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<東京怪談・PCゲームノベル>


商物「過現未」

 薄暗い路地裏、これまた薄暗い雰囲気を湛えたるは知る人ぞ知る陰陽堂なる万屋がある。
 店構えの怪しさに怖じる心地をえいやと踏み越えれば、否、踏み越えられる輩だからこそ、店の奇妙に静かさが、時から取り残されたような侘しさが性に合うのやも知れず。
 その意味に於いて、確かに陰陽堂向きの常連と化した烏丸織は、いつものように気軽な様子で陰陽堂の漆塗りの細工の施された扉を開け、そして動きを止めた。
 古びた様子の玩具も、壁のように連なる生薬棚も。無造作な商品群にさして目新しいものはなく、店の様子に変わりはない……と、思えるのに、確かに感じる違和感が入店を阻む。
 手前から順、商品としての整合性に欠く陳列ながら、店主の思惑と個性を感じさせるその一つ一つを深みのある緑の眼差しで追って最奥、主の姿のない畳貼りの台場に到って漸く、織は得心に声を上げた。
「なるほど」
 其処には子供が二人、白と黒に色違いのウサギのぬいぐるみを手に並んで座っていたのだ。
 仕事の間を見つけては通った回数は多くないものの、この店で自分と店主以外の人間を目にした事がなく、初めて客と呼べる存在を目の当たりにし、織は胸を撫で下ろす。
 ……正直、この寂れ具合で商いが成り立っているのか、いや、店主の商売人としての強かさは知るものの、客という存在があって初めて成り立つが、顔を見せてはお茶や菓子の相伴に預かり、さして高価な買い物をするわけでもない自分はひやかしより少し悪い。
 そんな客(?)以外にもちゃんと訪れる者が居たのかという、微妙な安心感は店主に失礼かと、織は意識的に顔を引き締めて後ろ手に扉を閉めた。
 パタンと微かなその音に、若しくは僅かな空気の流れにか、子供達は揃って織に顔を向ける……胸に抱いたぬいぐるみと同じ、モノトーンに装いを揃えた黒髪の少年と銀髪の少女の印象的な金と銀の瞳は、何処感情に薄く、子供らしさを欠いていた。
 織は店主不在の店内の、他愛ない品々を眺めながら、さり気なく台場に近付く。
 注意を払わぬ織に興味を失ってか、子供達は再びぬいぐるみに集中し、稼働できるように釦で止めてある手や足を動かして、歩く真似事をさせてみたり手を振らせてみたりと静かな遊びを再開した。
 警戒心の強い野良猫に近付くようだ、と織は薬種棚の墨書を眺める横目に小さく笑う。
 しかし近付いてみれば、彼等はどうやら客ではない事が判じられた。
 子供達の傍らには、時折光を弾いて揺れるビー玉と、折り紙状に整えられた千代紙が見目鮮やかに散っている。
 商う品の中にそれらもあるだろうが、買い上げたその店で遊びに興じる事はそうはないと思われる……内心、首を傾げる織に、鼻腔を擽る甘い香と共に、横顔に耳慣れた声がかけられた。
「おやおや、いらっしゃいまし。お待たせしちまいましたかね」
声の方に目線を向ければ台場の奥、生活空間に通じていると思しき通路から、店主が姿を見せる。
 藍染めの着流しに無精髭、客商売ながら頑なに貫くスタンスにも最早慣れ、安心さえする己にそれは何かが違うだろう、と織は慌てて思考を余所にやった。
「どうなさいました? 難しいお顔をなさって」
言いながら店主は胸の前に支えた盆に載せた皿を一つずつ、子供達に手渡す。
 ふんわりと狐色に焼き上がったワッフルにバニラアイスを添え、更にラズベリーとブルーベリーのソースを彩りよく、やけに本格的な感がある。
「烏丸様の分も御座いますよ。どうぞおいでなさいな」
ちょちょいと手で招かれるに、子供達より一人分、間を置いた場所に腰掛ければ、間を置かずに皿を手渡される。
「あの……でも」
焼きたての香ばしさに、しっとりと湯気を上げるワッフルの……皿はひの、ふの、み。
 子供二人分を除けば、店主の分ではなかったろうか、と予定外の人員である自覚のある織は、一旦受け取りはしたものの返すべきだと皿を掲げるが、制して店主は軽く眉を上げた。
「どうぞご遠慮なく上がって下さいまし。それは紛う方なくお客様の分としてご用意させて頂きましたのでね」
それにアタシはこちらの方が、とくいと杯を傾ける仕草の店主が、次いで紅茶椀を差し出すに、織は釈然としないながらもご相伴に与る事となる。
 黙々とワッフルを食べ進める子供達の無心さに、何気なく浮かぶ微笑みを自覚しながら、織はふと、脳裏を過ぎる疑問を口にした。
「こちらのお子さんは……」
それは丁度、煙管の吸い口を咥えた店主が一息を吸い込む間。
 いつもならば機先を制し、心かはたまたその先かを、読んでいるかの如くテンポのよい店主の口舌が否応なく阻まれているが故に、織は勢いを得てその先を問うた。
「店主のお子さん?」
ぶふぉと異音を伴って吐き出される紫煙が、暗どころか明確に答えを示し、織は咳き込む店主の不覚を、視線を泳がせて見ない振りをする。
「いえ、冗談です……よ?」
子供二人が手を止め、揃って織を見上げる様子に、苦さを混じえた笑みを向けた。
 織の笑みに興味を逸したか、二人はまた同時に注意を皿に戻す。
 その子供達と店主の面立ちに似ているとは思わないが、容貌の相違より、店に馴染んだ様子をそうとしたのは早計に過ぎたか、と織は内省しながら果実の甘みの濃厚なソースに絡めたワッフルに口に運ぶ。
「……こちらは」
「そちらは間違いなくアタシの作品でさ」
気が済むまで咳き込んだのか、少し喉を嗄らして掠れた声で、店主がいつものように機先を制す。
 織も顧客の要望を意に汲むに長けるが、それは職人として少しでも良い物に仕上げたいという作品に対する情熱も手伝っての事であり、商売人としての機転は店主に軍配が上がる。
 今度は当て推量でこそなかったが、いつでも出される茶菓子は有名店の和菓子や洋菓子、買ってくればそれでいい物ばかりなのだが、これがいざ店主の……無精髭の男がこさえたにしてはやたらと可愛い盛付けがその手に因るものとなると、意はなくとも思わず凝視してしまう。
「アイスが溶けちまいますよ、烏丸様」
笑いを含んだ呼びかけに思わずバニラアイスを掬い上げ、織は再び店主を見た。
「そいつは頂き物でさ」
自信を持って請け負われ、清々しいミントの香りを含んだアイスを口中に堪能し、織ははったと我に返った。
「そうだ、先日はありがとうございました」
唐突に、軽くではあるが頭を下げる織に、店主が動きを止める。
 手にした煙管の先だけをゆらゆらと揺らし、こちらもまた思い至るにあぁ、と小さく頷いた。
「夏の。そういえば最近、とんとお見限りで御座いましたねぇ」
「もう少し早くお伺いしようと思っていたのですが……」
夏場、小さな個展のディスプレイを請け負った際、備品と材料の提供を受けたのだが、その後の仕事が詰まって改めて礼に訪れることが出来ず、気付けば秋も終わろうかというこの時期になってしまっていた。
「お気遣い下さいますな、竹籤やなんやかんや、材料の他に机と椅子も二、三出ましたんでね。いい商いをさせて頂いて、御礼を申し上げるのはこちらの方でさぁ」
ふぅ、と紫煙を吐き出しての気易い物言いで不作法を不問にし、店主は目元を緩める。
「お気に病まれるようでしたらば、どうぞその子等を買い上げてやって下さいましな」
店主の唐突な申し出に織と、そして子供達は互いの顔を見合わせた。
「兄がコシカタ、妹がユクスエと。申しましてうちの立派な商品で」
店主の口上に、織は声にならない言葉に口を開閉させる……人身売買という不遜な響きを持つ四字熟語は、現代日本ではあまり使用頻度が低すぎる。
「この子等は占が得意でね。コシカタは後、ユクスエは先、見通す事にかけちゃ、ちょっとしたモンですよ。お代はどうぞこの子等に一つずつ、揃いの品でも買い与えてやって下さればそれでよし。夕を過ぎてから朝までの間に、店に送り届けてやって下さいましな」
立て板に水の如く、続く口上に物騒な杞憂は払拭されて胸を撫で下ろし、織は胸中にふと思いついて顔を上げた。
「そうですね、頂いて行きます」
呆気なく請け負って、織はコシカタとユクスエに微笑みかける。
「ゆっくりでいいから、食べたら出ようか」
織の誘いに、子供達は無言で顔を見合わせ、次に小さく頷いた。


 創作の拠点を東京に置くに、織は一人で切り盛りする自宅を兼ねた工房に織はコシカタとユクスエを案内した。
 土地事情から鑑みて、独り住まいには贅沢と言える敷地面積を有している烏丸宅だが、一階の半分は工房に改造され、生活空間として残された部屋も仕事場から侵蝕した染料の倉庫として使われている。
 迎える者のない家の、冷えた空気は独特の寂しさを有しているが、庭の花木が忙しい日々の中に四季の彩りを添えていた。
 金木犀や萩、秋からの花は萼から落ちるものが多い事を、織は一人暮らしを始めてから気付いた。
 京都の実家では庭の手入れは祖母がマメにしていた為、花といえば盛りを、地面に落ちる花弁や紅葉を見目に楽しむばかりで、始末が必要であったという事には自身が家を管理するようになってから意識したように思う。
「寒くはありませんか? 直ぐに火を入れますから」
翳り始めた陽に風は肌寒さを増し、織は双子を振り返る。
「はい、大丈夫です」
「寒くはありません」
片手ずつをしっかりと繋ぎ、同時に頷く子供等の返答に織もまた頷き返し、表玄関ではなく、工房に直接に足を向けた……元々は車庫だが、織機を設置する為に改築した場所である。
 日本全国津々浦々、工房を巡り歩いて研鑽弛まぬ織だが、基本となるのはやはり、幼少の砌より慣れ親しみ、祖父母から学んだ糸を染め、布を織り上げる技法だ。
 正面の脇を抜け、家屋沿いに庭木を見ながら奥へと進む。
「あぁ、そこの足下に気をつけて。泥染めを研究した時の名残で地面が緩いですから」
その注意に子供達が、点在する庭石から足を踏み外さないよう、慎重に足を進める様を見ながら、織は工房に直接通じる扉の施錠を外した。
「そろそろ夜は冷えますから、こちらの方に暖房を入れてあるんです」
生活の仕事への比重を発言に匂わせながら、織は二人を招き入れる。
「少し、薬品の匂いが強いかな。もし、気分が悪くなったりしたら、言って下さいね」
染料の定着に使う薬品の中には、少々刺激の強い物もある。抵抗力の弱い子供に万が一の事があってはいけない、と気遣う織にコシカタとユクスエは、また同時に首を横に振った。
「お店の方が」
「香る位です」
最もな言に軽く肩を竦め、織は加湿器と暖房とを入れる。
 コンクリートで打ちっぱなしにした作業場の、底冷えする空気はそう簡単に暖まらないが、暖房の傍に居ればぬくもりを得るには充分だ。
 作業台の傍、コードが一杯に伸びる場所まで電気ストーブを移動させ、足下に温風が来るようにして子供達に椅子を勧め、自分はゴミ箱代りに使っているペール缶を逆さにしてそれに腰掛ける。。
「さて、どうしようかな。取り敢えず遊び……と言っても、百人一首や歌留多しかないんだけど、出しますか?」
遊びというには些か渋いが、織の通った京都の小学校では冬となれば全校を上げての百人一首大会に血道を上げていた為、冬の声を聞く頃になると札が手元にないと寂しくなる。
 けれども、子供達は歌留多取りに興味はないのか、小さく首を横に振った。
「……ですね、競技かるたにはお二人ともちょっと早いですね」
因みに競技かるたとは、百人一首の50枚を使い対面する二人の競技者に均等に分け、それを取り合うものである。
 記憶力と反射神経を問われ、遊びと言うにはちと厳しい。
 そんな本格的な競技をせずとも、百人一首には他にも坊主めくりや乱取り等、子供でも遊べる方法があるものの、複数人が揃って成立するものばかりで、一人っ子の織に縁遠かった為か今の時点で意識に上らない。
「うーん、他には……。染織や機織にも挑戦してみますか?」
場所が工房だけに資材は豊富であり、ましてや織は玄人だ。時に子供相手の染織教室を開催する程なので、簡単な染めの材料なら直ぐに用意出来る。
 腰を浮かせかけた織だが、コシカタとユクスエの反応の薄さにまた座り直した。
 感情の起伏がないというよりも、子供らしからぬ冷静な反応は、ある種の達観を滲ませている。
 子供ながらに占いを生業とすればこういうものなのだろうかと、あまりのとっかかりのなさに頭を悩ませる織だが、そうと考えて漸く大事な事を思いだした。
「そうだ、お二人ともに代価が必要なのでしたね」
織は作業台の端、色とりどりの彩糸が無造作に放り込まれた小箱から、一見して一対と知れる組紐を引き出した。
 青と紫、紫と朱。組紐を複雑に編んで薄い板状にし、その先には鈴と共に少し大振りの貝が止められている。
 内側を金に塗り、表には古典紋様と言われる模様を織り込んだ和布を貼り重ねた根付だ。
「私が作った揃いの根付です。この貝とこの貝を合わせると、ほら。ピタリと重なるでしょう? これで一対になるのは、世界に二つとないんですよ」
昔の歌留多である貝合わせにヒントを得てカップル対象に作った品は、手ごろな価格も手伝って売れ行きの良い小物である。
 青を基調にした物をコシカタに、朱を組み合わせた物をユクスエに手渡し、織は二人を交互に見た。
「実はお二人にお出で願ったのは、庭先の山茶花を見て頂きたかったのです」
陰陽堂での店主の言に、織が思わず考えたのはこの冬の花の事だ。
 常緑の山茶花はこの季節から春先まで、絶えず花をつけて冬を厳しさを和ませてくれる……感覚で草木の言わんとする所を察する織だが、この辛抱強い木は滅多に自己を主張する事なく、季節に到ってほんのりと、淡い薄桃がかった白い花の存在を、控えめにそっと告げるに留まる。
「根や木肌が痛んだ様子も無いですが、今年は咲く気配を見せません……心配です」
咲かない原因が痛みや病、害虫に拠るものであれば織に解らぬ筈はないという自負があるが、余所の山茶花が花を咲かせ始めているだけに、黙したままの山茶花が気に病まれた。
「何が原因か、又は待っていればいずれ咲くのかを見て頂けますでしょうか」
一人暮らしの織にとって、行きを見送り帰りを迎える草木は家族のようなものだ。
 案じる織に、しかしコシカタとユクスエは根付をそっと作業台の上に戻した。
「コシカタは過去を一つ」
「ユクスエは未来を一つ」
困ったような色を混ぜる声に、織は首を傾げる。
「代価を頂いた方に、占いとして差し上げさせて頂きます」
「山茶花に貰ったのではないので、告げる占がありません」
彼等なりに有しているルールに、織の求めに応じられないと、子等は断りを入れ席を立つ。辞意を示す行動に、織は慌てて席を立った。
「それは……存じ上げず申し訳ありませんでした」
止める響きを込めた言に、コシカタとユクスエは出口に向かいかけた足を止め、織は片手ずつを繋いだ二人の前に膝をつき、低い位置で視線を合わせた。
「ならお二人には、私の事ならば見て頂けるのですね?」
織の確認に、子等は同時に頷く。
「烏丸様から頂いた代価に」
「応じた占なら、一つずつ」
請け負う二人に、織はしばし悩む風情で動きを止めた。
「……自分のこと、を知りたい気持ちがないと言えば嘘になりますが」
引き止めながらも、織は自身に関しての占はコシカタとユクスエに求めていない。
 自分達を不要として、戻ろうとする子供達に、そうではないのだと伝える為に、織は真剣に言葉を選ぶ。
 子供が己の筋を通そうとしている時に、大人だけの都合を押し付ける訳にはいかないと思うのは、織が子供の頃、大人がそのように気を払って育ててくれた為だ。
「過去の蓄積が今の自分自身であり、己の未来を拓いて築いて行くのは自分の手足と……信じているので」
曲げれぬ道理があらばこそ、己の内の真を告げるを礼とする生真面目さこそが過去から今に連なる織であり、未来を臨む礎である。どんな形であれ、道筋を己で定めぬ理由を作りたくはない。
 子供相手に譲れぬ自身を大人気なく思いながらも、織はもう一度根付を差し出した。
「私の意識していない所で、山茶花が咲かない原因があるというなら、それを見て下さいませんか」
その申し出にコシカタとユクスエは、織の根付を乗せた掌にそれぞれの小さな手を乗せる。
 無言の承諾に織は胸を撫で下ろしかけるが、コシカタの表情の微妙な固さに気を取られた。
「何処か具合でも悪くしましたか?」
案じる織にコシカタは首を横に振り、ある日付を口にした。
 夏の盛り、一つ仕事が明けたばかりで……続く個展の準備に追われる事を熟知して睡眠が不足しているのを自覚しながらも無理から起き出した日だ。
 庭の手入れをしておかないと他に日がないと、朦朧としながら剪定ばさみを手に庭木の刈り込みをしたのでよく覚えている。
「……まさか?」
其処ではったと思い至る。
 ぼんやりと鋏を動かしながら感じていた、何か物言いたげにじんわりと、困っている気配を漂わせていた山茶花の様子を。
「花芽を……切ってしまいました?」
コシカタは今度はこっくりと、やけに重々しく頷いた。
 言われて始めて、思い至る己の所業に血の気が一気に下がる。
 山茶花が花芽を作るのは夏の頃、この時に枝を刈ると当然のことながら花をつけない。
「……人災でしたか」
織はがっくりと項垂れるしかない。
 山茶花は本当に奥ゆかしく辛抱強い……主張するという事をしない木だ。
 申し訳なさに穴があったら入りたい織だが、ユクスエの逡巡にも気付いて顔を上げた。
「今なら私にも、貴方の未来が占える気がします。あててみましょうか」
先の、未来に懸かる事は己でという言を受けてユクスエが告げがたく思っているだろう自分の中での決定事項を宣言に近い形で告げる。
「次の作品は山茶花を題材に作成します……当たりでしょう」
当て推量ながら言いたい事の的を得ていたのか、何度も頷くユクスエに、織は肩の力を抜いた。
「庭木の手入れについては、今からきちんと勉強する事として、今日はお二人にもう少しお付き合い頂きたいのですが」
申し出に目線を合わせてくる二人に、織は重ねられたままの掌を、対となる貝の根付と共に握り締めた。
「実は今、これなら少人数でも楽しく遊びながら和歌を覚えられるに違いないという、百人一首を使った新たなる遊びを思いつきまして」
途中で切った言葉の先を待つ子供達に、織は重々しく頷く。
「その名も百人神経衰弱。如何でしょう、一緒に遊んで頂けませんか」
今なら和菓子もお付けします、とお得感を醸してみる織だが、取り札、読み札、それぞれ百枚×2。並べるだけで部屋一つを使う何とも場所とそして時間を食う遊びである事は想像に難くない。
 しかし乍らその無謀とも言える織の提案は、コシカタとユクスエの気に入ったのか、子供達は初めて笑み、というには微妙だが確かに表情を和らげ、応意にしっかりと頷いた。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【6390/烏丸・織/男性/23歳/染織師】

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■         ライター通信          ■
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いつもお世話になっております、回を重ねる毎に店主のおやつ作成技能がアップしているような気がして仕方のない、闇に蠢く駄文書き、北斗玻璃に御座います。
おかしい、今までは買ってきた物ばかりだったのに……と我が子(?)ながら何処まで行くのか心配です(待て)
さてはて。今回はちょっと織さんの人間らしさ=誰だって間違いというものはあるさ! という間違った北斗認識を前面に押し出してみました!(押し出すな)
いやお忙しいだろうしね、たまにはね……こう、染料の効率的な煮だし方とかは得手でも手入れとなるとどうだろう。職人気質がこういった偏りで出るのも人間らしくて(←今回の拘り)ステキよね! とお間抜けな事態を招いております。
いつも好きにさせて頂いているのに甘えさせて頂いておりますが、お気に召さなかっらどうしよう、と胸ときめかせる(違)小心者は少しなりと笑いが取れることを祈らずに居られません。
それでは、また時が遇う事を祈りつつ。