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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>
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あわいの坂
●あわい
『あわい』そう呼ばれる場所がある。
否、正確には場所ではないのかもしれない。
現世と黄泉の境な場所。
曖昧な故あわいと言うのか……。
ともかくもそこには、いまだ行き先を決められず、現世に未練を残す者達もさまよっているともいう……。
あわいとは曖昧な場所なり……。
●坂道と刀
「そういえば、そろそろアレをしなければいけない時期かねぇ?」
そう言ってアンティークショップ・レンの店主、碧摩・蓮(へきま・れん)は店の奥から一振りの刀を持ってきた。
そしてレンの店先に『人手募集』と書かれた張り紙をする。
「え?何を募集してるかって?それはだね……、この剣を持ってこの坂に行って欲しいんだよ」
そう言って、蓮は地図を広げとある急な坂道をさし示した。
その坂はよく不思議な事が起こるとか、人魂を見たとかそういう噂が絶えない坂道で霊感スポットとして有名な場所であった。
張り紙を見て話掛けてきた人にレンはそう話始めたのだった。
そしてレンがそう言ってから見せたのは一振りの刀であった。
レンの手によって引き抜かれたその刀には刃が無くただ刀身のみがあった。
「まぁ、この刀を持って行ってある事をしてきて欲しいんだよ、まぁ何をすれば良いかはその場に行けばわかると思うさね」
レンはそんな風に言った。
そしてレンはカウンターにその刀を置いた。
「ヒント?そうだね……、心で見て、心で切るとでも言えば良いのかねぇ?まぁ、刀なんだから何かを斬る問いいう事には違いないさ。ただ、無関係な者達を斬れというのではなく、そうだね道を示す、と行ったところかね?」
蓮は問われた事にそう答えた。
●アンティークショップ・レン
「アンティークショップレン……ここか」
アンティークショップレンの前に一人の青年がやって来ていた。
青年の名前は応仁守・幸四郎(おにがみ・こうしろう)といった。
幸四郎は家族に勧められて、今レンで出ている依頼を受ける為にやってきたのだった。
店の扉を開けると幸四郎はゆっくりと店に入って行った。
「こんにちは、ここでなにやら依頼があると聞いてきたのですが……」
店番をしていた蓮に幸四郎は話かける。
「ああ、刀の依頼の事かしら?」
話掛けられた蓮は幸四郎に答える。
「ええ、それだと思います。僕に向いている仕事だと聞いてきたのですが……」
そう話す幸四郎を蓮はゆっくりと見つめる。
「そうね、君になら任せられそうね。ところで君の名前は?」
「幸四郎、僕は応仁守・幸四郎といいます」
「そう、判ったわ。とりあえず説明をするからこっちに来て頂戴」
そう言って幸四郎に蓮は依頼の説明を始めるのだった。
「つまり、この刀を持って僕はそこに行けばいいんですね?」
「ええ、行けば自分が何をするべきか判ると思うわ」
幸四郎は蓮から刃の無い柄だけの刀を受け取り依頼の中身を聞くのだった。
●坂にて
その日の夜遅く牛三つ時にもうすぐかかろうかという頃、幸四郎は件の坂に来ていた。
「ここの坂ですか。蓮さんはここに来れば何をすべきか判ると言っていましたが……」
そういって幸四郎は来る途中で買ってきた缶コーヒーを飲みながら坂の麓に立って辺りを見つめた。
「特には変わった所は無い様ですね……」
しばらく辺りを歩き回り、坂を上ったり降りたりした後、周囲を見渡して変わった様子が無い事に対してだからこそ警戒心を幸四郎は強めた。
「とりあえず、まずは僕自身の力で周囲を探って見ますか」
坂の麓に座り込み幸四郎は目を瞑り、周囲に対し気配を探る。
しかし幸四郎の心には何も感じ取る事が出来なかった。
しばらく気配を探った後小さく幸四郎は溜息をついて呟く。
「仕方ないな……『鬼』の力に頼るしかないか……」
幸四郎は自らの中にある普段は封印している『鬼』の力を活性化させる為に再び瞳をつぶり、心を落ち着かせるため大きく息をはく。
しばらく精神を集中させて自分の心の奥にある『鬼』に対して語りかける。
「鬼よ……、僕の心の奥底に眠る忌まわしき力よ……、今こそ僕に力を貸してくれ……」
心の内に対し幸四郎は話掛ける。
そして幸四郎のその言葉に答えるかのように徐々に『鬼』の力が幸四郎の奥底から溢れてくる。
力を高めて行く内に幸四郎は自らの心と体に『鬼』の力が満ちてくるのを感じていた。
そして幸四郎の『鬼』の力が体に満ちると同時に方から腰に下げていたレンから預かってきた刃の無い柄だけの刀が光を発しはじめる。
それに気が付いた幸四郎は慌てて刀を取り出す。
刀を取り出そうとした幸四郎はその刀が自分の『鬼』の力に呼応するかの様に熱を発していた為に、慌てて取り落としてしまう。
「熱っ!?」
取り落とした刀を幸四郎は慌てて拾う。
「刀が呼応してるって事は僕の予想は当たっていたかな?」
慎重に刀を持ちゆっくりとその鞘から引き抜いた。
幸四郎が鞘から抜いたその刀は刃が無いはずのその刀には光の刃がそこにはあったのだった。
そしてその刀が抜かれたのに呼応するかの様に坂の上から坂の麓に向かって光の束のようにも見えるもやの様な物がまるで川の流れでも下って来るかの様に流れとなって降りてくるのが見えた。
だがその光はそのままくだって来るわけではなく、まるで坂に囚われてでもいるかのように下って来たりまた上って来たりとその場にうろうろしているのだった。
「ふむ……ここまでの予想通りだったけど、どうやら相手は一体だけではなかったのか……。さてどうしたものか……」
幸四郎はどうしたものかと顎に手を当てて思案する。
「どうやら、この霊を一刀両断って訳じゃないみたいだな……。それをするには数が多すぎるしな」
しばらく霊達の動きを幸四郎は観察をしていた。
「やっぱり彼らはここに縛られているのか……?」
そう呟いた幸四郎は自分の言葉に対してヒントを見つけた。
「縛られている……?そうか、そういう事なのかっ!?」
幸四郎は大きく息をはくと、光に刀をゆっくり構える。
「この刀はこの霊達を切る為のものじゃない……。この霊達を捉えているこの坂を切る物だったんだな……、確かに坂は『あわい』と呼ばれてこの世とあの世の橋渡しをするもの、だがその『あわい』に捕まって抜けられなくなってしまった者達を助けたりまだ未練を残している者達の道を指し示す為にあわいに境界を引く……、それがこの刀の役目なんだな」」
霊達と坂を交互に見つめ幸四郎は徐々に『鬼』の力を刀に集め集中させていく。
力の臨界を感じた幸四郎は、刀を坂を横切る様に思いっきり振り下ろす。
刀は目には見えない波動を発し、坂の端から端を横断して行く。
幸四郎にはそこにしっかりと『境界線』が引かれた事を感じた。
そして今まで、何か迷う様な動きをしていた霊達は徐々に坂の上へ上へと昇り始め、ゆっくりとその姿が闇へと消えて行った。
その消えて行く霊達の事を幸四郎はしっかりと見送った。
「こうやって、時々『あわい』の境界線を引きなおなければいけないんだな……。そうしないとまた「あわい』から抜けられなくなってしまう物が出て来る、か……」
幸四郎は刀を鞘へと戻し、自らの高ぶった力をゆっくりと抑えて行く。
力の高ぶりをおさえた幸四郎は坂の上を見つめる。
「もう迷ってくるなよ」
どこか言い聞かせるようにそう呟くと幸四郎はゆっくりと踵を返す。
「刀を返すのは明日になってからが良いかな、とりあえず今日はもう寝るとしようかな……」
幸四郎は誰にともなくそう呟くと歩き出した。
そしてその姿は夜の闇へと消えていくのだった。
Fin
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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≪PC≫
■ 応仁守・幸四郎
整理番号:1778 性別:男 年齢:17
職業:応仁重工研究員・鬼神の巫者
≪NPC≫
■ 碧摩・蓮
職業:アンティークショップ・レンの店主
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■ ライター通信 ■
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どうもはじめましてライターの藤杜錬です。
この度はアンティークショップ・レン依頼「あわいの坂」にご参加くださりありがとうございます。
今回は納品がかなり遅くなってしまい申し訳ありませんでした。
幸四郎さんの答えは半分正解、半分不正解といった所でしょうか。
ただ、幸四郎さんの想いは十分に伝わっていると思います。
それでは楽しんでいただければ幸いです。
2006.10.17.
Written by Ren Fujimori
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