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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


紅の彼方


オープニング

投稿者:
件名 :お願いです。
本 文:お願いです。どうか私に茜色に染まる空を見せてください。
    私は、占いを生業としている者です。
    占いの結果、私はもうじき死んでしまうことが分かりました。
    残念ですが、私の占いは今まで外れたことなどなく、今回もきっと外れないでしょう。
    ですから、最後に茜色の空を誰かと見たいのです。
    私が存在していた事を、誰かに覚えていてもらいたいのです。
    ご迷惑だとは思いますが、どなたかご一緒していただけないでしょうか?

 これは二日前にゴーストネットOFFに書き込まれた事。
 内容が内容だけに、誰も返信をしていないらしく放置されている。
 それを目にした貴方は返信を返した。
 さて、貴方はどうしますか?


視点→阿佐人・悠輔


「占い…?」
 書き込みを見て、悠輔は小さく呟く。ネットというのは相手の顔が見えない分、書き込まれている事が事実なのか、それとも虚言なのか見分けがつかない。
「…不治の病か…それとも…」
 遠まわしな自殺願望者かもしれない。もしそうなれば何とか助けようと思い、悠輔は書き込みの返信フォームに自分の名前と特徴、喫茶店の店名を書いて返信をする。時計を見れば十時を少し過ぎたところ。こういう事は早めに解決するべきだと判断した悠輔は、準備を始めて書き込んだ喫茶店へと足を向け始めた。


十分程度で目的の喫茶店に着くと、店内は休日という事もあって人がごった返していた。その中で一つだけ空いているテーブルを見つけ、悠輔はそこに腰を下ろした。窓際の席だったため、通りがよく見える。自分と同じ年頃の人間が沢山行き交っていた。
「…あの、阿佐人・悠輔さん…ですか?書き込みをしてくださいましたよね?」
 外をぼぉっと見ていると、突然話しかけられた。視線をゆっくりと声の主に向けると品の良さそうな女性がにっこりと笑みを浮かべながら立っていた。
「…私はレオナと申します。返事の書き込みをして下さって嬉しかったです」
「とりあえず…立ち話もなんだし、座ったらどうですか?」
 悠輔はテーブルを挟んだ真向かいの席を視線で促す。すると「そうですね」と相変わらずの笑みを浮かべて答えた。
 レオナと名乗った目の前の女性は、書き込みで確かにもうじき死ぬと書いていた。死を目前にした人間にしては落ち着きがある。
(本当に自殺願望者か…?)
 頼んでいたジュースを一口飲み、レオナをじっと見る。レオナも珈琲を頼んだようで、笑顔を崩す事なく飲んでいた。
「私のこと、自殺願望者だと疑っているような目ですね」
 図星をつかれ悠輔はドキと心臓が大きく打った。
「こう見えても私は病気で半年後に死んでしまいます。ドナーが現れずに、苦しみながら死んでいくんですよ」
 レオナは他人事のように珈琲を飲みながら淡々と言葉を紡ぐ。
「貴方の未来も占って差し上げましょうか?特別にタダでいいですよ」
 どうせお金なんて必要なくなるから、レオナはそう寂しそうに呟いた。そして、その時、悠輔はレオナという女性が少し分かったような気がした。
 どうせ助からない。
 生きたいけれど、死ぬ運命なのだから。
 どうせ変えられない未来なら希望など持たないほうがいい。
 レオナは占い師だという。それも凄腕の。外れたことなどない自分の占いだからこそ希望を持てずにいるのだろう。
「断ります。運命を信じないという事はないけど、自分で切り開ける運命もあると信じてるから」
 それは悠輔の嘘偽りのない本心だった。
「それがいいと思うわ、未来なんて…先に知るものではないから」
 その言葉を境に暫くの沈黙が続く。耐え切れなくなったのは意外にもレオナの方で「茜色の空、見に行きましょう?」と伝票を持ってレジへと歩いていってしまう。悠輔は自分の分だけでも払おうと財布を取り出すが、レオナから止められる。
「誘ったのは私だもの、これくらい払わせて」
 そう言って、またあの笑顔を見せた。きっとこの笑顔は無理をして作っているのだろう、その証拠に笑顔にぎこちなさを感じる。
「前に、恋人と来た絶景の場所があるの」


 レオナの言う通りにやってきたのは、そう遠くない海岸だった。日も落ちかけ、夕日に照らされて橙色の海がとても綺麗に感じられた。
「綺麗ですねぇ」
 満足、とでも言うように「うーんっ」とレオナが大きく伸びをした。
「悠輔さん、私…貴方と一緒にここに来れて良かった。本音を言うと…」
 悠輔に背中を向けて、海と空を交互に見ながらレオナが小さく呟いた。
「私、怖いんですよ、死ぬ事が。今こうしていても半年後には確実に死んでしまうんです。この世界から消えてなくなるんです…」
 そこで悠輔は気がついた。レオナの肩が震えていることに。それは寒さからの震えではなく、恐怖からの震えだとすぐに分かった。
「そういえば恋人と来た場所だって…」
「もう何年も前の話ですよ。私がまだ占い師じゃなく普通の女だった時の事です。私の能力を知ってしまったあの人は…私を置いていなくなってしまったんです」
 こんな力を持った罰ですかね、レオナはクス自嘲気味に笑いながら呟いた。
「さ、私はもう満足です。帰りましょ。こんな事につき合わせてごめんなさいね」
「いや、構わない…」
 その日はレオナと夕日、そして夕日に照らされた美しい海を見て別れた。別れる際に携帯のメールアドレスを聞いておく。出来るだけ彼女に会うようにしようと思ったからだ。彼女に必要なのは、誰かを…何かを信じる心。自分にそれが勤まるかは分からなかったが、悠輔はレオナに絶望に伏したまま死んで欲しくないと思った。


 それから数日。
 悠輔はレオナを救うために何か手はないものかと色々な場所で、色々な事を調べた。
 しかし、レオナを蝕むのは病。病を治すのは医者の役目だ。医学書などさまざまな専門書を図書館で読み漁ったが、どれも高校生である悠輔には出来ないことばかり。
 それにレオナの病気は適合するドナーがいなければ、まず話にすらならないのだ。
(俺は死ぬことが決まっているなどと、信じはしない。たとえ、そうだとしても俺は最後まで抗い続けて、その運命を覆してみせる…)
 読んでいた分厚い本をパタンと閉じ、頭を抱える。
「俺みたいな小さな力でも、何かを救うきっかけになるかもしれないから、俺は諦めない。運命に逆らえないと、絶対に信じはしない」
 そして、確立としてはまず0に近い事だけれど悠輔に出来る事が一つだけあった。それを行うために悠輔は慌しく家を飛び出していく。



 さらに数日の時間が流れ、レオナからメールを受信した。

差出人:レオナ
件 名:無題
本 文:聞いて、適合するドナーが見つかったってお医者様から言われたの。
    私、死なずにすむの!


 そのメールを見て、悠輔は小さな笑みを浮かべた。
 その後、レオナは占い師を廃業し、普通の仕事をして暮らしている。悠輔とレオナも頻繁ではないけれど、時々ふたりで見た海を見に行ったりしているらしい。
 これは誰も知らない事だけれど、適合者の名前は―――。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

5973 /阿佐人・悠輔/男性 /17歳 /高校生


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■         ライター通信          ■
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阿佐人・悠輔様>

初めまして。
今回『紅の彼方』を執筆させていただきました瀬皇緋澄です。
この度は発注をかけてくださいまして、ありがとうございました。
『紅の彼方』はいかがだったでしょうか?
少しでも楽しんでいただけたら幸いです^^
それでは、またお会い出来る事を祈りつつ、失礼します。

           −瀬皇緋澄