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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


お菓子くれても悪戯しちゃうぞ!



☆♪☆


「お菓子くれても悪戯しちゃうぞ!」
 突如草間 武彦宅に乗り込んできたツインテールの少女はそう言うと、ガシャコンと言う重たい音を響かせながら武彦に銃口を突きつけた。
 武装した少女の手に持たれているのは、拳銃なんて生易しいものではない。
 ロケットランチャー・・・略してロケランだ。
「片桐、お菓子くれてもってことは、俺は容赦なくバラバラにされるってことか?」
 絶体絶命のピンチに、開けたドアを閉めたい衝動に駆られるが、残念ながら薄い扉1枚ではこの先に起こるであろう惨劇を防ぐことは出来ない。
「ねぇねぇ、武彦ちゃん!あたしね、お願いがあるの!」
「・・・ソレをぶっ放さないと誓うなら、きいても良いが・・・?」
「ハロウィンパーティーしたい!」
 毎度毎度、突拍子もない事を言う片桐 もなだが、この日はなんとなく想像がついた。
 悪魔の羽根を背中で羽ばたかせながら、しかも言う台詞が「お菓子くれても悪戯しちゃうぞ!」
 ・・・ハロウィンだと言う事は容易に想像がついたのだが、それにしたって言う台詞を間違えている。
 こんな凶悪な言葉を仕込んだのは何処の誰だろうか・・・??
「でもなぁ、するって言っても・・・」
 ここは興信所だ。パーティー会場ではない。そう反論しようとした武彦だったが・・・容赦なく突きつけられた銃口の中は漆黒の闇が支配している。
 もし、もながその華奢な指を引き金にかけ、一思いに ――――― いや、この先は考えないことにしよう。
「わ・・・分かった」
 無邪気な殺意に屈した武彦が了承し、このわがままな子供の要求を“命を奪わない・興信所を破壊しない”と言う条件で呑む。
「さ、武彦ちゃん人を集めて!みんなお化けの格好して、お菓子作って、お料理作って・・・“お菓子くれても悪戯しちゃうぞ!”って言うんだよね?」
「・・・普通、お菓子をもらったら悪戯はしないものだ・・・」
 苦悩しながら武彦がそう呟き、もなの背中の羽根がパタパタと揺れた。


★♪★


「とりっく・おぶ・とりーと!お菓子で悪戯しちゃえ♪ですね!」
 興信所にやってきた樋口 真帆の言葉に、もなが嬉しそうに背中の羽根をパタパタと揺らす。
「樋口、そんな凶悪なことは仕込むな」
「でも、お菓子で悪戯なんて早々悲惨なことにはなりませんよ」
「興信所がケーキだらけになったとしても悲惨じゃないと、そう言うのか・・・?」
 悲壮な表情で武彦がそう言い、もながキャハ☆っと笑い声を上げる。
「武彦さんの言うとおり。もなちゃん、お菓子貰ったら悪戯はなしよ。悪戯を見逃してもらう為にくれるお菓子なんだから、契約は守らないとね?」
 シュライン エマの言葉にもなが頷きかけ・・・ふと、武彦を見詰める。
「でもあたし、武彦ちゃんからまだお菓子貰ってな・・・」
「片桐、飴やるから。な?」
 のど飴を差し出され、もなが頬を膨らませる。
 どうやらお気に召さないらしい。
「まぁまぁ、もなちゃん、後で美味しいお菓子作ってあげるから。ね?」
 シュラインがなんとか取り繕い・・・そうだと、ポンと手を打つともなの持つロケランに視線を向ける。
「どうせなら、ランチャーも屋上で新聞広げてハロウィン色にしない?オレンジのスプレーで塗装して、ジャックナ顔をマスキングして残して・・・」
「花火!?」
「片桐、それは止めてくれ・・・」
 目を輝かせるもなに武彦が頭を抱え、危ないから弾は抜いておく事とのシュラインの言葉にもながいそいそとロケランを屋上へと持っていく。
「2人とも悪いな。俺1人じゃどうにも手に負えなくて・・・」
「あら、良いじゃない。ハロウィンなんて楽しそうで」
「そうですよっ!早速飾りつけとかしましょう。あと、お菓子も作って・・・」
「そうそう、カブの漬物を持ってきたの。お菓子ばっかりだと飽きちゃうかも知れないし、甘いもの以外にもあったほうが良いかなって思って」
「そうですねぇ、お菓子でもお腹は膨れそうですけれど・・・やっぱり甘いものばっかりだと・・・」
「食材見てから何を作るか決めましょう」
「はいっ!お手伝いしますね」
 真帆が可愛らしく頷き、シュラインが割烹着を身に着け、真帆には真っ白なエプロンを手渡す。
「それじゃぁ武彦さん、宜しくね」
「は?」
 すっかり自分は蚊帳の外だと思っていた武彦が、シュラインの言葉に読んでいた新聞から視線を上げ首を傾げる。
「もなちゃんですよー!」
 真帆の言葉に、もなが全く料理を出来ないどころか足手まといになりそうだと言う事を思い出し・・・
「あぁ、分かった。外にでも連れ出しとく」
「夕方までには終わらせておくから」
「はいはい。あ、そうだ。何か買って来てほしいものとかあるか?」
「そうね・・・特にはないかしら。真帆ちゃんは?」
「私も特にはないです。あ、でも・・・草間さん、仮装はどうするんですか?」
「俺は・・・」
「武彦ちゃんはねぇ、ちょっぴりセクシー&ワイルドな吸血鬼なのよーっ!!」
 ロケランを設置し終わったもながそう言って、ポンと武彦の背中を叩くとシュラインと真帆にVサインを突き出した。
「あのなぁ、片桐。俺は仮装は・・・」
「そう。それじゃぁ武彦さんの仮装はもなちゃんに任せるわね」
「シュライン・・・!」
「楽しみにしてますねぇ」
「・・・樋口まで・・・」
 苦悩した様子の武彦の手を引きながら、もなが興信所から出て行く。
「・・・なんだか、草間さんがもなちゃんのお世話をすると言うよりは、もなちゃんが草間さんのお世話をしに行ったみたいですねぇ」
「ふふ、そうね。まぁ、あの2人なら大丈夫よ。それより、早いところお菓子とお料理を作っちゃいましょう」
「はい!」


☆♪☆


 南瓜でモンブランを作りながら、シュラインは知らず知らずのうちに鼻歌を歌っていた。
「シュラインさん、楽しそうですね」
「えぇ。ハロウィンの料理とかお菓子作りって燃えるのよねぇ。こう、いかにリアルで不気味に作るか」
 気合の入った言葉に真帆がクスクスと声を上げて笑い、ボウルに入った生クリームをあわ立てる。
 モンブランの上にラズベリーソースを太めに搾り出し、脳味噌風に仕上げると満足そうに微笑み、出来上がったものを冷蔵庫の中に入れ、次に芯にブドウを入れたライチを赤ワインにくぐらせ、不気味な色をしたシロップの中に落としてフルーツポンチを作る。
 その隣では真帆がジャック・オ・ランタンの中に忍ばせるためのパンプキン・タルトとパイを作り、シュラインに触発されてかもう1品、アマンディーヌも作り上げる。
「うん、なんだか雰囲気出てきたわねぇ。・・・でも、可愛らしいのも作りたくなってくるわね」
 シュラインがそう呟き、可愛らしくデフォルメした骸骨標本型のクッキーもお皿に並べる。
「可愛いです・・・もなちゃんとか、喜びそう・・・」
「もなちゃんは、可愛くても可愛くなくても美味しければ喜んでくれると思うわ」
「それもそうかも知れませんね」
 クスっと微笑み、出来上がったお菓子をテーブルの上に並べていく。
 雑多な興信所内を片付け、ハロウィンらしく飾り付けをし・・・その途中でもなと武彦が帰って来て、外で買って来たと言うハロウィン用の飾りをチョコチョコとつけていく。
「それにしても、随分沢山作ったんだな。これ、4人で食べられるか?」
 テーブルの上に並んだお菓子や料理の数々に武彦がそう呟き・・・
「それなら、夢幻館の皆を呼んだらどうかな?ほら、そうすればわいわいできるし!」
 もなが名案を思いついたと言うようにポンと手を叩き、電話へと走っていく。
「夢幻館の人達が来るなら、もう少し何か作った方が良いかも知れないわね」
 シュラインがそう呟き、電話を終えたもなが帰ってくるとシュラインと真帆の背中を押した。
「皆来てくれるって!だから2人はその前に仮装しないと・・・ね?お料理とかはあたしが・・・」
「もなちゃんはお菓子でも食べてゆっくりしてて!・・・ね?真帆ちゃん?」
「そうです!外に行って買い物もしてきてくれたんですし・・・」
 2人の言葉にもなが首を傾げながら「そぉかなぁ〜??」と言って少し考えた後で頷き、2人は安堵の溜息をつくとそそくさと着替えに走った。


「また、凄いのを作りましたね」
 沖坂 奏都の言葉にシュラインが苦笑し・・・奏都の口から「美味しいです」の言葉を受け取ると嬉しそうにクッキーを差し出した。
「奏都さんにそう言っていただけると安心するわ」
「そうですか?」
 黒いマントを背に垂らし、吸血鬼のような衣装を着込んだ奏都。
 彼が言うには、魔王の衣装なのだそうだが・・・
「魔王っつーか、大魔王だよな」
 神埼 魅琴の余計な一言に小さな玉のようなものを投げつける。
「げっ!!なんだこの目玉っ!!気持ちわりぃ・・・」
 割烹着を身に纏い、頭に半分に割った大き目の釘をつけ、血みどろメイクを施したシュラインが元気の良い夢幻館の住人に真っ赤なトマトジュースを配って回る。
「随分・・・真に迫った仮装でしてね?」
 夢宮 美麗が普段となんら変わらない黒の衣装に身を包み、控え目な様子でそう呟く。
「えぇ。生臭い目撃経験から、結構リアルに出来ていると思うのだけれど・・・」
「左様で御座いますね。わたくし、その格好のエマ様を夜中に外で拝見いたしましたら卒倒してしまいそうですわ」
「美麗さんは・・・魔女の仮装かしら?」
「はい。急なもので、普段の格好とあまり大差ないのですけれども・・・」
 困ったように視線を落とす美麗のためにと、シュラインが部屋の隅に飾ってあった小さなウィッチハットを取ってくると美麗の頭の上に乗せる。
「うん、これで十分魔女だわ」
「・・・有難う、御座います」
 そんな和やかモードの2人の傍では、真帆が忙しそうに動き回っていた。
 作っておいたお菓子を出したり、空になったお皿を下げたり・・・
「お前、なんつー格好してるわけ?」
 やや呆れたような口調で夢宮 麗夜が声をかけ・・・真帆は首を傾げると自分の格好を見詰めた。
 以前ファミレスで働いた時に貰ったメイド服に、耳と尻尾をくっつけた狼少女姿だ。
 肉球グローブもあるのだが、流石にお皿を出したり引っ込めたりしている時には邪魔なので取って置いてある。
「だって、いくら見習いでも魔女が魔女の格好しても、面白くないですし・・・」
「なんでメイドなわけ?」
「ほら、だってパーティーだったら給仕役が必要ですから。・・・どこか変ですか?」
「しいて言えば、首輪が?」
 赤い首輪を指差しながらそう言って、麗夜が苦々しい表情で顔を背ける。
「だって、狼を野放しにしておいたら危険ですから」
「どんな発想だよ」
「あ!それより麗夜さん、ちゃんと食べてますか?なんだか顔色が悪いですよ??」
「・・・あのさぁ、魅琴に無理矢理幽霊のメイクされたんだから顔色悪くて当たり前だろ?」
 青白い顔をした麗夜がそう言い・・・その服装は普段とさほど変わらない黒のスーツだ。
「それ、メイクしてるんですか?」
「俺は常にこんな顔色してるとでも言いたいのか?」
「それに近い顔色だとは・・・」
 真帆の言葉に麗夜が軽くペチリとおでこを叩く。
「あいたっ・・・狼を叩いちゃいけません!」
「幽霊に顔色悪いとか言っちゃいけません!」
 真帆の口調を真似た言葉に、思わず笑い出し・・・麗夜が暫くしてから、クスリと口の端にだけ笑みを浮かべた。


★♪★


「さぁて、草間のおっさん!覚悟は良いか?」
「・・・い、いや・・・そのだな、神崎??」
「もな!掴まえとけ!」
「ラジャー☆」
「や・・・やめろぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!」


「・・・あら?今、武彦さんの声が聞こえなかったかしら?」
「気のせいじゃないか?」
 死神の衣装に身を包んだ梶原 冬弥の言葉に、そうかしら?とシュラインが頷きかけた時・・・不意に電気がパチリと消えた。
「停電・・・?」
「いや。他のところはついてるみたいだぞ?」
「ふわ・・・!?きゃぁぁっ・・・!!!」
「おいっ!!」
「どうしたの、真帆ちゃん!?」
「あいたたた・・・何かに躓いちゃったみたいで・・・」
「ったく、危ないなぁ」
「あ、麗夜さんが助けてくださったんですか!?良かったです。転んじゃったら、トマトジュースが・・・って、お盆がないですっ!!!」
「ちょっと待て!動くな!!危ないだろ!?」
「そうよ、真帆ちゃん。暫くしたら電気がつくだろうから、それまで待ってましょう?」
 暗闇の中で交わされる会話がふっと途切れた時、突然前方でポワっと小さな光がついた。
 それは蝋燭に火をつけた程度の明かりで・・・
「誰、なの?」
 小さな蝋燭を右手に持って佇む男性に声をかけるシュライン。
 黒いマントを着ていたのは、魔王の格好をした奏都と死神の格好をした冬弥の2人だけ・・・その2人はすぐ近くにいるのが見えている。
 幽霊の格好をした麗夜も、ミイラの格好をした魅琴も、マントなんて着ていなかったはずだ。
 ゆっくりと、黒マントの人物がこちらを振り向き ――――――
「あ、なんだ。武彦さんね」
 青白い顔に無造作ヘアー、真っ白なシャツをトマトジュースで赤く染めた武彦が、アッサリとしたシュラインの言葉に思わずズルリと転ぶ。
「あにょなぁ、しぇっかくこんなことやっちゃんだから、しぇめてもっと・・・」
「あの、武彦さん?なに言ってるのかよく分からないわ」
 突き出た2本の牙が邪魔をして上手く喋れない武彦は、見かけだけならばかなり良い線をいっている吸血鬼にも関わらず、なんだか拍子抜けしてしまう。
 魅琴がパチリと電気をつけ、暗闇に慣れかかっていた視界がチカチカと点滅する。
「あぁぁぁっ!!!やっぱりグラスが・・・」
「ちょ、素手で触んなって!」
 真帆が割れたガラス片を集めようと手を伸ばし、麗夜がピシリとそれを叩く。
 シュラインが箒と塵取りをもってその場に急行し・・・
「あ、そうです皆さん。先ほどお菓子を買って来たんですけれど」
 突然奏都がそう言い出し、部屋の隅に置いてあった大き目の紙袋の中からお菓子の詰め合わせの入った袋を取り出す。
「合言葉は勿論?」
『Trick or treat!!』
 そう元気良く叫んだ面々の中、1人だけちょっと違う発音をした者がいた。
「ちょりっく おあ ちょりーと」
 こんな吸血鬼が来たならば、お菓子をあげないでも悪戯されずに追い返せそうな気がする・・・。


 結局その日は夜遅くまで騒ぎ、片づけを綺麗に終えてから奏都の運転する車で家まで送り届けられることになったの・・・だが・・・
 初めて奏都の運転する車に乗る真帆はもちろんの事、随分前に1度乗ったきりのシュラインは忘れていた。
 ・・・彼の運転は、やたら危険で恐ろしいものだと言う事を・・・

「きゃぁぁぁっ!!!奏都さん、前見てください前っ!!」
「ちょ・・・そこ、人が・・・!!」
「わーい、ジェットコースターだぁ〜!」
「もなちゃん、そんな・・・」
「奏都さん、速度落としてください!速度っ!!」
「そう言えば何かお腹空きません?向こうであまり食べていなくって・・・」
「わ・・・私、お菓子持ってます!」
「私も余ったのを少し包んで持って来てるの。だから・・・」


  「「お菓子あげるので安全運転でお願いしますっ!!」」



               ≪ E N D ≫



 ◇★◇★◇★  登場人物  ★◇★◇★◇

 【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


  0086 / シュライン エマ / 女性 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員


  6458 / 樋口 真帆 / 女性 / 17歳 / 高校生 / 見習い魔女


 ◆☆◆☆◆☆  ライター通信  ☆◆☆◆☆◆

 この度は『お菓子くれても悪戯しちゃうぞ!』にご参加いただきましてまことに有難う御座いました。
 最初は草間さんともなとお2人だけの予定だったのですが・・・
 何だか寂しいと言う事で、住人を呼び寄せました。
 賑やかで明るいハロウィンの様子が描けていればと思います。

 シュラインさん
 この度もご参加いただきましてまことに有難う御座いました。
 シュラインさんの作るリアルなモンブランやフルーツポンチをぜひ食べてみたい!と、思いました。
 きっと見た目はちょっぴりグロテスクでも、味はとても美味しいのだと・・・!
 見た目は素敵な吸血鬼、でも喋ると・・・そんな草間さんと、パーティーを楽しんでいただけたならばと思います。


  それでは、またどこかでお逢いいたしました時はよろしくお願いいたします。