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草間武彦行方不明事件 その1
その日、草間武彦と草間零は久しぶりに新宿まで買い物へ出かけた。
必要な買い物を済ませ、時間もあまったため、2人は三越デパートで開催されていた「諏訪の文化」と称された展覧会を見に行くことにした。
入口でチケットを買い、2人は薄暗い展示会場を並んで歩く。
様々な土器や土偶に始まり、養蚕や明治維新に関する書物などが展示され、それらは諏訪地方の歴史そのものであった。
草間はたいして面白くもなさそうに周囲を見回しているが、零は興味津々といった様子で展示品を眺めている。
「お兄さん、次はあっちへ行きましょう」
縄文のヴィーナスと名づけられた土偶から顔を上げた零が、草間のほうを振り返った。
しかし、草間は明後日のほうを見やり、どこか厳しいような表情をしていた。
「お兄さん、どうかしたんですか?」
心配そうに訊ねた零の言葉を聞き、草間はなんでもない、と言うように首を振った。
「知り合いに似たのがいただけだ」
「知り合い、ですか? 私も知っている人ですか?」
「いや、知らないはずだ。多分、俺の見間違いだろう」
そう言って草間は歩き出した。
「あ、待ってください」
零は慌てて草間の後を追った。
翌日、零は1人で留守番をしていた。
仕事の依頼もないのに、草間は「ちょっと出かけてくる」と言って朝からいない。
これ幸いとばかりに、零は客が訪れるのを待ちながら事務所の掃除をする。
普段はあまり手が届かないようなところも、念入りに掃除してみせる。
やがて夕方になり、掃除も一段落した零は、草間の帰りを待ちながら夕食の支度をしていた。
しかし、何時になっても草間が帰ってくる気配はない。すっかり料理も冷め、それでも零は事務所のソファーに腰かけながら草間を待った。
そのまま翌日になっても草間は帰ってこなかった。
さすがに零も心配になり、草間の行方を探そうとソファーから立ち上がった。
零が事務所から出ようとしたところで、事務所の扉が開いた。草間が帰ってきたのかと思って入口のほうを振り向いた零であったが、入ってきたのはシュライン・エマであった。
「エマさん」
「零ちゃん、おはよう。武彦さんは?」
事務所を見回したシュラインは、草間の姿が見えないことを疑問に感じて、それを口にした。
「昨日から、帰ってこないんです」
「帰ってこない? 仕事で?」
シュラインの言葉に零は首を振った。その反応にシュラインも現時点では特に仕事を抱えていないことを思い出した。毎日、事務所に顔を出すように心がけているシュラインであったが、翻訳の仕事のほうが立て込んでいたため、2日ほど顔を見せていなかった。
「出かけるとき、武彦さんはなにか言って行った?」
「出かけてくる、としか言っていませんでした」
「そう……」
そうしたことは、これまでにも何度となくあった。その度に、シュラインや零が迎えに行くことになるのだ。今回もそうなるだろう、とシュラインは思った。
「おはようございます」
その時、再び事務所のドアが開いて2人の男が入ってきた。どちらも黒を基調とした服を着ており、シュラインも零も2人のことを知っていた。
「ジェームズ。それに紅葉屋さん」
シュラインが驚いたように声をかけた。事務所に入ってきたのは、ジェームズ・ブラックマンと紅葉屋篤火であった。
「どうしたの、こんな朝早くから?」
「いえ、私は特に用というわけではないのですが……彼がね……」
シュラインの問いに、ジェームズは苦笑にも似た笑みを浮かべながら篤火のほうを見やった。事務所に入ってきた篤火は、まず室内をゆっくりと見回し、そして零へ目を向けた。
「零サン。武サンはどこにいますか?」
その言葉に零は驚いたような表情を見せた。まるで自分の胸中を見透かされたかのような気がしたのだ。
「いないんですね?」
「はい……」
「やはり、そうでしたか」
納得したようにうなずき、篤火はジェームズを見た。
「やはりって、どういうこと?」
篤火の言葉に引っ掛かりを覚えたシュラインは、ジェームズと篤火を交互に見やりながら訊ねた。
「いえ、夕べ2人で飲んでいたのですが、そのときに篤火がなにかを感じたようでして」
「特に明確なビジョンが浮かんだわけではありませんが、ちょっと武サンのことが気になりまして。それで朝早くから失礼かとは思ったのですが、お伺いしたんです」
その言葉にシュラインは納得したようにうなずいた。篤火は占い師である。なにか虫の知らせのようなものを感じたのかもしれない。実際、シュラインも無性に事務所のことが気になり、早々に仕事を切り上げて来たのだ。
「実は、お兄さんが昨日から帰ってこないんです」
零は草間がいなくなったことを改めてジェームズと篤火に説明した。
「ですが、武彦がいなくなるなど、いつものことではありませんか?」
「それはそうなんだけど、もしかしたら迎えが必要かもしれないでしょう?」
これまでにも何度となくフラッと出かけたきり、トラブルに巻き込まれて帰ってこられなくなったことはあった。草間の能力をもってすれば、大抵のことは切り抜けられると信じているが、それでも心配であるのには変わりない。
「いなくなる前、武サンの行動におかしなところはありませんでしたか?」
篤火の言葉に零は記憶をたどるように沈黙した。
「そういえば、一昨日、お兄さんと新宿へ買い物に行ったんですが、そのとき知り合いに似た人を見たと言っていました」
「知り合い? 誰だかわかる?」
「いいえ。ただ、わたしの知らない人とだけしか言っていませんでした」
「零ちゃんも知らない人……」
零が知らない人物となれば、彼女が事務所に来る前に携わった事件の関係者か、あるいは草間自身の過去に関係している人間ということになる。
「気になるわね」
「ちょっと、調べてみますか?」
「そうね」
ジェームズの言葉にシュラインはうなずいた。
事務所に草間がなにかを残していないか、その痕跡を調べるのをシュラインたちに任せ、ジェームズと篤火は新宿へと出た。零の証言によると、草間が知り合いに似た人物を見たと言ったのは、三越デパートで開催されていた展示会の会場である。
「諏訪の文化」と称された展覧会の会場は薄暗く、ガラスケースの中には様々な土器や土偶に始まり、養蚕や明治維新に関する書物などが並べられている。
「武彦は、ここへ寄っているようですね」
「わかるんですか?」
「ええ、なんとなくですが」
曖昧に答えながらジェームズは会場を見回した。多くの思念に混じり、確かに草間のものと思われる残留思念が残されていた。その中でも特に強く残っているのは2つ。1つは一昨日、零と訪れた時のもの。そしてもう1つは昨日、1人で来た時のものだろう。
そこから感じられたのは驚愕と疑念。少なくとも、知り合いに似た人物を目撃した時、草間は純粋に驚きを感じていたということになる。そして、疑念が生じたということになるのだろう。このような場所で会うことのない人物。あるいは――
(死んだと思われていた人物、という可能性もありますね)
思念の強さからジェームズはそんなふうにも感じた。
多くの事件に携わり、時には常識では考えられないような出来事も体験してきた草間を、ここまで驚愕させるとなれば並大抵のことではない。
「そうだとしたら、やはり武サンは例の人物を追って行ったということでしょうか?」
「そうでしょうね」
現時点で草間がいなくなる理由は、それしか考えられなかった。少なくとも仕事ではない。今のところ草間興信所に仕事の依頼はない。
だが、仮にそうだとしても、零へなんの連絡も寄こさないことが気になった。そして、なんらかのトラブルに巻き込まれたのだとしても、多少の問題であれば独力で切り抜けられる男である。連絡もなく、行方もわからない。考えようによっては深刻な事態であると言っても過言ではないのかもしれない。
「主催者に掛け合って、防犯カメラの映像を確認させてもらいましょう」
ジェームズと篤火は近くにいる警備員に近づき、事情を説明して展覧会の主催者への面会を申し込んだ。
事務所に残ったシュラインと零は、過去に草間が関係した事件の資料や、出かける前に草間が確認していたものなどがないかを調べていた。
「ないわね」
「そうですね」
しかし、特に草間が調べていたとおぼしき痕跡は発見できなかった。机の周りは数日前にシュラインが片づけた時のままである。違っているのは山のように吸殻が積まれた灰皿が片隅に置かれている程度であった。
ラックのほうに収められている過去の事件に関する資料も、以前と変わったところは見られない。うっすらと埃が乗っているところから判断するに、しばらくは誰も資料に触れていないと思われた。
「資料にも触れていないところを見ると、事件の関係者ではないのかしら?」
あの時、草間は零に「知り合い」とだけ言い、それが男か女かであるかは名言しなかった。当然、女性ということも考えられる。例えば草間が過去に付き合っていたか、それに近い関係にあった女性だ。しかし、シュラインが事務所へ出入りするようになってから、草間からそのような話は聞いた覚えがなかった。
散らかした資料などを片付けながら、シュラインは煙草の灰が散らばったデスクの上を布巾で拭いた。灰皿をどかし、メモ帳を持ったところでシュラインの動きが止まった。メモ帳にはなにも書かれていない。しかし白紙に刻まれた、かすかな凹凸をシュラインの指は確かに感じ取っていた。
それが気になり、シュラインはペン立てから1本の鉛筆を手に取ると、先端をメモ帳に軽く押し当て、手首を左右に振った。徐々に表面が黒くなって行き、紙に白い文字が浮き出た。そこに記されていたのは「12‐D」。紛れもなく草間の筆記であった。
メモ帳やノートでは、下敷きを使わない限り、上のページに書いた内容が下の紙に写ることは良くある。筆圧が強ければなおさらだ。
「零ちゃん、これなんだかわかる?」
シュラインからメモ帳を受け取った零は、その文字を見て首をひねった。
「なんでしょう? 確かに、お兄さんの字ですけど……」
「多分、書かれたのは最近だと思うんだけど」
残された凹凸の感じから、シュラインはここ数日のうちに書かれたものであると判断していた。もしかすると、出かける直前になにかをメモし、それを持って行ったのかもしれない。
「ちょっと、これを調べてみましょう」
なにか重要な手がかりになるかもしれないと考え、シュラインはそう告げた。
事情を説明すると展示会の主催者側は、防犯カメラの映像を確認することを快く承諾してくれた。篤火とジェームズは会場の奥に設けられた警備員の待機室へ行き、そこに設置されたモニターで映像を確認していた。
「ジェームズ、これを見てください」
そう言ってモニターの1つと睨めっこしていた篤火が画面を指差した。別の映像を見ていたジェームズは再生を一時停止すると、篤火のほうを振り向いた。
「これ、武サンと零サンじゃないですかね?」
「そのようですね」
展示会場は薄暗く、最新のデジタル機材を用いた撮影でも顔の確認がしにくい。それでも、どうにか草間と零の姿を確認することができた。零から展示会を見に行っただいたいの時間を聞いていたため、思っていたよりも発見に時間を必要とはしなかった。
「少し進めてみましょう」
ジェームズの言葉に応じて、篤火はスロー再生して映像を進める。
「これ、ですかね」
映像を一時停止し、篤火が言った。画面の中の草間は、隣にいる零とはまったく違った方向を向いていた。その草間が見ているほうには、2人の男が立っていた。カメラから離れすぎていて顔が判別できず、年齢を推測することも難しい。どちらもスーツを身に着けており、一見しただけでは会社員のようにも見えた。
だが、この場所にそぐわない異質さのようなものをジェームズは感じた。平日の昼間に大の男2人が仕事をサボって見に来るようなところではない。また、男たちの立ち位置などから、2人が素人ではないと判断していた。
「武サンが言っていたのは、この2人のどちらかでしょうか?」
「状況から見て、そうでしょうね」
その後、映像は零の証言と符合するように進み、草間と零は展示品の閲覧を続けた。
2人の男は草間らが立ち去ってからしばらくして、何事もなかったかのように別れ、それぞれ展示会場を奥へ進んで行った。
「何者でしょうか?」
「どうも、カタギの人間ではなさそうですね」
「やはり、武サンが過去に携わった事件の関係者でしょうか?」
「それは、わかりませんが、そうだとしたらミス・エマたちが調べてくれているでしょう」
2人の男が映った映像をプリントアウトし、ジェームズと篤火は引き続きチェック作業を行った。
その後の調査で、昨日の朝早くに草間が1人で訪れたことが防犯カメラの映像で確認できた。草間は展示会場にいた警備員の何人かに聞き込みを行い、男の後を追うようにどこかへと消え去った。
昨日、草間がなにを聞き込みしたのか、篤火とジェームズは手分けをして警備員たちから話を聞いたが、その内容はたいしたものではなかった。展示会場にいた2人組の男はどっちのほうへ行ったのか、あるいは会場でどんな話をしていたのか、そんな内容を聞き込んだという。
ただ、ジェームズと篤火を驚かせた証言もあった。草間は1枚の写真を持っており、会場にいた男が写真に写った人物と同じであるかを確認していた。
「それは本当ですか?」
「はい。間違いありません」
「どんな写真でしたか?」
「そうですね……確か、男の人と、小さな男の子が写っていたと思います」
「男の子?」
警備員の証言にジェームズは眉をひそめた。だが、すぐに1つのことに思い当たり、ジェームズは懐から携帯電話を取り出した。
念のため、シュラインは電話会社へ問い合わせ、事務所の電話の通話記録を調べたが、特に不審な箇所は見当たらなかった。大抵が見慣れた番号で、そうでないものも仕事の連絡だと、すぐに調べがついた。長距離電話をかけた形跡もない。
「やっぱり、携帯電話を使ったのね。零ちゃん、武彦さんは出た?」
「出ません。ずっと電源が切られているみたいです」
「そう……」
時間を置いて、何度か草間の携帯電話へ電話をかけているが、電源が切られているのか草間が電話へ出ることはない。それも、また奇妙な話ではあった。情報を集めて仕事を行う探偵が、音信不通になるということ事態が、草間がトラブルに巻き込まれた可能性を示唆していた。
「ここでは、お手上げね」
事務所は調べ尽くし、この場所でできることもすべてやった。事務所に残っていては草間の行方を知ることができないとシュラインは判断した。
「零ちゃん、ジェームズたちのところへ行きましょう」
「はい。わかりました」
零を連れ、事務所を出ようとしたところで、不意にシュラインの携帯電話が着信を知らせた。ポケットから取り出して液晶画面を見ると、そこにはジェームズの名前が表示されていた。
「もしもし?」
「ミス・エマですか? ブラックマンです」
「ジェームズ。どうかしたの?」
「事務所にアルバムなどは、置いてありますか?」
「アルバム? 写真の?」
「そうです」
「確か、あったと思うけど……」
そう答えたシュラインの目の前に、分厚いアルバムが差し出された。会話を聞いていた零が棚から持ってきたのだった。シュラインはアルバムを受け取り、テーブルの上に置くと零へ微笑みかけた。
「あったわ。アルバム」
「その中に、武彦が子供の頃の写真というのはありませんか?」
「武彦さんの? ちょっと、待って」
片手で携帯電話を押さえながらシュラインはアルバムをめくった。しかし、アルバムに収められているのは、事務所を開業してからの写真ばかりで、草間が子供の頃の写真はどこにも見当たらない。
「ジェームズ、ないわ」
「ない? 1枚もですか?」
「ええ、1枚もないわ」
つかの間、沈黙が流れた。
「ミス・エマ。比較的、新しい武彦の写真を何枚か持ってきてくれませんか」
「ええ、それはいいけど」
「では、写真を持って新宿へ来てください。待ち合わせは……そうですね。新宿駅の南口にあるコーヒーショップでどうでしょう?」
「わかったわ。すぐに行く」
そこでシュラインは電話を切り、アルバムの中から新しい写真を何枚か抜き取ると、零とともに新宿へと向かった。
甲州街道の南。JR東日本本社ビルの裏手にあるスターバックスのテラス席に座っていると、シュラインと零が店に向かってくるのを見て篤火は手を上げた。2人が席に座るのと同時に、店内からはコーヒーの入ったカップを載せたトレイを片手に持ち、ジェームズが出てきたところであった。
「グッドタイミングですね」
そう言い、ジェームズはそれぞれの前にコーヒーを置いた。
「事務所のほうは、なにかありましたか?」
熱いコーヒーをすすりながら篤火がシュラインに訊ねた。だが、シュラインはコーヒーを口に運ぶ途中で手を止め、静かに首を振った。
「なにも見つからなかった。武彦さんは、なにも調べて行ってないみたい。もしかしたら、過去の事件とは関係ないのかも」
「実は、そのことなんですが……」
シュラインの言葉を引き継ぐようにジェームズが口を開いた。
「私は武彦の過去に関係している人物のような気がするんです」
「どういうこと?」
「会場を警備していた人間の話では、武彦は写真を使って例の人物を探していたようなのです。しかも、その写真には小さな男の子が写っていたとか……」
そう言いながらジェームズは懐からプリントアウトした防犯カメラの映像を取り出し、シュラインへ手渡した。その写真は、草間が知り合いと言った2人の男と、昨日の朝、再び展示会場を1人で訪れた草間の姿が写されたものであった。
「小さな男の子?」
「ええ。警備員が見た写真には、防犯カメラに映されていたとおぼしき男と、小さな男の子が写っていたそうです」
「ちなみに、武サンが持っていた写真に写っていた男は、武サンではないことは確認しています。ただ、その写真の男というのが、防犯カメラに映っていた2人のうち、どちらの男かは確認できませんでしたが」
そこまで聞いたところで、シュラインは気がついた。
「つまり、ジェームズも紅葉屋さんも、写真に写っていた男の子が、武彦さんだと考えているのね?」
「そうです。しかも、事務所のアルバムに武彦が子供の頃の写真がなかったとなると、武彦はいつもその写真を持ち歩いていたのかもしれません。もし、そうだとするなら、武彦が捜している人物は、彼にとって重要な人ということになりませんか?」
「武彦さんにとって、重要な人物……」
「なにか、ご存知ありませんか? ミス零も」
シュラインも零も誰なのか、と考えたが思い当たる人物は浮かばなかった。思えば、自分たちは草間の過去をどれほど知っているのだろうか。東京で生まれ育ち、多少は荒れていたとはいえ、普通に高校を卒業し、探偵となった。なぜ、探偵になったのか。付き合いの長い人物にすら、その理由を語ったことはないのではないだろうか。
謎が多いといわれれば確かにそうで、今まで草間の過去など特に意識したことはなかったが、改めて問われると良く知らないことを思い知らされたような気がした。
「特に思い当たる人はいないわ」
「そうですか」
落胆したように呟き、ジェームズはコーヒーに口をつけた。
「そういえば、お姉さん。これ……」
そう言って零がシュラインへメモ帳を渡した。
「なんですか? それは」
「ああ、忘れていたわ。事務所で見つけたの。武彦さんの字に間違いないんだけど」
シュラインはテーブルの上にメモ帳を置いた。篤火とジェームズが覗き込むようにして「12‐D」と記されたメモ帳を見る。
「これ、座席番号じゃないですかね?」
「ええ、私もそう思います」
篤火の言葉にジェームズが同意を示した。
「座席番号って、電車の?」
「そう見えるのですが、違いますかね?」
言われて見れば確かに座席番号にも見えた。
「なんの座席番号でしょうか?」
「座席番号だとしたら、あずさじゃないかしら?」
「特急あずさですか?」
「ええ。三越デパートで開催されていたのは、諏訪の文化という催しだったわよね? もしかしたら、武彦さんは長野に行ったのかもしれない」
特急あずさならば、新宿駅からも列車が出ている。もし草間が諏訪へ向かったのだとしても不思議はない。慌ただしくスターバックスを後にした4人は、新宿駅の南口にあるみどりの窓口にて草間の写真を提示し、特急あずさの乗車券を購入しなかったかを確認した。
そして、見事にシュラインの読みは当たっていた。なにかを感じ取っていたのか、草間は事前に特急あずさの指定席を電話で予約し、この窓口にて乗車券と指定席券を受け取っていた。それが昨日の午後2時頃ということであった。
草間は長野へ向かったのだということは判明した。しかし、それがどのような理由によるものなのかは不明なままだった。
また草間とは依然として連絡が取れず、その安否についても心配された。
翌日、零は草間の後を追いかけ、長野へ行くことを決意した。
完
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
5128/ジェームズ・ブラックマン/男性/666歳/交渉人&??
6577/紅葉屋篤火/男性/22歳/占い師
NPC/草間零/女性/不明/草間興信所の探偵見習い
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■ ライター通信 ■
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ご依頼いただき、誠にありがとうございます。九流翔です。
遅くなりまして申し訳ありません。最近、長野関連の話が多いですが、またお付き合いください。
今回は序章ということで、このような話となりました。次回から長野・諏訪篇ということになります。
では、またの機会によろしくお願いいたします。
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