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『解放の刻(とき)』
◆プロローグ◆
(もう、そんな時期か……)
軽い頭痛にも似た違和感を覚えて、繭神陽一郎(まゆがみ よういちろう)は読んでいた文庫本から顔を上げた。
放課後の教室。キリの良いところまで読み終えたら帰ろうと思っていた矢先の出来事だった。
(さっそく宿主を決めたか。気の早いことだ……)
眼鏡の位置を直しながら、切れ長の細い目を中等部の方に向ける。
ついさっきまで微弱なモノでしかなかった闇の波動は、今や眠っていても感じ取れるほどにまでなって定着していた。
(しょうがない、な……)
文庫本を閉じ、重い腰を上げる。
眉に掛かる程度で切りそろえられたストレートの黒髪を、神経質そうに整えながら、陽一郎は鞄に手を掛けた。
「繭神センパイいる!?」
鞄に本をしまおうとしたところで突然名前を呼ばれた。声の方に視線だけを向ける。教室の出入り口で息を荒げ、壮絶な表情で室内を見回していたのは、紅い大きなリボンをした女の子だった。
瀬名雫(せな しずく)だ。この神聖都学園で彼女を知らない者はいない。他者の追随を許すこと無く、常にダントツトップを維持し続ける比類無きトラブルメーカーだ。
「繭神センパイ!」
雫は陽一郎を見つけ、切羽詰まった顔を押しつけんばかりに急接近して来た。
「お願い! ヒミコちゃんが大変なの! 助けて!」
「……話が見えないな」
いきなりの闖入者にもまったく表情を崩すことなく、陽一郎は彫りの深い秀麗な顔立ちを雫に向ける。
「ヒミコちゃんがおかしくなっちゃったの! いきなり乱暴になって! さっき部室の窓から飛び出していったの!」
(取り憑いたのはヒミコという少女、か……)
内面を消したような硬質的な表情のまま、陽一郎はさっきのことを考えながら一人納得した。
「繭神ちゃんってああいうの何とか出来るんでしょ!?」
(繭神ちゃん……)
いきなり馴れ馴れしく呼ばれたことに少しムッとしながらも、陽一郎は顔色を変えないまま返す。
「私には関係のないことだね」
「関係ないって……同じ学園の生徒がピンチなんだよ!? 陽ちゃんは何とも思わないの!?」
(陽ちゃん……)
さらに馴れ馴れしさを増した呼称に、さすがの陽一郎も片眉が痙攣するのを覚えた。
「私はヒミコと言う女の子と面識があるわけではない」
「面識なんてあってもなくてもいいから、とにかく助けて!」
「助けたところで私に何の得があるんだ?」
まるでやる気を感じさせない陽一郎に雫も痺れを切らしたのか、涙目になりながら叫ぶ。
「もういいよ! 他の人探すから! 一郎のバカ!」
(い、一郎って……)
眉間に皺を寄せながら、陽一郎は教室から出ていく小さな背中を険しい表情で見つめた。
そして深く溜息をついた後、闇の波動を追って教室を後にしたのだった。
◆PC:陸玖翠(りく みどり)◆
コイツと一緒に過ごすのはまんざらではない。いや、比較的楽しい部類に入るか。
「まぁそこで私がした犬の鳴き真似に、幼稚園児からダメ出しが入ったのだが……聞いているか? 翠」
都心から僅かに外れた場所にある高級カフェ『ブラック・ブラック・ブラック』、通称BBB。名前の通りブラック無糖のコーヒーしか出さないことにこだわり続ける老舗だ。
そこの一階にあるオープンテラス。
紅い夕日を浴びながら、陸玖翠は本日十三杯目のコーヒーをお代わりした。
「ああ、聞いている。きっとその幼稚園児は将来のトップブリーダーを約束された、超天才なのだろうな」
背中まで伸びた長い黒髪を梳きながら、翠は運ばれて来たコーヒーに口を付ける。
「そうなんだよ。『三べん回ってワンと鳴け』という命令には、聞く者を無条件で服従させる圧倒的な威圧感と、ソレを喜んで受け入れさせるカリスマ性が内包されていた」
目の前で三十二杯目のコーヒーを飲み干した黒ずくめの男、ジェームズ・ブラックマンは感心したように何度も頷いた。
この男を一言で言い表すとすれば『ピータンから生まれた黒太郎』といったところか。
早い話が黒一色という言うわけだ。
髪の毛、着ているスーツ、履いている靴、そして恐らくは脳味噌までもが。
自分も黒い服装は好んで着る。今日も黒のカーターシャツに、同色のストレートパンツ。首には黒曜石をはめ込んだネックレスをしている。
「なるほど。つまりお前は幼稚園児に虐げられることに、ある種の悦びを覚え始めたわけだな」
それだけに気は合う。一緒に語り合っていても楽しい。
ただ、唯一問題点があるとすれば、
「そうなんだよ。実は先日、ついに主従の関係を結んでしまってな。今日もコレから散歩に連れて行って貰う予定だ」
二人ともボケでツッコミがいないことか。
全く収束の気配が見えない会話。この状態で、かれこれ二時間は経過していた。
(……面倒臭くなってきたな)
ふと、そんな思いが胸中によぎった――その時だった。
「ブロオォォォォォクッ!」
雄叫びを上げた少女が体ごとブラックマンにぶつかって来る。
もう少し正確に言うなら『足から』、だが。
「ブロック! 大変なの! ヒミコちゃんが! いいから手を貸して!」
自分のドロップキックで轟沈させたブラックマンに、少女は小さな体を目一杯使って焦っている様を表現した。
「……雫。ソレよりも前に言うべきことがあるんじゃないのか?」
髪から滴るコーヒーと、顔に突き刺さったカップの破片をゆっくり排除しながら、ブラックマンは静かな口調で言う。
(ようやくツッコミが入ったな)
目の前の寸劇を眉一つ動かすことなく見ながら、翠は半眼になってコーヒーを一すすりした。
「いいから来て! ヒミコちゃんがおかしくなっちゃったの! なんとかしてよブロック!」
栗色の髪を纏めた紅く大きなリボンをブンブン揺らしながら、雫は切羽詰まった様子でブラックマンの腕にすがりつく。
「まぁ落ち着け、瀬名殿。コーヒーでも飲んでゆっくり話してみろ。そうでなければ手を貸そうにも貸せない」
収まりのつかない雫に、翠はすました顔で言った。
「む。それは賛同しかねるぞ、翠。雫はまだお子様。コーヒー牛乳で十分だ」
「なるほど、一理あるな。では私が授乳できるようなるまで待っていて貰おうか」
「待てるか!」
即座に雫のツッコミが入る。
ソレを満足げな顔で聞きながら、翠は何度も頷いた。
「で、どうしたのだ。瀬名殿」
大声でツッコんで幾分落ち着いた様子の雫に、翠は改めて聞く。
「え? えぇ、と……ババ茶だっけ?」
「翠だ」
「そぅ、翠! 大変なのよ! 翠ちゃん! あなたも手を貸して!」
致命的な間違いを一瞬で無かったことにして、雫はまくし立てる。
「ヒミコちゃんが変なのに取り憑かれたみたいなの!」
「ヒミコ……ああ、影沼殿か」
会ったことはないが噂は聞いたことがある。確か雫の大親友だったはずだ。
「ねぇお願い! ヒミコちゃん助けて!」
雫は必死の形相で翠にしがみ付いてくる。
引き受ける理由もないが、断る理由も無い。それにこれだけ懇願されているのに無下に扱ったのでは寝覚めが悪い。
「まぁ、私も陰陽師のはしくれ。コレも何かの縁か。取りあえず前向きに善処しようではしないか。で、影沼殿は今どこに?」
「…………」
聞く翠に雫は沈黙で返した。
「ブロック! 何とかならない!?」
即座に後ろを振り向いて、ブラックマンに話をふる。
「ブロックマン……直訳すれば塊男、か……。悪くない」
「塊と言えば先日、私の実家からぬかみその塊が届いてな。あれは処理に困った」
「ぬかみそと言えば漬け物だな」
「漬け物と言えばおばあちゃんの味だ」
「おばあちゃんと言えば皺くちゃだな」
「皺と言えばアイロンだ」
「アイロンは鉄」
「鉄は塊」
「すなわちブロック」
「めでたく一周したじゃないか」
『あっはっはっはっは』
「話を逸らすな!」
ツッコむ雫に、翠とブラックマンは鷹揚に頷いた。
「わかった雫。お前のその熱意、しかと受け止めた。翠」
「ああ。面倒だが仕方ない」
言いながら翠は懐から黒い呪符を取り出すと、宙に舞わせる。呪符は空気抵抗を無視して一直線に落下し、翠の影に張り付いた。次の瞬間、呪符が不自然に盛り上がったかと思うと、下から黒い物体が姿を現す。
正三角形の耳、碧色の双眸、針金のようにピンと張った髭、しなやかな体、でん部からすらりと伸びる尻尾。
翠が随伴している猫又式神、七夜だ。
「瀬名殿、この子の額と自分の額を重ねて、影沼殿のイメージを送り込んでみてくれ」
「え? あ、うん……」
戸惑いつつも雫は翠に言われたとおり、七夜を抱きかかえて額を押しつけた。
ぎゅっと目を瞑り、「ヒミコちゃん……」と呟きながら何かを必死に念じている。
「こ、これで良いの?」
しばらくして顔を上げた雫は、不安げな顔で翠に聞いた。
「ああ、上出来だ。七夜」
翠の呼びかけに応え、七夜は素早い身のこなしで走り始める。
「行くぞ」
短く言って七夜の後を追う翠。それに付いて、雫とブラックマンも走り始めた。
ヒミコを見つけたのは多くの人が賑わう繁華街の中だった。
ファーストフードやアクセサリーショップ、総合デパートやアイスクリーム専門店などが人目を引く看板で客足を誘っている。
そんな店の中の一つであるコンビニエンスストア。二十四時間年中無休の店舗の前に、一際大きな人だかりが出来ていた。
「どうした。これでしまいか」
しゃがれた男の声。しかしソレが発せられているのは可憐な少女の口からだった。
軽くウェイブの掛かった長く黒い髪。胸元にリボンをあしらった黒のブラウス。同色のマーメイドスカート。肌は服装とは明確なコントラストで分かたれた白。
「弱い。弱すぎるぞ貴様ら。話しにならんわ」
いつもは大きくパッチリした目を険悪に細め、影沼ヒミコは忌々しげに舌打ちした。
普段の彼女からは考えられない姿だ。
「おやおや。随分とまたアウトローになって」
七夜を自分の影に戻し、翠はコンビニの前で数名のチンピラにケンカを売っているヒミコを見た。ことはもう終わった後のようで、チンピラは痛む顔を押さえながら苦悶の表情を浮かべている。
「ヒミコちゃん!」
そんな彼女を見た雫が、人混みをかき分けてヒミコに走り寄った。
「ヒミコちゃん! そんなコトしちゃダメ!」
「なんだ、こわっぱが」
雫の声に反応して振り向いたヒミコは、鬱陶しそうに片眉を上げる。
「誰……あなた誰なの! ヒミコちゃんから出て行きなさい!」
しかし雫は全く臆することなく、ヒミコを指さしながら叫んだ。
「こわっぱに名乗る名など……無いわ!」
怒声と共に雫に向かって振り下ろされるヒミコの左腕。しかし、いつの間に割って入ったブラックマンが受け止める。
「どうやら話し合いは通用しないようだな。ここは専門家に任せて私達は退散するとしよう」
言いながらブラックマンは後ろ手に雫を抱きかかえると、大きく跳躍して人混みを飛び越えた。その非人間的な動きに、観衆の注目がブラックマンに集まる。更にどこから取り出したのか、二十個のお手玉を華麗に空中で操るという常人離れした芸を見せつけて、人だかりを自分の方へと引き付けた。
「これでやりやすくなったな」
冷厳な響きを持つ口調で言いながら、翠はゆっくりとヒミコに歩み寄る。
せっかくブラックマンが気を利かせてくれたのだ。存分に力を振るわせて貰おう。
懐から取り出した数枚の呪符を構え、翠は僅かに重心を低くした。
「ほぅ、我と一戦交える気か」
面白そうに口の端をつり上げ、ヒミコは邪悪な笑みを浮かべる。
「それが私の仕事でね」
不敵に笑った翠に、ヒミコは灼怒に顔を染めて跳びかかって来た。
(上空からの攻撃。浅い角度。力任せの一撃。紙一重でかわして反撃)
短い言葉の羅列を頭の中で呟きながら、翠は滑るような動きで半身を引く。
「ガアァァァァァ!」
咆吼と共に放たれたヒミコの一撃は、翠の前髪を数本舞わせて空を切り、不可視の力をもって足下のアスファルトを大きく抉った。
「凄い力だ」
半身を流れに任せて更に引き、そのまま体を大きく回転させると、回し蹴りをヒミコにたたきつけた。無防備な背中にまともに食らったヒミコは、堪らず息を吐いて前につんのめる。
「だが、当たらなければ意味がない」
眉一つ動かすことなく言う翠。その顔面を狙ってヒミコの裏拳が迫った。
下からすくい上げるように放たれた拳は、上体を反らせた翠の眼前を通り過ぎていく。さらにバックステップで後ろへ跳んだ自分の足下が、不可視の力により何の前触れもなく捲れ上がった。
「かなりタフだな。油断しているとアザくらいは出来そうだ」
間合いを取って悠然とたたずむ翠に、ヒミコは激憤で体を大きく震わせる。
「我の力を、舐め――るなよ!」
ヒミコは足を大きく開いて構え、両腕を頭上でクロスさせた。直後、彼女の体重が何倍にもなったかのように、足下のアスファルトに小さな亀裂が入っていく。
(木気の集中を確認。発生源は額。着弾まで、二、一……)
「死ねえぇぇぇぇぇぇ!」
歯を剥いて叫んだヒミコの額から、金色の光が迸る。
「金気をもちて木気を剋す! 金剋木!」
懐から取り出した鈍色の光を放つ呪符を目の前にかざし、翠は力ある詞(ことば)を口にした。
ヒミコの額から放たれた雷は翠に当たることなく、呪符に弾かれて明後日の方向へと姿を消す。
「雷使いか。雷精の一種かな。下等な闇の眷属だ」
相変わらず静かに言いながら、翠は燃え尽きた呪符を無造作に捨てた。
「陰陽師か……。面白い。目覚めの準備運動には丁度良いわ!」
力の差を見せつけられても、まるで怯むことなく敵愾心を剥き出しにするヒミコ。
(大分、人が戻って来た。そろそろキメないとな)
す、と針の先のように目を細くし、翠は口の中で小さく詞を唱え始めた。
次々と繰り出されるヒミコの拳撃とそれに付随する不可視の攻撃。それらを紙一重でかわしながら、翠の方術は完成していく。
翠は陰陽師ではあるが禍祓いが専門ではない。だから基本的な方法でしかヒミコに取り憑いた闇の眷属を封じられない。
すなわち――ある程度痛めつけ、ヒミコの体との繋がりが希薄になったところを叩くしか無いのだ。
「少し痛むが我慢しろ」
がむしゃらに突っ込んできたヒミコの頭上を越え、大きく跳躍した翠は両手に五枚の呪符を広げる。そしてヒミコの足下を狙って投げ付けた。
呪符はまるでナイフのように鋭く突き刺さり、アスファルトに五芒星を穿つ。
「怨行術、弐の型、『魔煉五芒陣』」
翠の詞に応え、呪符が暗い光を放ち始めた。光は細く長く伸び、ヒミコの足首を一瞬のうちに束縛する。
「破邪」
翠が何かを招くように軽く指を曲げた次の瞬間、怒号のようなヒミコの絶叫が響いた。
「ガアアアアアアァァァァァア!」
髪の毛を掻きむしり、口の端から涎を垂らしてヒミコは吼える。
そんな彼女の様子を冷静に見守りながら、翠は音も立てずに地面に降り立った。すでに人だかりが出来始めている。遠くの方でブラックマンが、逆立ちのまま腹踊りをしているのが見えたが、観衆の視線はコチラに向けられたままだ。
「テレビの撮影だ。静かにしていろ」
冷たい威圧感を視線に込めて、翠は集まった烏合の衆を一瞥する。それだけで殆どの見物客が押し黙ってしまった。
「コラあぁぁぁぁ!」
しかし、中には例外もいる。
人混みの一人の頭を蹴り、見事な跳び蹴りを見舞って来たのは雫だった。
予想外の攻撃ではあったが体を低くし、翠は何とかやり過ごす。だが、術への集中力は完全に断たれてしまった。
「グアァ……ゴォアアアァァァァァ!」
縛鎖から解放されたヒミコは、怪吼と同時に地面を蹴る。
「ち……」
顔をしかめて舌打ちし、迎え撃とうと構える翠。しかしヒミコはその脇を通り過ぎ、跳び蹴りの着地に失敗した雫へと襲いかかった。
「な――」
慌てて呪符を投げ付けようとするが間に合わない。
鉤状に曲げられたヒミコの鋭い指先が、雫の喉元を狙って飛来する。声を上げることも出来ず、雫が大きく目を見開いた直後、ヒミコの腕が止まった。
「……ずく、さん……逃げて……」
消え入りそうなか細い声を絞り出すヒミコ。さっきまでの荒々しいモノとはまるで違い、金属糸を爪弾いたように澄んだ声だった。
(憑依に抵抗した。今なら――)
予期せず訪れたチャンスに翠は印を組む。しかしソレが完成するより早く、ヒミコは上空へと高く舞った。
「下らん邪魔が入った」
コンビニの屋根の上でヒミコは吐き捨てるように言い残し、更に高く跳んでビルの屋上へと飛び移る。そのまま別の建物に乗り移り、あっと言う間に姿を消した。
「逃がしたか……」
渋い顔つきで言いながら、翠は呪符を懐にしまう。
「何やってんの! 早く追うわよ!」
ついさっき死にかけたというのに、雫は元気良く立ち上がって翠に叫んだ。
「それから! ヒミコちゃんを苦しませるのはナシ! 分かった!?」
「ソレは出来かねるな。別に殺す訳ではない。現状を打破したいのなら、少しくらいの痛みは我慢して貰おうか」
びしぃ! と中指を押っ立てて言い切る雫に、翠は淡々と返す。
「出来なくてもやるの! とにかくナシったらナシ! いい!?」
溜息をついて言い返そうとする翠の言葉を、いきなり隣に現れたブラックマンが遮った。
「まぁまぁ二人とも。ケンカは良くないぞ。ここは私の顔に面じて仲直りしてくれないか」
歌舞伎化粧の施された顔をひょっとこのように曲げながら、ブラックマンは翠と雫の間に割って入る。
「ブラック……紅の色が少し薄いな。隈取りももう少しハッキリ描いた方がいい。口の尖らせ方は、斜め四十五度ではなく三十度位にするとより本物に近くなる」
ふざけた格好のブラックマンに真顔で指摘する翠。
「なるほど、さすがに当を得た意見だな。こんな感じか?」
「いや、もう少し右だ」
「こうか?」
「素晴らしい……まさに芸術だ」
「そう言って貰えると私も嬉しいよ」
『あっはっはっはっは』
「何が可笑しい!」
朗らかに笑う二人に、雫のツッコミが突き刺さった。
七夜にヒミコを追わせ、行き着いた先は閑散とした空き地だった。
大通りから三筋ほど路地裏に向かって入り、更に細い道を抜けた先。
忘れ去られたビル建設予定地、と言ったところか。さっきまでいた雑踏のど真ん中とはうって変わり、人気は全くなかった。
たった二人を除いて。
「はぁ!」
空き地のど真ん中。ヒミコともう一人、神聖都学園の制服を着た男子生徒が激しい戦いを繰り広げていた。
「繭神センパイ!」
悲鳴に近い声で雫が叫ぶ。
線が細く、まるで磨き上げられた刀身のように鋭い雰囲気を纏う青年だった。
(繭神……。繭神、陽一郎か……)
目を細め、舞うように戦う陽一郎を見つめる。
確か彼も陰陽師の家系だったはず。それほど定かではないが、記憶によれば彼は封印の術に長けていたはずだ。どうしてこんな所にいるのかは知らないが、今のヒミコ相手にはまさにうって付けと言えよう。
「こらぁ! 陽一郎! やめなさい!」
しかし雫は金切り声を上げると、二人の戦いを止めるべく走り出した。ヒミコが傷付けられているのを見ていられなくなったのだろう。
だが、傷ついているのは陽一郎も同じだ。彼の方がやや押し気味ではあるが、殆ど互角と言っても良い。陽一郎の制服もかなりの部分が破け、多くの傷を負っている。
(繭神家の力も大したことないな……)
ヒミコに取り憑いた闇の眷属の実力はさっきの戦いで分かった。アレといい勝負では、たかが知れている。
冷めた目で二人の戦いを見守る翠の視界で、雫が見ない壁にぶつかって立ち止まった。
「ちょ……なによコレー! ふざけんじゃないわよー!」
強引に押し進もうとするが、雫の小さな体は一ミリも前に進まない。
「結界か……」
隣でブラックマンが呟いた。
そう考えて間違いないだろう。ヒミコを逃がさないために張られた結界が、外部からの侵入を完全に遮断していた。
「翠ちゃん! コレ何とかして!」
振り返り、雫が叫ぶ。
「何故?」
「ヒミコちゃんを助けるために決まってるでしょ!」
「ならばこのまま見ていた方がいい。彼に任せておけば影沼殿は問題なく助かるだろう」
「アレのドコが助かるって言うのよ! めちゃくちゃにケンカしてるだけじゃない!」
確かに、陽一郎がしているのは単なる戦いだ。禍祓いをしようとしているようには見えない。しかも力は均衡している。何かの拍子に陽一郎が劣勢にまわってもおかしくない。
「翠、お前が力を貸せばケリはつくんじゃないのか?」
腕組みをしながらブラックマンが言った。
力が均衡していると言うことは、そこに少し手を加えてやれば陽一郎が優勢になるということだ。正直、今のままでは危なっかしくて見ていられない。
ヒミコには先程同様、手荒な真似をすることになるが仕方ないだろう。『何とかしてくれ』と言ったのは雫本人だ。
「面倒だが……しょうがないな」
呟きながら翠は結界の前に歩み寄る。
そして懐から呪符を取り出し、ソレに自分の力を込めていった。
「崩壊と破壊。抹消と欠失。負の理念司る黒き死神。汝は冥界の狩人にして、敬虔なる聖母の従者。猛りと慈しみを掌に宿し、堅牢なる檻を退かせよ」
結界破りの詞を呪符に込め、何もない空間に押し当てる。
「――!」
すぐに強い衝撃があった。生じた振動は一瞬で肩まで呑み込み、体を伝播して内臓を揺さぶる。
予想を遙かに上回る強固な結界だった。
(三重の結界……。二次結界までならともかく、三次結界の展開は私でも触媒が必要なのに……)
見たところ呪符や御神木などの触媒が使われた形跡はない。つまり、陽一郎は術だけでこの強力な結界を張ったことになる。
だとすると今の戦いは妙だ。これだけの力と技術があれば、ヒミコに取り憑いた闇の眷属を圧倒することなど簡単なはず。
(何か、考えでもあるのか……)
それとも結界張りは超一流だが、戦いの方は三流以下なのだろうか。
もう少し様子を見ていたい気もするが、さっきから隣で雫がギャーギャーわめいてうるさい。それに一度発動した結界破りの術を止めることは不可能だ。
「光壁に穿たれた微塵の傷跡より、妖狼の白刃を持って悉(ことごと)く瓦解させよ。薄氷と化した脆弱なる遮りなど無きに等しい!」
さらに詞を付加し、翠は呪符を押しつける手に力を込める。
直後、硬質のガラスを叩き割ったかのような、高く澄んだ音が響いた。
「何!?」
結界が破られ、中にいた陽一郎が驚愕の眼差しをコチラに向ける。
「繭神殿、微力ながら加勢させていただく」
「ヒミコちゃん!」
そして一歩踏み込んだ翠と、弾かれたように駆けだした雫に、ヒミコの顔が歪んだ。
「ちっ!」
鼻に皺を寄せて舌打ちし、ヒミコは大きく跳躍する。
「逃がすか」
ソレを追って跳ぼうとした翠の足が突然重くなった。
下を見ると雫がしがみつき、噛み付かんばかり勢いで歯を剥いている。
「何をする」
「どーせまたヒミコちゃんに痛いことするつもりなんでしょ!」
「一応聞くが瀬名殿、お前はどっちの味方なんだ?」
「ヒミコちゃんの味方よ!」
言い切る雫に翠は軽い頭痛を覚えた。そんなことをしている間に、ヒミコの姿はもう見えなくなってしまっている。雫と一緒にいてはいつまでたってもこの事件は解決しそうにない。
(面倒臭くなってきたな……)
そう思うが早いが、急速にやる気が萎えていく。そんな翠をよそに、雫は陽一郎に詰め寄った。
「ちょっと陽一郎! ヒミコちゃんに何てコトするのよ!」
「何てコト、とは?」
もの凄い剣幕でまくし立てる雫に、陽一郎は制服に付いた埃を払いながら、すました顔で言う。
「さっきのヤツよ! ヒミコちゃんが可哀想でしょ! だいたいアンタ、関係なかったんじゃないの!?」
「別に君の言うことを聞いた訳じゃない。私が勝手にやっているだけだ」
眼鏡の位置を直し、陽一郎は抑揚のない口調で返した。
「勝手にヒミコちゃんに痛いコトしないで!」
「コレが一番彼女を傷付けないで済ませる方法なんだよ」
「どういうことだ?」
陽一郎の言葉にブラックマンが反応した。
確かに気になるフレーズではある。今の翠にとっては、どうでも良いことではあるが。
「貴方達がやろうとしていることは逆効果です。それに、彼女に憑いた闇の眷属は私の担当だ。素人はこれ以上手を出さないで欲しいですね」
「逆効果? すまないがもう少し分かり易く説明してくれないか」
「お断りします」
問いかけ直すブラックマンに、陽一郎はにべ無くはねつけた。
「私達も協力したいんだ。その方がきっと早く解決できる。ダメか?」
「私は一人でやるのが好きなんですよ。貴方達の邪魔もしなければ協力もしない。だから貴方達も私の邪魔はしないで下さい」
陽一郎は一方的に喋り終えると踵を返し、暗い路地裏へと歩を進める。
「へーんだ! 誰がアンタなんかと一緒にやるもんですか! この根暗! オタク! 変質者!」
小さくなっていく陽一郎に背中に、雫が大声で罵声を浴びせた。
「瀬名殿、それはブラックマンに向けられる言葉だと私は思う」
「同感だ」
翠の言葉にブラックマンがうんうんと何度も頷く。
「そんな下らないことはどうでも良いのよ! とにかくヒミコちゃんを何とかしないと!」
二人のやり取りを一蹴して、雫は勢いよく振り返った。
ブラックマンが視界の隅で少し落ち込んでいるのが見える。
「私は繭神殿の言うとおり、彼に任せた方がいいと思う」
気を取り直し、翠は冷静な見解を述べた。先程の陽一郎の言葉を聞く限り、彼は明らかにヒミコを何とかする方法を知っている。ソレも最小限の被害でだ。下手にコチラから手を出すのは、彼の言う通り邪魔でしかない。
勿論、自分でヤルのが面倒臭くなったというのも大いにあるのだが。
「そんなコトしたらまたヒミコちゃんが酷いことになっちゃうじゃない! ねぇ翠ちゃん! ヒミコちゃんを痛くしないで、取り憑いてるヤツだけ引っ張り出す方法ってないの!?」
「無い」
有るかもしれないが自分は知らない。それこそ陽一郎に聞くしかないだろう。絶対に教えてくれないと思うが。
「ああもぅ! じゃあブロックは!?」
「無くはないが……失敗するとヒミコがヤンキーになる危険性があるがそれでもいいか?」
「ダメ!」
ブラックマンの提案した謎の方法を、雫は一瞬で却下する。
「とにかく彼に聞いてみるしかないな。私も出来ればヒミコを傷付けたくはない。彼が行おうとしている方法を聞きだし、ソレを私達が出来るだけ優しくヒミコに適応する。それが今取りうる最善の選択と言えるだろう」
「そうだよね」
ブラックマンの正論に雫がコクコクと頷いた。
「ソレが出来れば、の話だがな」
言うは易し、行うは難し。
翠には限りなく不可能に思える。
「なんでそういうこと言うのよ! やる気のない人はほっときましょ! 行くわよ! ブロック!」
「分かった。じゃあ翠、ソッチは頼んだぞ」
言いながら雫を小脇に抱え、ブラックマンは彼女が何か言い出す前に立ち去った。
(ああ、そういうことか……)
ようやくブラックマンの真意が掴める。
雫を引き離しておくから、その間にヒミコを何とかしてくれ。
恐らくそう言いたかったんだろう。陽一郎に聞いてはみるが、主な目的は時間稼ぎ。
陽一郎に任せるか、翠に任せるか。どちらがヒミコへの被害が少なくて済むかは知らないが、ブラックマンは後者と踏んだらしい。
(やれやれ、面倒な期待をしてくれるな……)
長い黒髪をうなじへと撫でつけながら、翠は深く嘆息した。
◆PC:ジェームズ・ブラックマン◆
翠は頭の良い女性だ。自分が意図したことは汲み取ってくれただろう。
西日を浴びて、茜色に染め上げられた閑静な住宅街。人通りは殆どない。
陽一郎を尾行してココまで来てしまった。彼とまともに話しても聞き出せないことは重々承知している。だから何か弱みを握ってソレで脅そうという作戦だ。
弱み――つまり恥ずかしい写真だ。ちゃんとポラロイドカメラとバナナの皮も用意してある。後はソバ屋の出前が偶然通りかかってくれるのを待つばかりだった。
「――で、いつまでそうしているつもりですか?」
曲がり角に隠れて様子を窺っていたブラックマンの方に、陽一郎がすました顔で振り返った。一瞬、全身の産毛が総毛立つ。
「気付かれちゃったじゃないっ。どうすんのよっ」
「大丈夫。ハッタリだ」
自分に抱えられながら小声で言ってくる雫に、ブラックマンは低い声で返した。
作戦は完璧なはずだ。見破られるわけがない。
「だから出て来いと言っているのです」
いつの間にか陽一郎が目の前にいた。
ブラックマンは気まずそうに咳払いをし、雫を下ろして立ち上がる。
「こんな所で会うとは奇遇だな」
「私に聞きたいことでもあるんですか?」
切れ長の目をすっと細め、陽一郎は警戒心も露わに聞いた。
「いやなに、ちょっと疑問に思ったことがあってな。女性の水着は使用している生地の量に反比例して価格が上がっていくわけだが、理不尽だと思わないか? コレに関して是非君の率直な意見を聞きたい」
「精神科医ならココを真っ直ぐ行って突き当たりを左です」
陽一郎の双眸に剣呑な光が宿る。
「陽一郎君、君はまだ若い。老い先短い私への最期の手向けとして、教えて欲しいことがあるんだ」
「なんですか」
「背中に出来た水虫の解消策なんだが……」
「死ねば気にならなくなると思いますよ」
陽一郎は懐から小刀を取り出した。
「ああっ! 待ってくれ! 死に土産にもう一つだけ言わせてくれ!」
「どうぞ」
「牛丼は特盛りを頼むより、並盛りを二つ頼んだ方がお得だと思わないか?」
閃光が走る。
反射的に身を引いたブラックマンの鼻先を掠めて、銀色の光が通り過ぎた。
「影沼さんから闇の眷属を祓う方法を教えて欲しいと、最初から素直に言ったらどうですか?」
痺れを切らした陽一郎が、ついに自分から本題を切り出してくれる。
(ふ……計画通りだな)
笑う膝を強引に静め、ブラックマンは噴き出す冷や汗を皮膚から再吸収させた。
「教えてくれるのか?」
「知ったところで同じことですよ」
「だったら教えてよ! 隠すことなんてないじゃない!」
下の方から雫の憤慨した声が聞こえる。そんな彼女を無視して陽一郎は続けた。
「影沼さんと親しい瀬名さんが一生懸命になるのは分かります。ですが、どうして貴方がそこまでする必要があるのですか?」
コチラを試すような視線を向け、陽一郎は声のトーンを低くする。
返答次第では教えてやらないこともない、とでも言うつもりだろうか。
ならばここは交渉人としての腕の見せ所だ。
「それは簡単なことだよ、陽一郎君」
ブラックマンはそこで一端言葉を句切り、微笑しながら真っ直ぐな視線を向けた。
「私がヒミコを愛しているからだ」
場の空気が一瞬にして固まる。
陽一郎は内面を消した硬質的な表情を更に加速させ、雫は鈍器を脳天に振り下ろされたように突っ伏していた。
「愛する者を救うのは男として当然のこと。違うかな、陽一郎君?」
今度はブラックマンが陽一郎を上からの目線で見下す。交渉が成功したと思っているらしい。
全くの勘違いではあるのだが。
「逆に聞くが陽一郎君。君はどうしてヒミコのために一生懸命になれるんだ? 君こそ彼女と親しい訳じゃないんだろ?」
無言のまま死んだように立ちつくしていた陽一郎の瞳に、ようやく光が戻った。
「……別に一生懸命になっているわけではありませんよ。自分のことは自分でする。ただそれだけのこと」
「自分のこと? さっき言ってた『担当』がどうのとかいうアレか? いったい何のことなんだ?」
ブラックマンの言葉に、陽一郎は口を真一文字に結んで押し黙る。
そして何も言わずに背中を向けた。
「このまま尾行していただいても結構ですが、時間の無駄になるだけですよ」
投げやりな口調で言い残し、陽一郎は歩き出す。
ブラックマンと雫は互い顔を見合わせて頷き、ポラロイドカメラとバナナの皮、そして携帯電話を持って堂々と尾行を続けた。
◆PC:陸玖翠◆
ヒミコから力任せの攻撃が繰り出される。風を斬り、空気の断層さえ生じさせる鋭い一撃を、翠は体を捻ってかわし、屋根の上に着地した。
「どうした! うってこんのか!」
住宅街の屋根から屋根へと飛び移り、軽い身のこなしでヒミコの拳撃をやり過ごす翠。まったく反撃する気配のない彼女に、ヒミコは苛立ちの声を上げた。
翠の方に何か作戦があるわけではない。迎え撃たない理由はただ一つ。
(面倒臭い……)
結局、下がりきったテンションを回復させることは出来なかった。
前方からのヒミコの攻撃と同時に背後から迫る不可視の一撃を見切り、呪符で生み出した障壁によってそれらを弾く。攻撃終わりに出来たヒミコの隙。開いた彼女の脇腹を狙って蹴撃を放つ。だが力は入りきらない。ヒミコも呻き声を上げるがそれだけだ。
蹴った時の反動を利用して距離を取り、翠は改めてヒミコと対峙する。
すでにこの状態が三十分以上も続いていた。
戦い始めた時は、翠の方にもまだやる気があった。しかしどうしてもコチラから強い攻撃を仕掛けることが出来ない。
どうやら雫のせいで、ヒミコへの無意識の気遣いが定着してしまったらしい。
それに相手の戦力もよく分からない。
さっき結界を破った時にはあっさり逃げて行ったから、もう弱りきって楽勝かと思っていた。しかしヒミコは闘争本能剥き出しで襲いかかってくる。力もまるで衰えていない。弱い攻撃を連撃で入れたところで、効果は殆どなかった。予想以上に体力が残っている。
『貴方達がやろうとしていることは逆効果です』
陽一郎の言葉が蘇る。
もしかすると自分の戦いでは逆に力を与えてしまっているのだろうか? なにか特別な方法でないと決定打にならないのだろうか?
そんな考えさえよぎった。
(やはり、繭神殿に任せた方が良さそうだ)
これ以上は時間の無駄だろう。
そう心に決めて戦闘区域から脱出するべく、考えをめぐらせた時だった。
肩から力が抜けたせいだろうか。心の緩みが油断を生んだ。
相手の目をくらませるための煙幕を撒こうと、翠は懐に手を入れる。その手をヒミコの不可視の何かが掴み上げた。
「く……」
詰めの甘さに、内心ほぞをかむ。
そしてまばたき一つする間に、ヒミコの顔が眼前まで迫っていた。
「貴様、姑息だな。だが――強い」
ヒミコの口元に凶悪な笑みが浮かべられる。
引き剥がそうと出した反対の手をかわされ、ヒミコの息が鼻にかかる程の距離にまで詰め寄られた。
ヒミコの唇が自分の唇に近づき、そして――
◆PC:ジェームズ・ブラックマン◆
陽一郎の尾行を続け、行き着いた先は神聖都学園のグラウンドだった。
辺りはすでに暗くなり、体育館から漏れる僅かな光だけが頼りなく足下を照らしている。
結局、陽一郎はブラックマンと雫の華麗な連係プレイをことごとく回避して見せた。自宅に戻るという絶好の機会もあったのだが、石鹸水とカラースプレーだけでは足りず、ライターも持ってくるべきだったと歯がみしたものだ。
「き、来たか……繭神陽一郎……」
グラウンドの中央。陽一郎を出迎えるようにして待っていたのは陸玖翠だった。
額から大量の汗を流し、苦悶の表情を浮かべて立っている。
「待っていたぞ……。ここなら思い切り戦える」
「乗り換えたのか。より強い体に」
玲瓏な響きを孕ませ、陽一郎は静かに言いながら翠に近づいた。
「乗り換えたって……ブロック、どういうこと?」
二人からは目を離すことなく、校門の影に隠れながら雫が聞いてくる。
「よく分からんが、どうもヒミコに憑いていた闇の眷属は翠に鞍替えしたらしい」
「ホント!?」
甲高い声を上げ、雫の顔が喜色に染まった。
「じゃあヒミコちゃんは……!」
「どこにいるかは知らんが解放されたんだろうな」
「やったぁ! じゃアタシ探してくるから後のことヨロシク!」
雫は満面の笑みを浮かべて言うと、スキップで鼻歌を歌いながら去って行った。ヒミコさえ無事なら他のことはどうでも良いらしい。
(まぁ、雫らしいと言えば雫らしいんだが……)
気持ちの切り替えの早さは見習うべきかも知れない。
それにコレから始まる戦いは今まで以上に苛烈を極める。雫には退散して貰った方が、コチラとしても気が楽だった。
「いくら強い力を手に入れても、使いこなせなければ意味がない」
良く通る陽一郎の声に反応し、ブラックマンは二人の方に向き直る。
陽一郎は手にしていた細長い布袋から、鍔のない一振りの刀を取り出していた。そして流れる動きで抜刀する。
刀の表面は光を反射し、まるで濡れたような輝きを放っていた。
途中、陽一郎が自宅に引き返して取って来た物だ。思えばあの時すでに、闇の眷属が翠に乗り移ったことを察知していたのだろう。
「オノレ……」
翠は忌々しげに陽一郎を睨む。
陽一郎の言うとおり制御し切れていないのか、体の動きがぎこちない。
そう言えば闇の眷属がヒミコの体で雫を攻撃しようとした時、ヒミコの意思が勝って動きが止まった。恐らく翠も同じように、闇の眷属からの支配に抵抗しているのだろう。
ただし、ヒミコなどとは比べ物にならない力で。
「貴女は私の結界を破るほどの女性だ。凄い力を持っているのだと思っていました。しかし、どうやら過大評価だったようですね。その程度の闇の眷属に体を奪われるようでは話しにならない。この先、陰陽師としてはやっていけないでしょう。なら、ここでその闇の眷属もろとも葬ってあげるのも一つの優しさ。覚悟はいいですか?」
陽一郎の持った刀が淡い光を放ち始める。
体を深く沈め、逆手に持った霊刀を腰溜めの位置に構えた。
「ちょ、ま、待つんだ! 陽一郎君!」
校門の影から飛び出し、ブラックマンは焦った声を陽一郎に掛ける。
彼は本気だ。本気で翠を斬り殺す気でいる。
「何ですか?」
陽一郎は構えたまま、ブラックマンの方に顔だけを向けた。
「な、何も殺すことはないだろう。取り憑いた闇の眷属だけを封じる方法があるんじゃないのか」
「気が変わりました。このような出来の悪い陰陽師は見るに耐えない。死ぬべきです」
冷淡に言って、陽一郎は再び翠を睨み付けた。
だが翠は油の切れたロボットのように、思い通りにならない体と格闘している。
「ぶ、ぶらっく……」
か細く紡がれる翠の声。
だんだん闇の眷属の支配から抜け出せているようだ。
もう少し、もう少し時間を稼ぐことが出来れば。
「よ、陽一郎君!」
ブラックマンは彼の注意をそらすために、大声で呼びかけた。
「まだ何か?」
「わ、私は……その、えーっと。そ、そうだ!」
閃いたブラックマンは両手を腰に当ててふんぞり返り、高々と言い放つ。
「私は翠を愛しているんだ! 彼女を傷付けることはカピバラが許しても私が許さない!」
あまりに白々しい愛の告白が、暗天に呑まれて消えた。
冷たい空気が場を支配する。
だが、時間稼ぎには成功した。
「はあぁぁぁぁぁ!」
翠は叫びながら地面を蹴ると、陽一郎に向かって跳びかかる。
「なっ!?」
狼狽する陽一郎。
彼の両肩をガッシリ掴んだ翠は、そのまま顔を引き寄せて唇を重ね合わせた。
「なにいぃぃぃぃぃ!?」
困惑するブラックマン。
(ど、どどどど、どういうどういうことことことだだだだだ!?)
あり得ない光景を前に、ブラックマンの脳内サーキットがフル回転し始める。
《翠の力に失望した陽一郎 → 辛辣な言葉で彼女を罵倒する → しかし実はマゾだった翠にとっては天使の囁き → 『もぅ貴方になら斬り殺されても良いわっ』と恍惚としていたところにブラックマンの愛の告白 → 『ごめんなさいブラック。私、もう身も心も彼の物なのっ』と行動で自分の気持ちを表現 → そして二人はめでたくウェディングロードへ》
「ナルホド!」
一人納得したブラックマンは、ポンと手を叩いて二人を見た。
口付けを終えた翠は陽一郎から大きく離れ、両手に呪符を持って構えている。
「繭神殿。貴方のお言葉、そっくり返させて貰う」
(言葉を返す? まさかあの罵倒が陽一郎なりの告白!? とすると彼はサドか!)
鋭く言って翠は呪符に力を込め、陽一郎めがけて投げ付けた。ソレを霊刀で全て弾き落とす陽一郎。
(互いの愛を戦って確かめるとは……二人ともあっぱれ!)
「まさか、この体が我の物になるとはな」
言いながら陽一郎は弧月の形に唇を曲げた。
(体……!? すでに二人の仲はそこまで!)
ブラックマンの勘違いは加速する。
◆PC:陸玖翠◆
鋭角的な軌道を取って無数に飛来する白刃。居合い抜かれた最後の一太刀を身を低くしてかわしきり、その体勢のまま陽一郎に足払いを掛ける。
バランスを崩し、倒れ込んできたところに呪符を巻き付けた拳を叩き込んだ。
「ぐっ!」
鼻先に食らった拳撃で仰け反るが、陽一郎はそれに逆らうことなく体を流すと、後ろ向きに体を回転させて距離を取る。ある程度離れたところで大きく足をたわめ、低い角度から前のめりの体勢で跳んだ。その勢いに乗せて、下から霊刀を振り上げる。
「ちっ」
回避と攻撃が完全に一体化している。まるで隙がない。ヒミコに乗り移っていた時とは比べ物にならない身のこなしだ。
翠はバックステップで剣の軌道から身を外すが、すぐに返す刀が振り下ろされてくる。
――避けきれない。
そう判断した時にはすでに体が動いていた。
掌に呪符を貼り付け、ソレで迫り来る刀の腹を挟み込む。
白刃取りだ。
だが、刀の動きは完全に止まったわけではない。力を込めて、強引に振り下ろそうとしてくる。
「死ねぇぇぇぇぇ!」
「お断りだ」
陽一郎の気合いと共に重さを増した刀身に、翠は呪符を介して力を送り込んだ。そして詞を叫ぶ。
「刀、其の生命を禁ずれば則ち斬ることあたわず!」
翠の詞に応えるように、先程まで霊刀から放たれていた光が収束していった。
術禁道――物事の本質を禁ずることで、対象に様々な効果を付与する陰陽術の一種だ。
「こしゃくな真似を!」
斬れ味が落ち、鉛のように重くなったであろう霊刀を投げ捨てて陽一郎は横に跳んだ。そして指を鉤状に曲げ、離れた間合いから腕を真横に振るう。
(見える――)
コレまで不可視だった攻撃が、極限まで集中力を高めた翠の目には見えていた。
ソレは蛇のように長くしなる鞭。弧を描く曲線的な軌道を取って、外側から回り込むように急迫して来る。陽一郎の腕の動きだけに捕らわれていたら、時間差で飛来した鞭をまともに食らっていただろう。
冷静にタイミングをはかり、当たる直前まで引き付けて陽一郎の方に跳ぶ。
「な――」
かわすだけではなく、突っ込んで来るとはまさか思っていなかったのだろう。
「はぁぁぁぁぁぁ!」
僅かに反応の遅れた陽一郎は、翠の掌底をまともに鳩尾へと食らった。
呻き声と共に、湿った音が陽一郎の口から漏れる。
「光・滅・裁・浄! 破邪の力よ! 我が右手に宿れ!」
陽一郎の腹に右手を埋め込んだまま、翠は詞を唱えた。それに呼応して右の拳が熱を持ち始める。熱は翠の体を抜けて陽一郎へと移行し、彼の体内で弾けた。
「ぁぐ!」
苦鳴を上げ、体をくの字に曲げたまま陽一郎は大きく後ろに飛ばされた。
(――妙だ)
追撃をかけるため、彼を追って疾駆する翠の脳裏に違和感が走る。
最初は頭に血が上っていたため気付かなかった。ただ自分を馬鹿にした、愚かで身の程を知らない陰陽師にお灸を据えることだけを考えていた。
だが大分気も晴れ、冷静に考えてみると腑に落ちない点が多々ある。
まず、陽一郎が大人しく闇の眷属の言いなりになっていることがおかしい。
触媒も使わずに三重に結界を張る程の実力者だ。あの程度の闇の眷属の支配に抵抗できないわけがない。
いや、それ以前に憑かれたこと自体おかしい。いくらブラックマンに声を掛けられたからといっても、目の前の敵から目線を逸らしたりするだろうか。
大体、あの挑発的な言葉からしてあり得ない。闇の眷属ごと自分を殺したいのなら、喋っていないでさっさと斬りかかってくればいいのだ。動きが鈍いウチならケリはアッサリついたはず。
アレではまるで、わざと――
「あまい!」
翠の突進を上に跳んでかわし、陽一郎は胸の前で両腕を交差させた。それを残像すら生じるスピードで解き放つ。空気を裂いて発生した真空刃が、迅速の衝撃波となって翠に牙を剥いた。
反射的に後ろに跳んでかわすが、地面に着弾した真空刃が膨大な砂塵を舞い上げる。
(目隠し!)
陽一郎の狙いはコチラだった。
視界は無くなった。だが翠の直感が、遅れて接近する不可視の鞭を捕らえた。
(間に合うか!?)
手持ちの呪符をありったけばらまき、即席の結界を作り出す。
だが、詞も何も込められていないただの呪札だ。鞭の勢いを僅かに削ぐだけで精一杯だった。
「ぐっ!」
全身に高圧電流を流し込まれたかのような、灼け付く痛みが駆け抜ける。鞭に乗せて雷撃を打ち込んだのだろう。
「ク、ククク! 楽しい! 楽しいぞ! やはり貴様は強い!」
手応えを感じたのか、嬉しそうに笑う陽一郎の声が聞こえた。
それはまるで、子供が遊んでいるように屈託がなく――
(まさか)
翠の中である種の考えが閃く。
最初、ヒミコに憑いていた闇の眷属が『魔煉五芒陣』から抜け出した時、自分ではなく雫を狙った。もし、それが戦いを邪魔されたからだとしたら。
陽一郎がヒミコと結界の中で戦っていた時、わざと相手のレベルに力を合わせて互角を演じていたとすれば。
ブラックマンと別れて二度目にヒミコと戦った時。陽一郎との戦いで力を使い果たしたと思っていたのに、かなり激しい反撃を受けた。最初に逃げたのは陽一郎と一対一の戦いを邪魔されたから? 追って来た翠を喜々として迎撃したのは一対一の戦いだったから?
『貴方達がやろうとしていることは逆効果です』
(そういう、ことか……)
ようやく陽一郎が言っていた『逆効果』の意味が分かった。
コレなら陽一郎の奇妙な行動も納得行く。
彼は体を張って闇の眷属を封じようとしている。ならばコチラもそれに応えねばならない。
「豪・砕・烈・壊! 金剛の力よ! 我が拳に宿れ!」
気配で陽一郎の位置を感じ取り、翠は紅く輝く両の拳を叩き付けた。
「ほぅ、接近戦か! 望むところだ!」
陽一郎は喜々として、翠の拳撃を左腕で受け止める。
そして、力と力のぶつかり合いが始まった。
戦いは明け方まで続いた。
途中、体育館からクラブ活動を終えた生徒達が出てきたが、ブラックマンが『ブラック・アテンションプリーズ』という妖しげな技で注意を引き付けてくれたおかけで、事なきを得た。
「……どうだ、満足か?」
肩で息をしながら、翠は陽一郎を見下ろした。制服は元のデザインが分からなくなるくらいにボロボロになり、所々白い地肌が露わになっている。そこかしこから血が滲み、無数のアザが出来ていた。
「ク、ククク……」
陽一郎は地面に尻餅を付いたまま、喉を震わせて低く笑った。
「ああ、満足だ。大満足だ。こんな楽しい戦いは久しぶりだった。また機会があったら是非手合わせ願いたいものだな」
言い終えた彼の体が、淡い燐光に包まれる。ソレは少しずつ寄り集まり、胸の辺りで球状に収束すると、大地へと呑み込まれるようにして消えた。
「……どうやら、終わったようですね」
陽一郎は掠れた声で言うと、ゆっくり立ち上がる。
「ああ、悪かったな。勘違いして。しかし最初から何も言わなかった繭神殿にも責任はあるぞ」
「言ったでしょう。これは、私の担当だと……。全て、他人、任せでは……意味がないんですよ」
傷が痛むのか、陽一郎は言葉を途切れ途切れに紡ぎながら、校門の方に向かった。
「傷の手当ては? 手持ちの呪符では気休めにしかならんかもしれんが、少しはマシだと思うぞ」
「結構ですよ……。自分のことは、自分でしないと、気が済まないタチでね」
ひび割れたメガネの位置を直しながら、陽一郎は口の端を軽く上げて笑ってみせる。
「そうだったな」
これだけの傷を負いながらも強気な姿勢を崩さない陽一郎に、翠は温かい笑顔を向けた。
「翠、どういうことなんだ?」
何故かアボリジニーの民族衣装を纏っているブラックマンが、隣りに来て聞いてくる。彼にしてみればいったい何のことかサッパリ分からないのだろう。
「後でゆっくり説明してやる」
翠は微笑しながら、長く黒い髪を掻き上げた。
「……ああ、そうそう。ブラックマンさん……」
背中を向けていた陽一郎が立ち去り際、顔だけをこちらに向けて声を掛けてくる。
「沢山の女性を愛するのは良いことですが、過度にならない程度にしておかないと後々痛い目を見ますよ」
それだけ言い残して、陽一郎はふらつきながら立ち去って行った。
「何のことだ?」
今度は翠がブラックマンに聞く。
「うむ。よく分からんが一つだけハッキリしたことがある」
「なんだ」
「彼は良い人だ」
断言するブラックマンに、翠は「そうだな……」と小声で呟いた。
◆エピローグ◆
大粒の雨が教室の窓に当たって弾ける。分厚い雲で覆われた暗い空は、今の自分の気持ちを代弁してくれているようだ。
昼休み。陽一郎は窓の外をぼんやりと見つめながら、昔のことを思い出していた。
そう、あの時もこんな激しい雨の日だった。
もう二百年以上も前になる。
陰陽師としての最初の仕事。それは『荒霊(あらたま)』という名の闇の眷属を封印すること。
だが、当時まだ未熟だった陽一郎は、辛うじて『荒霊』を一時的に封印出来たものの、不完全な仕上がりだった。それ故に『荒霊』は陽一郎の前に定期的に姿を現すことになる。そのたびに陽一郎は彼を封印するため身を削った。
『荒霊』の一時的な封印方法は単純だ。
彼が満足するまで戦い続けること。
コチラが圧倒的な力でねじ伏せてもダメ、逆に向こうが圧勝しても意味がない。中途半端に刺激するだけの戦闘は逆効果。支配し切れていない体を使った戦いなど論外。
あくまでも『良い戦い』をして『荒霊』を満足させなければ、彼は封印できない。
――だが、今の陽一郎であれば別の方法で『荒霊』に完全なる封印を施すことも可能であろう。二度と表に出てこられないように、強制的に大地に繋ぎ止めることも出来るはずだ。
しかし、ソレはしない。
「繭神先輩」
突然、後ろから声を掛けられた。
振り向くと、柔らかそうな黒髪の少女が立っていた。
影沼ヒミコ。今回、不運にも『荒霊』に目を付けられた女子生徒だ。
「なんだい?」
考え事をしていると、たまに背後がおろそかになる。
まだまだ未熟だなと思いながら、陽一郎はぶっきらぼうに言った。
「あの、この前は本当にありがとうございました。雫さんから話は聞きました。繭神先輩が一生懸命頑張ってくれたって」
「……何のことだ?」
まさか雫の口からそんな殊勝なセフリが飛び出しているとは少し信じがたい。
「私なんかのために色々ご尽力いただいたみたいで。一言お礼を言いたくて」
「別に君のためにやった訳じゃない」
そう、これは全て自分のため。
『荒霊』を完全に封印しないで放置しているのは、未熟だった自分を忘れないため。
だからこそ自分で解決しなければならない。出来れば一人だけで。
このことを誰にも詳しく話さないのは、陽一郎が持つ唯一の汚点だからだ。
「え、えっと……とにかく、ありがとうございましたっ」
ヒミコはどこか気まずそうに早口で言うと、深々と頭を下げてお礼の言葉を述べた。そして足早に教室を出ていく。
(次はまた、十年後かな……)
『荒霊』との戦い。陽一郎は決して嫌いではない。
彼と戦っていると、まだ若かった頃の自分を思い出す。
さっきのヒミコのように感情豊かで、雫のように何にでも一生懸命で、翠のように強い意志を持って、ブラックマンのように多くの女性に興味があって。
(私も、少し年を取りすぎたな……)
含み笑いを漏らす超一流の陰陽師の顔からは、厭世(えんせい)的な雰囲気など微塵も感じられなかった。
【終】
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【5128/ジェームズ・ブラックマン(じぇーむず・ぶらっくまん)/男/666歳/交渉人 & ??】
【6118/陸玖・翠 (リク・ミドリ)/女/23歳/(表)ゲームセンター店員(裏)陰陽師】
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■ ライター通信 ■
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ジェームズ・ブラックマン様こんにちは。今回も相変わらずボケ担当で書かせていただきました。翠様とのボケにボケを重ねるやり取りはいかがでしたでしょうか。
さて、今作では主にサポート役に回っていただきました。戦いであまりブラックマン様を全面に出すと、私の場合どうしても『何でもあり』の傾向になってしまうもので……(汗)。『ブラック・アテンションプリーズ』とか、何なんだって話ですよね(笑)。
それではまた次の作品でお会いしましょう。ではでは。
飛乃剣弥 2006年10月15日
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