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<東京怪談・PCゲームノベル>


no name sweets 〜イートイン編

 今日も店は暇だった。
 バイトが学校の都合で今日は休みらしく、尚乃は仕方なく店頭に立っていた。
 あまりに暇すぎてそのまま寝てしまえると思えるほど。
 昼下がりの陽射しは暖かく心地よい、これは眠れと言ってるに違いない。そんな勝手な思い込みさえ出てくる。
「あー……かったりぃ」
 漏らす言葉、イツ来るかわからない客を待ちながら尚乃は少し身を屈めてショーケースの上に顎を置く。
 その下には色とりどりのケーキが並んでいた。
「尚乃ー」
「へーい」
 厨房から自分を呼ぶ声が聞こえた。あぁ、またなんか雑用頼まれるよとか思いながら、イヤイヤ返事を返しつつ、尚乃はなるだけゆっくりと厨房へと向かった。
 それは小さな彼なりの抵抗らしい。

 レムウス・カーザンスと水滝・刃は二人で並んで歩いていた。
 先ほど二人で外で昼食を終え家へと向かっている途中、何がどうなったのか小さな路地を二人で歩いていた。
 なんの変哲もないただの路地、どこまでも真っ直ぐで何もなくて、もしかするこのまま次の通りに出てしまうのではないのだろうかとか、もしかしたらこの路は間違いだったんじゃないのだろうかそんな気さえしても不思議じゃない細い路地。
 歩いているのはレムウスと刃しかいない。
 静かな路地だった。
 そんな路地の途中に突然ぽかりと現れだす小さな店。
 そんな店があるなんて気配もなかったのに、本当に突然に。
「――――ぁ」
 先に店に気がついたのはレムウス。
 そうして歩く速度が次第にゆっくりとなり、店の前まで来れば自然と止まった。
「どうした?」
「ぁ、いや。………ここでお茶でもどうだ?」
「あン?……さっきメシ食ったところだろ?」
「それはそうだが…………」
 店の前で立ち止まった二人。
 中を覗き込むレムウスを眺める刃。
 何かに夢中になっているのが分かった。そっとレムウスの背後から覗き込めばそこにあるのは綺麗に陳列されたケーキだった。
 それに刃はすこし面倒くさそうに答えるも、レムウスの決心の方が強く腕をとられればそのまま店の方に引っ張られていく。
―――――――仕方がない、つきやってやるか。
 普段偉そうにしているくせにやっぱりこういう所はまだまだ子どもだなと思いながら、レムウスに引っ張られていく。
「いいじゃないか、付き合えよ」
「はいはい」
 レムウスはゆっくりとケーキ屋の扉を開けた。
 扉につけられている呼び鈴がカランカランとなった。
 二人が入った店内には誰もいなかった。
「あれ?」
「休みなんじゃないのか?」
「休みなら、店の扉は開いてないだろう」
 刃が態と少し意地悪な言葉をレムウスに掛ける。
 その言葉にレムウスは少々むっとしながら刃に食って掛かろうとした時、厨房の扉が開きそこからひとりの青年が現れた。
 先ほどパティシエに呼ばれて引っ込んでてた尚乃だった、
「いらっしゃいませ」
 尚乃は従業員らしく軽く頭を下げて、接客を始める。
「えー、と。持ち帰りですか?」
「あ、いや。できればここで食べたいのだけれども」
「あぁ、はいはい。それではこちらにどうぞ」
 尚乃はレジがおいてあるカウンターからメニューを取れば、尚乃は小さいながらもきちんとした喫茶スペースに二人を案内する。
「こちらでいいですか?」
「ぁ、はい」
 尚乃が案内したのはゆったりとしたソファ席。
 それにレムウスが返事を返し、刃は席に着く。
「それじゃぁ、決まったら呼んでください」
 席についたふたりに尚乃はメニューを渡す。
 ふたりに2冊ずつ。
 普通のメニューとそうでない何も書いてない真っ白なメニュー。それは彼にしてみればいつものことで、当然のこと。だからすぐに問いかけられたレムウスの言葉もいつもどおり聞きなれただった。
「こっちのメニューは白紙なんだが?」
「そっちはうちのパティシエが、お客様からのご希望のスウィーツを作らさせて貰う様のメニューです」
「ご希望?」
「えぇ、噛み砕いて言えば好きなもの何でも作る。ってことです」
「それじゃぁ………和洋折衷なものでも大丈夫か?」
「和洋折衷ー?大丈夫ですよ。もっと細かい指定とかあっても大丈夫ですし」
「いや、特別何もない。……異なる文化の融合を見て見たいのだが」
「えぇ、分かりました。じゃぁ、和洋折衷であとはパティシエのお任せで」
「あぁ、それで良い。あ、それから紅茶も一緒に貰おう」
「はい。で、そちらのお客様はどうされますか?」
 レムウスと尚乃のやり取りを聞きながら刃は普通にメニューが書いてあるほうを眺めていた。
 そうして尚乃の問いかけに、落としていた視線を上げて尚乃を見た。
「あぁ。お勧めのものを貰おうか」
「定番商品か、季節の商品か?どうします?」
「そうだな、出来ればそのパティシエの聞いてきてもらってもいいか?今何が一番お勧めなのか」
「はい、じゃぁ、ちょっとお待ちください」
 お勧めという言葉に尚乃はこの店の定番で出しているものなのか、それとも季節商品なのかどちらかを提示したのだが刃は『パティシエとしてのお勧め』を聞いてきた。
 尚乃はそれじゃぁ直接聞きに行くと、一端二人の元を離れて厨房の方に向かった。
「アッキーさーん」
 厨房の扉を開きながら、中にいるパティシエに話を聞きにいく。
 自分自身、菓子をえり好みするわけでもない、それなら作り手が自信を持って勧めるものを素直に受け止めて食べてみたいとおもったから。
 尚乃は程なくして戻ってきた。
「すみません。えっとですね、パティシエが言うには今だとモンブランがお勧めだと言ってました。あと和梨のいいのが入ったので、今日は和梨のタルトも用意ができるらしいです」
「そうか、それじゃぁ。それを頂こう。あ、ケーキに合うコーヒーと一緒に」
「はい、分かりました。じゃ、注文確認します。和洋背中のデザート、紅茶と一緒に。モンブランと和梨のタルトコーヒーと一緒に。以上でいいですか?」
 尋ねられた、レムウスと刃は『構わない』と、いう風に軽く頷いた。
  それを確認してから、尚乃は軽く頭を下げて厨房へと戻っていった。
 そこに残ったのはレムウスと刃の二人。

 のんびりとした時間だった。
 そのままそんな時間が過ぎ、頼んだケーキがやってくると思っていた刃の思考を遮ったのはレムウスの言葉だった。
刃。丁度いい機会だ、言っておきたいことがあるのだが」
「何だよ?」
「術のことなんだが……」
「術がどうかしたのか?」
「どうか。というか、このままの実力でいいのだろうかともっと上を目指すべきじゃないだろうか」
「あぁ、上ねぇ?」
「刃、私は真剣に話をしてるのだから、もうちょっと真面目に聞けないか?」
 レムウスの話は術についてだった。
 なんとなく面倒くさそうなことになりそうな予感をしながら、レムウスを見ればその表情は少し険しく眉間に浅い皺が寄っていた。
 なんだかなぁ、とか思いながら刃はさりげなくレムウスから視線を外した。
「刃、聞いているのか?……私はだな………」
「聞いてるよ。きっちり修行してもっと強くなりたいって言うんだろ?」
「そうだ、強くなるためには……………」
「いや、でもさ」
 もっと強くなり、上手く術を使えるために修行をしたいと訴えてくるレムウス。
 だが刃にしてみれば修行なんて面倒くさいことしかおぼえていない。
 なんとなくのらりくらりと交わそうとしているのは、あまり気乗りしないから。
 そんな様子をレムウスは分かったのか、刃を一喝しようと、唇を開きかけたときそれを遮るように刃が先手を打った。
「修行するのはイイケドさ」
「それならすぐにでも修行の準備に取り掛かろう」
「あぁ……でもなぁ」
「刃。お前というやつはもう少し真剣に考えようとしないのか」
 あまりにも刃がのらりくらりと交わしていくから、レムウスが痺れを切らした。
声を荒げることはなかったけれども、その声は次第に低く刃を見据える視線はきっとちょっと睨むようになってきていた。
「ならさレムウスもそのちょっと、いやカナリ女々しいとこをなんとかしないと修行なんてできないんじゃないのか?」
「……………―――――――む」
 レムウスの弱点を刃は分かっている。
 そこをつっこめば自然とレムウスが黙り込むことも。
 だから彼は止めの一言を放った。
 刃の思惑通りにレムウスは黙りこくる。
 ここは刃の勝ちと言ったところだろ。

 レムウスが黙り込んで、しばらくしてからまた尚乃が厨房から出てきた。
「おまかせしました。こちらがお勧めの和梨のタルトとショコラモンブランになります」
 尚乃が説明をしながら1枚のプレートを刃の方に置く。
 少し大きめの白いプレートの余白を楽しむように上品にタルトとモンブランが並んで置かれ、それらを更に引き立てるようにヴァニラのジェラードが添えられ、チョコレートで周りを彩る模様が描かれていた。
「で、こちらが和洋折衷なデザートプレートになります」
 もう一枚のプレートはレムウスの方へ、刃と同じ白い皿の上にこちらはいろんなものが乗っていた。
「和洋折衷ということだったので、シブーストと柿とチョコのタルト、和梨のジェラード添えになります」
 簡単な説明をされたオリジナルのデザートはふわりとした林檎が入ったシブーストとクラッシュショコラを焼き込んだ柿のタルト。それに添えられたのは和梨の歯ごたえ残るジェラードと生クリームには小豆が添えられていた。
「それではごゆっくり」
 それぞれに紅茶とコーヒーも出し終えた尚乃は軽く頭を下げてその場を去る。
 刃は目の前に置かれたパティシエがお勧めだというデザートを見た。
 ただ皿の上に乗っているだけではなく、目で見ても楽しめるように綺麗に盛り付けられていた。
 綺麗に飾られている二つのケーキのうちのひとつ、モンブランにフォークをいれ食べることにした。
 ふわりとした感触がフォークから指に伝わる、口の中へと入れればそれはビターなチョコレートが練り込まれたマロンクリームがさほど甘くもなく、中に隠れていた生クリームが柔らかさをかもし出す。
 そうして次は和梨のタルトへ。
 洋ナシよりもシャリシャリとした歯ごたえが楽しめ、チーズクリームと梨の味がよく合っていた。
 素直においしいと思った。
「………おいしい」
 レムウスの言葉が聞える、彼もまた素直にそう思ったことが自然にもれたような呟きだった。
 さりげなくレムウスを見れば、嬉しそうにケーキを食べている姿がある。
「おいしいな、刃」
「あぁ………そうだな」
 そんな自分にきがついたのかレムウスが声を掛けてきた。
 その言葉に異論などなかったから、刃も同意を示す言葉を返す。
「あの………」
 その後、レムウスが尚乃を呼んだ。
 声が聞こえた尚乃は二人が座る席の方を見て、呼ばれていることに気がつけばそちらに近寄る。
「はい?」
「このケーキが本当においしくて、出来ればパティシエ本人にお礼がいいたいのだが、いいだろうか?」
「あぁ、いいですよ」
 じゃぁ、ちょっと待ってください。なんていえば尚乃は厨房の扉を開けた。
「アッキーさん、お客さんがお呼びですよ」
「チーフと呼べ」
 そんな二人の些細なやり取りの後、厨房から出てきたパティシエ。
 ゆっくりと二人の席の方に近づき、頭を下げる。
「本日はご来店いただきありがとうございます」
「いや、そんな頭を下げないでくれ、本当に美味しくて一言、何か言いたくて」
「それはありがとうございます。お客様においしいと喜んでもらう為に作っています。ですからそうやっておいしいと言って貰えることがなによりです」
「ただの思いつきで、異なる文化の融合を見て見たいなんておもったのだったが、そんなことを忘れてしまうぐらいにおいしい。まるで完璧な魔術のようだ…。素晴らしい」
「それは恐れ多いです。お気に召していただけたのなら、良かったですよ」
 パティシエに直接言葉をかけるレムウスとそのパティシエを眺めていた刃。
 確かにレムウスの言うとおりにケーキに文句などなかった。
 お勧めだというだけに、本当においしいと感じていた。
 家にいる家族にも食べさせてやりたいと思った。
「あの話の途中わるいのだけれども、このケーキがとても気にってしまったので、できれば持ち帰りようにできないか?」
 レムウスとパティシエの会話の途中、邪魔にならないところで刃が持ち帰りたいと申し出る。
「えぇ、それはご用意させていただきます」
 持ち帰りの言葉にパティシエは刃の方を向き、快く承諾する。刃はありがとうと、小さく礼の言葉を付け足す。
 そうしてパティシエは程なくして、厨房の方へを戻っていく。
 レムウスと刃はまだ残っているデザートを楽しむことにした。

二人とも各々のデザートを堪能し、コーヒーも紅茶も空になれば名残おしいけれども、そろそろ行こうかとどちらかともなく立ち上がり、会計を済まそうとする。
「今日は本当にありがとう」
「また来てください」
 刃が尚乃に礼を言う。
 尚乃が言葉を返していれば、厨房の扉が開きパティシエが出てくる。
「お持ち帰り用のケーキです」
 パティシエは二つ箱を持っていた。
 ひとつはもちろん頼まれた刃へと、そうしてもうひとつはレムウスへと差し出す。
「これは気持ちです。うちのケーキを気にってくれたあなたへの」
「ぁ、ありがとう」
 箱を受け取るレムウスにパティシエはそう言葉をかける。
 レムウスは少し戸惑いながらも小さくはあるものの、嬉しそうな笑みをパティシエに向けた。
「うちの実家は神社をやっているので、……商売繁盛のご祈願でしたら、いつでも駆けつけますよ」
 この店はずっとここで残っていて欲しいと思った刃は、家の神社の話を切り出す。
 パティシエもはその言葉に小さく笑み返した。
「それは心強い、いつかお願いに上るかもしれません」
 刃は持ち帰りのケーキが入った箱を受け取りながら、パティシエのその時はよろしく。という言葉を聞いていた。
 レムウスと刃はゆっくりと店を出た。
 高かった陽はゆっくりと傾きかける時間になっていた。
 静かな時間が終わりを告げようとしていた。
 おいしいケーキにのんびりとした時間、日常的なのにどこだか非日常的ば出来事。
 またここに来れるだろうか。と、思いながらケーキの入った箱を見る。
 このケーキを食べた家族のことを考えれば、これから家に帰るのも悪くないと思った。
 

―――――― FIN


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   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
 
3844 / レムウス・カーザンス / 男性 / 28歳 / クォーター・エルフ
3860 /  水滝・刃 / 男性 / 18歳 / 高校生/陰陽師


NPC
尚乃→蒼井 尚乃/男性/20歳/Le Diable Amoureuxのアシスタントパティシエ
パティシエ→宮里 秋人/男性/28歳/Le Diable Amoureuxのオーナー兼チーフパティシエ


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        ライター通信          
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水滝・刃様

はじめまして、こんにちわ。
ライターの櫻正宗です。
この度は 【no name sweet 〜イートイン編】 にご参加下さりありがとうございました。
初めてご参加いただきうれしい限りでございます。

納期イッパイイッパイでの納品お待たせいたしました。
今回はお二人でのご来店ありがとうございました。
レムウスさんと刃さんとのやり取りが書けて楽しかったです。
今回はお勧めのデザートということで、定番商品をお勧めしようかと迷いましたが、秋の味覚が楽しめるものを用意させていただきました。
実家の神社での商売繁盛祈願そのうちお邪魔するかもしれません。本当にこの店はまったりしすぎるほど暇なので。

それでは、重ね重ねになりますが本当にありがとうございました。
それではまたどこかで出逢うことがありましたらよろしくお願いいたします。

櫻正宗 拝