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問答無用、一日捕獲 〜蝶子サンと一緒〜
「デリク君なのじゃー!」
扉を開けようとした手は止まる。
突進に近い勢いでデリク・オーロフに向かって走ってきたのは蝶子。
「や、お久しブリですネ」
「うん、お久しぶりだから、デリク君は私に付き合うのじゃ!」
「アハハ、強引ですネ」
と、出会っていきなり蝶子はデリクの腕にがしっと手を回して、逃がさないという表情で言う。
「で、ドコかに行くんですカ?」
「うん、ヒカリモノを……」
「探しニ?」
「デリク君にたかりに……」
「……」
「おもちゃでもホンモノでもキラキラしてればそれでいいのじゃ」
「駄目デス」
じーっと訴える視線をぴしゃっと跳ね除けると、蝶子はえぇー、と残念そうな表情を浮かべる。
が、デリクはその深い群青の瞳を細めつつ言葉を続けた。
「折角選ぶのだから、モウ少し考えないと!」
「え、じゃあ……」
「一つですからネ」
「ありがとうなのじゃー!!」
喜ぶ蝶子とデリクのお買い物はこうして始まったのでした。
「身につけるのは日常か、特別な日なのか。和装と洋装どちらに合わせるか。昼と夜どちらにつけたいのカ……」
「いつでもどこでもつけていられると嬉しいのじゃ。服は和装ばっかりじゃよ」
「ナルホド……」
二人で宝飾店の並ぶ通りを一緒に歩くが、蝶子はキラキラ光る宝石が置いてあるショーウインドウにいつもべったりと張り付いていた。
「きゃーこれも綺麗なのじゃー!」
「でもソレはちょっと似合わないと思いマス。ゴツすぎデス」
「……言われてみると私がするとちょっとおかしいのじゃな……」
「蝶子さんに似合いそうなデザインを私ナリに考えてミマス。なので、じっくりキラキラに目を輝かせていてくだサイ」
じーっと蝶子を見つつデリクは言う。蝶子はというと聞いているのか聞いていないのか、ショーウインドウに相変わらず張り付いて。
傍目からはちょっと怪しかったりもするのだが本人達はあんまり気にしていない。
「デリク君これも綺麗なのじゃよ!」
「どれですカ?」
「これこれ」
「気になってるなら中に入りマス?」
と、デリクは店の扉を開け、ドウゾとご案内。
落ち着いた雰囲気の店内にはさらにめくるめくヒカリモノの世界があった。
「はうっ! テ、テンションが上がってしまうのじゃ……!」
「蝶子サンに似合うのは……似合う宝石はアイオライト……菫青石だと思いマス」
「菫青石……?」
「ありましタ、この青い……」
「わぁ‥‥キラキラ」
「見る角度によって青の深みが変わるんデス。髪や瞳の色から考えて、銀で作られた装飾品が良いかと」
と、宝石を見るのをやめて蝶子はじーっとデリクを見る。
「どうかしましタ? 顔に何かついてますカ?」
「デリク君は、よぉく私を観察しているなぁと感心していたのじゃ」
蝶子はそう言って、ありがとうなのじゃと続ける。
「そこは感謝ポイントなんですカ」
「そうなのじゃ」
真面目に頷いて返ってくる答えはどこかすれ違っているようで、でもかみ合っておかしい。
デリクは苦笑しつつ、いくつかの宝石を指差す。
「いつもつけていられるのなら指輪、ピアス、イヤリング、ペンダント、と有りますガ……ドレがお好みデス?」
「きらきらなら」
「どれでも、というのはナシで」
「じゃあ全部……」
「それもナシ」
「ケチなのじゃ」
ぷいっとそっぽ向きつつ残す言葉は楽しんでいるような響きを持っていた。
「プレゼントは一つだからこそのプレゼントになるのデス。一つだから特別、という感じデ……」
「特別……特別は嬉しいものなのじゃ」
「そうです、だから一つにしまショウ。嬉しさは一つの方が大きいハズ」
「そうじゃね、うん。特別を一個よろしくなのじゃ!」
「それではコレ、どうでショウ」
と、幾つか並ぶ宝石の一つ、小ぶりめの指輪をデリクは示す。
店員に言ってショーケースからそれは出てきた。
「いつでもどこでも……つけていられると思いますヨ」
そしてそれを蝶子が左手中指にはめるとぴったりで。
「おお、号数もぴったりじゃ。私の号数知らないのに引き当てるなんて……デリク君はきっと悪い男なのじゃ」
「その根拠ハ」
「直感で号数引き当てるのは、きっと今まで色んな女の人に指輪を送ったからなのじゃ」
「さぁどうでしょうネェ」
笑いながらはぐらかす。
あたっているのか外れているのかは置いといて、そのやりとりは楽しい。
「でも、選んで貰って、私にぴったりで、これ好きなのじゃ」
「ということは、ソレでお決まりですカ?」
「お決まりなのじゃ」
蝶子が指輪を見て笑む隣でデリクは支払いを済ませる。
いかほどの値だったのかはデリクのみ、知る。
「ありがとうなのじゃよ」
「どういたしましテ」
「うん、そのうちちゃんとこのお礼をしなくちゃいけないのじゃ」
「オヤ、それを楽しみにしておきまショウ」
ありがとうございました、の声を背に受けながら店を出て。
買い物は終ったものの、宝飾店の並ぶ通りは蝶子にとって幸せ空間らしい。
「も、もうちょっと見ていきたいのじゃが……良いかな?」
「見るだけですヨ」
「うん、うん!」
今日は一日お付き合いしますヨ、とデリクはショーウィンドウを覗き込む蝶子の背中に言葉を投げる。
「デリク君は話のわかる大人じゃね!」
こうしてまだまだ、二人のウィンドウショッピングは続いていく。
<END>
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
【3432/デリク・オーロフ/男性/31歳/魔術師】
【NPC/蝶子/女性/461/暇つぶしが本業の情報屋】
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■ ライター通信 ■
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デリク・オーロフさま
お久しぶりでございます、むしろ私が指輪を頂きたい(お待ちなさい)ライターの志摩です。今回はどうもお付き合い有難うございました!
問答無用で引きずられ、お買い物……その指輪は左手薬指でもいいんじゃないかな蝶子さん!?と、思いつつ書いておりました。当方いつでも中指から薬指にチェンジの心意気です(!
まぁ、それはさておき、このノベルでどこか一つでも好きなところがあれば幸いです。
それではまたどこかでお会いする機会があれば嬉しく思います!
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