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紅の彼方
オープニング
投稿者:
件名 :お願いです。
本 文:お願いです。どうか私に茜色に染まる空を見せてください。
私は、占いを生業としている者です。
占いの結果、私はもうじき死んでしまうことが分かりました。
残念ですが、私の占いは今まで外れたことなどなく、今回もきっと外れないでしょう。
ですから、最後に茜色の空を誰かと見たいのです。
私が存在していた事を、誰かに覚えていてもらいたいのです。
ご迷惑だとは思いますが、どなたかご一緒していただけないでしょうか?
これは二日前にゴーストネットOFFに書き込まれた事。
内容が内容だけに、誰も返信をしていないらしく放置されている。
それを目にした貴方は返信を返した。
さて、貴方はどうしますか?
視点→森永・ここ阿
「…この人…もしかして…」
ゴーストネットOFFの掲示板に書き込まれた言葉を読んで、ここ阿は一人呟く。
ここ阿は以前、占い師に進路相談をしたことがあった。丁寧な言葉使い、礼儀正しそうな雰囲気、両方ともその時の占い師に酷似していた。
もし違う人物であっても、今まで『占い』という能力を駆使して人のために頑張ってきた人物なのだ。今度は誰かが、この人のために頑張ってもいいはず…そう心の中で呟きながらここ阿は返信をした。
投稿者:森永・ここ阿
件名 :希望について
本文 :はじめまして!ボク、森永・ここ阿って言います。掲示板に書き込んだ事で返信させてもらったよ!日時と落ち合う場所は任せるから、見る場所はボクに任せてくれないかな?
「送信…っと」
カチ、とキーを押して返信欄に書き込む。二日も放置されていたのだから返事が来るまでに時間がかかるかな…待っているとここ阿の予想を裏切り、すぐに返信が返ってきた。
投稿者:レオナ
件名 :ありがとうございます。
本文 :お返事をありがとうございました。出来るだけ早めがいいので明日はいかがでしょうか?
書き込まれた事を見て、ここ阿は返信をする前にネットで、明日天気が一番いい場所と方角を検索で探し出す。
パソコンの画面が『検索終了』という文字と地域が表示された。場所は意外にも近い場所だった。
「よし、返信しなきゃ」
ここ阿は一人呟くと、返信欄に書き込みをする。
投稿者:森永・ここ阿
件名 :明日について
本文 :OK!いい場所を見つけたよ!そんなに遠い場所じゃないから。何時にどこで待ち合わせする?
投稿者:レオナ
件名 :日時と待ち合わせ場所
本文 :明日の場所を明記しておきます。カフェ・モカに12時でいかがでしょう?
再び書き込まれてきた言葉に、ここ阿は「大丈夫だよ」と返事をしてネットカフェを後にする。レオナが指定してきたカフェ・モカという喫茶店は最近できたばかりの洒落た喫茶店だ。場所は少し遠いが、ここ阿の特殊能力である瞬間移動を使えば問題はない。ここ阿にとって距離はないに等しいのだから。
「あ、あったあった」
次の日の朝、ここ阿は一つのぬいぐるみを部屋を探して見つけ出していた。ここ阿が手にしているのはくたびれたゴリラのぬいぐるみ。幼い頃にここ阿が大切にしていた物だ。
時計を見ると、午前十一時を指していた。少し時間は早いが、ここ阿は待ち合わせ場所に向かう事にした。
「……ふぅ」
ここ阿は一度深呼吸をして、目に意識を集中させる。待ち合わせのカフェ・モカに近い空間の隙間を探しているのだ。
「見つけたっ」
呟くと、ここ阿はカッと瞳を見開き目的地の場所へと瞬間移動をする。着いた先は女子トイレの個室。人がいないので騒がれることもなかった。外に出ると目の前に『カフェ・モカ』と書かれた看板を見つける。
「…あの人かな」
外からでも店の中が見えるようになっており、窓際の席に座っている一人の女性に目が行った。その女性は儚げに見えたが、芯の強そうな女性にも見えた。
「えっと、レオナさん…ですか?」
ここ阿が話しかけると女性は「えぇ、そうですわ。森永・ここ阿さん」とにっこりと品の良い笑みを向けてきた。
「立ち話もなんですし、お掛けになってください」
レオナに促され、ここ阿はレオナの向かいの席に座る…と同時にウェイトレスが飲み物を持ってくる。
「…これ」
ウェイトレスが持ってきたのは、ここ阿が好きな飲み物だった。
「お好きなんですよね?」
「うん、よく分かったね」
「伊達に占い師の看板を掲げているわけではありませんわ」
ふふ、と笑う姿も消えてしまいそうな儚いものだった。
「これ飲んだら、すぐに行こうよ。きっと気に入るはずだよ」
「えぇ、分かりました」
くい、とレオナは飲みかけの珈琲を飲み干す。ここ阿も渡されたジュースを飲み干した。
そして、ここ阿はレオナを人気のない場所に連れて行くと「目を閉じてて」と伝える。
「目を、ですか?」
何故?とでも言いたそうな表情に「慣れてないと酔うから」と短く告げる。何に?とレオナが問いかけようとした時、ふわり宙を浮くような感覚が襲ってくる。
「きゃ…」
そしてネットで探した場所に近い空間の隙間を探す。二人が目を開いたときにはもう、目の前は海だった。
「うわぁ…」
レオナは感嘆のため息を漏らす。
「すごい事が出来るんですね、ここ阿さんは」
「そうかな?」
レオナは砂浜の上に腰を下ろし「綺麗ですね」とここ阿に言葉を投げかけてきた。
それから二人は日が落ちかける時まで世間話に花を咲かせた。
「綺麗…。最後に会えたのが貴方で良かった」
オレンジ色に染まっていく海と空を見つめながら、レオナは小さく呟く。
「あ、そうだ」
ここ阿は呟いて、バッグの中からくたびれたゴリラのぬいぐるみを取り出す。
「これね、ボクが子供の頃からの友達なんだ。ボクの代わりに一緒にいてくれないかな」
「え?」
ここ阿の言葉の意図が分からず、困惑しながらぬいぐるみとここ阿とを見比べる。
「いつかまた会った時に返してくれればいいから」
「で、でも…私は」
死ぬんですよ、その言葉を言わせないように、ここ阿はぬいぐるみを「いいから」といって押し付ける。
「…分かりました」
ここ阿の意図を読み取ったのか、レオナは儚げに笑った。
「ありがとう、お返しするその日まで大事に持っておきます」
そして、二人は別れた。
その後、ここ阿はあえてレオナの消息を探そうとはしなかった。ぬいぐるみを渡したとき、会えないことを承知で大事なぬいぐるみを渡したのだから。
もしかしたら、いつか街のどこかで会えたらいいな、そう思わずにはいられないここ阿だった―…。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【0801 / 森永・ここ阿 / 女 / 17 / 高校生】
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■ ライター通信 ■
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森永・ここ阿様>
はじめまして。
今回『紅の彼方』を執筆させていただきました瀬皇緋澄と申します。
このたびは発注をありがとうございました^^
内容はいかがだったでしょうか?
満足していただけるものに仕上がっていたら、嬉しい限りです^^
それでは、またお会いできる事を祈りつつ、失礼します。
−瀬皇緋澄
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