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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


[ jyack o lantern and pumpkin carriage ]



「秋と言う季節はな、ろくなことが無いんだよ、零……」
 徐に眼を閉じ、草間武彦は小さい子を諭すように言った。
「去年も一昨年も色々とありましたしね、兄さん」
 茶を運び微笑みながら草間零が言う。
「終わればもう振り返ることも無い過去の筈なんだ」
「けれど、再び起これば蘇る思い出、ですね」
 つまり思い出したくない思い出だ。
「…………俺は安息の時間が欲しいなぁ、零――」
「安息は折角買ってきて一部形も作り終えたカボチャを全部取り戻してからにしてください」
 ゆっくりと眼を開け言った希望・懇願は、即座に片手で振り落とされた気分だった。それも笑顔で。
「……了解」
 渋々頷くと電話に手を伸ばす。結局いつも人任せだ。
「あー、もしもし。今年はこの興信所発、南瓜パレードだ――まぁ、相変わらず俺らの食料が掛かってるし、兼ディスプレイでもある。全部回収できたらちょっと分けるから手伝ってくれ。あ、ついでに誰か飯も作ってくれ」
 草間武彦は相変わらず飢えている……。

 外ではまだハロウィン前の昼間だというのに小さな声が響いていた。

「trick or treat!! ――――お菓子をくれないと悪戯しちゃうぞぉー!」




「――南瓜、ね……一応ハロウィン、なのよね。やっぱり」
 武彦からの電話を切ると、彼女は苦笑いを浮かべながらも又電話を手にした。この辺り一帯に協力を願おうと、まずは麗香へと連絡を入れる。連絡の内容は勿論、妙な南瓜を見かけたら自分の携帯電話へ連絡を願うものだ。思いつく限り連絡を入れていくが、途中で連絡が被っていることに気がついた。南瓜の名を口にした瞬間納得され始めたのだ。どうやら他にも一斉に南瓜についての連絡をしている人物が居るらしい。
「武彦さんから連絡受けた人だろうし、行けば分かるわね」
 一先ず全員に連絡を入れ終えると家を出る。
 途中、突風と同時に足元をすり抜ける何かとすれ違った。それが何であるか彼女の目が捕らえたわけではない。しかし、今この状況で唯一つ、それが何か思い当たる節もあり振り返るが、そこには既に何も存在しない。
「――――まさか、ね……」
 一言呟きながらも歩みを再開する。

 ただ、何も存在しないと言うのは砂埃が舞い上がっていることを除けば、の話。



    □□□



 その日興信所を訪れたシュライン・エマと法条・風槻(のりなが・ふつき)は、いつもとは少し違う興信所の様子に首を傾げていた。
「この度はありがとうございます」
 相変わらず出迎えてくれる零の姿は変わらない。しかし。
「こんにちは、零ちゃん。でも……肝心の武彦さんは?」
「草間の所は相変わらずだと思ったけど、まさか来てみれば依頼主が居ないとはね」
 そう、今この場に武彦は居ない。二人の疑問に零はお茶の準備を始めながら答えた。
「兄さんはその……遅れながらも南瓜を追いかけて出て行きました。そろそろ諦めて帰ってくる頃だと思います」
 案の定、その数分後武彦が帰ってくる。そして、シュラインと風槻を見るなり「腹減った……」と一言呟いた。
「少ししたらご飯の準備はするから少し待ってて。その前に少し聞いておきたいこともあるし、その内連絡来るかもしれないし」
 そう言ったシュラインに風槻が顔を上げる。
「ぁ、そういえばあたしさっき南瓜について色んな所に連絡したんだけど、もしかしてあの時……?」
「あら、やっぱり?」
 お互いに連絡が重なっていた事は気づいていたらしい。ともあれ、これで周囲からの情報は充分に入ってくる筈だ。後はその跡をどう追っていくかが問題だが、ここでシュラインが一つ零に問う。
「それにしても零ちゃん、通常の……南瓜、で作ったの?」
「ぇ、はい」
 「まさか」と含んだその問いに、零は首を傾げながらも素直に頷いた。そんな反応に、思わず苦笑いを通り越し笑みが出てしまう。
「作り難かったでしょ」
「はい、小さくて硬いので刳り貫くのに一苦労で、何度も電子レンジに入れて頑張りました」
 思わずシュラインが言葉に詰まり、それまで話半分に聞いていた風槻が思わず顔を上げた。
「ん、ちょっと待って、ハロウィンで使うカボチャってあのオレンジのだよね。オレンジのじゃ、ないの?」
「はい、オレンジ色ですよね。だからこの後緑をオレンジに塗ろうと」
 本気でないと願いたい。本当は知っていて、でもそういう方向性に進んでしまった方がいっそマシだと思った。しかし、それにしては無邪気な零の笑みはあまりにも眩しく、いっそ真実を告げない方が良いのではないのかとも迷った。
 そもそもハロウィンに使用されるカボチャはパンプキンカービング用の物であり、南瓜よりも大きい物が殆どで柔らかい。勿論色は定番のオレンジ、ただ南瓜と違う部分は他にも多々ある。
「だってアレ、高いだろ」
 シュラインと風槻の考えを読んだのか、不意に武彦が呟いた。相変わらず空腹の状態なのか、器用にも胃と椅子の背もたれがきしむ音を交互に鳴らしながらぼんやりとしている。
「…………武彦さんなの? 分かってて南瓜でハロウィンなんて」
「経済的だろ。第一あっちのカボチャはカボチャのくせして食えるのが種だけだ。俺は南瓜の方が好きだな」
 その言葉に零が頷いていることに風槻が気づき言った。
「そう言う理由なわけ……というか、南瓜でよくそこまで決行したね。既製品もあるだろうに」
「作った後食べられる事が大事ですから! ようやく二個刳り貫き終わったところでこの様な事態に発展してしまいましたが」
「全部で、何個あったの?」
 シュラインが問えば、零は幾らか状況を詳しく説明してくれる。
「四個です。ランタンを二個と馬車を二個作っていました。刳り貫き終わってるのはそれぞれ一個ですけど」
「南瓜で馬車って……なんかシンデレラだね」
 最早ハロウィンから完全に逸脱している。
「と言うことは、二個刳り貫き終わっていて残りの二個は?」
「刳り貫き線を書いた状態です。包丁を入れさせてもらえませんでした」
「……包丁…なの……」
 いくら零とは言え、南瓜相手に包丁での刳り貫きでは、手元も危ない上に多少刃も欠けているんじゃないだろうか。
「取り敢えず先に刳り貫いた中身放っておくわけにもいかないし料理しちゃうわね。ご希望は?」
 立ち上がったシュラインに武彦は「食えれば何でも」と答え、風槻は「南瓜なら何でも」と答え、それ聞くと彼女は奥へと入って行った。
 台所には南瓜の良い匂いが充満していた。そして流しの隅、ボールの中に刳り貫かれた南瓜がある。
「南瓜料理に……ご飯とお味噌汁あれば良いかな?」
 言うなりまずはご飯の準備。先に洗い水を入れ、炊飯器へ入れた後一時間ほど水に浸しておく。
 それが終わるなり味噌汁の準備に取り掛かる。まずは此処に南瓜を少し入れる予定だった。幸い南瓜は磨り潰されているような状態ではなく、ある程度固形で残っている部分もある。そこを煮崩れないよう、他の野菜と共に味噌汁の中へ。
 味噌汁の中に半分ほど入れると残りは殆ど型崩れした南瓜が残った。これらは綺麗に裏ごしし、焼き時間は掛かるが材料が少なく済むケーキに。
 途中、おかしな南瓜があやかし荘を突き抜けていったと嬉璃から連絡が入り、シュラインは料理の手を止めると、出来上がった味噌汁を一先ず茶碗に入れて武彦のもとへと持って行く。
 ソファーに座っていた風槻は、ノートパソコンを前に調べ物をしているようで、シュラインが戻ってきたことに気づいていなかった。
「法条さんも良かったら食べてね。ご飯はまだ炊けてないけど、丁度お昼時だしこの先長期戦になるかもだし」
 武彦に茶碗と箸を渡すと、彼は嬉しそうに口をつけ始める。
「あぁ、ありがとうございます」
 振り返り言うと、風槻はようやく顔を上げた。そんな彼女の正面に座ると、先ほど連絡が入ったことも考え問う。
「もしかしたら何か収穫あったかしら?」
「正解。まず白王社に現れたって連絡が。後は雫のサイト見てたんだけど、どうもそのままの南瓜……刳り貫かれて無い二つは頻繁に目撃されてるみたいで――」
 そう言うと風槻はシュラインにノートパソコンを向けた。どうやらそこには、雫のサイトで見た情報をまとめたデータが出されているようだ。
「そうそう、私のところにも嬉璃ちゃんから連絡が来たわ。相当暴れてるみたいね」
 言いながらシュラインはパソコンに目を向けると、ランタンのような顔を描かれた浮遊南瓜と馬車のように走る南瓜の目撃情報、それらを統計・分析した南瓜の今後の動き予想を見る。
「こんな感じで、刳り貫かれている方の目撃情報は今の所無いって所。刳り貫き前の動きはこれで大方あってると思いますよ」
 浮遊南瓜はその動きがばらばらで予測不能なものの、とにかく明るく人の多い場所に現れる傾向のようだった。
 馬車南瓜は白王社内を散々暴走した挙句、レンの店先に突っ込み、あやかし荘を突き抜けたという情報が入っている。今までの目撃情報と進路を見る限り、目的地は神聖都学園に思えた。
「――……じゃあまずは目撃多い確実な方から探してみましょう。刳り貫かれている方も試してみたい事はあるから、探しついでに色々当たってみるし」
 風槻と目が合うと同時にシュラインはソファーから立つ。すると風槻はノートパソコンを自分の方へ向け直し言った。
「あたしは此処で随時調べ物で。何かあったら連絡しますから」
「こちらも動きがあれば電話するわね」
 頷きもう一度台所へ戻り、炊飯器のスイッチを押しすぐ戻る。そして零と武彦にも出かける事を告げると、荷物を持ち興信所を後にした。



    □□□



 興信所を出た後、シュラインはレンを目指す。
「蓮さ――っ……凄い有様ね…」
 そしてその入り口に立つ碧摩蓮に声をかけようとするが、その言葉は思わず途中で止まり、ただ感想を告げるのみとなってしまった。店の一角がまるで抉られたかのように荒れている。
「あぁ、いらっしゃい。そうだ、連絡できなくて悪いね、何せ片付け優先でね」
「これ、例の南瓜が?」
 散乱した物の一つを手に取ると店の主、蓮へと手渡し思わず問う。
「……あっという間だったよ。店の中に突っ込まなかっただけマシだと思うべきなんだろうけど、いくつか店先の物を持っていかれたようでね。全くなんなんだい、あれは?」
 蓮の言葉に苦笑し、自分にも今はまだ良く分からないと言いながら、持っていかれたという何かが気になった。
「まだ片付かないから断定は出来ないけど……分かったら一応連絡するよ」
 そう言う蓮に、シュラインは此処に来た当初の目的を告げる。南瓜が喜ぶような蝋燭が欲しいと思っていたのだ。事情を話せば蓮は奥から勝手に持っていってくれと言い、片づけを再開する。
 礼を告げると店の中へ。無事サイズ、色形的にも南瓜が喜びそうな蝋燭を手に入れると蓮に礼を告げ、シュラインは刳り貫かれる前の南瓜が向かっていると思われる神聖都学園を目指した。

 学園には当初、未完成南瓜が描かれた顔に不満を持っている可能性も考え、美術室や先生の所で下絵を数枚、交渉用に入手しようとしていた。それに加え、校内でも探してみようかとは思っていたのだが――学園を目の前にし、影沼ヒミコから連絡が入った。どうやら問題の南瓜はグラウンドに居るらしい。
 問題の場所に辿り着くと人だかりの向こう、トラックを永遠と走り続ける南瓜を見つけた。
「……まずはあれをどうにかして捕まえたいものね」
 呟き、今暫く南瓜があの場を離れなさそうなのを確信し、シュラインは校舎へと向かう。予め目的の物を入手しに美術室へ行き、デザインを頼んでいる間に調理室に行き手ごろな鍋と蓋を用意。校舎内にも他の南瓜が居ないか注意しながら、教室の一つ一つを、そして特別教室を覗いていく。まずは暗幕が引かれ暗い理科室に、そして既に閉館し薄暗い図書室を。
 そこでシュラインは一旦閉めかけたドアを止めた。見た目の異常は無い。しかし……。
「――――音」
 人の耳には届き難い小さな音、それがシュラインの耳には確かに響いた。何の音だろうと考える。言うならば布が擦れたような音、だと思う。一歩図書室の中へ足を踏み入れたその時、携帯電話が鳴り響き、同時に窓ガラスが割れる音がした。
「っ……やっぱり居た、みたいね……」
 思わず苦笑いを浮かべながらも、既に外へ飛び出てしまったものを追うのは難しく、取り敢えずガラスの割れた方へと歩きながら電話に出る。
『もしもし、今何処に?』
 相手は勿論風槻だ。何か動きでもあったのだろうかと思いつつ、現状を説明した。
「学園の図書室に――どれか分からないけど南瓜が居たわ。後さっきはグラウンドに未完成の馬車南瓜が」
 今の言葉をパソコンに打ち込んでいるのか、カタカタと小さな音が聞こえる。そしてそれからすぐ、風槻が麗香から掛かってきたと言う連絡の内容を伝えてきた。
 話によると編集部に顔の描かれた南瓜が現れ、それが居座ってるらしい。そして、三時迄に引き取りに行かなければいけないという話しだ。時計を見ればもう一時間を切っている。
「……これからグラウンドの南瓜を持って一旦興信所に戻ろうと思ってるから、此処からだと間に合いそうにないわ」
『――と言うことは……やっぱりあたしが行くべきか』
 少しの間を置き風槻はそう言うと「何とかしてみますね」と言い電話は切られた。割れていた窓は人が割ったようなものではなく、やはり南瓜一個分と言えるかもしれない小さな物だった。
 美術室に戻り物を受け取りグラウンドに戻ると、南瓜はまだ走り続けていた。鍋を片手に近づくが、南瓜は動きを止めることは無い。だが、進路を変えて逃げることも無い。
「……もしかして動けるけど目は見えてないとか?」
 レンでの事も気になった。何かにぶつからない限り進路を変更したり止まらないかもしれない。ならばと、シュラインは鍋を持って南瓜の進路前に立ち身構えた。
 南瓜はそのまま、シュラインが身構えていた鍋に激突しては激しい音を立て、やがてその動きを止めると同時に彼女が上から蓋をする。衝撃で多少痺れた手を小さく振りながら、学園を出て一旦興信所へ戻ることにした。
 帰り道の途中蓮から無くなった物が分かったと連絡が入る。それは布と馬の置物、車の玩具の車輪部分……との事。
 興信所に戻ると何故か忠雄が居た。勿論その近くに南瓜が居るのだが、どうやら忠雄を攻撃しているらしい。変に懐かれている様で、南瓜と共に連れてこられたのかもしれない。
 まだ多少南瓜が中で暴れる鍋を机の上に置くと、蓋の上に重しを一旦乗せ逃げられないようにした。風槻は相変わらずパソコンで調べ物のようだ。
 ゆっくりと陽は落ち、もうすぐ空は暗くなるだろう。夜――それは刳り貫かれた南瓜達にとって、至福の時間……かもしれない。



    □□□



 六時を過ぎ五人で食事を終えると残りの南瓜を探すことにする。シュラインは南瓜が蝋燭や火、光のある場所に近寄るかもしれないと目処を立て再び外へ。
「何処から行くべきかしらね……」
 暫くこれと言った当ても無く南瓜を探していると、やがて零から連絡が入った。風槻がランタンの行方を掴んだらしい。最初は学園付近を彷徨っていたそれは、突如レンの上空に移動したとの事。その姿は確かに南瓜でランタンなのだが、その顔の下にはマントを纏いふわふわと揺らしているらしい。
 早速レンへと移動を開始。店の付近は街灯りから離れ暗いものの、店の淡い明かりが辺りを優しく照らしている。その明かりにランタンも照らされていた。
 暫く上空に浮かぶランタンを見上げていたが、ランタンはそこから動くことなくただ時間だけが過ぎていく。なんとか興味を惹けないものかと、試しに昼間手に入れた蝋燭を出しては火を点けてみる。ゆらりと炎は揺れ、ようやくランタンがシュラインの存在に気づいたらしい、ふわふわと下りて来た。
「――――アカリ」
 そしてシュラインの目の前まで下りてくるとお決まりの台詞を言う。
「trick or treat お菓子をくれないと悪戯しちゃうぞ」
「……要求はお菓子なの? それなら興信所にもあった筈だけど」
「チガウ。アソコ オンナ イヤダ キイロ。ニゲル」
 お決まりの台詞以外は片言のランタンに、シュラインはその台詞を頭の中で解読し問う。
「もしかして黄色に塗られるのが嫌?」
「アタリ」
 思わず苦笑し、ならばと一つ案を出す。と言うよりも、コレしか言いようがない。
「色は零ちゃんに妥協してもらうわ。そしたら戻っても良い?」
「イイヨ。カワリ アカリ ホシイ。アカリ キレイ」
 言いながら、ランタンはシュラインの横に並んだ。そんなランタンの中に蝋燭を入れると、それは嬉しそうに飛び上がった。
 一旦興信所に戻ろうかと考えていた時、零から再び馬車も見つかったと連絡が入る。場所はあやかし荘廊下。但し、見つけて暫く後、行方を追うことが不能になったという。
 暫く馬車がそのままで居れば良いのだが、電話を切ったシュラインにランタンは小さく告げる。
「馬車は…零時に魔法が切れて消える」
 それは、先ほどまで片言だった言葉とは違う、はっきりとしたものだった。


 結局ランタンと共にあやかし荘へ向かう。もうすぐ日付も変わるが、あやかし荘は賑やかだ。中では住人や管理人と馬車の騒動になっているのだろう。何処から乗り込むべきか考えていたところ、ランタンがあやかし荘上空まで上り呟いた。
「…あいつ、願い……叶う」
「願い…叶う? ――ぁ……」
 気づけば時計の針は二本とも真上を指し、一瞬にして静寂が訪れる。ハロウィン当日の今、一つの南瓜が意思を失った。
 そして魔法が解けたかのよう動かなくなった南瓜を手に――南瓜についていた車輪と、南瓜を引いていた馬の置物も共に、隣にはランタンを連れ、シュラインはあやかし荘を後にする。興信所に着くと入り口で零が笑顔で出迎えてくれた。



    □□□



「これで全部揃ったわよ。情報、ありがとう」
 風槻に礼を告げると、彼女もこちらこそとゆっくり立ちあがる。ソファーに毛布があることから少し休んでいたのかもしれない。
「お疲れ様、役に立てたようで良かった」
 結局刳り貫かれたランタンは今シュラインの隣に、馬車は既にその意思を失いただの南瓜に。未完成のランタンは未だ忠雄の傍に、そして馬車は鍋の中に――と言う結果だ。
「さてと、もう此処まで連れ戻してなんだけど、要求があれば聞くわよ? っても、喋れるのは一人、かしら」
 そう言うとすぐさまランタンが口を開いた。
「自分は別にランタンにされても良かったけど、刳り貫かれた後は台所に置きっぱなしだし塗られるのは嫌だったから」
 要するに扱いが酷かったことに対する不満だろう。それについては色を塗らないと言うこと、興信所の入り口、若しくは来客の目に付きやすいところに配置すると言うことですぐさま解決する。
 続いてランタンが他の南瓜の理由を代弁した。
「馬車はきちんと馬に引かれ走り回りたかった。でも、願いが叶ったからこそ消えちゃった」
「まさにシンデレラ、か。零時に魔法は解けるってね?」
 馬車に関しても、折角なのでランタンと共に飾ってあげることにする。
「後は、三下くんに懐いてる南瓜と鍋の中の南瓜ね」
「そっちの馬車はもう諦めたと思うよ。彼はあの馬車に憧れて飛び出したけど…もう夢を追って走ることは無いんじゃないかな」
「……なんか生々しい現実」
 風槻はそう苦笑いを浮かべるが、確かに鍋の中の南瓜はすっかり大人しくなっていた。それとは逆に、未だ厄介なのが忠雄の傍を離れない南瓜だ。
「そっちの南瓜は、南瓜なのにランタンにされるのが嫌なのと、包丁で腸を抉られる現場を見て怖くなったみたいだよ。だからじゃないかな、無害そうな人間に懐くのは」
「はら、わたって……」
 やがてランタンに興味本位で手持ちのお菓子を与えていた風槻は、その単語に思わず絶句した。
「無害って、僕にとっては迷惑ですよぉー……っ」
 言いながら又南瓜の攻撃を受けている。
「とにかく、南瓜は南瓜らしく扱ってほしいんだよ」
「――ですって、武彦さん?」
「要するに……どうすりゃ良いんだよ」
 言いながらも、本当は分かっているのだろう。第一、武彦当初の願いはディスプレーと食料を取り戻すことだ。今の状態は丁度その両方が揃っている。
「つまり刳り貫いた方はこう、上手く飾ってあげてさ?」
「まだ刳り貫いてない方は普通に料理してあげればいいってこと。良いかしら、武彦さん?」
 風槻とシュラインの言葉に、武彦は目を逸らしながらも「食えるならどうでもいい」と言い、台所へと行ってしまった。
「…大丈夫なの?」
「大丈夫、根は優しい人だもの。アレでちゃんと分かって了承してくれてるわよ」
 少し不安そうに問うランタンにシュラインは大丈夫だと念を押す。
 風槻も「反対してないし、あれなら大丈夫なんじゃないの?」と首を傾げつつ時計に目を向けた。時刻は既に午前一時近い。
「それにしても――煮る際に皮付きは色合いも感触も良いしね……嬉しいわ」
 言いながら、忠雄に懐く南瓜も鍋に入ってもらい「明日料理しましょっ」と、嬉しそうにシュラインは台所へと入っていった。
 結局夜も遅く、此処に泊まっていくことになったシュラインと風槻とついでに忠雄。その夜ランタンの悪戯により皆が何度も目覚めたことは言うまでも無いが、翌朝食べた南瓜の煮物は美味しく、大人しく飾られることとなったランタンと馬車は、ネット上で流れた事と南瓜製と言うこともあり、暫く妙な話題と客人を興信所に呼んだ――らしい。


 ――――…Happy Halloween?


 and――…‥

「南瓜って意外に量あるのよねぇ……武彦さんに煮物やら天ぷらやら色々作ってきたけどまだ残って…折角だし、うちでも作ろっと」
 そう、なにやら窓の線が薄っすらと残る南瓜を鞄に忍ばせ、シュラインは帰路についた。

 Autumn eating!

【 end.. 】

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
 [0086/  シュライン・エマ  /女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員]
 [6235/    法条・風槻   /女性/25歳/情報請負人]

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、李月です。この度はご参加ありがとうございました。
 昼の間は主に未完成の南瓜が活動、夜に刳り貫かれた南瓜が活動…と言った感じでしたが、無事半日で4個全てを回収することが出来ました。
 外での調査と中での調査となったので完全に視点が別れ二つ合わせて一つの話状態…お時間興味ありましたらもう片方も見ていただければ実はこんなことがあった――なんて分かると思います。

【シュライン エマさま】
 いつもありがとうございます。秋の食べ物ネタと言うことで、今回は南瓜のお料理ですね(←既に主旨がお料理になってますが・笑)
 今回は数が少なかった代わりに全部が全部違った理由で逃げ出していましたが、見つけられれば割と後はすんなりと行く物でしたので、あっちこっちへの移動お疲れ様でした……。因みにランタンは蝋燭入れてあげるとまともに会話できる子でした。そのままだと永遠三文字の片言で…。

 それでは、又のご縁がありましたら…‥。
 李月蒼