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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


大神家の一族【第3章・東京編】
●オープニング【0】
 LAST TIME 『大神家の一族』――。
 半日ほどで事態は大きく動いていた。金沢の事件と、東京の事件を結ぶ糸が見えてきたのだ。糸の名前は金沢では『小田原興信所』、東京では『小田原探偵社』といった。
 石坂双葉を狙っていたのは『小田原探偵社』の連中だと判明した。だが実際に襲ってきた者たちは詳しい事情を誰も知らない。異口同音に『社長の命令で、詳しいことは分からない。何のためにやっているのか、一切知らされていない』と答えるばかりであった。
 その『小田原探偵社』社長は密かに事務所を後にし、とあるマンションの一室……つまり秘密の隠れ家に姿を隠していた。けれどもそのことは、追跡者によって判明していた。どこの部屋に居るのかさえも。
 これはもう、社長本人を捕らえなくてはならないだろう。何しろ事情を知っているのだろうから。
 どうして石坂双葉を狙ったのか?
 そして金沢の事件との関係はいったい?
 真実はもうそこにあるのかもしれない……。

●金沢への手助け【1】
「私はですねえ……」
 月刊アトラス編集部、難しい顔をして机に向かっていた碇麗香の耳に、高ヶ崎秋五の声が入ってきた。表情変えぬまま秋五の方へ視線を向ける麗香。ソファに腰掛けていた秋五は煙草を手に、言いかけていた言葉を続けた。
「探偵としては金田一耕助ではなくコロンボみたくになりたいのですよ」
「……それは、どうしてかしら」
「ほら煙草も吸ってますし」
 と、手にした煙草を秋五は麗香に見せ付けた。
「分からないではないけど。ただ、コロ……」
「ま、本当は探偵ではないですから関係ないですけどね」
 麗香が皆まで言う前に、秋五が先回って言った。確かに、コロンボは刑事であって探偵ではない。
「そういうことをわざわざ言うためだけに、戻ってきた訳じゃないでしょ?」
 麗香の鋭い視線が秋五へ向けられる。秋五は警察の事情聴取が終わってから、一旦こちらへ戻ってきたのだった。石坂双葉は未だ警察署で事情聴取を受けているはずである。
 すると秋五は静かに立ち上がり、懐から何やら折り畳まれた紙を取り出した。
「情報屋仲間に頼んで調べてもらったのですよ」
 そう前置きして、秋五はその紙を麗香の机に置いた。手に取り紙を広げる麗香。眉を、ひそめた。
「これって」
「金沢組の助けになるかと思ったのですけどね」
 ぼそりつぶやく秋五。
「……近頃は扱いがうるさいでしょうに。よく戸籍なんか調べられたものね」
 麗香のその問いには、秋五はふっと笑みを浮かべるだけだった。
「実の所、出産記録も調べてもらっていたのですが……」
「不都合でも起きたの?」
「ないのですよ、もう」
「何がないのよ」
「産院です、石坂双葉の生まれた」
「……はい?」
「道路拡張などの計画に土地が引っかかっていましてね。今はもう、そこには綺麗な道路が」
「ちょっと待った。そういう場合は移転するんじゃ……」
「そのタイミングで、院長先生が引退したそうで。年齢も年齢だったので、閉じたのだとか。ついでに言うと、すでに亡くなられてます」
「……道路拡張め……」
 いや麗香さん、矛先向けるのそこじゃないですから。
「ですので、せめてそれだけでも向こうに。時間軸を突き合わせれば、予想は出来るでしょう」
「分かったわ、後で送っておくから」
「では、よろしく」
 秋五は麗香にそう言うと、編集部を出てゆこうとした。
「そうそう、向こうの話を聞いて思ったのですが」
 と、扉の近くで足を止めて秋五が振り返る。麗香は続く言葉を待った。
「どうやら毒入りキャラメル箱は三郎の部屋に『あった』みたいですね」
 この秋五の言葉に、麗香が妙なことを言うものだという表情を見せた。
「そりゃ、その部屋にあったんだから、あるのは当たり前でしょ?」
「いや、そういう意味じゃなく。……元々三郎の部屋にあったキャラメルを尚が大二郎にあげ、自分で食べたのではないですかね」
「……え?」
「ですから、最初から殺害目的が三郎だった、と。三郎に、明美のことを聞いた方がいいかもしれませんね……」
 秋五はそう自らの考えを言い残し、扉を開けて外へ出てゆく。もうそろそろ、双葉の事情聴取も終わる頃合であろう――。

●残されたパズル【2】
 その頃の『小田原探偵社』。窓の外はもう暗くなっており、夜の街に明かりがともっていた。
「もぬけの殻……か」
「悪いことをしている者ほど、逃げ足は早いんですよ」
 各々事情聴取終了後、まっすぐにここを訪れていた守崎啓斗と宮小路皇騎は、やれやれといった様子でつぶやいた。室内はしんと静まり返り、2人の他は誰も居やしない。身の危険でも感じたか、どうやら社長はとっとと逃げ出したようだ。
「鍵すらかけずにだから、よっぽど慌てていたんだろう」
 呆れた口調で言う啓斗。ゆえに簡単に中へ入ることが出来たのだった。
「証拠が残っていないか、調べてみましょう」
 皇騎が啓斗を促す。本来社長を押さえようとやってきた皇騎だったが、居ないのなら仕方がない。それならば証拠を探すべきだ。もとよりそのつもりで訪れた啓斗は無言で小さく頷き、まずは机から調べ始める。
「いつ警察が来てもおかしくない……」
 啓斗がぼそっとつぶやいた。例の襲撃者たちの取り調べを、そろそろ警察が終えていてもおかしくない。じきに家宅捜査が入ることだろう。その前に、1つでも証拠を探さなくてはならない。
 机、本棚、額縁の裏側などなど、念入りに調べてゆく2人。だがしかし、証拠らしき物は一向に見付からない。
「これは……抱えて逃げてますかね」
 難しい表情をして皇騎が言った。その可能性は十分にある。だとすれば、いつ証拠を処分されても不思議ではない。
「……天井も調べてみるべきか」
 視線を一旦天井に向けてから、啓斗は改めて室内を見回した。と――ある一点で、視線がぴたりと止まった。
「待てよ、ひょっとして……」
 啓斗はそれにゆっくりと近付いてゆき、両手でしっかり捕まえた。金属製の、細長いゴミ箱がそこにあった。
「こっちへ」
 はっとした皇騎が、テーブルの上の物をどけて啓斗を呼んだ。ここへ中身をぶちまけろと言っているのだ。
「それっ」
 啓斗は一気にゴミ箱の中身をぶちまけた。流れ出てくるゴミたち。その中に、びりびりと大きく破かれた紙片がいくつも見付かった。顔を見合わせる2人。
「繋げてみましょう」
「了解」
 皇騎と啓斗がゴミの中のパズルへすぐさま取りかかる。細かく裁断されていなかったのは幸いであった。そしてパズルはじきに完成した。
「指示書、のようですね」
 完成したパズル――断片を繋ぎ合わされたファックス用紙をしげしげと眺めて皇騎が言った。それは金沢の兄から東京の弟へ当てたもの。弟がすべき項目がいくつか記されていた。送信日時は5月1日の夜7時過ぎのことだった。
「……奴ら、殺す気だったのか」
 そう言った啓斗の声は、まるで感情の抜け落ちたようであった。すべき項目の中に、双葉の殺害が含まれていたのだ。なるべくなら、事故や自殺に見せかけて殺害しろと……。
「悪意はあっても殺意はないと考えていたのですけどね……」
 溜息を吐く皇騎。嫌な物を見たと思った。
「テープはないかな」
 携帯電話でその指示書を写真に撮りながら、啓斗はきょろきょろと辺りを見回した。繋ぎ合わされた断片をテープで固定しようというのだ。
 ほどなく皇騎がテープを見付け出して、受け取った啓斗はぺたぺたと貼り合わせていった。そんな時に、皇騎の携帯電話が鳴った。
「はい、もしもし」
 それは宮小路の調査部からの連絡であった。双葉の母親、明美のことを調べさせていたのだが、難航していた調査が終了したとの知らせだ。
「そうですか、産院の関係者がようやく見付かりましたか」
 手間取っていたのはこの部分であった。何しろ産院がとっくになくなっていて、おまけに院長も亡くなっているのだ。途切れた糸を繋ぎ合わせるには、やはりそれなりの労力を要するのである。
 報告に皇騎は耳を傾ける。と、ぴくっと皇騎の眉が動いた。
「……何ですって?」
 明らかに、意外なことを聞かされた反応だった。
「それは確かなんですね? しかし、じゃあ、戸籍に記載されているそれと食い違いますね……」
 それからまた黙って相手の話に耳を傾けていた皇騎だったが、最後に大きく息を吐いてこう言った。
「ええ、それしか考えられないでしょう。分かりました、どうもありがとう」
 電話を切る皇騎。啓斗が怪訝そうに見つめていた。
「どうやら、決定的な事実が出たようです」
 皇騎は啓斗に向かって静かにつぶやくと、おもむろに電話をかけ始めた。相手は、麗香である。

●決意【3】
 ようやく事情聴取が終了し、双葉が警察署の外へと出てくると、外ではとっくに事情聴取を終えていた黒冥月と、改めて戻ってきた秋五の姿があった。
「……待っていてくれていたんですか」
 2人のそばへ来た双葉が、ぼつりつぶやいた。表情は、当たり前だが芳しくはない。
「1人きりには出来ないでしょう」
 そう答える秋五。続けて冥月が言った。
「護りを解いた覚えは、私にはないからな」
 言い方はあれだが、気にしているのだ、双葉のことを。
「……すみません」
 双葉は2人に対して深々と頭を下げた。
「さて」
 冥月は双葉へまっすぐ向き直った。
「今から、お前をこんな目に遭わせた奴を警察より先に確保しに行く」
「……えっ」
 冥月の言葉に、双葉が驚きの声を発した。
「来るか?」
「……突然言われても、その……」
 冥月の誘いの言葉に戸惑う双葉。
「お前と、某一族を中心に様々な事件が起きた。解決後、草間というヘボ探偵から全容の報告があろうが……先に知っておくのもよい。お前にはその権利があるが、どうする?」
 再度双葉に誘いの言葉を投げかける冥月。双葉はうつむき加減にしばし考えていたが、やがて何か決心したように顔を上げた。
「行きます……いえ、行かせてください」
「そうか」
 冥月が双葉の頭をぽんと撫でた。
「よし、文句の1つでも言ってやれ。否、殴ってやれ。私が許す」
 冥月の言葉の後半は冗談ぽい口調になっていた。双葉の強張っていた表情が、それで少し緩む。
「なら、私も同行でしょうかねえ」
 頭をぽりぽり掻きながら秋五が言った。護衛についているのだから、双葉が行くとなったら当然一緒に行くことになる訳で。
「さて、向かうべき場所を確認するとしようか」
 空を見上げつぶやく冥月。夜空に、月の光を浴びた金色の蝶が舞っていた。

●訪問【4】
 場所は変わって、双葉の実家――すなわち、父親の春太が住む家。ここを訪れている者が2人居た。内海良司監督と、露樹故である。2人は家に上がり込み、春太と向かい合ってテーブルを囲んでいた。
「何のお構いも出来ませんが」
 そう言って春太は、内海と故にお茶とお茶菓子を出す。
「で……今日はどういったご用件でしょう」
 穏やかな口調で春太が尋ねた。それに答えたのは故である。
「実は今度の作品で、娘さんとご一緒することになりましたのでご挨拶に」
「ほう、そうなのですか。それはわざわざありがとうございます」
「ええ、ですのでこうして監督にご同行願った訳です。ね、監督」
 故は内海へ同意を求めた。
「あ、ああ、そういうことです」
 慌ててこくこく頷く内海。その様子に春太は何の疑いも抱かない。
(上手く話を合わせてくれますね)
 内海の態度に及第点を与える故。双葉と共演するなどと言っているが、そんなのは嘘である。実家を訪れ、春太に会うための口実に過ぎなかった。そのために故は内海に協力を願ったのだ。
 もっとも願ったというか、軽く脅したというか……。『自分の作品をこんな形で急遽変更などしたくないでしょう?』という言葉が、内海には一番効いたようである。
「娘さんをお育てになられた親御さんが、どのような方か興味がありましてね」
 もっともらしい言葉を紡ぎ出す故。よくまあ、こうすらすらと言葉が出てくるものである。
「いやいや照れますね。ただ私なんかよりも、妻がしっかりしていたんでしょう。亡くなってもう3年になりますが……男親だと、娘にどう接していいか時折悩みますよ」
 苦笑いする春太。年頃の少女といえばデリケートな問題もあるのだから、そうかもしれない。
「ところで、ご出身はどちらです?」
 さりげなく、本題の質問に入ってゆこうとする故。
「私はこちらですがね、妻は石川の金沢です」
「そうですか。では、あちらのご親戚と親交があったりするのでしょうかね」
「……いえ、妻にはもうあちらに縁者は居ませんから。結婚してから金沢に行ったことは、もう1度もありませんよ」
 春太が力なく笑う。見た感じ、嘘を吐いているようには見えなかった。
(おかしいな)
 故は春太が大神大二郎を強請っていたのではないかと考えていたのだが、それにしてはちと妙である。明美が金沢出身であることを素直に口にし、結婚後1度も金沢には行ったことがないと春太は言っている。隠そうとしている素振りは特に見られない。もし強請っているのだとしたら、多少なりとも金沢の話題を避けようとするのが人情ではないかと思うのだが。
 ともあれ、続けて故が質問しようとした時だった。内海の携帯電話が鳴り出した。断ってから電話に出る内海。
「はい、内海」
 ところが、内海はすぐに携帯電話を故に向けて差し出した。
「代われとさ」
「おや、俺にですか?」
 さて誰が電話してきたというのだろう。代わって出てみると、それは麗香であった。双葉の実家へ向かうことを告げていたから、それで内海を通じて電話をかけてきたのだろう。

●隠れ家【5】
 とあるマンションの前に、1人の少年の姿があった――月代慎である。このマンションの一室に『小田原探偵社』の社長が隠れているのだ。社長の動きを追いかけていた銀色の蝶、永世姫は未だその部屋を見張っていた。
(動きはないなあ)
 そう思っていた所、近くに人影が現れた。双葉を連れた冥月と秋五である。その頭上には双葉につけていた金色の蝶、常世姫の姿もあった。
「本人まで来たんだ」
 双葉の姿を見てそうつぶやいた慎は、物陰に姿を隠した。事態をおとなしく見守るつもりだったから、あまり目立たないようにしたかったのだ。とはいえ、何事か起きて人手が足らない事態となれば手伝うつもりではあったが。
「どうやらここに居るらしい」
 慎の居ることを知らない冥月が、マンションを見上げて言った。麗香から情報を得てやってきた訳だが、それを伝えたのはそもそも慎であったりする。
「……ふむ、明かりもつけずに部屋に居るか」
 静かにつぶやく冥月。影を通じて社長の存在を確認したのである。明かりをつけていないのは、冥月にとって好都合であった。
 そして次の瞬間、3人の姿が影に溶けるようにすっと消えた……。

●出生にまつわる隠されていた真実【6】
 場面は再び双葉の実家へ戻る。
「……そういうことですか」
 麗香から話を聞いた故は大きな溜息を吐いた。そして携帯電話を内海へ返し、春太の方へ向き直った。
「1つ、お聞きしていいですかね」
「どうぞ」
「双葉さんの、出生届を出すのが遅れたのはどうしてなんです」
「!!」
 故の言葉に、春太の顔色がさっと変わった。
「出産から少なくとも2ヶ月は経過していたようですが?」
「おいっ?」
 内海が、何を言うんだといった表情で故を見た。しかし故は意に介さない。
「そのことによって、計算上では色々と誤魔化せるようですねえ……戸籍においては」
 故はじっと春太を見つめた。断片的な情報や出来事も、結び付けばとんでもない事実にぶち当たる。まさに今がそうだった。
 戸籍を調べることによって、婚姻届なり出生届の出された日が分かる。産院の関係者に当たることで、その時の様子が分かったりする。しかしそれらを突き合わせてみると、矛盾が出てくることだってある。
「今となってはどうやったが知りませんが、戸籍に何も記されていないそうですから、医師にも協力してもらったんでしょう。違いますかね」
 淡々と春太へ尋ねる故。春太は目を逸らし、小刻みに身体が震えていた。
「単刀直入に言いましょうか。双葉さんの本当の父親は、大か……」
「双葉はっ!!」
 春太が、怒ったように口を開いた。
「双葉は……私と、妻の娘です……」
「ええ、戸籍では当然そのようになっているそうですね。しかし、明美さんの上京した時期と出産の時期を見てみると、どうしてもおかしくなってくるそうじゃないですか。決して早産ではなかったと、聞いていますがね……」
 淡々と春太を追い詰めてゆく故。そして――自らの推理をぶつける。
「……春太さん。あなたはそのことで、大神大二郎さんを強請っていたのではないのですか?」
「ふざけるなっ!!!」
 ドンッ! 春太がテーブルを強く叩き、故を叱り飛ばした。
「双葉は私と妻の娘だ!! 妻と……明美と2人でそう決めたんだ!! 赤の他人を強請る必要がどこにあるっ!!」
「い、石坂さん。どうか落ち着いて……」
 内海がどうにか春太を宥めようとする。だが、故はそんな春太を見つめてぽつりと言った。
「……例え2人でそう決めたとしても、そうは見てくれない者も居るってことですよ」

●陥落【7】
 『小田原探偵社』の社長は、明かりを消して隠れ家である部屋で息を潜めていた。明かりらしい明かりは、窓の外から入り込む月明かり程度だ。テーブルの上には、飲みかけのウィスキーが置かれている。
 と、そんな社長の背後に突然人の気配が発生する。影を伝って移動してきた冥月たち3人である。
「う、うわぁっ!?」
 急に現れた気配に気付き、ソファから転げ落ちるように降りる社長。テーブルに当たったか、がたがたと音が聞こえた。
「い、石坂双葉っ! 何故ここに居るんだ!」
 双葉の姿に気付いた社長が急いで立ち上がろうとする。だが、その社長の動きが瞬く間に止まった。冥月が影で捕縛したのだ。これでもう、逃げられやしない。
「さあ、色々と洗いざらい聞かせてもらおうか」
 冥月が社長を睨み付けて言った。しかし社長は目を伏せ、口を閉ざす。どうやら簡単に喋る気はなさそうだ。
「強情だな。なら、1つ教えてやろう。私は拷問……否、尋問は得意でな」
 そう言った冥月は、不敵な笑みを浮かべたように思えた。暗闇で、よくは分からないけれども。
 その次の瞬間だった。社長は自らの身体に起こりつつある異変を感じていた。……微妙に、徐々に、だんだんと身体が沈みつつあるのだ。最初は足先だけだったのだけれども、じわじわとその範囲は広がってきていることが伝わっていた。
「な、ななっ、なっ、ななっ!?」
「全て喋らなければ、お前は一生闇の中だ。どちらがいいか、選ばせてやろう」
 慌てふためく社長へ、冥月は冷たく言い放った。残念ながらこれに耐えられるほど社長は強くなかった。
「わーっ! 分かったっ、分かったから止めてくれっ!! 全部話すーっ!!」
「最初から素直がいいのですよ」
 秋五がしれっと言った。
 こうして観念した社長は、自分の知っていることを洗いざらい話し始めたのである。

●一応の決着【8】
 結論から言おう。双葉の殺害を指示したのは、金沢に居る社長の兄である。もちろん社長の兄が勝手にそんなことをするはずはない。依頼をした者が当然居る。
 それが大二郎の長男・正一と、長女・彰子であった。この2人と社長の兄は、東京での事件が片付いた後で翌日までにかけて相次いで逮捕されることとなった。
 動機はもちろん大二郎の財産を巡ってのことだ。大二郎の行動が妙だと思っていた正一と彰子は、探偵を雇って調べさせていた。それが社長の兄なのである。
 そうしている時に大二郎が毒殺されて、混乱の最中に社長の兄は草間の持ってきていた調査報告書を窓から部屋に侵入して奪っていったのだ。それからのことは、細かく説明するまでもないだろう。
 さて、気になるのは今回の事件による双葉への影響だ。双葉の名前が表に出ることは避けられなかった。しかし、表に出た話は事実とは異なっていたりする。
 襲撃事件自体は双葉を狙ったものではなく、宮小路財閥の関係者、すなわち皇騎を狙ったものということにすり替えられた。まあ、まるで嘘ということではない。何しろ同じ部屋に居た訳だから。で、双葉は『不幸にも』巻き込まれた、ということになった。これが一番ダメージが少ないだろうという判断である。
 また大二郎絡みの件についても、双葉は巻き込まれた形を取られることになった。要するに、大神家で昔働いてくれた明美に感謝して娘である双葉に遺産を分け与えることを、正一や彰子が快く思わなくて排除を試みた……というストーリーだ。双葉が本当は大二郎の娘である、ということは一切表に出ない形となった。
 しかし、これでもまだ不十分。色々と立ち回って対処しなければならないことが残っている。それらについては、また後日明らかに出来るだろう――。

【大神家の一族【第3章・東京編】 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0461 / 宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき)
        / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師) 】
【 0554 / 守崎・啓斗(もりさき・けいと)
                / 男 / 17 / 高校生(忍) 】
【 0604 / 露樹・故(つゆき・ゆえ)
                / 男 / 青年? / マジシャン 】
【 2778 / 黒・冥月(ヘイ・ミンユェ)
     / 女 / 20 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒 】
【 6184 / 高ヶ崎・秋五(たかがさき・しゅうご)
               / 男 / 28 / 情報屋と探索屋 】
【 6408 / 月代・慎(つきしろ・しん)
            / 男 / 11 / 退魔師・アイドルの卵 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全8場面で構成されています。今回は皆さん同一の文章となっております。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせして申し訳ありませんでした。ここに最終第4話、東京編をお届けいたします。そうです、最終話です。色々と調整して判断した結果、『大神家の一族』は一応の完結となりました。が、『補遺』という形で草間興信所の方で1回だけ出すことを決定しました。気になることがあるという場合は、こちらにご参加いただければと思います。ちなみに物語時間は事件から半年経った11月、つまり現実の時間と同一となりますので。
・『補遺』を出すことになったくらいですから、謎が全部解消されたという訳ではありません。けれど、一応の謎の答えは金沢編と合わせてあれこれ出したと思うのですが……さて、どうだったでしょうか。
・黒冥月さん、5度目のご参加ありがとうございます。特に揉めるでもなく社長を捕まえられたのは、冥月さんの能力による所が大きかったのではないでしょうか。シリーズ通して、色々と活躍されていたと高原は思います。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。