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<東京怪談・PCゲームノベル>


R/B スペードの10


 この店に来たことも、カードを引いてしまったのも、ほんの些細なことが切っ掛に過ぎない。
 問題はカードの効果によって貴由が見た光景へと変わっていた。
 引いたのはスペードの10。
 誰かの身に迫っている説明の通り、これから起きる危険。
 は確かに見えた。
 男の人が何者かに襲われる光景。
 殴りかかっている方。
 殴られそうな方。
 それを見ている人。
 更に言うなら、知らない相手でもない。
「あの人達……」
 見た物を他言してはならないというルールがある以上、名前を口にはしなかった。
 その二人とはりょうとナハト。
 特にりょうのほうが鬼気迫る表情であり、右手を怪我しているらしい。
 ナハトに引っ張られるように逃げていたが、倉庫のような場所で追いつめられてしまう。
 誰かが近づいて殴りかかってきた所で、りょうが懐から何かを取り出し……そこで見ていた光景は終わりを告げた。
 一見しただけも事件性の高い、放って置けない状況。
 それと同時に彼は羽澄にとって大事な人、何かあれば彼女が悲しむ事になる。
 それだけはあってはならないことだ。
「行くのかい?」
「このトランプは人を乗せるのが上手そうだから」
 カードを仕舞い、貴由は店を後にした。


 見えた光景から推測するに、IO2本部内のどこか。
 少し先の光景であるなら、今から行けばまだ追いつける。
 とにかく近くへ行ってみようと向かった先で、タイミングよく本部の通路で走っている姿を見つけることが出来た。
 既に右手に怪我をしていたが、他に怪我はないので間に合ったようである。
「盛岬さん」
「えっ、おわっ!?」
 よそ見をした瞬間に前へとつんのめり、ナハトに襟をつかまれる。
「平気?」
「悪い、驚いて……どうした?」
 聞き返されたその直後。
「盛岬っ! どこだ!? どこにいるっ!」
「……逃げなくて良いのか?」
 どこか遠くから大音量で怒鳴られたりょうがナハトに促され、大きく肩を跳ねさせる。
「やべっ! そうだ……これをっ!」
 渡されたのは一枚のSDカード。
「これは?」
「何も聞くな、預かっててくれ!」
「えっ」
 一体何かと確認しようとした時には、ナハトに引きずられるように建物の奥へと逃げ去っていた。
 一応話はしたが、これで何か変わったとも思えない。
 何もしていない時と比べれば少しは影響を与えただろうが、このままでは回避にはほど遠いだろう。
 もう一度話をした方が良いと、貴由はすぐに後を追いかけた。



 ■

 その少し後のアンティークショップレンにて、同じくトランプを引いた羽澄。
「また何かあったみたいね」
 どこか倉庫のような場所へと逃げているりょうとナハトの姿。
 ほんの少し前、この場で貴由が見た場面同じ様な光景なのだが、あいにく羽澄は知らないままだ。
 単純に予想するに事件絡みの可能性が高い。
 まだ連絡は来ていないが、行って様子を見た方が良いだろう。
「今日は良くカードを引いてくれる人が居てくれて嬉しい限りだよ」
「……誰かに頼まれでもしたの?」
「さあ、どうだろうね」
 何か裏がありそうだとは思いつつも、簡単に話すような相手ではないことは百も承知だ。
 それにのんびりしている時間もあまりない。
「とにかく行くわ、またよろしくね」
 軽く手を振り、羽澄は現在二人が居そうな場所……つまりはIO2本部方面へと向かう。


 りょうとナハトの二人が一緒に行動しているなら相当目立つ。
 すぐに見つけられると思っていたが先に会ったのは別の相手、夜倉木だった。
 短く何かを告げては電話を切り、また他の場所へとかけ始める。
 その様子は傍目から見ても不機嫌なのは明らかだった。
「どうしたの、夜倉木さん?」
「羽澄! ちょうどいい、あの馬鹿を探してくれませんか?」
 開口一番の言葉。
 誰か……予想ではりょう辺りで間違いないだろう。
 この時になって、大体解ってきた。
 いつものパターン。
 鬼気迫る様子でナハトと一緒に逃げていたりょうを追っていたのは、他の誰でもなく夜倉木だったのだ。
 今のところりょうは鈴を持っている様だから追うのは簡単だが、その前に聞いておく。
「何があったの?」
「それが……」
 やたらと私的な物が混じった説明だが、要点をまとめると以下の通りだ。
 ある事件に関して書類を纏めさせていたところ、何かをやらかしたらしたらしい。
 読もうとした直後、やっぱり読むな等と言い取っていったそうだ。
 その取り方が超能力の壁抜けを応用した物で、無理にパソコンの中に手を入れ、SDカードだけを取っていくような物だった為にパソコンが半壊。
 そうして今に至るとのこと。
「おかげでやり直し、パソコンも修理に出さなきゃならない。まったく、本当にろくな事をしない」
 深々とため息を付く。
 確かにパソコンを壊されれば腹も立つ気持ちは良く解る。
 しかしこのままでは大喧嘩に発展するのは間違いない。
 二人の怪我はもちろんのこと、発展の仕方では周りに被害が出ることもよくある話。
 今回のように事前に解っているなら止めるべきだが、仕事の途中で逃げたからには早い内に見つけた方がいいのも確かだ。
 結論。
 同行して、何かあれば止めればいい。
 近くに羽澄がいればそれだけで抑止力になる。
「場所は解るけど、程々にね?」
「助かります、最近俺が追ったら解るようになってしまって……抵抗しなければ手加減はしますよ」
 妙な言い回しは気になったが、りょうが向かった先がなんだか気になった。
 追うなら早いほうがいいだろうとその話は一時的に置いておく。
 奥へと続く通路を歩きながら、もう一つ。
「夜倉木さんの気配も消してからの方が良さそうね」
「そうですね、お願いします」
 素早く気配を隠す術を施し、足早に追いかけ初めた。



 ■

 貴由が追いついたのは、本部の奥にある倉庫の前。
 勢いよく扉を開き中へと飛び込んでいくりょう達を追い、開いた扉から中の様子を確かめる。
 棚に並べられた段ボールを引き引きずり出し、蓋を開けて中から何かを取りだしていた。
 問題はその中身だ。
 貼り付けられている札は封印の効果を持つ物で、それを剥がすのが良くない事だとはすぐに解る。
 真剣になっているりょうの後ろで、軽くため息を付いているナハト。
 ここに来て、寝あまり状況が切迫した物ではないと気づき始めていた。
 本部内で事件も起きている様子はないし、ナハトも慌てていない。
 あせっているのは、りょうだけだ。
「盛岬さん、一体何を?」
「うわっ!」
 危うく手から落とした手鏡を受け取り、半ば剥がれかけていた札を貼り直す。
 よく見れば強い力を持ち、気軽にはがしていい物ではないことは見て取れた。
 改めて、今度はナハトの方へと問いかける。
「一体何が?」
「……まあ、些細なことだ」
 半ばりょうに睨まれつつで話しにくそうだったが、それでも話してくれたのはこの状況を終わりにしたかったからだろう。
 話してくれた逃げた切っ掛けとやらは、確かにこの上なくため息を付きたくなるような物だった。
 話に聞いては居たが、確かに大人気ない。
 データの中身は今の仕事に関連してはいるようだが、書かなくても良いことまで書いてしまったそうである。
「その事件って?」
「ああ、少し前から厄介なアイテムが出回ってて、その調査と様子見」
 唐突に何かが引っかかり、トランプを仕舞った箇所へと手を伸ばし服の上から触れる。
 どの程度は為せば消える速度が速まるのか解らないだけに、安全を考えて少し遠回しな聞き方をする。
「危ない物ならもっと噂になりそうだけど聞かないな」
「一応隠しとけって言われてるのもあるけど、アイテムの効果の一つに言えなくさせたりするんだとか。まあ効力もそれ程酷くなかったからな」
「色々大変そうだね」
「そうなんだ、あれの所為でやたら災難には遭うし……っと、そうだ。アイテムってトランプな。誰かが引いたら教えて貰えると助かる」
 間違いない、更に言うなら残念ながら手遅れである。
 カードも引いてしまったし、これから起きる光景も見てしまった。
 とは言っても、このままりょうの近くに居ればある程度回避できてしまいそうではあったが……。
 気になるのはカードの効果のことだ。
 赤いカードと黒いカードを引いた時とでずいぶんと効果が違う。
 赤は実行しなければ本人の身に不幸なことが起きる。
 黒は誰かのみに起きる不幸が見えるのみ。
 前者は強制的な物だが、後者は自主的な物だ。
 確かに貴由が見た光景も大事のように見えたが、実際はそうではなかったようである。
 それとも、まだ何かあるとしたら……。
 そう言えばりょうがここに来た時に、りょうが持っていたものがあった。
 封印されるような物を使って一体何をするつもりだったのだろうか?
「……この手鏡、一体どんな効果が?」
「ええっと、封印アイテムで、向けた相手を動けなくするとかって」
 説明を聞きながらもう一度手鏡に視線を落とす。
 貼られている札はその程度の効果では強すぎるのだ。
「これ、本当に封印の鏡?」
「そうだと思ったけど……箱は?」
「これだ」
 ナハトから差し出された箱を受け取り、あからさまにりょうが顔を青ざめさせる。
「……間違えてた」
 ならこの手鏡は一体何だったのだろうか?
 考えると怖いことになりそうだと貴由は鏡を箱に仕舞い、もとの場所へと戻す。
 もし使われていたらただの怪我じゃすまなかっただろう。
「とりあえず無事でよかった」
「そっ、そうだよなっ! 何事もなくて…」
「いいわけがあるかっ、この馬鹿がっ!」
「ごふっ!?」
 後に続く言葉は夜倉木の怒鳴り声と、見事に決まった跳び蹴りによって強制的に終了させられた。
「一体どこから聞いて……っ!?」
「鏡の説明の辺りからです」
 その場で臨戦体制に入ろうとしたのを当然待ったがかけられる。
「二人とも、ここで暴れないで。危ないから外に出てやってくれる? 貴由、どうしてここに?」
 ひょっこり顔を覗かせた羽澄が慣れたように二人を追い出し、倉庫の中に貴由の姿を見つけほんの少し驚いたように声をかける。
「少し変わったことに巻き込まれて……羽澄も?」
「そうみたい」
 二人して取り出したトランプを確認し、変化がないことから上手く行ったのだと納得しておく。
「盛岬と話付けてきますから、その後お礼に何か奢りますよ」
「いいの? ありがとう」
「構いませんよ、出すのはあいつですから」
「おいっ! って、まあ迷惑かけたのは確かだしな、負けた方が奢るって事で」
「はっ、笑わせるな」
 後はもうお決まりの様に殴る蹴るの過激な喧嘩に発展。
「羽澄はいつ気がついたの?」
「夜倉木さんとりょうを探して、向かった場所がここだったから危ないと思ったのよ。エスカレートするととんでもないことをするから」
 確かにと納得し、貴由は元居た場所を振り返る。
 封印されるような道具が多々ある場所では、何が起きても不思議ではない。
「……何時も、こう?」
「そうね……本当に大人気ない」
「めずらしいタイプだね」
「本当よね」
 二人は今も派手な喧嘩を続けている二人。
 小さく笑みを零してから止めに入った結果、喧嘩は途中で中断。
 二人が言っていたおごり云々の話は、きっちり半々で済ませる結果となった。






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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1282/光月・羽澄/女性/18/高校生・歌手・調達屋胡弓堂バイト店員】
【2694/時永・貴由/女性/18/高校生】

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■         ライター通信          ■
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R/Bへのご参加ありがとうございました。
タイトル以外は同一の物となっております。
楽しんでいただけたら幸いです。