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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


人形たちの芸術祭


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投稿者:グラディス他、人形一同

 人形博物館にて、内輪の芸術祭を催したいと思います。
 けれど私たちでは材料を揃えることもままなりません。
 日は三日後。刻は深夜0時。
 材料持参でいらしてください。

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 その書き込みを見つけたのは、少々久しぶりに、ゴーストネットOFFの掲示板をチェックしていた時だった。
「まあ」
 最近は大人しく『博物館のお人形さん』をしていたのか、あまり噂を聞かなかった人たちの書き込みだ。
「楽しそうですわね。協力させて頂きましょう」
 久しぶりの出会いに少し浮かれた気分で、亜真知はすぐに立ち上がった。
 何を作ろうかと考えながら歩いていたところで、ふと、部屋の片隅に置きっぱなしになっていた千代紙が目に入る。
「これが良いですわね」
 置いてあった手漉き和紙の千代紙は千羽鶴用でサイズが小さいのだけど、逆に人形さんたちにはちょうどいい大きさになるだろう。
「せっかくですから、何かお土産も持って行きましょう」
 作ったものの発表会が終わったら、皆でお茶を楽しもう。
 そう考えて、作るお菓子を考える。
 持って行くのはちょうどこの前買ったばかりの紅茶の葉。お菓子は和風と洋風、両方用意しよう。
 こういったことは、本番もだが準備もとても楽しいものだ。自然と零れる笑みがまた、楽しい気分を増やしてくれる。
「さて、こんなものでしょうか」
 作ったのはフルーツタルトときんつばだ。
 こうして亜真知は折り紙とお茶とお菓子と持って、人形たちのところへ出かけていった。

◆ ◆ ◆

 博物館の前には、亜真知のほかに二人の女性もやってきていた。
 話してみれば、同じ目的を持って――つまり、グラディスの書き込みを見て――やってきたのだと言う。
「それでは、入りましょうか」
 青い髪が一際目立つアンネリーゼ・ネーフェの一言に、二人もにこりと頷き館へ入る。
 玄関へと足を踏み入れたその瞬間。
「いらっしゃいませ」
 優雅な声とともに、一斉にホールの電気に明かりが灯った。
「セフィアさんっ!」
 こちらが何か言うより早く、黒髪に藍色の瞳のお人形さんがふわりと上から飛び降りてきた。
「……久しぶり」
 にこりと。呼ばれたセフィアが微笑む。
「お久しぶりですわ、皆様」
 続いてホールに降りてくる人形たちに、亜真知もにこりと笑みかけた。
「はじめまして。お誘いありがとうございます」
 ここの動く人形たちに会うのは初めてだというアンネリーゼがぺこりと頭を下げると、人形たちも初めましてと礼を返して、自己紹介の応酬が始まる。
 そうして一通り名乗りあったのち、芸術祭という名の工作大会が始まった。

◆ ◆ ◆

「ほらぁ、早く早く!」
「あの、でも、あのね」
「早く行かないと朝になってしまいますわよ」
 引っ込み思案かつ、人見知りの激しいローズマリーを引っ張ってきているのはキャロラインとエレノーラだ。
 とはいえローズマリーも決して嫌がっているわけではなく、ただ恥ずかしいだけらしい。
 だから亜真知は、急かすことなくのんびりと、三人の到着を待つことにした。とはいえ、もともと数メートルもない距離だ。
 三人は五分とかからず亜真知のもとへとたどり着く。
「さっきから気になってたの、その綺麗なの!」
「素敵な模様の紙ですわね。それは何に使うものなのですか?」
 何も言わないけれど、ローズマリーも気にしているらしい。外国生まれで、おそらく日本に来てからはずっと博物館にいた彼女たちが、千代紙を知らないのは無理もなかろう。
「はい、どうぞ。使い方は、これからご説明しますわ」
 三人それぞれに何枚か千代紙を渡して、台紙用にと持ってきた白い厚紙を用意する。
 きょとん、と首を傾げた三人の前で、簡単にだが実演交えて貼り絵を教えると、キャロラインとエレノーラは瞳を輝かせてさっそく、千代紙をちぎり始めた。
 これなら、ハサミを使わないからお人形さんたちでも安心だ。
「どうかなさったのですか……?」
 一人。うーんと考え込んでいるローズマリーに声をかけると、ローズマリーは困ったように千代紙を見つめていた。
「とっても綺麗で……なんだか、ちぎるの、もったいなくって……」
「だったら、折り紙にしましょう」
「折り紙……?」
「ええ」
 初心者にも折りやすい簡単なものを教えてあげると、今度はローズマリーも楽しそうに頷いて手を動かし始めた。
 楽しんでもらえそうな様子にほっとして、亜真知は持ってきていた茶葉とお菓子のほうへと目を向ける。
 三人は折り紙に夢中になっているし、これ以上細々と口を出す必要もなさそうだ。
 今のうちにと、亜真知はお茶とお菓子の準備を始める。皆がそれぞれ作り終わった頃、出来上がった品を見せ合いっこでもしながらお茶会ができたら楽しいだろうと思うのだ。

◆ ◆ ◆

 まず一番に完成したのは、貼り絵をしていたキャロライン。
「見てみてーっ!」
「私もできましたわ」
 一緒に貼り絵をしていたエレノーラも、自慢げに出来上がった貼り絵を見せる。
「こっちもできたよー!」
 そう言ったのは、セフィアと一緒にお人形さんたちの顔アップリケ入り布団を作っていたアデライト――と言っても、布団自体を縫ったのはセフィアで、人形たちはほとんど仕上げしかしていないのだけど。
「お布団大きすぎるかな……飾れるかな……少し、心配」
 全員で眠れるようにしたら、少々大きくなってしまったのだ。小さなお人形サイズとはいえ、十一人分ともなれば、それなり大きくなるのは仕方がない。
「大丈夫だよ」
「うんうん」
 一緒に布団作りに参加していたミュリエルとジェシカが笑いあい、わかっているのかいないのか、エリスがこくこくと頷いている。
「私たちもちょうど終わったわ」
 そう告げたのは、グラディスだ。手には編んだばかりの毛糸のマフラーを持っていた。
「アンネリーゼさんも何か編んでましたよね……何を編んでらっしゃたんですか?」
「レティキュールを編んでいたんです。オマケのプレゼントですよ」
 毛糸が予想以上に余ってしまったので、お人形さんサイズのレティキュールを編んでいたのだ。
 広いホールが少々狭く感じるくらいに賑やかになり、そうして、それぞれ自分の手で作ったものを自慢しながらのお茶会が始まる。
 夜明けまではもう少し。
 ホールには楽しげなおしゃべりの声が響いていた。

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   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業

1593|榊船・亜真知     |女|999|超高位次元知的生命体・・・神さま!?
2334|セフィア・アウルゲート|女|316|古本屋
5615|アンネリーゼ・ネーフェ|女| 19|リヴァイア

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         ライター通信          
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大変お久しぶりでございます。
ここのところあまりシナリオを出せずにおりましたが、久しぶりのお人形さんはどうでしたでしょうか?
少しなりと楽しんでいただければ幸いです。

それでは、短い挨拶となりますが……(汗)
またお会いする機会がありましたら、その時はどうぞよろしくお願いします。