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<東京怪談・PCゲームノベル>


IF 〜神様と巫女4〜


 ここは世界の半分が神様の世界。
 ここは世界の半分が巫女の世界。
 無秩序に見えて不思議と調和は取れている。
 理由は、とても単純。
 やるべき事、すでに決められていることがあるからだ。
 神様は何を司るか。
 巫女は誰に仕えるか。
 今日の天気。
 明日の風の強さ。
 ずっと先に花が咲く日すら同じく。
 それだけではない。
 恋人、仕事、そして未来にいたるまで決められているから保たれている調和。
 不自然に思う人もいるかも知れないが、それがこの世界の定めだ。
 もちろん自由になることもある。
 巫女にとっては神様に祈ること。
 神様にとっては巫女を自由にすること。
 唯一にして無二の自由な存在。
 それが巫女と神様のあたり前の関係。
 何時も通り続く日常の光景。



「終わったよ、みなもっ」
「ご苦労様です、神様」
 今日の神様も何時もと同じように、お勤めをするまでにたっぷりと時間をかけたのだった。
 楽しそうにみなもで遊ぶ神様は満足した後に、ようやくお勤めを始めてくれる。
 時間はほんの一瞬。
 みなもにとってもホッとするような、力が抜けるようなそんな瞬間だ。
「今日は何しようかなぁ」
 弾む声で悩んでいた神様は、少ししてから名案だとばかりに手をポンと叩く。
「今日はみなものお願い事を聞いてあげよう」
「え、ええっ!」
 また唐突な。
 確かに巫女であるみなもの欲望や願望を叶えられるのは神様だけだ。
 けれど願い事というのは突然言われてパッと出てくる物ではない。
「ええと……?」
「早く早くっ」
「ええっと……」
 悩むみなもをせき立てる神様。
 なんだかこの時点で新しい形でからかわれているような気がするが、気のせいだと願い事を考える。
 真面目に仕事してくださいは、言う前から無理な気がするから却下。
 遊ぶのをもう少し控えめに……というのも頭を過ぎったのだが、考えてから口にするほど嫌かというと違うような気がするので、今のもなかったことにする。
 他に何があるだろうか?
 休みをもらっても神様のことが気になって落ち着かなかったし、神様に何かをしてもらうのも気が引ける。
「ねえ、みなも」
「はい?」
 考え込んでいたみなもをのぞき込み、神様が楽しげに笑いながら言う。
 普段より大人しい、落ち着いた口調は自然と惹き付けられ話を聞く体勢へと変わっていく。
「神様って、祈ってくれる人が居て始めて神様になるんだ。だからもっと祈って、いろんな事を願ってみなも」
 神様は人の欲を叶える存在。
 とても強い力を持っているのに自由ではない。
 定められたことをする神様の一人。
 自由になるのは、二人の間だけでのこと。
「………」
「偶にはみなもから祈って」
「……はい、神様」
 言われたから祈るのではない。
 欲と言われて迷いもしたけれど、祈りはもっと素直になるべきだ。
 今思いつく、素直な気持ち。
 神様は何時だってそうしてきたではないか。
 とても楽しそうにしたいことをする。
 気付いて一歩を踏み出してしまえば、とても簡単なことだった。
 神様の前で両手を組み、跪く。
「私は……」
 すぐに答えられなかった欲の理由。
 口に出来ない恥ずかしいこともあるし、もっと表面的な事もある。
 色々な願い事は神様が叶えてくれていた。
 みなもが願うよりも早く。
 胸の前で組んでいた手を解き、両手を広げて神様のほうへと差し出す。
 片膝を少し前に出し、神様のすぐ目の前まで移動しそっとやさしく抱きしめる。
 祈るために膝をついたみなも顔に、神様の胸が来る程度の身長差。
 少年の見た目をした体は小さくて細くて、額がほんの少し触れるだけでドキドキした。
「そんなおっかなびっくりしなくても良いのに」
「そ、そうですね」
 カッと頬が熱くなる。
 背中を抱きしめる腕に力を込めるのをためらったのは、決して神様が小さかったからではない。
 みなものほうが緊張していたからだ。
 大切な神様にみなもから触れ、抱きしめることを。
 腕に力を入れ、少し強めに抱きしめる。
 すり寄せた頬から伝わる体温は暖かく、耳へと届く鼓動は心地よい。
 自然と瞼が重くなり、目を閉じたみなもの頭を神様の手が包み込むように抱きしめる。
「こうしてて、良いですか?」
「みなもらしいお願いだね。もちろんだよ」
「ありがとうございます、神様」
 くすくす笑う神様は、手持ちぶさたになった両手でみなもの髪をすいたり、小さな三つ編みを結って遊び始める。
「楽しい?」
「楽しいですし、嬉しいです」
 小刻みに聞こえる心臓の音。
 触れる前はあんなに緊張したのに、こうして落ち着いてしまうととても離れがたく感じずっとこうしていたくなった。
 神様のおもちゃにされて居る時は翻弄されるだけだけれど、いまは違う。
 ちゃんとみなもの体で触れることが出来る。
 他の何にも変えられていないみなもの体で、自分の意志で触れているのだ。
 それと、もうひとつ。
 この姿勢で抱きあって居ると、神様のほうが背が高いように感じるのだ。
 普段ならみなものほうが高いからこうはならない。もっとも……普段と言うほどみなもは神様を抱きしめた事なんてないのだが。
「……ふぁ」
「眠い?」
「はい、すこし」
 心地よくてこのまま眠ってしまいたいけれど、神様からも離れがたい。
 どうするかの答えは、すぐに得ることが出来た。
「このまま、寝ても良いですか?」
「いいよ、でもこのままじゃ痛いから」
 パチンと指を鳴らし、神様がみなもを抱きしめたまま横へと倒れ込む。
 痛みはなかった。
 二人の体を受けとめたのは大きくて柔らかい感触。
 肌触りの良い広いカーペットはとても寝心地がよかった。
「これでばっちり」
「はい……」
 眠そうな声で頷き、そのまま神様と寄り添うように抱きしめ合う。
 後はもう、眠りに落ちるまでほんの僅か。
「おやすみ、みなも」
「お休みなさい、神様……」
 微睡みに身を任せるみなもに、神様が囁く。
「起きたら、僕の番だよ」
「……え」
「何しようかなっ」
 くすくすと笑う声を聞きながら、みなもは深い眠りへと落ちてしまい声が出ない。
 起きたらどうなるかは、まだまだ先のことだと思いたいが……何時も通りの日常が待っていることは確かなようだ。



 願わくば……。
 明日の天気が決められているように。
 恋人や未来、自然に起きる現象が定められているこの世界と等しく。
 今日と同じ穏やかな日々が、これからも続きますように。



「おはよう、みなもっ」
「んっ、んん……」
 肩を叩かれ、重い瞼をどうにか開く。
 掌に伝わる柔らかい感触は眠った時とまったく同じだ。
「よく寝てたね」
「はい……え?」
 寝ぼけたまま頷いてしまってから、そんなに寝ていただろうかと辺りを見回すが時間の経過を計る物が何もない。
「ええと……」
 窓から見える空は寝る前とあまり変わっている様には見えない。
「うん、すっごく寝てたよ」
「……!?」
 気付いてしまった。
 よく寝たのに、時間が余り経っていないように感じたその理由を。
 答えは初めから一つしかなかったのだ。
「もう次の日だよ」
「ええええっ!」
 当然、目はこれ以上ないほどに覚め、勢いよく飛び起きる。
「一日? 一日って丸一日ですか!?」
「うん、よく寝てたから起こさなかったけど」
「お、起こしてください」
 慌てて今日する事はなんだったかを必死に思い出すが、混乱のほうが上回ってしまう。 余程疲れて板だとか、24時間も経っているなんて一体何事だとか。
 家に帰っていなかっただとかは置いておく。
 とにかく今は神様にお勤めを果たしてもらわないとならない。
 そう、これもまた何時も通り。
 どんな言葉が返ってくるか解っていても、それでもみなもは言わなければならないのだ。
「神様……お仕事は?」
「みなもが遊んでくれたらね」
 ニカッと笑うその表情と言ったら。
 今日は何が待っているのかと思うだけでどっと疲れがたまる思いである。
 けれど……みなもは祈ったのだ。
 何時までも日常が続きますようにと。
 神様に遊ばれるのもまた、願いの内かどうかは……みなもだけが知るところだ。





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1252/海原・みなも/女性/13/中学生】

 →もしも、全人口の半分が神様だったら?
 そして、残り半分がその神様に仕える巫女だったら?

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■         ライター通信          ■
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※注 パラレル設定です。
   本編とは関係ありません。
   くれぐれもこのノベルでイメージを固めたり
   こういう事があったなんて思わないようお願いします。

3話目の発注ありがとうございました。
今回はこのようになりましたが楽しんでいただけたら幸いです。