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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


助けて!!

オープニング

投稿者:ミズキ
件名:助けてください
本文:お願い、私の友達を助けて!!
●×高校二年倉橋麻衣子をだれか助けてください。
お願いします。
私は訳があって助けられないから、だから、誰かあの子を守ってあげてください。
とにかく一度、麻衣子に会ってみてください!!

 その書き込みを見て、パソコンの前でにやりと笑う少女がいた。彼女は美しい銀の髪に赤い瞳を持っている。彼女は掲示板にこう書き込んだ。

投稿者:匿名希望
件名:わかりました
本文:倉橋麻衣子さんの警備、任せてください。

 たったそれだけの文章だったが、それだけで十分だった。少女、吉良原 吉奈はある確信を持ってパソコンを閉じた。



 ●×高校の校門の前で、倉橋麻衣子を待伏せる。
 出てくる人間を見ながら、吉奈はあの書き込みに対して思いを馳せた。
 どんなに素性を隠して書き込んだとしても、そしてたとえインターネットだとしても、吉奈の勘は鈍らなかった。もう、わかっていた。だからこそ、あの書き込みに答えたのだ。
 吉奈が思考の海に身を沈めようとしたそのとき、ようやく彼女が姿を現した。
 倉橋だ。黒のロングの髪をしばりもせずに風になびかせ、人を寄せ付けない雰囲気をかもし出すその少女に、吉奈は近づいていった。
 彼女の肩に手を置くと、倉橋ははじかれたように振り向いた。
 吉奈は人にいい印象を与える微笑を顔に浮かべ、口を開く。
「こんにちは、倉橋先輩」
「え、誰」
「あれ? 倉橋先輩のお友達のミズキ先輩に言われてきたんですけど、聞いてません?」
「ミズキ……?」
 倉橋は考え込むように、首をひねった。どうやら名前に覚えがないようだ。吉奈はそのあたりも許容範囲だとでも言うように倉橋の手を取った。
「ま、なんでもいいですよ。それより、私と遊びましょう」
「でも……」
「嫌ですか?」
 吉奈はしゅん、とうなだれる。それはまるで捨てられた子犬のようで、見るものの心を奪う。
 その効果は倉橋にも例外ではなく、彼女は思わず慌てて言った。
「いや、別に嫌じゃないんだけど」
「じゃあ、いいですね」
 先ほどとは打って変わった笑顔を見せると、吉奈は倉橋の手を取った。倉橋はそんな吉奈の行動に驚愕したようだった。だが、何も言わず、彼女に手を引かれるまま歩き出した。
「先輩、先輩はどこに行きたいですか?」
「別に、行きたいところなんて」
「じゃあ、私が決めていいですね! よし、あそこに行こう」
 吉奈は倉橋から拒絶の言葉を奪うかのようにさくさくと決めて歩き出した。



 吉奈は自分たちをつけてくるその存在に気がついていた。時折もれる殺気に心地よくて思わず笑みが漏れる。
「くすくす」
「急にどうしたの?」
 ゲームで遊んでいたはずの倉橋が吉奈の不振な微笑みに気がついたのかそう声をかけた。
 吉奈はなんでもないと、首を振ると外を見た。
 もうそろそろかもしれない。
「倉橋さん、今日は楽しかったです」
「私も、久々にいっぱい遊んだわ」
 騒がしいゲームセンターから脱出して、二人はそんな風に言い合う。
 曲がり角に来たとき、吉奈は「私はこっちですから」と言って倉橋と分かれた。だが、それは振りにしか過ぎない。倉橋の後姿を見つめ、それから彼女を追うその人影に声をかけた。
「この街に殺人鬼は二人も要らない…。ふふ、そうでしょう『身突き』?」
 そう声をかけると、その人影はぴたりと立ち止まった。
 そして、吉奈を振り返る。
 彼女は『身突き』ミズキと書き込みをした、殺人鬼だった。金色の輝く髪と、同じく金色の瞳。美しい容貌の彼女は吉奈を見て、にやりと笑った。
「そうね、キラープリンセス」
「あれ、私のこと知ってたんだ」
「ええ」
 身突きは答えながら自分の腕を変化させた。血管が腕中に浮き上がり、五本の指が融合して一本になる。爪が槍のように尖り、それは人の体を貫く凶器に変わった。
「私が、身突きと呼ばれる理由よ」
「そう、じゃあそんな君にプレゼントを差し上げます」
 人外の変化を目撃しても吉奈は動揺せず、にっこり、と微笑んだ。そして、ある一枚の紙を身突きの腕へと投げつけた。身突きはそれを切ろうとするが、次の瞬間、目を見開いて動きを止める。
 それは、一枚の写真だった。
 いつの間に手に入れたのかわからないが、それは紛れもなく倉橋の写真。うれしそうに微笑む彼女がそこに映っていた。身突きは写真が腕に張り付くのを黙ってみていることしかできないようだった。
「好きな人間を殺すのは殺人鬼の性。そうでしょう、身突き」
 身突きは吉奈の言葉には答えず写真を見たまま沈黙していた。吉奈は不満そうに片眉を上げると、赤い唇を動かした。
「――点火」
 すさまじい閃光と、音と、爆風が身突きの腕を吹っ飛ばした。
 煙が引いた後には、アスファルトの地面に大量の血を流しながら、身突きが立っていた。
「その出血量、急いで止血しないと確実に死…」
 吉奈は言いかけて、身突きを視界に入れると言葉を止めた。いや、止めざるをおえなかった。
 彼女が笑っていたからだ。
 深紅の血を流しながらも、身突きの表情には死を享受する穏やかさが表れていた。
「良かった、大切な人を傷つけずに済んだ。助けてくれてありがとう」
 ごぶり、と口から血を吐く。
 しかし彼女は微笑んでいた。
 美しく微笑んでいた。血にまみれながらも、ただ安らかな死に幸福を感じているようだった。
 殺人鬼の性、それが彼女を苦しめていたというのだろうか。永遠に相手を自分のものにするその方法が。だから掲示板に書き込み、己を止めてくれる人間を探していたのか。
 吉奈は自ずから死に行く同類を冷めた瞳で見つめていた。
「何それ……」
 それ以上の言葉は出なかった。
 不快感が気持ち悪くなるぐらいこみ上げてくる。吉奈はそれ以上彼女を眺めて痛くないとでも言うように背を向けた。
「出来損ないめ」
 彼女はぼそりとつぶやいて、その場を後にするために一歩足を踏み出した。

エンド

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【3704 / 吉良原 吉奈 / 女 / 15 / 神聖都学園高等部全日制普通科に通う高校一年生、キラープリンセス】

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■         ライター通信          
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吉奈様
どうでしょうか。
気に入っていただけたら幸いです。
またよろしくお願いいたします。