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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


空色オルゴール



 からりと、アンティークショップ・レンの扉が開く。
 碧摩蓮はおや、といった表情でそちらをみた。
「久しぶりじゃないか、狐っ子」
「あはは、僕のほかにも狐さんはもっといるじゃないですか。お久しぶりです」
 大事そうに包みを抱えた、蓮が狐っ子と呼んだ人物は奈津ノ介。
「最近おかしなもの持ってこないからどこかへ消えたのかと思ってたよ」
「やー、色々が色々で。あ、これお土産です、というか押し付けに来ました」
 ことん、と蓮の前に抱えていた包みを差し出す。
 蓮はまたおかしなものなんじゃないかとちょっとだけ眉を動かす。
「オルゴールなんです、うちには余計なことを教える人がいるんで……大事にするなり売るなり、お好きにどうぞ」
「オルゴールかい?」
 奈津ノ介の言葉を受け、蓮はその包みを解く。
 掌に乗るほどの小箱。ぱかりと開けるとふたの裏は空色。
 青空の絵が書かれていた。
 そして螺子。
「それを巻くと歌ってくれるんですけど……今回すとうちの親父殿のすっばらしい歌が流れます……」
 蓮はそうなのか、と少し笑い、机の上へと置いた。
「最後に聞いた歌、を奏でてくれるようです。言葉では駄目みたいです。色々試してみたんですけど」
「用は近くで誰かが歌えばあんたの父親の歌が消えるって事だね?」
「ええ、そうです。それじゃ、僕の用はこれだけなんで……また何か面白いもの入ったら教えてくださいね、僕も持ってきます」
「はいはい、狐っ子が一番欲しがってるもの、手に入ったらちゃんと置いとくよ」
 お願いしますね、とにこりと笑い彼は店から出て行く。
 蓮は扉の音が閉まる音を聞いて、そしてオルゴールを見た。
 売るにしても、手元に置いておくにしても、歌は新しいのを覚えてもらうべきだろう。
「いったいどんな歌なんだろうね……」
 と、また扉の開く音だ。
 蓮はその人物ににっこり、含みのある笑いを投げかけた。
「おや、いらっしゃい。あんた、暇だよね?」



 シュラインは、蓮の言葉に頷く。
 蓮はよし、と笑いを浮かべてオルゴールを差し出した。
「オルゴール?」
「そう、蓋開けてある螺子回すと流れるらしいよ。後は任せた。ああ、持ち込んだやつ曰く、最後に歌った歌、言葉は駄目らしいよ」
 手をひらひら、ちゃんと情報を渡さず蓮は店の奥へと消えていく。
 ぱっと見、何も害はなさそうなオルゴール。
「じゃ、聞いてみましょ」
 シュラインは蓋を開けて螺子を巻いてみた。
 すると素晴らしく、音痴な、どうなのこれ、と思うほどの歌声が流れ出す。
 ちなみにかえるのうた。
 シュラインはぱたり、とオルゴールの蓋を閉じてむむ、と考える。
「……これは……何らかの攻撃法に応用出来るかも」
 有効利用法を思いつき、も一度蓋を開ける。
 どんなものが流れ出すか解っている今は、心の準備さえしてしまえば何の事はなく。
 シュラインは真剣な表情でその歌を覚える。
 螺子を巻く事数回、この破壊的な歌をシュラインは習得していた。
「堪能堪能。さて……持込んだ人は色々試したのよね。最後に歌った歌って言うことは歌も試してそうだけど……うぅん、今入ってるのの様に気持ち良く歌わないと駄目って事なのかしら」
 今入っている歌より気持ちよく歌うのは、なかなか難しいかもしれないとも思う。
 けれども試してみるのが一番。
 シュラインは他の可能性も考えてみる。
「青空が描かれてる所から、外に居るものをモチーフにした歌じゃないといけないのかも。まぁ、やってみましょう」
 ことん、とカウンターにオルゴールを置いて、蓋を開ける。
 そして螺子を回し、流れ出すあの歌に、同じようにシュラインは輪唱。
 個性的な歌に歌を重ねて気持ちよく。
 歌い終わって蓋をぱたり。
 歌いきったとちょっと満足するシュライン。そして結果はどうかとドキドキしながら蓋を開け螺子を回す。
 流れ出したのは、礼の個性的な歌のみ。
「あらら、輪唱は駄目なのね、じゃあ次は‥‥『ねこふんじゃった』にしてみようかしら。確かあれも空が入ってたわよね」
 シュラインはぱかっと蓋をあけてオルゴールに歌を聞かせる。
 そして一曲歌い終わり、蓋を閉じてまた開ける。
 どきどきしながら螺子を回すと流れはじめたのは先ほど歌った歌。
「あら、見事に私の歌声ね。違う歌なら書き換えになるのかしら……他にも歌ってみましょう」
 シュラインはそれから蓋を開けては歌い、閉じて開けて螺子を回して聞いて、といくつもの曲を吹き込んでは上書きしていく。
 それがちょっと、楽しい。
「あ、そうだわ……今まで空が入った歌ばっかりだったけど……夜空が入った曲歌うとどうなるかしら……」
 オルゴールを掌に持って、一つ咳払い。
 シュラインが今度歌うのは『きらきら星』。
 心を込めて歌われたその曲は、じんわりとオルゴールにしみ込んでいく。
 全て歌いきって、シュラインはオルゴールを見る。
「あら、こうなるといいなって思ってただけなのに、本当になっちゃったわ」
 シュラインは今まで青空の絵だったところが夜空の絵になっているのを見た。
 少しの吃驚と、嬉しさを感じる。
「……夜空が大丈夫っていうことは、他のものも大丈夫そうね……折角だし」
 新たな思いつき。
 それはシュラインをわくわくさせる。
 と、人の気配がしてそちらを向くと蓮がいつの間にか、奥から戻ってきていた。
「ん、なんか楽しそうだね、発見でもあったのかい?」
「ええ、収穫はばっちりよ。さっきまで青空だったんだけど、夜空に関係する曲を歌ったらほら」
「夜空だね、そこも変化するのか……おもしろいね」
 シュラインは蓮に絵の変化を教え、見せる。
「ええ、もうちょっと色々試してみていいかしら? 面白そうだし」
「構わないよ、ここにそれがずっと留まるのも有りだけど、誰かの手に渡るならどんなものか知っておいた方がいいしね」
「ありがとう、それじゃあ次は何を歌おうかしら……リクエストはある?」
「そうだねぇ……」
 シュラインは蓮に曲を選んで貰い、歌う。
 アンティークショップ・レンから、その日はずっと綺麗な歌声が響いていた。
 そして、この澄んだ歌声の流れ出るオルゴールはいつか、誰かの手元へ届くのだった。




<END>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】

【NPC/碧摩・蓮/女性/26歳/アンティークショップ・レンの店主】

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■         ライター通信          ■
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 お久しぶりです、ライターの志摩です。此度はご参加有難うございました。
 ふと何かの折に、曲がかわるオルゴールとかあったらなんかいいな、と思いついたところからこのOPは生まれました。
 綺麗な歌声は綺麗な心の現われだと思っています。
 シュライン様の歌声が、いつか誰かの元にきっとたどり着く事でしょう。
 このノベルでちょっとでも楽しんでいただければ幸いです。
 それではまたお会いできれば嬉しく思います!