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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


万華鏡の秘密

□Opening
「ん? これは、一体何だってんだい?」
 それを覗き込んでいた碧摩・蓮は、たいそう不機嫌そうに相手を睨んだ。
「ええ? ちょいと失礼……ああ、あぁ、これは」
 睨まれた相手も、それを覗き込んでから、焦りため息を漏らした。
 その手には、美しく上品に光る綺麗な筒。小さな覗き穴からその世界を覗いたなら、幾何学の模様がくるくる踊る万華鏡だった。
 勿論、蓮の取り扱う商品だ。普通の万華鏡であるはずが無い。
「確か、姫達が美しく踊り舞うんだよねぇ? あ?」
 蓮に睨まれ、それを納品した業者はたじたじと数歩後ろに下がった。
「いえ、こりゃあ、その……、実は良くあることなんですがね」
 そして、冷や汗を吹きながら、かたかたと腕を震わす。
「万華鏡の姫達を狙う、ウイルスでさぁ」
 そうなのだ。
 蓮が期待して覗き込んだのに、そこに現われたのは、鏡の世界で醜く歪む何やらどす黒い塊だった。どろりどろりと、意志を持ったそれは散漫な動きで鏡の世界をはっていた。
「……、へぇ、面白い事を言うじゃないか」
 しかし、蓮は非常にご機嫌が宜しくなくなった。自分を落ちつけようと、普段よりもゆっくりと煙を吸い込む。
「お、お、落ちついてください! このウイルスが入り込んだら、姫達は鏡のどこかに隠れてもう出てきやしません」
「じゃあ、どうするってんだい? ああ?」
 しかし、業者の言葉が蓮を落ちつける事など無かった。
「あ、あ、あのですね、ほら幸いこの万華鏡の世界に入り込める鏡もこちらに……、あ、あの、物理的に叩いたり焼いたりしたら消えますか……ら」
 業者は、万華鏡とお揃いの枠を持つ上品な鏡を鞄から取り出した。
 だんっ、と、その時机が割れんばかりの、闇を引き裂くような音が響く。
 蓮が、机を叩いたからだ。
「勿論、差し上げます、差し上げますからっ、すんませぇぇぇん」
 あまりの剣幕に、業者は、万華鏡と鏡を蓮に差し出すと、そのまま一目散に逃げ出した。
「あ、ちょっと、あんたが逃げたら、誰が万華鏡の中に入り込むんだよっ」
 いや、本当に。
 一体誰が、このウイルスを退治してくれるのか。
 蓮は、誰か頼める者はと、辺りを見まわした。

■03
 事情を聞き、蓮の手に有る万華鏡を見ながら、シュライン・エマはちょっと考える仕草を見せた。
「駆除するのは構わないんだけど……、そのウイルスって万華鏡の中に入ったらどれくらいの大きさになるのかしら?」
 鏡を通して万華鏡の中に入る身としては、知っておきたい情報だ。
 いや、そもそも、万華鏡の中に入ると言う事事態がイレギュラーだ。しかし、蓮の商品だし、入れるといったら入れるのだろう。
 覗いた万華鏡の中では、黒い塊がうぞうぞ動いていた。その塊は、こうしてみると片手で納まるほどの小さな塊の様だったが、それが実際に自分達も同じ土俵に上がるとなるときっと変ってくると思う。つまり、自分達はどの程度の大きさになって万華鏡の世界へ入るのか? いや、それは物理的に小さくなるだけなのか? 謎だらけだった。
「すまないね、実は、詳しく把握しているわけじゃないんだよ」
 蓮は、シュラインの言葉に苦しい表情を見せため息をついた。
「意志疎通はどうかしら? 説得して出て行ってもらうとか」
 その塊は意志を持って動いている様だった。それならばと、一応確認をしてみる。しかし、その提案に蓮は首を横に振った。
「何度か呼びかけたりはしてみたんだがねぇ、全く反応が無い」
 それは、あくまで万華鏡の外からと言う事らしいが、望みは薄いと考えた方が良いだろう。
 それならば、仕方が無い、か。行って見るしかない。シュラインは神妙に頷いた。

□05
 と、言うわけで、海原・みなも、弓削・森羅、シュライン・エマ、樋口・真帆の四名は万華鏡と鏡を持つ蓮の回りをぐるりと取り囲む様に集まっていた。
「実際に相手がどう言うモノかはっきりと分からない以上、正面きって攻めるには不安が有るわ」
 シュラインは、冷静な意見を述べた。実際に入って見なければ分からないのだけれども、何の策も無しに飛び込むのは危険だと言う判断。
 皆も、一様に頷いた。
「ええと、ウイルスは姫様達を狙ってるのよね?」
 確認のように蓮に問い掛ける。ああ、と、頷く蓮。
「だったら、鏡の一面に姫様のような映像を映し出して誘い出すと言うのはどうかしら」
 つまり、オトリを用意して出てきたウイルスを狙って叩くと。
「例えば、ペンライトにそれらしい写真を張りつけて簡易の投影機にしてみるとか」
 シュラインの提案に、森羅が手を挙げた。
「オトリってのは、賛成、ウイルスが何をしでかすか分からないからな、オトリにはこれでどうだ?」
 森羅が取り出したのは幾枚かの符だった。
 軽く『力』を込めると、それがひらひらと舞う。元来浄化や結界形成と言った符術は、しかしこの場でオトリにはもってこいのように思われる。なるほどね、とシュライン、そして皆も同じに頷いた。
「あの、それじゃ私はウイルス退治、頑張ります」
 オトリにおびき出されて出てきたところを叩けば良いだろう。真帆はぎゅっと箒を握り締め名乗り出た。
「あたしは、その、みなさんのお手伝いをします」
 みなもは、特別な攻撃の手段を持つわけではなかったし、格闘が得意と言うわけでもなかった。けれど、細やかな手伝いや補助は必ず必要になるだろう。
 何より、
「どんなお姫様なんでしょう」
 気になる。
 できれば、鏡の中の姫様達と踊ってみたいかもしれない。
「私も、見てみたいです」
 みなもの言葉に、真帆もにこにこと頷いた。これから何が起こるか分からない鏡の中へ飛び込もうと言う時に、二人の笑顔は皆の緊張を解きほぐす。
「ウイルスがどうなっているかは、蓮さんに見て貰えるかしら?」
 シュラインは、最後に蓮に確認を取る。
 万華鏡の外から全体を見渡せる蓮は、状況を把握する役目にもってこいだった。
「分かった、報告する様にするよ、じゃあ、よろしく頼む」
 さて、蓮の一声に、順に鏡の中へと足を進めた。

□06
『結界形成』
 りんとした森羅の言葉に従う様に、その場に結界が張られた。
『ゆっくりだけど、動き出したよ』
「あ、ゆっくりですけど、動き出したようです」
 扉の向こう、蓮の声を皆に伝えたのはみなも。皆は、その言葉にさっと持ち位置へ移動した。


 鏡の中に入ると、目の前に扉が見えた。
 その扉を開くと、ぐるりと走りまわれるような広場が見える。広場、いや、何枚かの鏡で囲まれた空間と言った方が正しいだろう。
「鏡の迷路みたいなもんか?」
 森羅はその空間をこつこつと歩きながら呟いた。鏡に映る森羅達もそれにあわせて移動する。鏡にはそれぞれ扉がついており、扉を開くとまた鏡の空間が広がっていた。
「ミラーハウスみたいな感じですね」
 真帆は、森羅の後に続く様にそろそろと歩く。むやみに扉を開いて飛び込むと、帰る事ができなくなりそうだった。ぐるりと回りを見渡すと、鏡の中の自分もこちらを見ていた。
「燃やすとなると、換気が心配ねぇ」
 シュラインは、鏡の空間でずっと上を見上げる。
 勿論、鏡の中のシュラインも、同じように上を見上げる。
「燃やすんですか?」
 その後ろで、最後に鏡の中に入ったみなもは驚いた様にシュラインを見た。と言うのも、シュラインは大掛かりな装置を持っているわけでもなかったし、符術や魔法のような特別な力を用意したようでもなかったから驚いたのだ。
「ええ、叩くには固さが不安だしね」
 シュラインの笑顔に、少し勇気を分けてもらった気がした。
『聞こえるかい? まだウイルスはあんた達からずっと遠い』
「え? まだ遠いんですか?」
 みなもの言葉に、遠くで鏡の扉を確かめていた森羅と真帆が振り向いた。シュラインも、不思議そうにみなもを見る。
 みなもは、皆の反応に首を傾げた。
 今、確かに背後から蓮の声が聞こえたのだ。それが、皆には聞こえなかった? 自分の真後ろに有る扉に手をかけ、皆の視線を感じながら蓮に呼びかける。
「蓮さん、私達が見えますか?」
『ああ、あんた達と比べると、やっぱりウイルスは随分大きい様だよ』
 今度は、はっきりと蓮の声を確認した。
「どうやら、扉に触れるかよっぽど近くにいないとやり取りは難しいようね」
 気が付けば、シュラインがみなものすぐ後ろで耳を済ませていた。彼女の耳で蓮の最初の声が聞き取れなかったのだから、少しでも扉から離れると、やり取りは難しいのだろう。
 みなもは頷き、ウイルスが随分大きな物だと皆に伝えた。
「伝令役一人、それを守る後方一人、後は攻撃役をお願いできる?」
 それは、シュラインの提案だった。
 とにかく、状況を把握する必要がある。それには、全体を見渡せる蓮との連絡が必要不可欠。そして、扉に手をかけるため戦闘には加われない伝令役を守るものも必要だと思ったのだ。
「オッケー、じゃあ、あの辺にオトリをしかけるか」
 鏡の空間を散策していた森羅と真帆も一旦最初の扉に集まった。
 そして、森羅はこの場所から一番遠い、鏡を指差した。多分、そこが前線になるだろう。手持ちの符を確認する。十分に動き回れそうだが、危ないならこれが役に立つだろう。
「そうですね、別の鏡の部屋だと、迷子になりそうです」
 真帆も、その意見に頷いた。
 手にはしっかりと握り締めた箒。ウイルスには、精霊術で対抗するつもりだ。それでも駄目ならとっておきも有る。
「ここは、一応結界も張ろう」
 森羅の提案にシュラインが頷く。
 蓮との連絡手段はどうやら一つだけ。また、ここを守ると言う事は、結果的に退路を確保すると言う意味でも重要だった。
「私はこの辺りで近づいて来たウイルスを何とかするから」
 伝令役にと、扉に手をかけるみなもを安心させる様に、シュラインは笑顔を向けた。
 その笑顔が、何だかとても頼もしい。
 みなもは、ぐるりと皆を見てから、その作戦を蓮に伝えた。


 ひらひらと舞う符を皆が見上げた。
『うん、見えるその符を目指している様だ、もうすぐ届くよ』
「符を目指して来ているそうです、もうすぐ現われるはずです」
 みなもは小声でシュラインにそれを伝える。シュラインは、頷き遠くの鏡の扉の前でかがむ二人にもうすぐだと手振りで伝えた。
 万が一、ウイルスに迎撃作戦を知られるといけない。それゆえ、声を張り上げる事は出来なかった。みなもの小さな小さな声を聞き分けるシュライン。後方を守りながら小声を聞き分ける役目は、聴覚の鋭いシュラインにこそ適任だった。
 鏡の強度を確かめ、足場にするには十分だと森羅は思う。万華鏡の中なのだ。鏡を割ってしまってはいけない。慎重に身を屈めながら、森羅は自らの操る符を見上げた。
 きょろきょろと辺りを見まわすと、鏡の中の自分もきょろきょろと首を振った。やっぱり、ミラーハウスだ。ちょっとどきどきするかも。手の中の箒を握り締め、真帆はいつでも精霊術を繰り出せる様にと気合を入れた。

■07
「って言うか、でかっ」
 開口一番の森羅の声が鏡張りの空間に響いた。
 鏡と鏡の隙間から、それは現われたのだ。思わず突っ込まずには居られぬでかさ。オトリの符はすぐにそれに飲み込まれてしまった。鏡張りのこの空間を上空から埋め尽さんばかりの、その黒い塊。それはゆっくりと確実に森羅に迫っていた。
 沢山の小さな物体が集まったものでは無い。一つの大きな塊が、形を変えて進んでいる。
「取り敢えず、行くぞっ」
 足場を確認し、森羅は勢いをつけてウイルスに向かった。
 そのまま力を拳に乗せ、力任せに殴る。すると、どうだろう、殴った場所がぱさりと消えて行った。うねうねと動くウイルスを避けながら、また殴る。消える。殴る。消えて……、別の場所から補完される。
 殴って消し去っていると言うよりは、ウイルスを少しずつ削り取っている様だった。
 それに定まった姿は無く、消えた場所を補う様にすぐに形が変わる。森羅は、その塊に取り囲まれない様動き回りながら、ウイルスを少しずつ削って行った。

■08
「風よっ、舞えっ」
 その反対側、真帆は箒を杖の代わりに精霊術を行使した。
 あまりの大きさに驚いたが、遠くに聞こえた森羅の声が丁度良い合図になったのだ。
 森羅の符が飲み込まれたので、もしかしたら通じないかもしれないと思ったが、いやそれが思った以上に黒い塊にぶつかりその巨体を揺さぶった。
「風よっ、躍れっ」
 それは、初歩の精霊術。しかし、巻き起こった風は、確実にウイルスを削り取っていた。効いている。効いているのだ。
 けれど……。
 うねりうねりと黒い塊は落ちてくる。
 削ったそこから、どんどんと形を整え、塊は真帆に向かってきていた。
「風よっ、切り裂けっ」
 箒の先から風が舞い躍る。黒い塊は、それが一つだった。大きな一つの塊が、形を変えながらそこに有るのだ。しかし、風で削れば、そこから増えて塊を整えているわけでは無さそう。あくまでも、形を変えて整えているだけだと感じた。
「えっと、このまま削って行けば大丈夫……?」
 しかし、それはどれくらいの作業になるのだろう。風を巻き起こしながら、真帆は首を傾げた。

□09
『徐々に、塊は小さくなっている様だ』
「塊は、少しずつちいさくなっているようです」
 鏡張りの空間の端と端。
 攻撃担当の二人が応戦をはじめてから、はじめて蓮の声を聞く。
 みなもは、結界の中でシュラインに声をかけた。鏡と鏡の隙間から現われたそれは、空間を埋め尽くすように、いや支配する様にうねうねと二人にも迫ってきた。
 しかし、森羅の結界がそれを許さない。
 結界に守られながら、シュラインとみなもは戦況を見ていた。
「そう、つまり増える事は無いのね?」
 みなもの声を聞きながら、シュラインはごそごそとポケットからそれを取り出した。結界に守られていると言えども、それがいつまで持つのか疑問だった。
 遠くでオトリに使った符が飲み込まれるのを見ていたからだ。
 それなら、こちらもウイルスの駆除に出た方が良い。
「はい、え? シュラインさん、それどうするんですか?」
 みなもは、シュラインの持つものに違和感を覚えた。
 他の二人とは一味違うその……、スプレー缶とライター。
「ふふ、良い子は真似しちゃ駄目なんだけど」
 そして、結界の境界線ぎりぎりまで足を進め、スプレーを噴射する。同時に、ライターの火を噴射口に近づけると……。
 ぼぅと勢い良く炎が上がる。
 不思議な力でもなく、魔法の道具でもない。
 現代科学の粋を集めた簡易火炎放射器はウイルスを確実に焼いた。勢いのついた炎があたりに燃えあがる。ぼうぼうと、確実に、ウイルスは焼かれて行った。
 辺りには、少し焦げ臭い匂いと、ウイルスを焼いた煙。煙は上空に昇って行く。
「うーん、やっぱり換気がちょっと心配ね」
 スプレー缶には、大きく『火気厳禁』の文字が印刷されていた。いや、本当、良い子は真似しないでください。
 シュラインは煙の先を見上げながら苦笑した。
「あ、シュラインさん、左からっ」
 みなもは、ウイルスが形を変え、焼かれた部分を補う様を見ていた。的確にそれをシュラインに伝え、シュラインはまたウイルスを焼く。
 二人は、着実にウイルスの質量を減らしていった。

□10
「はぁ、このままじゃ埒があかないな」
 森羅がポツリと呟く。
 遠くからみなもの声が届く。それによると、ウイルスは確実に小さくなっているようだ。
 けれど、元があまりに大きすぎるのだ。
 殴っても殴っても、焼け石に水のような気がしてきた。
「そのうち、私達のほうが疲れちゃいます〜」
 反対側から、真帆の声を聞いた。
 どうやら、確実に両側からウイルスを削っている様だったが、お互いスタミナの限界を感じて来ているようだった。
「一気にケリ、つけられるか?」
 森羅は、ウイルスを上手く避けながら、真帆へ走り寄った。
 見上げると、ウイルスは塊と言うよりも四方に足を伸ばし、鏡の部屋につっぱっているヒトデのようになっていた。確かに、質量が減ってきて、塊で部屋を塞ぐほどでは無くなっているのだろう。
「と言うわけで、大技無い? あれを一撃で無くすような」
 森羅に問われ、真帆はしばし考えた。
 使い魔の『すふれ』を分身させて、多方から叩くのはどうか? いや、それでは、今自分達がとっている方法と変わりはしないか。
「はい、じゃあ、夢幻術で応戦してみます」
 それは、とっておきだった。
 その方法があるのなら、考えている暇も惜しい。
 森羅は、符を構え、簡単に方法を説明する。つまり、
「符で結界を張りあの塊を一箇所に集めるから、そこを狙ってぶちこんで」
 あ、鏡を割っちゃわないように、と付け足し念を押す。
 真帆はその言葉に、そっかそうですよね、万華鏡の中だもんねとくすくす笑った。
「よし、行くぞ」
 森羅が符に力を込める。
「はい、いつでもどうぞ」
 真帆が精神を集中させる。
『走れっ、結界……、捕縛』
 独学とは言え、それは見事な符術だった。森羅の放った符は、鏡に張りつくウイルスをそこだけ切取り空に浮かせた。その後、拡散せぬよう符の結界で捕縛する。
「……、行きますっ」
 真帆は、その様を確認し、夢幻術を行使した。
『舞うは幻、散るは花……暗く翳りし鏡の中に、舞い散れ、踊れ、夢色の花よ』
 今までの風とは違う、色とりどりの光りの欠片が、鏡の部屋を舞い躍った。きらきらと光り、鏡は幾重にもその光達を捉え、また、輝いた。
 それは、まさに、万華鏡の中の万華鏡。
 美しい光達が、ウイルスを消去して行く。
 一つ所に固まった塊が、光に飲み込まれ、光の中に消えて行った。
「わぁ、綺麗、素敵ですっ」
 光の乱舞と鏡の競演を、みなもは眩しそうに見ていた。
 シュラインも、その様子に目を細めしばし見入る。
『何だい? 急に光ったと思ったら……、ん、ウイルスも消えたようだよ』
 蓮の声を聞いたみなもは、慌ててその事を皆に伝えたのだった。

□Ending
 光が消えたその部屋は、元通り、鏡で囲まれたミラーハウス。
 四人は扉の前に集まりその様子を見ていた。
 ぱたり、と、どこかの鏡の扉が開く。そこから、ひらひらの服を着た少女のような姫が顔を出した。こちらから一人、あちらからも一人。一人また一人と彼女達は現われ、そしてひらひらと踊りをはじめた。
 音楽は、彼女達の楽しい歌声。
 躍りましょう、鏡の中で。
 躍りましょう、貴方と私。
 くすくすと姫様たちは笑う。その中の一人が、みなもの腕を引いた。いつの間にか、鏡の部屋は舞踏会場。楽しげにくるくると姫達は舞う。みなもは見よう見真似で姫と二人踊った。今だけは、楽しい現実。少しだけ気持ちを晴らし、逃避した現実を楽しもう。
 別の扉から出てきた姫が真帆の手を取った。真帆よりも少しだけ小さな姫は、真帆と一緒にくるくる回る。鏡と鏡が真帆の姿を映し出し、真帆達は光の中を楽しく踊った。
 その次に二人の姫がシュラインの手を一つずつ取る。ねぇ、あのウイルスって結局何なの? と、シュラインはこっそり踊る姫に耳打ち。すると姫は、あれは外からやってくるの。怖いの。怖いの。だから、ありがとうとにっこり笑った。シュラインも、舞踏会の主役。姫達と共に一時楽しく踊った。
 森羅の手を取った姫は、跳ねながら楽しく踊る。やっぱ、面白いな、と森羅が笑う。それにあわせて姫達も笑った。くすくすと姫達のご機嫌な笑い声。まるで夢の中に居るようだった。森羅はそれを楽しみ、姫と一緒にくるりと躍った。

□Special mention
「お帰り、楽しかったかい?」
 皆の躍る姿を眺めていたのだろう。鏡から出てきた四人を蓮が迎えた。
 笑顔を浮かべるみなも。
 にこにこと満足そうな真帆。
 ああ、面白かったと、森羅も頷いた。
「ふふ、ところで蓮さん、ウイルスってね外からやってくるんだって」
 シュラインは、微笑んで姫から得た情報を蓮に伝えた。
 外からやってくる。
 と言う事は、入り口を塞げば、外からやってくる事は無い。
 蓮はその言葉に、鏡をじっと見た。
 四人が出入りした鏡。万華鏡とお揃いの枠を持つその鏡。
 ああ、つまり、その鏡こそウイルスの入り口か。蓮は頷き、鏡をおごそかに封印した。
<End>


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1252 / 海原・みなも / 女 / 13歳 / 中学生】
【6608 / 弓削・森羅 / 男 / 16歳 / 高校生】
【0086 / シュライン・エマ / 女 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【6458 / 樋口・真帆 / 女 / 17歳 / 高校生/見習い魔女】

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■         ライター通信          ■
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 この度は万華鏡のウイルス退治にご参加頂きましてありがとうございます。ライターのかぎです。鏡の中の世界はいかがでしたか? 無事ウイルスも退治できまして、良かったです。
 □部分は集合描写(2PC様以上が登場するシーン)、■部分は個別描写になります。ただし、今回は話の流れから一部個別描写も全員のノベルに記載致しました。

■シュライン・エマ様
 こんにちは、いつもご参加有難うございます。簡易火炎放射器とは恐れ入りました。なるほど、確かに強力な武器です。そして、ウイルスがどこから来るのか。この解明にもご尽力頂き有難うございます。 少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
 それでは、また機会がありましたらよろしくお願いします。