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<東京怪談・PCゲームノベル>


魔女の系譜

オープニング

last message

河川敷で発見された男性の遺体。
その遺体に添えられるようにして置かれていた一枚のカードがあった。

『断罪されるべき咎人よ、残るはあと一人』

警察はこれを『殺人予告』と見なして捜査を続けている。
だが、手がかりは一向に見つかることはなかった。
そんな中、殺人現場で一人の少女を見かけた。
黒く、長い髪が特徴の彼女は近くの高校の制服を身に纏っている。
「馬鹿な男」
ポツリと暗く沈むような声で笑みを浮かべながら呟いた。
そして、こちらの視線に気がついたのか、ニィと笑ってみせる。
その笑みは、全身を突き抜けるような寒さにも感じ、体中の穴という穴から汗が噴出してくる。
それは、恐怖なのかは定かではない。
「…ねぇ、私に関わらないほうがいいわよ。私、魔女なの」


視点→志木・凍夜


 今回の仕事も姉からの依頼だ。依頼と言っても半分以上が拒否権のない強制で今回の仕事も断ることが出来ずに受けてしまったものだ。
 一枚のカードには殺人予告とされるメッセージが残されている。
『断罪されるべき咎人よ、残るはあと一人』
 その言葉から予想するに、最低でもあと一人は殺すという意味に取れる。そして現場にいた一人の少女、その言動から殺人事件に関係している人物と凍夜は証拠こそないが自分の中では確信に似たものがあった。
 それは暗殺者としての直感だった。
 まず、殺人現場に何か手がかりが残されていないかと、足を向けてみる‥するとあの時の黒い髪を靡かせた少女が立っていた。
「…おまえ…」
 凍夜が問いかけると少女はビクッと肩を大げさに震わせながら、こちらへと視線を移してくる。
「私に関わらないで、そう言ったはずよ…」
「別に関わってるつもりはない、偶然だ」
 それは嘘ではなかった。凍夜は事件の手がかりを得るために来ただけで、少女がいる事など知らなかったのだから。
「事件に関わると命を失うわよ」
 少女がその言葉を呟いた瞬間、腕にピリとした痛みが走る。何だろうと腕を見ると小さいけれど火傷が出来ていた。
「ふふ、復讐の業火は消える事はないのよ。その身を焼け焦がしたくなければ事件に関わらない事ね」
 少女はそう言ってくるりと背を向けて、凍夜の前から姿を消した。
「…復讐の業火?」
 凍夜は腕を押さえ、少女が立っていた所を見ると草の上に何かが落ちている。それを凍夜が拾い上げると、学校の生徒手帳だった。名前は「藤村千里」と書いてあって家族であろう中年の男女と一緒に写っている写真も入っていた。
「この男は…」
 娘に左で笑っている中年男性には見覚えがあった。少し前に新聞で見た顔だ。会社が倒産して自殺した、と新聞には書いてあった。
 もし、あの少女が犯人なら事件の動機となったのは父親の死だろう。しかし連続殺人事件はどれも『焼死』だと凍夜は聞いていた。先程の少女はどう見ても普通の少女にしか見えなかった。
「…いや…」
 チリ、と痛む腕に「普通じゃないか…」と呟く。凍夜の腕の火傷はあの千里という少女が与えてきた傷だ。恐らく何か『普通ではない能力』に目覚めたのだろう。
「とにかく最後の咎人を殺す前に止めないとな…」
 最後の咎人を知るために、凍夜は図書館へと足を向けた。事件の事を何か掴めれば手がかりを得られるかもしれないと考えたからだ。

 場所は変わって図書館、凍夜は自殺のあった日の新聞を調べていた。
 自殺したのは藤村俊夫、45歳…ネジ工場の社長で自殺は赤字による会社倒産が原因とされる。
 恐らく、この倒産と、殺された人間達は何かしらの関係があるのだろう。これからどうしようかと考えていたとき、机の上に置いていた新聞が突然燃え出した。不思議な事に机は燃えておらず新聞だけが燃えているのだ。
「今度は関わってないとは言わせないわよ」
 女性特有の高い声が聞こえてきて、後ろをゆっくり振り返ると千里が立っていた。
「罪のない人を殺すのは…不本意だけれど仕方ないわ。だって…貴方は危険な感じがするもの。私の計画をぶち壊しにされてしまいそうな危険な感じが…」
 千里は凍夜を挑発するように指で外を示す。恐らくは外に出ろ、と言いたいのだろう。
「私の邪魔をしないで。お願いよ…」
 弱々しい声で願ってくる千里だった…。だが、千里が譲れないように、凍夜も譲れない。
「どちらかが引かねば、戦いは避けられない。だが‥俺は引くつもりはない」
「…それは私とて同じよ!私は‥引くわけにはいかないのよっ!」
 千里は手を前に伸ばして叫ぶ。すると手のひらの所にごうごうと燃える火の玉が現れる。凍夜は氷の投げナイフを作りだし、千里に向けて投げる。
「貴方は氷の能力があるのね、でも私は炎…溶けるのが摂理…っ!?」
 凍夜の投げた氷ナイフは千里の放った火炎球をも凍らせ、千里の腕を掠めた。
「きゃあああっ」
 千里の腕はナイフにより凍りつき、身体を蝕んだ。
「な、に…炎が氷に…?」
「…所詮、表舞台でばかり生きてきたお前が、闇に足を踏み入れようとも…背負う闇が浅すぎるんだよ」
 凍夜は呟き、糸を作り出す。それは凍夜が作れる特殊な糸で氷を圧縮したものだ。その糸に切断できぬものは…ない。
「おまえの父親は自殺ではなく、殺されたんだな」
 凍夜の言葉に千里がピクリと反応を返す。新聞を見ていて違和感を感じたこと、それは自殺にしては身辺が綺麗にされていたこと、土地の売却から面倒なことまで全て綺麗に仕上げられていたのだ。自殺をするほど切羽詰った人間がするにしてはおかしいと凍夜は感じていた。
「そう…お父さんは殺されたの、お母さんも、私も!」
「…『私も』?」
「私も、もう戸籍上は死んだ人間よ。私はもう帰る場所がない、迎えてくれる人もいない。憎しみのどん底にいたとき、この能力が目覚めた…私は歓喜に震えたわ。だってこれで私は復讐を果たせるもの。だから!!」
 ごぅ、と炎が沸き立つ。凍った腕に力を込めたせいでヒビが入った。
「私の唯一の生きがいを邪魔しないでぇぇっ!!」

「………全て、凍れ」

 凍夜が短く呟いた瞬間、糸は千里を切断した。死に際の千里の表情はどこか、安らぎに満ちた顔をしているようにも見えた。
 きっと、千里は自分を止めてくれる誰かを探していたのかもしれない。だからわざわざ殺人予告を出していたのかもしれない。


 その真意を知るものは、もういない。
 そして、その日を境に殺人事件は消えた。
 



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

  2333  /志木・凍夜/男性  /19歳/大学生

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■         ライター通信          ■
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志木・凍夜サマ>

はじめまして、魔女の系譜を執筆させていただきました
瀬皇緋澄と申します。
予定より遅い納品で申し訳ないです^^;
今回の内容はいかがだったでしょうか?
少しでもお気に召していただけたら幸いです。
それでは、ご意見、ご感想などありましたらお願いします^^
では、またお会いできる事を祈りつつ失礼します。

          −瀬皇緋澄