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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


鳥かごの小鳥

●誰かを思うと言う事
 まだ、日中は暖かさが残るとはいえ、東京の朝は寒く、風が吹くと身震いおきる。
都心から少し離れた、梓の住む町の朝はとても静かで辺りは鳥の囀りが響きわたる。耳を済ませると、何処からか美しいチェロの音色と歌声とが響きわたっていた。



「ラーララ♪」
 大好きなチェロを奏でながら初瀬・日和(はつせ・ひより)は町並みが一望できる丘から歌を歌う。美しい歌声とチェロの音色が山彦となって響き、合唱曲の様に聞こえる。
 彼女の奏でている曲は梓とカノの想いでの曲だ。二人がよく一緒に歌っていた曲だと梓の両親が教えてくれた。
 二人が選んだ方法は梓とカノの想い出の曲を歌ってカノをおびき寄せるというシンプルな方法だ。

 日和が歌い続けてから、かれこれ1時間が経過していた。

「そう簡単には現れないみたいね‥‥」
「ほら、あんまり無理するなよ」
 しょんぼりする日和の頭を撫でながら羽角・悠宇(はすみ・ゆう)は優しく微笑む。喉を痛めないようにポケットに入れていたのど飴を差し出して悠宇は休憩を入れさせる。
 

「だって、悲しいわ! 大切な人だけじゃなく大好きな歌まで失ってしまったら‥‥」
 切なげに訴える日和の眼差しは自分の事のように切なげだ。その眼差しは重ねるように誰かに向けられていた。
「‥‥そうだな。カノだって梓が歌えない事を知ったら哀しく思うだろうし、なんとかしてやりたいよな」
 今にも泣き出しそうな日和の頭を悠宇は落ち着かせるようにふわりと撫で上げた。


「なんだか元気が出てきたみたい‥。もう少し頑張ってみるわ!」
めげずに精一杯頑張ろうと再び日和は梓とカノの事を思いながら歌い始めた。
 日和の真剣な眼差しを銀は無言で、じっと見つめる。

「なんだ、銀。惚れたか?」
「ち、違うよ! そうじゃなくって‥‥」
ふと、悠宇が銀の隣に腰を下ろして話しかける。歌声とチェロの音色に聞き入っていた銀は初め焦った様子を見せたが、すぐにからかう悠宇にふてくれた様子を見せる。

「まぁ、歌う事が大好きな人が歌わなくなってしまうのは寂しい事だからな‥‥」
 からかわれた拍子に立ち上がった銀は少し上から見下ろす体制で悠宇の表情を伺う。一息入れてから、悠宇は話を続けた。
「‥‥俺の大切な人も音楽が大好きなんだ。もし彼女が音楽から遠ざかってしまう事になったら、どんなに寂しい事だろう‥‥」
 日和の方を無意識にいとおしそうに見つめる。その眼差しを銀は理解する事が出来ずに胸の辺りを少し強めに握った。
「悠宇お兄さん‥‥」
「ん?」
 言葉の続きが見つからなかった。
 ただ、悠宇の気持ちは今までに自分が経験した事のない感情のだと察したのか不思議な感じを覚えた。





「あっ!」
 突然、悠宇は声を上げた。
 目を閉じて集中していた日和は声に反応して歌うのをやめ、目をゆっくりと開ける。

「あ‥」
「ちゅん‥‥」
 目の前の小さな岩場に首を軽く傾げて止まっている一匹の小鳥。
 薄い青交じりの白い羽に頭に珍しい淡い桜色の丸模様。

「ラーラー♪」
「ちゅんちゅんっ」
 日和は確かめるようにゆっくりと歌い始めると、歌に合わせて小鳥がリズムをとる。その瞬間、カノだと確信を持った。
 やっとお目にかかれたカノの姿に日和はほっと胸を撫で下ろした。手を差し出すと手の平にちょこんっと乗ってきた。
 逃げる気配はなく、人懐っこい性格のようだ。

「カノさん、お願いです。お互いにお互いを救ってあげて欲しいんです‥‥」
 優しくふんわりと撫でられて気持ちよさそうな表情を見せる。だが、カノの瞳の奥は泣いているようにみえた。



●救う、救われると言う事
「梓さん、お願い‥ドアを開けてください」
 部屋をノックするが中からの応答はない。

「俺達、カノを連れてきたんだ」
「嘘を言わないで! カノに似た小鳥でも探してきたの?! カノは世界に一人だけよ! 代わりなんていらないわ!」
 取り乱した梓の声が中から聞こえてくる。同時に花瓶かなにかのガラスの割れる音が聞こえ、ただ事ではないと悠宇は鍵のしまったドアを力ずくで開けた。

 部屋の中は荒れていて写真たてや花瓶が床に落ちて、破片が飛び散っていた。
「銀くんはここで待っていてくれますか?」
 うっかりガラスを踏みつけてしまわないようにと銀に部屋の外で待つようにと日和は大丈夫だからと笑みを浮かべて銀を安心させる。

「梓さん、ご自分の目で確かめてください‥」
 手の甲に止まっているカノを梓の目の前に差し出す。梓の存在に気が付いたカノは嬉しそうに梓の周りを不器用そうに飛び回り膝の上にちょこんっと座った。
「カノ‥‥」
「カノは梓の事が心配で成仏出来なかったんだ‥‥どうやら、梓を探していたようなんだけど、迷っていたみたいだな」
 今まで耳をかさなかった悠宇の言葉に梓は反応を示す。すべてを遮断していた梓が少しだけ心を開いたように感じ取れる。
 カノは今まで屋内で飼われていた為、土地か感覚がなかった。その為に家を探し当てる事が出来なかったと推測される。

「カノさんはね、梓さんとよく歌っていた曲を私が歌っていたら傍に寄ってきて歌い始めたんです‥‥」
 梓は顔を上げて日和を見上げるがそんなはずはないと、小鳥の姿をじっと見つめる。
「‥‥カノそっくり‥」
 梓は自分がカノの姿を見間違えるわけがないと分かっている。それでも疑わなければ、カノの死を受け入れられない。

「おまえともう一度一緒に歌いたくて、カノは梓と同じように苦しんでいるんだと思う」
 悠宇はカノが成仏出来ずにいる理由を察していた。
 同時に自分がカノと同じの立場に立った時にもう一度、大切な人に逢いたいと思う気持ちが分かるような気がしたからだ。

「だから、おまえじゃないとカノは救ってあげられないんだ」
「カノを救う‥‥」
 ゆっくりと復唱して、梓は悠宇の言葉を自分の心に深く刻み込む。
 
「梓さん、二人がお互いに大好きなのに、お互いに心残りがあって前に進めないのはとても悲しい事です‥」
 無意識に誰かと重ねるようにして想う日和の表情は寂しげで辛そうだ。
 二人の真剣な眼差しと溢れんばかりの切なそうな想いに、梓は数秒ほど考え込んでから決心して二人を見上げた。
「分かりました‥。私カノが大好きなんです。だから‥‥この子をこれ以上苦しめたくないの‥」
 目の前にカノはいるが感情が高ぶって手が震えて感覚がないせいで温かさを感じないのか、カノは死んでしまった事を物語っているのか梓にはよく分からない。
 ただ‥‥
「「もう一度でいいから逢いたい‥‥」」
  毎日願ってきた願い事、それが叶ったのは事実なのだから、とそう考えることしか出来なかった。


「でも、私‥‥なにをすれば、歌を歌いたくても声が‥‥」
 梓は声がでないと話す。新たな事実が日和と悠宇に伝えられる。
 だが、二人は動揺する事なく、すぐに悠宇の方が面白い提案を思いつく。

「なぁ。確か、梓ってコーラス部だったよな? いつもの練習場所で歌うってのはどうだ?」
 突発的な提案に梓は戸惑う。だが、善は急げとばかりに悠宇は梓を外に連れ出すいい機会だとも考えながら学校へと誘導した。



●失われた歌声
「あれ? 誰も居ない‥‥」
 梓の通う高校の講堂へと来たが中には誰もおらず、日和の声が微かに響きわたる。
 話によると、今日はコーラス部の活動は休みのようだ。どちらにしても貸しきり状態で好都合である。
 銀は物珍しそうに講堂に設置されている座席に座る。その隣に悠宇は腰を下ろした。

「あの‥‥」
 突然、舞台に立たされて梓は戸惑いと照れを感じるが、慣れ親しんでいる舞台を久々に見て少しほっとする一面もあった。
 しばらく、佇んでぼーとしていると美しいチェロの音色が耳に聞こえる。
 振り返ると日和がいた。奏でるチェロの音色は優しくて心地よい。日和が選んだ曲は二人にとって想い出深い曲、二人がよく歌っていた曲である。
 イントロが奏でられ、歌の出だしのパートになったが、梓は歌うことが出来ない。焦らせないように落ち着いた様子で音楽を止めずにそのまま奏で続けた。


「あっ‥‥」
 銀の膝に腰を下ろしていたカノが突然羽ばたいて舞台の方へと不器用ながらに向かって飛ぶ。連れ戻そうとした銀の腕を掴んで、悠宇は引き止める。

「ちゅん、ちゅん」
 日和の前に落下したカノは痛そうな様子を見せる所か嬉しそうにチェロの音色に合わせて自分なりに必死に歌う。
 聞きなれた歌声、もう聞けないと思っていた可愛らしい泣き声に梓は涙をみせた。
「ら‥ララ」
 泣いているせいで、声が上手く出ないが嬉しそうに梓はカノと歌をゆっくりと歌い始めた。
 歌い終わる頃には梓の表情は和らいでいた。けれど無情にも演奏が終わりを告げる。
 突然、カノの体が薄らぎ始めた。
「カノ!」
「梓さん‥‥カノさんはもう旅立たなくては‥」
 それは成仏を意味し、二度と逢えない事を意味する。それでも、しっかりと最後まで見届ける為にも現実的な一言を梓に日和は伝える。

「カノ‥カノ‥好きよ」
 最後に伝えた梓の言葉はたった一言だった。




――――――帰り道。
「悠宇、なんだか少し寂しいわね」
 隣を歩く日和は寂しそうに俯いている。しょんぼりとする日和を元気つける為に手を握る。
「ほら、温かいだろ?」
 自分が生きている証を自分なりに表現する。
 きょとんとする日和の顔がすぐに和らいで優しい微笑みに変わる。
 日和の笑顔に悠宇は癒され、なんだか自分まで嬉しくなった。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
3525/羽角・悠宇 (はすみ・ゆう)/男/16/高校生
3524/初瀬・日和 (はつせ・ひより)/女/16/高校生


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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、葵桜です。そしてお久しぶりです。
またこうして、お二方のお話をかけてとても楽しかったです。
なによりも楽しんで読んで頂ければすごく嬉しく思います。


そろそろ紅葉がとても美しい頃ですよね。
秋は春と同じくらい大好きです♪
寒いのも暑いのも苦手で(ぁ
観光にはもってこいですし、私は近くのお寺でも巡って
みようかと思案中です。
日和さんと悠宇さんは何処かお出かけになりますか?