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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


廃校に潜むもの

「肝試し?」
「そう。暁美も行かない?」
 予期せぬクラスメートからの誘いに、帰りの支度をしていた天宮暁美は思わず手を止め、友人の顔をまじまじと見つめた。
「学校の裏山にさ、もう使われてない廃校があるって知ってるでしょ? そこに今夜行こうって話」
「今夜?」
「ダメ?」
「そんな事はないけど…」
「じゃ、決まりね。あ、何かあったら私のケータイに連絡して」

 翌日、暁美を誘ったクラスメートは学校に姿を見せなかった。
 HRで担任から昨日自分を誘ったクラスメイト達が昨夜から行方不明と聞くと、暁美はあの廃校で何かがあったと確信した。
 助けたい。内から湧き出るその一念に従い、暁美は探索の準備を開始した。
 クラスメイト達を襲ったものが、心霊現象だとは思わない。行方不明になった彼女達が、死んだとも思わない。探せば見つかるはずだ。しかし、一人で行くわけには行かない。霊鬼兵といっても、その力は並みの人間と同程度でしかない。ミイラ取りがミイラになっては意味が無い。
「助けてみせる…絶対に」

 誰かが言った言葉が言霊となり言霊が形を得る。形を得た言霊を誰かが見、心霊現象だと思い込む。それが更なる噂を呼び、やがては強大な力を得た言霊は悪霊に類する存在となって現実的な悪事を働く。
 それが一般的に霊現象と呼ばれるモノの正体だ。
 しかし、忘れるなかれ。真に恐ろしきは、人の業である事を。

 深夜零時。
 闇と一体化した山奥に葬られた廃校に、人あらざるモノの絶叫が木霊する。
 しかし絶叫が人々に届くことは無い。
 何故ならば、只の人間にそれを知覚できる力は無いからだ。否、かつては備わっていたが、物質主義という精神を徹底的に否定する社会構造が、人々からその力を奪い去ってしまったのだ。
 それは不幸ではあるが、また幸福でもあった。
 特に、エレミア・フローヴェイルのような暗黒の世界に生きる存在にとっては。
「数はいるようだな」
 明かり一つ無い闇の中を睨みつける。かつては大勢の生徒達が走り回ったであろう木造の廊下は、荒廃に任せ完全なる無秩序に支配されている。
 彼女の目に、”敵”の姿は映っていない。しかし見えずとも、感じる事はできる。そこに何かがいる、という事さえわかれば見えずとも戦える。
 風が新たな違和感を伝えてくる。新たな”敵”だ。
 感覚に従い、エレミアは走り出した。

「ねぇ、暁美は何に怒ってるの?」
 懐中電灯と蝋燭。ロープや万能ナイフ。充電しっかりの携帯電話。安全靴とか軍手。ヘルメットといった完全装備の海原・みあおは先ほどから抱いていた疑問を口にした。
 装備を整えてきたのは、どうやら自分だけらしい。行動を共にする二人は、懐中電灯を持っている以外は至って普段着である。
「わからない。多分、自分への怒りだと思う。私がいれば、何事も無く終わったのに」
「だから、こうして深夜にここの探索をするって言ったんだ?」
 暁美は頷いた。それは意地である。ただ救助を行うのならば、昼間に行った方が安全かつ確実。なのにこうして深夜に行うとは。
「素直なんだね」
「誤魔化すって事、知らないから」
 そんな二人のやり取りを、パティ・ガントレットは微笑ましく眺めていた。
(霊鬼兵…聞いた事はありますが、まさかここまで人に近いとは)
 素直に感情を表現できる。そう言う意味では、人間よりも人間らしいのかもしれない。
 そんな事を思い、廃校へと目をやる。
 廃校は静寂であったが、その静寂さはまるで誘っているかのようだ。
 一同の顔が険しくなる。
「まるで呼んでいるみたいですね」
「探検開始、だね」
「行こう」
 頷きを交わすと、三人は闇への入り口に飛び込んでいった。

 三人を追う影一つ。
 応仁守・瑠璃子。養女として迎えた暁美が友人を救う為に動いていると知りった彼女は、義妹を助ける為にやってきた。
「あまり過保護にしちゃいけないんだけど」
「そうも行かないよね」
 事前に収集していた情報を統合すれば、あの廃校は暁美とその知人達だけでは危険すぎる。特に暁美は戦闘力が皆無だ。守ってやらなければならない。
 三人に気取られないよう細心の注意を払いつつ、瑠璃子は廃校へ侵入した。

 校舎に足を踏み入れた瞬間、三人の目の前に青い炎の球が浮かび上がった。
 鬼火という奴だ。距離にして約10m。
 これは異常であった。暁美の能力の効果範囲は半径50m。
 暁美の能力の前に、異能力は発動しえない。なのに起きるという事は。
「本当の心霊現象じゃない?」
 どこか残念そうに、みあおが呟いたその時だ。
 音も無く、背後の扉が閉まった。漆黒に三つの光が投じられる。鬼火が消えた。
「ここの主は、風情というものを理解しているようですね」
 可笑しそうにパティが言う。成程ホラー映画ではよくある流れだ。
 しかし、これらの歓迎も暁美にとっては神経を逆撫でするだけだったようだ。
「許さない」

 静かに一言吐き捨てると、闇の中へ駆け出していった。

 あおいはすっかり置いていかれてしまった。完全装備が仇となったのだ。
 懐中電灯の灯があるとはいえ、闇の中に一人。恐怖を感じぬほうがおかしい。
 恐怖を振り払う為にも、あおいは一人で探索を行う事に決めた。
 まずは目の前の校長室を調べてみる。
 机の下やロッカーなど隠れられそうな場所を調べてみるが、何も見つからない。諦め、隣の教室へ移動しようとしたみあおは開け放たれたドアに人の姿を見つけた。
「お前…天宮暁美と共に救助しにきた者か?」
「そうだけど?」
 人…エレミアは、ふぅと溜息を吐くと校長室に足を踏み入れ、机の上に置かれていた一冊のノートに触れた。
「これは…」
 どうやら日記のようだ。殆どのページは虫食いに侵され、読める状態ではない。かろうじて読めるのは最後の数ページだけだ。

『八月十日。ついに完成した。長い年月がかかってしまったが、ついに完成したのだ。後は実験が成功すれば、全てが終わる。我が愛しき妻よ、待っていてくれ…絶対に蘇らせてやる。
八月十三日。やはり失敗だった。人の力で人工的に命を生み出すのは不可能なのか。こいつらは命令を聞く知能は無く、ただ本能のみで動く。幸いなのは、何故かはわからないがこいつらはこの廃校の外に出ようとしない事だ。
住民がここを見つけないように、噂を流すしかない。こいつらを街に出してはいかんのだ。
八月十五日。噂の流布に成功した。町の住民はこの廃校に幽霊が出ると信じ込んでいる。後は監視用の不可視型に任せれば、例え住民がここを訪れても始末してくれるだろう。
明日、餌を用いて奴等を研究所に閉じ込めるつもりだ。あそこなら、内側からは決して出られない。餌は私自身だ。
あいつらを倒すことは不可能ではない。人間と同じように首を斬ればいい。
だが、私ももう若くない。武器を持つだけの力さえないのだ。故に、この化物を永久に封印する。
それが多くの人命を奪ってきた私の償いだ』

 そこで日記は終わっていた。
「幽霊話って、この日記の人が流したデマだったんだね」
 そういうものだ、と日記を閉じながらみあおに相槌を打つエレミアの顔は、どこか険しい。
「感じないか? 風に乗って流れてくる気配を」
 言い、あおいの返事も待たずにエレミアは教室を後にする。慌てて追い掛けるあおいは、エレミアが鍵を破壊して入った理科準備室の中で、数人の少女達が身を寄せ合っているのを見つけた。
 予め渡されていた写真と見比べてみる。彼女達が暁美の探していたクラスメート達に違いない。
「安心して。私達、助けに来たの」
「本当に?」
「うん。だから、帰ろう?」
「けど、外には化物が」
「大丈夫だよ。私達、強いもん」
 優しく微笑んでみせる。幾ばくか恐怖も和らいだのか、少女達は
「暁美も待ってるよ」
「暁美が?」
「うん。自分が一緒に行ってれば、何事起きなくて済んだのにって自分を責めてた」
 少女達は顔を見合わせる。
 保護成功の旨を携帯で暁美に報告しようとするみあおだが、繋がらない。
 仕方なく、そのまま校舎から出る事にした。
 校舎から出た瞬間、どこかで何かが爆発するような音が聞こえた。

 三人が脱出したのと、廃校から巨大な爆発が起きたのは同時だった。廃校へ目を向けた暁美は、廃校から夜空に飛んでいく、洋画で見る忍者みたいな人々を見た。
「お姉ちゃん、あれは?」
「さぁ? 正義の味方じゃない?」
「…あれ?」
 曖昧に答えをはぐらかす瑠璃子。
「あー! 暁美!」
 暁美の顔が綻ぶ。みあおだ。
 よくよく見れば事前に協力を呼びかけたエレミアと、行方不明だった友人達も一緒だ。どうやら生きていてくれたらしい。
 再会を喜び合う暁美とその友人達に微笑を送り、エレミアは言った。
「無事再会できてよかったな」
 暁美は、無垢な笑顔で頷いた。




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
【1415/海原・みあお(うなばら・みあお/女性/13歳/小学生】
【5762/エレミア・フローヴェイル(えれみあ・ふろーう゛ぇいる)/女性/700歳/魔の狩人】
【4538/パティ・ガントレット(ぱてぃ・がんとれっと)/女性/28歳/魔人マフィアの頭目】
【1472/応仁守・瑠璃子(おにがみ・るりこ)/女性/20歳/大学生・鬼神党幹部】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは。檀 しんじです。
 今回ご参加頂き誠にありがとうございます。
 今回は途中から二つの話に分岐してそれぞれの展開を用意させて頂きました。
 またご縁があればお願いします。