だね」
 苦しそうに、だが優を心配させないようにと無理やりに笑顔を作って、優を安心させようとする菊花が痛々しくて見ていられなかった。
「まだです、何か方法があるはずです、菊花さんを救える何かが…」
 焦るように誠司は頭をフル回転させて何か手はないかと思考を巡らせるが、焦ったときに限っていい考えなど出るはずもない。
「…菊花、優に会えて良かったぁ。もう一度だけ会って言いたかった事があったんだぁ」
 あのね。そう言って菊花は優の耳に口を寄せて呟く。それを聞いた優は涙をぼろぼろを零しだす。
「…ねぇ、菊花を眠らせて。このままだと…またみんなを襲っちゃうよ。その前に…眠らせて…ぐぅっ…」
 何かに耐えるように菊花が呻く。
「…優さん……」
 誠司も諦めたわけではない。だが、菊花は『眠り』を望んでいる。きっと、それが最良の方法なんだろう。
「…誠司、お願い…。菊花の…お願いを…聞いてあげて…」
 涙を零し、誠司の服の袖をギュっと握り締めながら小さく、本当に小さく呟いた。
 分かりました、そう返事を返して誠司は真応旋で菊花を眠りにつかせた。眠りに着く瞬間、菊花は幸せそうに笑った―――――…。



「優の事が大好きだったよ、最後に菊花が言った言葉…。海斗とかは襲われたから菊花の事が嫌いかもしれない…。だけど―…最後の菊花だけは…前の菊花だったんだよ…」
 地面に突っ伏しながら大声で泣きじゃくる優に三人はかける言葉が見つからなかった。
「…誠司、あんたまで何泣いてんの」
 パシン、と頭に軽い振動を受ける。生梨覇が誠司と同じように泣きそうな顔をしていた。
「…お前は間違ってない、幸せそうに笑ったじゃないか。あの子は」
 海斗から言われ、誠司は空を見上げる。青から橙色に染まるその瞬間、儚く散っていった菊花の姿が浮かんだような気がして、誠司はいっそう涙を瞳に溜めていた。





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

5096/ 陸・誠司 /  男  /18歳 /高校生(高3)兼道士

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■         ライター通信          ■
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特別出演
東圭真喜愛様よりお借りしました⇒『尭樟生梨覇』
風深千歌様よりお借りしました⇒『雪沢海斗』


陸・誠司様>

こんにちは。瀬皇です。
黄泉還りの第二夜に発注をかけてくださいまして、ありがとうございます^^
内容はいかがだったでしょうか??
楽しんでいただけたなら幸いです^^
それでは、またお会いできる事を祈りつつ、失礼します。

          −瀬皇 緋澄