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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


自分が殺人を犯したのか 柳井篇

●オープニング
 一ヶ月前から、真夜中に女性ばかりが狙われる奇妙な殺人事件。
 犯人は夢の中に出てくる自分自身では無いかと不安になり一介の高校生、甫坂昴は青褪めていた顔で草間興信所を訪れた。

 前回の調査、昴本人の供述で事の発端が判明。

・事件が起こる六日前、クラスメートの柏木静が飛び降り自殺。
・目の当たりにした昴は、その夜から檻に入れられている獣人と化した自分自身が出てくる悪夢を見る。
・その翌日の金曜日、事件が起こっている。
・被害者達の共通点は血液型がA型。
・事件現場は甫坂家に比較的近い場所。

 更に昴に容疑がかかったが、新たな情報を得た。

・静の絵を入手。
・昴、静の担任である柳井佑弥が自ら望んで美術部顧問になったこと、昴と柳井が同調したこと。
・柳井が静に恋心に近い感情を抱いていた。
・柳井のアパートに静らしい少女が訪ねていた。
・事件が起きてから柳井の顔色が優れない、ゴミの量が増えた。
・静の日記に『鬼のような獣に襲われた』という記述あり。
 その文の下には角が生え、牙から血を垂れ流している体毛の長い獣人のような化け物が描かれていた。
・柳井と静は血の繋がった兄妹。
・静の母と昴の父は姉弟(前回の『真相篇』で静の母と柳井が姉弟と表記したが、こちらが正しい表記である)

 これで昴犯人説はややグレーになった。
「次の金曜日には決着をつけられるな。だが…ひとつ不安がことがある」
 草間武彦が納得いかない表情で呟きだした。
 それは何かと調査員の一人が尋ねると、草間はこう言った。
「柳井佑弥のことだよ。あいつの経緯がなにひとつわからん」
 机に置かれている戸籍謄本のコピーを何度も見るが、これで手がかりになるようなものは無かった。
「お兄さん、この住所…」
 背後からコピーを見た草間零が何かを思い出したようだ。
「この住所を知っているのか、零」
「はい、そこは有名な温泉旅館があるところですから」
 零が指差したのは、柳井の本籍欄だった。S県××市とある。
 そこにいけば、連続殺人犯かもしれない柳井のことが僅かでも掴めるかもしれない。
 思い立ったが吉日。草間は早速S県に向かおうとしたが…やめた。今、昴から目を離してはいけない。そう思ったからだ。
「零、悪いがそこにはお前が行ってくれ。俺は今、依頼人から離れるわけにはいかない。日帰りで行くのはしんどいだろう、一泊してこい」
「わかりました、お兄さん」

 こうして、零と調査員はS県に情報収集に出向くこととなる。

●行動前夜
「ありがとうございます、白羽鷹温泉でございます」
 来生・十四郎(きすぎ・としろう)は職場から携帯で白羽鷹温泉の宿泊予約を兼ね、旅館経営者に旅館と土地について取材したいと連絡した。
「宿泊予約をしたい。それと、旅館経営者に代わっていただけないか? 取材のアポを取りたいので」
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」
 暫くして経営者が対応し、取材の内容を来生から聞くと、自分の答えられる範囲で良ければと了承した。
「ありがとうございます。では、翌日お伺いします」
 携帯を切った後、うまくいったなと来生は唇の端を吊り上げて笑った。

 それとほぼ同時刻に、草間興信所の黒電話が鳴った。
「はい、草間興信所」
「草間さん、ちょいと聞きたいことがある」
 電話をかけたのは門屋・将太郎(かどや・しょうたろう)だった。
「何の用だ」
「こないだ、静ちゃんの母親と柳井の奴が年の離れた姉弟だって言ってたけど、それっておかしくねぇか?」
 それはお前の早とちりだ、と草間が呆れて事の説明を始める。
「柳井じゃなくて昴の親父さんが弟? 俺の勘違いだったってワケね。ってことは…昴と静ちゃん、いとこってことになるじゃねぇか!」
「そういうこった」
 一息つけ、門屋は草間にこう伝えた。
「草間さん、昴のこと頼んだぜ。少しでも様子がおかしいようだったら、携帯に連絡してくれ。俺が出なくても留守電機能があるから」
 それだけ言うと、門屋は電話を切った。

●目的地へ
 翌日の早朝、来生は自分の車でS県へと向かった。

 ――S県で柳井の事、今回の事件の謎を解く鍵が掴めるはず。

 雑誌記者としての使命感ゆえか、来生は手がかり掴みに執着していた。

 自分の車で先にS県に向かった来生を除く調査員は、S県に向かう新幹線に乗るため東京駅のホームに集まっていた。
「甫坂君、色々と動揺してるだろうから励ましてあげてね。それと二人とも気をつけて。行ってきます」
 と草間に伝えるシュライン・エマ。その隣には草間零が大人しく立っている。
 黒・冥月(ヘイ・ミンユェ)は、用を済ませてから合流する、先に行ってくれと皆を促す。
「それじゃあ、お兄さん、行ってきます。甫坂さんのこと、頼みますね」
 列車に乗った調査員達に手を振り微笑んで見送る草間と、軽く手を振る冥月。彼女が何故残るのかが疑問に思い、草間は理由を尋ねた。
「用ってのは何だ? お前のことだ、何かあるんだろう」
 こうだろう、と思い、草間は考えを口にした。
「私は柳井の部屋を漁るつもりだ。話を聞き出せても、何一つ裏が取れてなければ嘘も見破れないし、信用もできない」
 冥月の言うことは尤もだ。聞きかじっただけの情報は曖昧なので実際に柳井の部屋を調べ、詳しいことを知る必要がある。

 新幹線内では、向かい合わせに座っているでシュラインと門屋が意見交換をしていた。
「甫坂君と柳井さんが血縁なら、同調も有り得るわ。そして、半獣状態の姿を考えると何かに憑りつかれたり、降ろしたりといった依坐(よりまし)家系の可能性もありそうね」
「よりまし…って、何ですか?」
 シュラインの隣に位置する、窓際の席に座っている零が質問をする。
「依坐というのはね、神霊の媒介に憑依される巫女などの人間のことよ。祭儀においては重要な位置を占めているの」
「簡単にいやぁ、何かに憑りつかれた状態になるってことだ。トランス状態ってのがあるだろ? 目や耳などを通して刺激を受け、
日常的に働いている自意識や自己防衛の働き、すなわち理性が沈静化し、本能が突出した状態のこと。結果として、潜在的な否定的情動が解放されやすくなる、もっと言えば、リラックスできる状態だ。そのほうが媒介も憑りつきやすいからな」
 シュラインの答えに、心の専門家である門屋が更に付け加える。不思議な存在なんですね、と零は呟いた。
「柏木さんが日記に描いていた獣だけど…実際にそうだったのかしら」
「どういう事だ」
 シュラインに直接聞かなくても、門屋は彼女が何を言いたいのかわかっていた。静が柳井を恐ろしい獣としか見れなくなるほど酷い事をされた、なんて事がなければと願っている。その願いの答えは、S県にあるはずだ。

●潜伏調査
 東京駅を去った後、冥月は影伝いで素早く柳井のアパートに行き、侵入すると調査を開始した。
 まず目に付いたのは小さな仏壇だった。その中央に、父親らしき中年男性の写真があり、側にある小さな位牌には柳井武雄を書かれている。亡くなったのは昨年の九月、となっている。
 仏壇は本棚の上に置かれていた。棚には美術部顧問になる際に読んでいたと思われる美術専門書、大学時代に使っていたと思われる史学、民俗学の本がびっしりと詰められている。その資料の類の中で一際目立つのは、古びた茶皮製のアルバムらしきものだった。冥月はそれを取り出すと、中を見た。
 そこには柳井の幼少時、静が生まれたばかりの頃の写真が至るところに貼られていた。両親の愛情の賜物だろう。だが、二人が成長するにつれ、写真がおかしいことになっている。柳井と静以外の人物が黒いマジックで塗り潰されているのだ。邪魔者を消し去るかのように。
 静のアルバムでも同じようなことがあったな、と冥月は思い出した。兄妹故の共通点なのだろうかと最初は思ったが、それは違う。静は柳井だけを塗り潰しているが、柳井は静以外の全ての人物を塗り潰している。
 次は机の引き出しには鍵がかけられていたが、冥月は影を利用し難なく開けた。そこには、丁寧に束ねられた開封された手紙が詰められていた。
 冥月はそれを持ち帰ると、草間の元へ向かった。

「柳井の部屋で見つけたものだ」
「静からの手紙か。皺ひとつ無いってことは、よほど大事にしていたんだな。今、この手紙を読んでも良いか?」
 草間が手紙を束ねてある紐を解こうとしたが、皆が帰ってきてからにしろと冥月に咎められた。
「すべき事は終えた。私もS県に向かう」
 冥月の去り際、草間が戦闘系が少ない為か、大丈夫だとは思うが、何かあったら零達を守ってやってくれよと言う。更に、お前なら見捨てるが零は守ってやるさと真剣に言ったかと思えば、
「温泉で開放的になっても零に手出すなよ」
 と冥月の男前さをからかうので、誰が出すか! と草間は鉄拳制裁を喰らってしまった。
 その後、影伝い五キロを瞬時移動し、新幹線が着く駅へと向かった。

●取材と称した調査
 朝早く出発したのにも関わらず、白羽鷹温泉には昼前に着いた。来生は車に積んである荷物を降ろしてから従業員に車のキーを渡し、温泉内に入った。
「いらっしゃいませ」
 仲居や従業員達が、礼儀正しくお辞儀をして来生を出迎えた。
「いらっしゃいませ。来生様…でございますね」
 来生を出迎えたのは、ここの女将だった。
「ああ。早速だが『館山グループ』会長で、ここの経営者の甫坂氏に会えるか?」
「はい、会長室でお待ちでございます。ご案内致します」
「わかった。その前にチェックインして、荷物を置いてくる」
 来生はフロントで部屋のキーを受け取ると、予約した部屋へと向かった。

 ――あの会長、甫坂という苗字だったな。昴と何か関係があるのか?

 部屋に向かいながら、来生はそんなことを考えていた。
 フロントに戻り、女将の案内で彼は会長が待っている会長室へと向かった。

 それとほぼ同時刻。三人はようやく目的地であるS駅に着いた。
「待ち草臥れたぞ」
 駅のホームに先に到着した冥月が、特急から降りた三人を出迎えた。
「お前、草間さんとこにいたはずじゃ…」
 門屋が面食らった表情で冥月の顔を見た。
「私たちより早く着くとは思わなかったわ。用が済んだようね」
「ああ」
 冥月の能力を知るシュラインは、冷静に対応した。用について聞きたいことがあるが、それは東京に帰ってからにしようと思った。
 四人は駅前に止めてある送迎バスに乗り込んだ。
 しばらくして、門屋は運転手に柳井という名に心当たりがあるかと尋ねた。
「柳井? この住民の大半は柳井姓だよ。そういう私も柳井ですが」
 どうやら、この地域の大半は「柳井さん」のようである。日本で多い苗字の「鈴木さん」「佐藤さん」みたいなものだろう。その言葉に嘘偽りがないことを、門屋は確認した。

 バスに揺られること十五分。ようやく目的地の白羽鷹温泉に到着した。長時間乗り物に乗っていたシュライン、門屋、零の三人は荷物を地面に置き、おもいっきり背伸びをした。
 温泉の玄関に着くと、仲居達がいらっしゃいませと言い、礼儀正しくお辞儀をした。チェックインを済まして各部屋へ向かう途中、門屋はこれからどうする? と皆に聞いた。
「私は電話帳で柳井姓、柏木姓、甫坂姓を調べてから、地図上で住所や位置を確認するわ」
「元気だなぁ。俺は温泉に浸かってゆっくり疲れを取るぜ」
「爺むさいな、門屋。私はシュライン達を手伝う」
 移動で疲れているにも関わらず、冥月はシュラインの協力を申し出た。門屋の姿が見えなくなるのを見計らったシュラインは礼を言い、その後、何故自分に協力するかを尋ねた。
「もの凄く疲れた時の風呂は最高だ」
 …と、あっさり答えた。

 三人が部屋に向かう最中、来生は館山グループ会長、甫坂氏の取材中は滞りなく終わったが、まだ聞きたいことがあった。
「旅館のことはわかりました。次は会長自身のお話を聞かせてください」
「私の話? これも取材のうちなのかね」
「いえ、個人的に聞きたいだけです」
 個人的、というのがひっかかったようだが、甫坂氏は話し始めた。

・館山グループの初代会長は、僅か一代で巨万の富を得てこの旅館を建て、温泉街を作った。
・従業員、仲居のほとんどは地元の人間で、ほとんどの人間の苗字は「柳井」「柏木」である。
・この両家に関しては、五百年ほど前は名が知れた武家だったが、明治の終わり頃に没滅。
・甫坂氏には年の離れた弟がおり、現在は東京で暮らしている。

 以上が得た情報だった。
「柳井家、柏木家のことが詳しく聞きたいのであれば、ここから少し離れたところに雨月寺という菩提寺があります。そこの住職に
話を聞くと良いでしょう」
「ありがとうございました。今回の取材の記事が出来上がりましたら、お送り致します」

●気づいたこと
「あーすっきりした♪」
 大浴場に浸かり、見も心もリフレッシュした門屋は足取り軽く自分の部屋に向かう途中だったが、暇潰しにと土産売り場に立ち寄った。お約束の温泉饅頭をはじめ、キーホルダー等の土産物が陳列されている。その中で門屋の目に付いたのは、文庫本くらいの大きさの本だった。手に取り表紙を見ると、そこには『S県民話集』と書かれていた。ペラペラと捲って読むと、あるタイトルが目に止まった。
 タイトルは『尖角山(せんかくやま)の鬼』。
「尖角山…? このへんにあるのか?」
 疑問に思った門屋は、土産売り場の売り子にこの話のことを聞いてみた。
「ああ、この話ですか。今から五百年前くらいの民話らしいですよ。詳しいことは良くわかりませんが」
 ありがとうと礼を述べた後、門屋はその話が掲載されている民話本を買った。

 門屋は部屋に戻るなり、本を手にし、先程の話を読み始めた。

『尖角山の鬼』
 昔、昔の物語。尖角山に人間の姿に近い、鬼のような獣がいました。
 その者、血と戦を好み、強き兵(つわもの)共が集いし戦場に現れては、疾風の如き速さで殲滅したといいます。

 ある日、狩りをしていた鷹匠が、見失った獲物を捜し求めているうちに道に迷ってしまいました。
 その途中に見つけた点々の落ちている血の滴を頼りに、猟師は獲物を探しました。暫くして見つけた獲物は、鷹匠は放った矢矢が突き刺さった状態でした。鷹匠は素早く矢を抜くと、手当てをしてあげました。その後、それが件の鬼であることを鷹匠は知り、食われると思い、気絶してしまいました。

 鷹匠が目覚めたのは、洞穴でした。鷹匠の横には、美しい娘が眠っていました。

「その後、その娘が鬼だと知り、涙ながらにして退治した…か。ありがちな話だな」
 ペラペラと一通り読み、これと今回の一件が何が関係するのかという疑問が沸いた。
 その辺りはシュライン達がどうにかしてくれると思い、門屋はマッサージ師を呼ぶように部屋の電話で仲居に伝えた。

 シュライン、冥月、零の三人は電話帳でロビーで柳井姓、柏木姓、甫坂姓を探している。
「この辺りだけでも柳井姓が多いわね。その次は柏木姓ってところかしら」
「甫坂姓は一件だけですね」
 電話帳の甫坂姓は、甫坂耕次郎という男性の一家だけのようだ。
「そこだが、私が行って様子を見てこよう」
 冥月はそう言うとロビーを去った。
「零ちゃん、私達は郷土資料館と図書館に行きましょう」
「はい」
 二人はタクシーに乗り郷土資料館へと行ったが、ここには無いとタクシーの運転手が言うので、図書館に行くことにした。

●それぞれの報告
 その日の夜、シュライン、来生、門屋、冥月の四人はロビーに集まり、今日の情報を報告し合った。零はシュライン以上に情報収集を頑張った疲労のせいか、部屋に敷いてある布団でぐっすり眠っている。
「んじゃ、まずは俺からだな」
 来生の表向きの行動は甫坂氏の取材だが、本当の目的は彼自身の調査だった。昨日、この温泉に来る前におおよそのことは調べたが、それは経歴云々だけであった。
「甫坂氏の祖父にあたる館山グループの初代会長は、僅か一代で巨万の富を得てこの旅館を建て、温泉街を作ったそうだ。どうやって金を手に入れたかは聞いてはいないが、相当苦労したと思われる。ここの従業員、仲居のほとんどは地元の人間で、苗字は「柳井」「柏木」が多い。ま、これは当然だな。この両家は、五百年ほど前は名が知れた武家だったとか。それと…甫坂氏には年の離れた弟がいて、今は東京で暮らしているとか。こいつが、昴の父親だろうな」
「お前、そういうサクセスストーリーを聞きに来たのかよ」
「煩い、眼鏡。そういうお前は何を仕入れてきたんだ」
 大した情報じゃねぇけど、と控えめに言うと、門屋は一冊の本を丸テーブルの上に置いた。
「ここの土産屋で買った民話話本だ。そこに『尖角山の鬼』というタイトルの話がある。俺は…こいつが今回の事件に関係があるんじゃねぇかと思う」
「私も門屋さんと同意見ね。図書館で民話関係の本をくまなく調べたら、その話もあったわ。私たちが泊まっているこの温泉から少し離れた場所に、尖角山はあるのだけど…。かなりきつい急斜面が多いから、登山は無理だと地元の人の話よ。それと、その話に出てくる鷹匠は、かつてこの地を支配していた戦国武将、柳川久右エ門という人物よ。悔しいことに、閉館間近だったから詳しくは調べられなかったけど。久右エ門は言うなれば、この地に住む柳井さん達のご先祖様ってとこね」
 次は冥月の報告だ。
「私はここに一軒だけある甫坂家を調査した。和風のお屋敷だったぞ。近くを通りがかった老人にその家のことを訪ねたら、この温泉の経営者が住んでいるとか。ついでに柳井家、柏木家の位置も調べておいたんだが…不思議なことに、正反対の位置にそれぞれの家が固まっているのが気になった。甫坂家が何故、その中心に位置しているのも謎だ」
「柳井家と柏木家は敵対関係、あるいは主従関係のどちらかだろうな。でないと、そうならんだろ」
 来生の意見に、残りの三人は尤もだと頷いた。
「俺は明日、菩提寺である雨月寺を訪ねて、そこの住職に話を聞きに行く。お前たちはどうするんだ?」
「私は零ちゃんと一緒に、もう一度図書館に行って調査をし直すわ」
「ん〜俺はあんまし深く考えていないから、来生と一緒に菩提寺に行く。ついてって良いか?」
 邪魔しないならついて来てもいいぜ、と言う来生に礼を言う門屋。
「行動範囲の広い私は、年寄り達から情報を収集しよう」
 こうして、各々の行動は決まった。

 調査でかいた汗を流すため、冥月は見上げれば夜空が見ることができる露天風呂へと向かった。夜も遅い時間帯だ、誰もいないだろうと思ってのことだ。
「この事件には血、血縁が関係しているのだろうな…」
 湯に浸かりひとりごちる。
 血縁を考えているうちに、柳井一族縁の地であるここには、妙な建物や空間、物品があるかもしれないという考えが浮かんだ。
「明日は忙しくなりそうだ。今日の疲れを残さぬよう、ゆっくり休むか」
 調査は大変そうだと思い、冥月は東京では見られない満天の星を見た。

●菩提寺へ
 来生と門屋の二人は、車で雨月寺まで向かった。
「菩提寺ってことは、昨日シュラインさんが言ってた柳井久右エ門の子孫達の墓もあるってことか?」
「まぁ、そんなもんだな。正確にいやぁ“菩提”ってのは悟り、目覚めを意味する古代インドの文章、サンスクリット語だ。先祖を
弔い、法要するところでもあるが」
 流石は雑誌記者、色んな知識があるなぁと関心する門屋。
 車で来たのはいいのだが、寺の本堂に行くには苔むした石段を登っていかなければならない。
「しゃあねぇなぁ…行くぞ、眼鏡」
「いい加減、俺の名前を覚えてくれよな」
 そういう遣り取りをしながら、二人は石段を登り始めた。

 寺に着いた頃には、普段動き回ることのない門屋は肩で息をしていた。
「し、しんど〜」
 だらしねぇなぁ、という来生の悪態は門屋の耳に入っていない。門屋は呼吸を整え終えると、来生と共に本堂へと歩き始めた。
 甫坂会長から二人が来るという予め連絡を受けていた住職は、本堂で待っていた。
「私がここの住職です。今日は柳井家と柏木家についてお聞きしたいことがあると、甫坂様から伺いましたが」
「実は…」
 来生はここに伝わる鬼の伝説と、柳井久右エ門と柏木家の関わりを聞いた。
「その伝説ですが、表向きには久右エ門が鬼の娘と恋に落ち、最後は彼自身が娘を泣く泣く…というふうな話になっておりますが、実は、遠縁にあたる柏木家の策略にはまり、久右エ門が最愛の恋人を殺してしまい、怒りに身を任せて鬼になってしまったという裏伝説があるのです」
「遠縁ってことだけど、その関係は今でも続いているのか?」
 門屋の質問に、それは今でも続いておりますと住職は答えた。昔は結束が固かったが、今では普通の付き合いがあるかないかの程度だそうだ。裏伝説のことは、シュラインと零が調べているだろうと思い何も聞かなかった。

<住職から得た情報>
・尖角山の鬼には裏伝説がある
・柳井、柏木両家の遠縁関係は今でも続いている

「どうもありがとうございました」
 二人は住職に礼を述べると、シュライン達がいる図書館へと向かった。

●鬼の裏伝説
 シュラインと零は、鬼伝説についての文献を調べていた。小さな村の図書館ゆえ、資料となる本がなかなか見つからない。
「シュラインさん、こ、これ!」
 零がシュラインに見せた本は『尖角山の鬼 裏伝説』といタイトルの本だった。
「裏伝説…? 昨日、門屋さんが見せてくれた本の外伝みたいなものかしら」
 本を手に取ると、一字も見逃さないように文章を見た。
 そこには、鬼というのは実は柳井久右エ門であり、彼が愛した娘は、遠縁にあたる柏木家当主の妻だと記されている。
 妻に横恋慕した久右エ門は、彼女を自分の屋敷に強引に連れ出し、牢屋に閉じ込めて愛でていた。
 柏木家当主とその軍勢は久右エ門の屋敷に乗り込み妻を救出しに行くが、怒りに身を任せ、獣のような鬼と化した久右エ門は妻を食らい、更なる力を得て、軍勢を一気に薙ぎ払ったという。僅かに生き残った柏木家の人々は、偶然この地に立ち寄った高名な祈祷師に久右エ門を封じるよう命じたが、力及ばす、中にいる鬼の人格を封じることしかできなかった。

「こ、こんな事実があったなんて…」
 シュラインは驚きを隠せなかった。
「その後、柏木家は柳井家の監視役となったそうですが、両家の仲介人をしていたのが甫坂という人物となっています」
「それが甫坂君のご先祖様ね。皮肉なものね…その三家が東京にいるだなんて」

 その頃、冥月は地元の老人に鬼伝説の話に聞いて伺った。
「あの話は…わしらには触れてはならぬ話なんじゃ。土産売り場は観光のためと、話を記した本を売っておるがな」
「触れてはならぬ…とはどういうことだ?」
 冥月の問いに、老人は何も答えず、恐ろしいものを見たかのようにこそこそと去っていった。他の老人にも聞こうとしたが、皆、同じ反応だった。
 諦めかけていた時、携帯の着信音が鳴った。相手はシュライン。
「もしもし」
「冥月さん、あの話には裏があったのよ。それについては、温泉のロビーで話し合いましょう。来生さん達にはもう連絡したから」
「わかった」
 
●それぞれの報告・2
 ロビーにそろった三人は、それぞれの報告をした。
「まずは俺達だな。菩提寺である雨月寺の住職の話だと、柳井、柏木の両家は遠縁関係にあたり、戦国時代から現代でも続いている」
「んで、両家の関係は付き合いがあるかないか程度だそうだ」
 来生と門屋の報告は以上だった。その後、シュラインが裏の鬼伝説の話をした。

「裏伝説があったとは、正直思わなかったわ。民話とは逆に、鬼は娘ではなく、久右エ門本人だったのよ。負け戦続きで窮地に陥った彼が鬼に願掛けしたことで、鬼の力を得たそうなの。そんな彼が愛した娘は、柏木家当主の妻。久右エ門は横恋慕したのよ。それを知った柏木家当主とその軍勢は、久右エ門の屋敷に乗り込み妻を救出しに行ったのだけど、見も心も鬼と化した久右エ門が妻を食らい、更なる力を得て、軍勢を一気に薙ぎ払ったの」
 その後は、零が説明する。
「僅かに生き残った柏木家の人々は、偶然この地に立ち寄った高名な祈祷師に久右エ門さんをを封じるよう命じたのですけど、
力及ばす、中にいる鬼の人格を封じることしかできなかったそうです」
 肉体の中にいる鬼。それがもし、現代に生きている柳井の男に眠っていたとしたら…。

「その件だが、私は血、すなわち血縁関係にあると思う。柳井の母と昴の父がこの村で生まれ育ったのなら、久右エ門の血筋ということになるだろう。民話に詳しい老人達に鬼伝説の話を聞いたが、皆、何も言わなかった。それに似たような事件があるかと思うのだが」
「事件の可能性か。それは俺が東京に戻ったら調べる」
「お願いするわね、来生さん」
「俺は東京に戻ったら、昴の様子でも見に行くか。精神状態が落ち着いているかどうか気になるしな」
「私は…草間と共に調査でもしてみるかな」

 四人は新たな情報を得て、東京に戻ることにした。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0086 / シュライン・エマ / 女性 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
0883 / 来生・十四郎 / 男性 / 28歳 / 五流雑誌「週刊民衆」記者
1522 / 門屋・将太郎 / 男性 / 28歳 / 臨床心理士 
2778 / 黒・冥月 / 女性 / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

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■         ライター通信          ■
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ライターの火村 笙改め、氷邑 凍矢です。
『自分が殺人を犯したのか 柳井篇』のご参加、ありがとうございます。
真相篇同様、独自の調査を行うという方針の方もいらっしゃいましたが、男性陣、女性陣と
行動を分けてみました。
皆様の調査のおかげで、柳井の謎が解けました。ご苦労様でした

>シュライン・エマ様
毎度のご参加、ありがとうございます。
今回、一番ご苦労なさったのはシュライン様ではないかと。
零の助けがあっても、一人で多くの文献を見ることは大変だったことと思います。
お疲れ様でした。

>来生・十四郎様
シュライン様同様、毎度のご参加、ありがとうございます。
今回は雑誌記者という肩書きを使用させていただきました。
来生様も、今回の調査の功労者であります。
取材、お疲れ様でした。

>門屋・将太郎様
前回から引き続きのご参加、ありがとうございます。
温泉でリラックス、とのことでしたが、のんびりできたでしょうか?
民話に話が繋がったのは、プレイングのお陰です。
お疲れ様でした。

>黒・冥月様
シュライン様、来生様同様、毎度のご参加、ありがとうございます。
能力を活かし、行動範囲を広くしてみました。
今回の調査も、大いに役に立ちました。
露天風呂で疲れを癒していただきました。疲れ、とれたでしょうか?


次回でも皆様に会えることを楽しみにしております。


氷邑 凍矢 拝