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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


夏の終わりの忘れもの −三下さんの受難7−
●始まり
「うわぁ、もう遅刻するっ」
 三下忠雄は交差点の信号と腕時計を何度も交互に見る。
 時計の針はもうすぐ仕事の始まりの時間をさそうとしていた。
 ようやく反対車線が赤になり、こちらが青に、と思った瞬間。
 手をつかまれた。
 そして子供の声が聞こえた。
「おとう……さん……」


「今回の取材はこれなんだけど」
 碇麗香は簡単はレポートと写真をデスクの上に置く。
「ここの交差点なんだけど」
 と形のいい唇を動かし、説明に入る。
 何でも4年前にその交差点で交通事故があり、子供をかばった父親が亡くなった。子供は重傷で助かったが、夜中、父親をさがしてさまよい、同じ交差点で車にひかれてなくなった、という。
「その交差点では、今の時季になるとその子供が父親をさがして出るらしいの。今回、それを取材して欲しいというわけ……で」
 室内を見回して麗香はため息。
「肝心な三下君はどうしたのかしらね……まぁいいわ、とりあえず先に向かっててくれるかしら? 後からいかせるわ」

●アトラス編集部
「わかりましたっス! 三下さんの事は任せてくださいっス!」
 力一杯拳を握る湖影龍之助に、はいはいよろしくね、と麗香は手を振りながら、任せたいのは取材なんだけどね、とぽつりと呟く。
「地図…貰っていいですか?」
「あ、ごめん。はい」
「ありがとうございます」
 感情の読めない微笑。菊坂静は、麗香から地図を貰うと、場所を確認してうなずいた。
「行こうか、湖影くん」
「OKっス!」
 高校生二人を見送り、麗香は小さくため息をついて、デスクに視線を落とした。

●交差点
「えーっと……困ったなぁ……」
 子供に手をもたれたまま、三下は心底困ったような顔で子供の顔と歩行者信号と時計を何回もぐるぐると見る。
「今日は取材が入ってて……編集長怒ってるだろうなぁ……確か交差点でお父さんを捜す男の子のゆうれ………」
 ブツブツ呟いていた三下の言葉がとまり、カチーンと凍り付いた。
「お父さん?」
 あどけない表情で見上げる少年。それは昨日取材前に見せられた男の子の写真と重なった。
 ど、どどどどどど、どうしよう、三下の頭の中はそれでいっぱいになっていた。

「三下さーん! 先に来てたんス!」
 逢えて嬉しいです!! とない尻尾をブンブン振り回しながら龍之助が三下の駆け寄る。
「りゅ、りゅりゅりゅりゅりゅ」
「?」
 ろれつの回らない三下に、龍之助は首を傾げた。
「三下さん、碇さんに連絡した方がいいですよ。怒ってたみたいですから」
「ああああああああああ、きっ、きっ、菊坂くん」
「お父さん……」
 心配そうな表情で三下の顔を見上げる少年に、龍之助の目がとまった。
「み…三下さん……いつの間に子供を産んだんスか!?」
「う、ううう産めませんよっ!」
 三下が反論するが、龍之助の耳には届いていない。
「あぁいやそうじゃな…落ち着け俺。だ、大丈夫っス! 俺が立派な父親に!!」
「全然落ち着いてませんよっ!」
「三下さんは俺のお嫁さん(はぁと)になる人っス。なのでお父さんじゃなくてお母さんっス。だから人違いっス」
 漫才のような二人のやり取りを尻目に、静は冷静な面持ちで少年の顔をみる。
「この子……?」
 静は麗香から渡された資料にもう一度目を通す。
「湖影くん、この子」
 静から渡されて、龍之助は写真を見る。
「……!!」
「…驚かさないでくださいね」
 にっこりと微笑む静に、龍之助は思わず自分の口を手でふさいでコクコクとうなずいた。
「この子が例の『父親を捜している』って子っスかー。やっぱスーツの三下さんを間違えてるんスかねぇ?」
 静は膝を折ってかがむと、少年と視線の位置をあわせる。
「僕は静。君の名前は?」
「……甘粕優太(あまかす・ゆうた)……」
「優太くん、その人をよく見て? 君を見てビクビク怯えて腰が抜けそうになっている人が、君のお父さんかな?」
 笑顔で言っているが、内容は酷い。
「おとう……さん……じゃない」
 三下をつかんでいた手をはなし、優太は少し距離をおくように三下から離れた。
「…君のお父さんは本当は別の所だよ」
「君が捜してるお父さんは、ココにはいないっス。君がココにいるとお父さんが悲しむっスよ? お父さん、暖かいトコで君を待ってるっス。だから…お父さんの所に行こう」
 霊能力はないが、気持ちだけは無限大。にっこり笑って、しかし片方の手でしっかり三下の腕をつかみながら龍之助が言う。
「お父さん、どこにいるの?」
「ああ、でも俺には霊を呼ぶ力がない……。お父さん呼んであげたいけど…役立たずな兄ちゃんでごめんな?」
 くーっと袖で涙をぬぐう。
「…何処にいるのかわからないなら…案内しようか?」
 そう優しく接する静の表情に、わずかな翳りがあった事に、気付く者は居なかった。
「お兄ちゃん、お父さんのいる場所、知ってるの?」
「道を教えてあげる事はできる。……その後は多分、君のお父さんが迎えに来てくれるはず……今度は繋いだ手、放しては駄目だよ」
「うん、わかった!」
 少年が強くうなずくのをみて、静は形容しがたい笑みを浮かべた。
 それは今にも泣きそうなようにも見えた。
「今から起こる事は、内緒ですよ」
 人差し指をたてて唇にあて、静は先程とは違う種類の笑みを浮かべる。
「いいかい、光が見える」
 静が指を指した先に、一条の光が見えた。
「光の中に入ったら、お父さんの事を思い浮かべて、呼んでごらん」
 少年はコクンとうなずくと、光の中に入る。
「おとう……さん……」
 すると少年の体は光の道を通るように空へと浮かび、ゆっくりとその姿を消し行く。
「あの子、お父さんに逢えたっスかね」
「大丈夫……」
 呟きながら静はそっと右手首を押さえた。
「向こうで父親に会えたなら、あの子は幸せだよ…僕は、逢いたくても逢えないから……」
「ん? どうしたんスか?」
「……何でもないよ」
 静の囁くような声が聞こえなく、聞き返した龍之助に、静は首をふった。
「成仏出来て、よかったですね」
 ホッとしたような面持ちで呟いた三下に、龍之助がすりよる」
「…三下さん…。まさか『子供が欲しくなっちゃった』なんて言わないっス……よね?」
「な、何を言い出すんですかっ」
「今は子供より俺を可愛がってくださいっス!」
 相変わらずな二人の様子を見て、静は苦笑する。
「それよりも三下さん、碇さんに連絡してないようですが大丈夫ですか?」
「あああああ忘れてました! ど、どしよう……きっと怒ってますよね……」
「一緒に怒られてあげるっス!」
「事前に調査していたら遅くなり、丁度皆さんと合流したのでそのまま取材していました、とかどうですか?」
「あ、はい! そ、そうですね」
 携帯を取り落としそうな勢いでポケットから携帯電話を取り出すと、三下は電話の向こうにペコペコ頭をさげながら通話している。
 龍之助は後ろで三下にくっつきながら、フォローなのかなんなのか、横やりをいれている様子。
 静はそっと空を見上げた。
 何かを急かすかのように、雲が早く流れていった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0218:湖影・龍之助(こかげ・りゅうのすけ):男:17歳:高校生・アトラスアルバイター】
【5566:菊坂・静(きっさか・しずか):男:15歳:高校生・「気狂い屋」】

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■         ライター通信          ■
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 初めて&こんにちは、夜来聖です。
 この度は私の依頼に参加してくださりまして、ありがとうございます。
【湖影・龍之助】さん
 書いてて毎度毎度楽しいです☆
 今回も飛ばしてますが(笑)
 相変わらずで、私はとっても楽しいですよ♪
【菊坂・静】さん
 初めまして、よろしくお願いします。
 なんか味のあるキャラで、こういうタイプ好きなので、書いていて嬉しかったです♪
 でも私の感じたイメージで書いてしまったので、違っていたらすみません。

 またの機会にお逢いできることを楽しみにしています。