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<東京怪談・PCゲームノベル>


みどりの黒髪


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耳に鈴虫の鳴き声、とても耳障りが良い。思ったよりも広い公園には芝生が敷かれた場所も多い。
街灯より少し離れた場所で、何やら動くものがいる。寝返りを打っているようで…微かな寝息まで聞こえてきた。…近づけば判るだろう、大きな体躯は人の様子…とても人間とは思えない巨体の持ち主、ソイルは小さな寝息を立て静かに眠っていた。
軽く寝返りを打ち、揺れた茶の髪は街灯の明かりに照らされ、少しばかり赤みを帯びていた。
公園で遊んでいただろう子ども達の忘れ物か、砂場にはスコップとバケツが置きっぱなしにされてある。しかし、その子どもも既に帰り着き寝ているだろう、公園は月光に照らされ街灯の灯りも相俟ってはいるが、少々暗く。
…その公園に近づく影がひとつ。長い髪の毛を揺らし、強気そうな目が街灯に光る。

「さて、と…」

影の主、聡呼は髪を揺らし、視線は気強く前を向いている。其の視線の先にあるのはソイルの姿…体躯の大きさは普通の遊具よりも大きなものが横たわっているように見える。
見慣れない大きさに聡呼は戸惑いがちに眉根を顰め、そろそろと傍に近寄っていく。無論、弓の装備も忘れてはいない。

「…何者じゃ!貴様!」

傍に寄れば寄るほどに、ソイルの体の大きさが判る。すぐ傍にある街灯と見比べれば街灯はまるで細枝のようだった。がっしりとしたソイルが起き上がる、胸の傷のような模様は街灯の光を鋭く反射した。
聡呼は慌てて後ずさりを、ソイルは軽く頭を振るって聡呼のほうへとゆっくり目を向ける。青い目が光り、聡呼の姿を捉えた。

「…オマエ、誰だ?」

「っそ、逸れは此方の台詞じゃ!…まさか、貴様が妖魔か?!」

聡呼の目線は厳しくソイルを見定め、弓の弦もぐっと引かれる。ソイルといえば、至って抵抗も攻撃もする様子はなく、困ったように後頭部を掻いていた。

「ヨウ…マ?違う、オレ…」

ソイルは聡呼へ否定しようと口を開いた、戸惑いながらもゆっくりと声を出したのだが、その後半は盛大な物音で見事にかき消されてしまう。大きな物音に聡呼は慌てて周囲を見回し、ソイルはゆっくりと音を感知した方面へと顔を向けた。
キチキチと嫌な音が鳴る、それはまるで耳鳴りのように頭に響いた。お次はがさりと歩み寄る音、暗い空気から街灯の明かりが届くところまで、其の足は伸びた。

「?!蟲…?」

大きな二本の牙を大きく広げ、威嚇しているクワガタの様な牙を持つ…しかし、大きさは見知っているものとは全く違う。胴体は長く暗闇に紛れていた。ソイルは少し目を細め、其の怪物を見遣った後に聡呼へと目線を向けた。

「コイツラ…何だ?」

「…妖だ、それも、相当厄介そうな…貴様も妖魔でないなら、さっさと逃げろ!」

聡呼はそうソイルへと言葉を投げつければ、長い髪を翻し蟲の方へと矢を向けた。ソイルは軽く身体を起こし、ゆっくりと立とうとした時、再度聡呼の厳しい声音が飛んだ。

「うちが時間稼ぎをしておく!」

「…オマエだけで、大丈夫、なのか?」

キュンと弓の弦がしなれば光の矢が飛んでいく、しかしそれも余り効いてはいないようだ。
のしりのしりとゆっくり蟲は二人へと近づいてくる。

「そんな事は知らん!早く行けと言っておるじゃろ!」

「………」

聡呼は今一度声を荒げ、ソイルへと忠告をする。手の内に戻った矢を確認すれば再度、弦を引いて臨戦態勢を取るも蟲の方が早かった。蟲の凶悪に尖り反しの付いた前足を振るう。

「っ…!」

もう駄目か、聡呼は思い切り目を瞑ってしまった。此れでは逃げることも出来ない、次に目を開けるときに己の首は身体についているだろうか…そんな心配をする間もなく、大きな音が鳴る、鳴き声か。

「…わかった。オレ、オマエ、手伝う」

ゆっくりと目を開けた聡呼の目の前にあるのは、千切れた蟲の前足をもつソイルの姿。何度か眼を驚きに瞬かせるも、すぐに其の状況を飲み込んだか、頭を横に聡呼は振るう。

「何を戯けた事を!これはうちが受けた依頼…っ危ない!」

弦を再度引き、勢い良く聡呼の元から離れる矢が向かう先、それは二人から幾分離れてはいない距離だ。矢が当たったのか、今度は効いた様で…再度大きく鳴き声が上がる、暗闇の中で長い大きな影が舞う、無数の足は気味が悪く、もぞもぞともがく様にして蠢いた。

「ったく、何じゃコイツラは!」

「手伝う」

「〜〜っ」

ソイルの一言に、聡呼も折れた様子。少し唸るも、ソイルの力無しではどうにも勝てそうもない。勝つ負けるの問題でなく…、ごそごそと土を擦る物音は無数。生きて帰れるかも不安になって来た。
返事を返さないも、聡呼が何も言わないのに了承したと思えば、軽く頷き足を動かす。向かうは蟲たちの方へと、暗闇では何匹いるのかすら見当も付かないが、光る眼は近づいてくるソイルに焦点を見定めているのが判った。

「おい!其処に留まれ、うちが誘き出す!」

そういった矢先、光る矢はソイルの耳元すぐ其の先を抜け暗闇へと向かう、大きな鳴き声が上がり数個の眼が此方へとのそのそ向かってくるのが見えた…ソイルは素直に足を止めたお陰で矢が擦れる事も無かった。ソイルは軽く耳元を掻き、現れた蟲の数を確認する。だが、十…何匹だろうか、何匹かは暗闇に溶け切り中々数が知れない。出て来た蟲たちの赤黒い甲は街頭の光をてらてらと反射し、挑発しているかのようだ。

ドン!鈍い音が公園に響く、ソイルが蟲の角を胸で受け止めた音らしい。強靭そうな牙がぶつかろうとも、ソイルの身体は倒れなかった。長い息をソイルが吐き、蟲の胴体を強く掴んだ。蟲の足は何本か潰れたが、それでも無数にある足の数分の一にしか過ぎず、大して効果はない。

「ッ、オオオオオ!!!」

蟲を掴んだままに、腕を大きく振り蟲の長い胴体を振り回す。もう一匹傍にいた蟲を蟲で叩き潰し、掴んでいた蟲を少し離れた場所へと放った。蟲はどうにかに引き倒すことに成功はしたが、うじゃうじゃと出てくる蟲たちの姿を見れば、このままでは埒が明かないことがすぐに浮かんだ。

「少し屈め、弱らせる!」

聡呼はもう一度腕を引き、ソイルの眼前に控える蟲たちへと光の矢を放つ。蟲たちが重なり合って進行してくるお陰で、矢が何匹かの胴体へ一回で突き刺さる。甲高い雄たけびを上げる蟲たちに、もう一度と容赦なく聡呼は光を突きつけて行く。しかし、それでも、蟲たちは減る事はない。ソイルは唸った、これは結構な緊急事態だろう、このままでは自分も当たり前だが、聡呼も軽い傷どころではすまないだろう。
ぐっとソイルは眉根を寄せ、ガンと拳と拳を付き合わせた。ざわりとソイルの髪が騒ぎ、青の目は街灯ではない別の輝きを反す。

「…オレ、本気、出す!」

ソイルの雄たけびはそこいら中に響いたことだろう、聡呼の目の端にはいくつかマンションの灯りがついたのが見えたのだが、今は到底その様な事を気にする暇もある訳がない。
目の前の青年は、体躯は人並み外れた大きさだったが、今度は…。

「お前、本当に何者だ…?」

逞しい四肢は何時の間にやら金属製のものへと変わり、両手は指などなく鋭いドリルへと変貌を遂げていたのだった。分厚そうな装甲は街灯に光り、更に機会らしさを増させたような気がする。
変貌したソイルに蟲たちも一瞬動きを止めるが、そんな事は構うものかとばかりに波を作りうねり、ソイルへと突進を図る。

「重力制御、プラス」

ズン

聡呼の両足もがくんと揺れ、転びそうに成るも慌てて体勢を持ち直す。ソイルの周りは不自然に、円形に凹み、其の中に侵入していた数匹の蟲の頭はへしゃげ潰れてしまっている。ズン、もう一度音がした…が、先ほどのものよりは少し軽い感じを受けた。ソイルが一歩前へと足を踏み出した音らしい。

「っおい!迂闊に踏み込むな…!」

聡呼がソイルへと忠告した直後だろうか、角ばった金属の足に絡みつく赤黒い装甲は蟲たちのものと一致するが…体格が並外れて違う。倍なんてものではない、恐らくはこの妖魔が核だろう。
聡呼は近づいてくる残りの眷属だろう、小さめの蟲の弱点へと的確に矢を放つ。聡呼の矢は蟲の装甲を捲り、そぎ落とし、貫いた。どうやら、公園の自縛霊を使って効力を増しているのだろう。矢の輝きは増す…微かだが眩しそうにソイルの目の光が瞬いたようにも見えた。

聡呼の活躍を見れば、ソイルも足に絡みつくこいつを何とかしてしまおうと頑丈そうな腕を上げる。核なる蟲は頑丈そうで大きな牙を使い、ソイルの足を噛み砕こうと襲う。バキンと音がした、それは、とても嫌な音で…兎に角何かが折れたのだろう。聡呼は青年であった目の前の巨体の持ち主の足へ急いで目線を向ける。

「だっ、大丈夫なんか?!じゃけん、無茶に踏み込んじゃ…?」

慌てたような動揺したような、聡呼の声には焦りを感じれたのだが…後半はそんな事はない。聡呼の目には微かな疑問が浮かんでいる。良く見ていれば、蟲の長い胴体は微かに震え、棘の付いた尾はもがく様にばたばたと振られている。…苦しんでいるのはどうやら蟲の方だと言うのが良く判った。

「オレ、丈夫だから」

ソイルの足の方が蟲の牙より頑丈さがはるかに勝っていたのだ、先ほどの音は蟲の牙にひびが入った音だろう。ぐんと蟲は胴体を持ち上げ、折れかかった牙を尚も広げてソイルに襲い掛かる。牙は風を切り、ソイルの頭部を噛み砕こうと大きく広げられた。

「!っお…」

「大丈夫」

鈍い音が響く、しかし、それはまたしてもソイルから発せられたものではない。それは、蟲の牙から出たものだ。ソイルが手を下すまでもなく、蟲の牙は折れたのだった。しかしそれでも蟲は諦めようとはしない。此れは本能に近いものなのだろう。


「ゥオアアアアア!!!!」


ソイルはドリルとなった腕を振るう、それは無視の頭部より少し下へと。ドリルの先端は蟲の胴体へとめり込み、装甲を盛り上がらせ、蟲はしがみ付いたのだろう。ソイルの身体に何本かの蟲の足が付いたまま引きちぎれた。蟲の大きな体躯は宙へと浮かぶ、街頭に照らされ、微かに生きる街の星たちに照らされ赤く光った。
その光を見失わないよう、この機を逃すものかと宙でうねる影へ、天へと上り重力で血へと降りてくる其の一瞬を、逃すものかと聡呼は弓の弦を引く。それは一層に光が増していた、恐らくは倒した蟲たちの物も加わっている事だろう。大きく弧を描き、矢は蟲へと刺さる…と言うよりは、ぶつかるという言い方のほうが正しいだろう。
矢は音もなく蟲へとぶつかり光は霧散した、一つは聡呼の元へと戻ったが他の物はどうやら別の場所へと旅立ったようだった。


「…すまない、どうやら勘違いで巻き込んだよう…?」

「おい?」

「おい!」

後にはただ、蟲たちの死骸と静寂のみが残っていた。ソイルの姿は跡形もなく、聡呼は公園内を何十分と探したそうだが、全く見つからず…。

「名前も聞けないとは…………ん?」

何か引っかかる事がある…、後には、蟲たちの死骸が………。

「こ、此れを一晩中にうち1人で片付けえっちゅうんかーーーー!!!」




聡呼の悲鳴はソイルには聞こえないだろう、むしろ聞こえていても戻らないだろう…。大きな体躯を動かし、街灯に微かに胸の傷のようなあとを照らし出す。少し天を仰げばドレッドの髪が少し揺れた。

「オオ…、星がキレイだ」

今宵の寝床は星が良く見える丘へ行こう、ソイルの夜を模した青の瞳にも、星が移り込み瞬いていた。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 6381 / PC名 ソイル・ディザー / 性別 男性 / 年齢 28歳 / 職業 実体化データ 】

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■         ライター通信          ■
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■ソイル・ディザー 様
初めまして、発注有難う御座います!ライターのひだりのです。
頑強なお体をフル活用させていただきました!戦闘描写が初っ端からずっと続いていますが…!
ロボ形態になられるというのも描写するのが楽しかったです。
最後は少々ギャグっぽくなってしまいましたが如何でしょうか、ソイルさんの戦闘時以外のほのぼのした雰囲気も表現できていれば嬉しいです。

此れからも精進して行きますので
是非、また機会がありましたら何卒宜しくお願いいたします!

ひだりの