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<東京怪談ウェブゲーム あやかし荘>


『柚葉、秘密の特訓』

◆プロローグ◆
「……柚葉ちゃん? こんな所で何やってるの?」
 会社帰り。あやかし荘の玄関前に置かれた犬小屋に向かって、三下忠雄は疲れた声で話しかけた。
 三角屋根には赤いペンキが塗られ、下にある直方体の白い箱には、小型の犬が通れるくらいの出入り口がポッカリと開いている。どこにでもありそうな、ごくごく普通の犬小屋だ。
 ――後ろから尻尾が生えていることを除けば。
「な、なんで分かったー!」
 甲高い子供の声が犬小屋からする。直後、ポンッというコミカルな音を立てて、犬小屋は一人の少女に変わった。
 うなじの辺りまで伸びた、柔らかそうな金色の髪の毛。好奇心に溢れる同色の双眸。子供特有の丸みを帯びた頬は健康そうな小麦色で、短パン、Tシャツというラフな格好がいかにもワンパク小僧という雰囲気を醸し出していた。一応、コレでも女の子なのだが。
「何でって……だって尻尾が」
「尻尾……あー! しまったー!」
 今更気付いたのか、一抱えほどもある大きな尻尾を、柚葉は大慌てで隠そうとした。しかし、尻尾は一向に消える気配はない。
「ゴメン、僕疲れてるんだ……」
 今日も碇麗香に絞られ、遅くまで残業をするハメになった。明日に備えて今すぐにでも寝たい。
「ボクだってお前をビックリさせようと、こんな遅くまで待ってたんだぞー!」
「そぅ、じゃあ次ガンバってね」
 適当にあしらいながら、三下は疲れた体を引きずるようにしてあやかし荘に入っていった。

「……え? 郷に帰るって……どうして急に?」
 大きな風呂敷包みを抱えてあやかし荘を出ようとする柚葉を捕まえ、因幡恵美は事情を聞いた。
「もういっかい修行し直すんだ。変化を完璧にするためにね」
 柚葉は強い意志を込めた視線で見返してくる。何があったのかは知らないがどうやら本気のようだ。
「そう、なんだ……。じゃあちょっとの間寂しくなっちゃうね。どのくらいで帰ってくるの?」
「そんなのわからないよ。出来るようになるまでずっとだね」
 ふてくされたような表情で柚葉は言い切る。どうやらかなり悔しい思いをしたようだ。詳しい話を聞いてみたい気はするが、傷口を広げるだけだろう。
「それじゃあね」
「まぁ、待て。柚葉」
 踵を返し、あやかし荘の門を出ようとした柚葉の背中に、嬉璃の声が掛かった。いつからいたのか、大人変化した嬉璃が腕組みをして柚葉を見下ろしていた。
「変化の修行は厳しい。ワシも苦労したからよく分かる。お前一人では、ちと心許ないのぅ」
 少し目を細めながら、嬉璃は意味ありげな笑みを口の端に浮かべた。

◆PC:加藤忍◆
「大体の事情は分かりました」
 あやかし荘の中庭に面する縁側で、恵美が出してくれたお茶をすすりながら、加藤忍は頷いた。
 突然嬉璃に呼び出され、何事かと来てみると、ほっぺたを可愛くふくらませてふてくされている様子の柚葉。大人変化した嬉璃は膝の上に柚葉を乗せ、彼女の頭を撫でてやりながら事情を説明してくれた。
「ですがどうして私が?」
 お茶を静かに床に置き、耳元で切りそろえたストレートの黒髪を整えながら忍は嬉璃に聞き返した。
 嬉璃の話では、柚葉の手伝いをして欲しいのだという。彼女は変化の術を完璧な物にしたいらしい。だが自分はれっきとした人間。並はずれた身体能力と、予知能力じみた超感覚は持ち合わせているが、さすがに変化の術についての心得はない。
「別にお前が柚葉に変化を教え込めとは言わん。変化に関しては専門家を呼んである。お前にはソイツの監視をして欲しいのぢゃ」
「監視?」
 言われて忍は嫌そうに眉をひそめた。
「その専門家というのはそんなに危険人物なのですか?」
「ああ。どんなに危険かはお前が一番知っておるぢゃろ」
 思わず頬の筋肉が引きつる。目元が痙攣を起こし、視界がぐらぐらと揺れた。
 自分の知り合いで、変化が出来て、危険人物となれば思い当たるのは一人しかいない。
「おや、皆さんお揃いで。忍、お前の女装写真をミスター八城に渡したら発狂寸前になるまで喜んでいたぞ」
 最悪の報告と共に現れたのは黒い塊だった。
 野太い声で、あっはっはと鷹揚に笑ってみせる男の名前はジェームズ・ブラックマン。またの名を、厄災自動作成 地球外生命体。どんな平和で日常的な一コマでも、彼に掛かれば一瞬にして非常識と何でもありの闊歩するファンタジーワールドへと早変わりする。
 他人のペースと人生計画を狂わせることに関しては、彼の右に出る者はいない。
「嬉璃さん……私になにか恨みでもあるんですか?」
 ぎぎぎ、とぎこちなく首を嬉璃の方に向け、忍は血の涙を流しながら抗議の声を上げた。
「まぁそう言うな。この黒スケは技だけは超一流なんぢゃ。技“だけ”はな」
 その他、全ての面に置いて致命的な欠陥があるが、と嬉璃の顔が語っていた。
「いやー、そんなに褒められると照れるではないか嬉璃」
 頬を黒く染め上げて、ブラックマンは恥ずかしそうに頭を掻く。その拍子に短く切りそろえた黒髪から漆黒の粒子が舞った。黒い粒に触れた中庭の雑草が『ぁーぁー』と不気味な呻き声を上げる。それはまるで地獄で悶え苦しむ亡者を彷彿とさせた。
「――と、言うわけで。後は頼んだぞ、忍」
「なに勝手に話し終わらせてるんですか!」
 柚葉を脇に置いてそそくさと立ち去ろうとする嬉璃の着物を押さえ付け、忍は思わず声を荒げる。
「ええぃ、離せ。離さぬか。ワシの知り合いでヤツとまともにやり取りが出来るのはお前しかおらんのぢゃ。この世に生まれた不幸を呪いながら星になってこい」
「私を生け贄か何かと勘違いしてませんか!?」
 なおもすがりつく忍を引き剥がそうと、嬉璃は着物を強く引いた。
「むっ、忍。それは有名な例のアレだな」
 二人のやり取りを見ていたブラックマンが、何かを閃いたように忍の横に並ぶ。そして嬉璃の着物の帯をしっかりと握りしめた。
「準備オッケーだ、嬉璃。回転を始めてくれ」
「何を期待しとるんぢゃ貴様はあぁぁぁぁぁぁ!」
 ブラックマンは黒い塵と化した。

 新幹線に乗って二時間、在来線に乗り換えて更に二時間、無人駅で下りてタクシーで一時間。獣道を途中で下り、脇道に入って歩きで一時間。
 昼の二時過ぎ。ようやくたどり着いた山の入り口には、くすんだ朱色の鳥居が構えていた。
「ここを登りきればボクの故郷だよっ」
 最初の頃はずっと不機嫌だった柚葉も、故郷が近づくにつれて徐々に楽しそうな顔つきになって来た。きっと何年かぶりの懐かしい空気に、自然と心が弾むのだろう。
 ――忍とは悲惨なくらい対照的に。
(なんで私が……)
 恐らくは泊まりになるだろうと、何日か分の着替えを詰め込んだリュックを背負いなおしながら、忍は深く溜息をついた。そして嬉璃に渡された小さな木製のザルを、ジャケットのポケットの中で確認する。

『よいか忍。コレは少しくらいの傷なら、たちどころに癒してくれるという有り難いザルぢゃ。ヤツの暴走を止める時、深手を負ったら使え』

 あやかし荘を出る前、神妙な顔つきで進言してきた嬉璃の言葉が脳裏に浮かんだ。
 嬉璃の話では、このザルは精霊樹という太古の巨木を材料にして作った治癒道具らしい。このザルの中に傷ついた部分を入れれば、精霊樹から生命力が注がれ、傷が癒えるのだという。

『ぢゃが、今は精霊樹としての力を宿しておらん。何か霊力の高い物に触れさせて、本来の姿に戻してやる必要がある』

 柚葉の故郷にある霊泉の一つにひたせば、すぐに眩い光を放つ神聖なる籠に早変わりするというのだが……。
「どうした、忍。顔色がすぐれんではないか。疲れたのか?」
 コチラの気持ちなど全く知らず、ブラックマンは山道を登りながら軽い口調で話しかけてきた。彼は自分とは違い、完全な手ぶらだ。実家があるであろう柚葉でさえ、一抱えもある大きな風呂敷包みを持っているというのに。
「ブラック、お前替えの服……いや、何でもない」
 どうせ聞いても変な答えしか返ってこないだろう。例えば、亜空間から取り寄せるとか。
「なんだ、私の着替えのことでも心配してくれているのか? それなら大丈夫だ。このスーツは私の体の一部。新陳代謝と共に自動的に入れ替わる」
 予想を遙かに上回る答えが返ってきた。
「そ、そうか……」
 いっそう疲れた顔で歩きながら、忍は太い木の根の這い回る地面を見つめた。
 とにかく、この男だけは何をしても不思議ではない。しばらくコイツと一緒にいなれけばならないと思うと、今からもの凄い勢いで心労が肉体を蹂躙していくのが分かる。
(大体、なんでコイツが柚葉さんに変化を教えるんだ?)
 忍にはそこが分からなかった。
 柚葉の故郷に行く以上、郷の者に教えて貰うというのが自然の成り行きではないのか?
 嬉璃はただ、「行けば分かる」とだけ言っていた。
(……とにかく、できるだけコイツの厄介になるような状況だけは作りたくないな……)
 精霊樹のザルをポケットの上から押さえつけ、忍は今すぐにでも逃げだけしたい気持ちと戦いながら山道を登り続けた。

 澄んだ空気に包まれた静かで大きな村。
 それが柚葉の故郷への印象だった。空気自体が光り輝いているようにさえ見える、神々しい村の雰囲気。木製の家屋が太い道に沿って整然と並び、全ての家の前には二本の灯籠が門扉のように立っていた。
 山の中腹にある開けた平地。まるで巨大な力によってそこだけ平らにされたように、不自然な広がりを見せる村だった。こんな広大な空間があれば、地元の人間が気付きそうなものだが、ここに来るまでには柚葉でなければ見えない道がいくつもあった。
 岩盤をすり抜けもしたし、透明な吊り橋を渡ったりもした。恐らく妖狐の術か何かで隠しているのだろう。
「ついたー! ついた、ついた、ついたーっ!」
 ぴょんぴょんと小さく跳んではしゃぎながら、柚葉は尻尾を振って村の奥へと進んでいく。それに続いて忍とブラックマンが一歩を踏み出した時、突然辺りの空気が変わった。
 さっきまでとはうって変わり、息苦しささえ覚える。空気の中に酸でも混じっているのではないかと思うほど、呼吸するたびに胸の奥が灼けたような痛みに襲われた。
『部外者は立ち入り無用じゃ』
 二重に聞こえる耳障りな声と共に現れたのは、見上げるほどの巨躯を持った狐だった。
 白い獣毛は敵意を孕んで総毛立ち、鋭角的な金色の双眸からは剥き出しの殺意が伝わって来る。躰全体に青白い光を纏い、妖狐は無数に並んだ鋭い牙を見せつけた。
『さっさと立ち去れ。薄汚い人間と……人間と……えぇと……』
 低い声で言いながら、妖狐はブラックマンを見て口ごもる。
『この変態!』
 正解! と思わず忍は胸中で叫んだ。
 ブラックマンを言い表す言葉がそれ以外に思い浮かばなかったのだろう。実に当を得た表現だと、忍は妖狐の博識ぶりに感心した。
「随分な言いようだな、ご老人。まぁ残念ながら、私にとっては褒め言葉なのだが」
 本当に残念だ、と忍は落胆する。
「ところでご老人。あまり無理は良くないな。力量を越える変化は寿命を縮める。それは柚葉も望むことではあるまい」
「そーだよ、じっちゃん! 明日、腰が痛いとか言っても知らないよ? それにその人達はボクの大切な友達なんだから。村に入れて!」
 妖狐の後ろから柚葉の声がした。
 コイツと一緒にしないで下さい、と忍は心の中で柚葉にツッコむ。
『ぅ、うむ……。そうじゃったか。どうやらワシの早とちりだったようじゃの……』
 妖狐から気弱な声が聞こえたかと思った次の瞬間、巨大な躰は溶けるようにしてしぼんで行き、背中の曲がった小さな老人へと変貌した。
「貴方がこの郷の長老ですな。ご老人。初めまして、私はジェームズ・ブラックマン。皆には『燃えカス』『油ぎっしゅな古代の悪魔』『宇宙の塵』などなど様々な愛称で親しまれております」
「……そうか。ワシの変化を一目で見破るだけあって、相当苦労されているようじゃな」
 慇懃に礼をしながら自己紹介するブラックマンに、老人は白い髭をいじりながら哀れみの視線を送る。樫の木で作った杖で腰の辺りをぽんぽんと叩きながら、老人は忍の方に顔を向けた。
「私は加藤忍と言います。彼と違い、れっきとしたまともで健全で極々一般的な普通人です」
「……なるほど。お二方の関係はよぉく分かった」
 うんうん、と何度も頷きながら、老人は背中を伸ばして着物の襟元をなおす。
「ワシの名は白霧(しらぎり)。この村の長じゃ。と言っても、もうこの村にはワシしかおらんがのぅ……」
「じっちゃん! どういうこと!?」
 寂しそうに言う白霧の前に回り込み、柚葉は大声を上げた。
「あれはそぅ……五年前のことじゃ……」
 白霧は何かを思い出すかのように顔を上げ、懐古の視線を宙に這わす。
 薄く見開かれた目の奥に数多の想いをたたえ、白霧は細く息を吐いて口を開いた。
 コレから始まる老人の昔話に、忍は息を潜めて耳を傾ける。
「ついにワシ一人になってしもぅた」
 かなり端折られた。
「そんな……」
 柚葉がよろよろと力無く後ずさる。
「まぁ、若い人達は皆、刺激を求めて外に行くものですよ」
 ブラックマンがしみじみとした表情で理解を示した。
「柚葉、お前に変化の術を教え込みたいのは山々じゃが、今のワシでは体が言うことを聞かん」
 いつの間にか白霧は柚葉がココに来た理由も知っていた。
 自分を置いてどんどん話が進んでいく。
 コレが俗に言う『妖怪同士のコミュニケーション』というヤツなのだろうと、忍は強引に自分を納得させた。
 幸い、非常に大雑把ではあるが話しの大筋は掴めた。
 五年前、最後までこの郷に残っていた一人が都会へ行き、村には白霧一人だけになった。そして年を取りすぎた白霧には柚葉を指導する力が残っていない。
 そこで出番なのが――
「ご心配なさるな、ご老人。私が柚葉をキレイサッパリ一人前の妖狐として三枚に下ろして見せましょうぞ」
「おお、ソレは有り難い」
 ブラックマンの訳の分からない申し出に、白霧は感嘆の声を上げた。
「ホント!? クロちゃんが何とかしてくれるの!?」
「ああ、私に任せておけば、黒船来航ペリーさん、外はカリカリ中パッパという具合の仕上がりだ」
「凄い!」
 妖怪の会話に忍は全く付いていけない。
「では柚葉。思い立ったが仏滅。喘息は急げ。これからすぐに修行に移るぞ!」
「おー!」
 片手を大きく天に突き上げて、元気良く返事する柚葉。
 二人は手に手を取り合って村の奥へと歩を進める。
(もう始めるのか……)
 ここに来るまでに疲れきった体を引きずりながら、忍は柚葉とブラックマンの後を追って歩き出した。が――
「忍」
 ブラックマンが首だけをこちらに向けて、野太い声を掛けてきた。
「私達はコレから秘密の特訓に入る。忍には席を外して貰いたいのだが」
 その一言で忍の体に戦慄が走る。心臓の送り出す新鮮な血液で、全身に蔓延する倦怠感が洗い流されて行くようだった。そして自分がここにいることの意味を改めて思い出す。
(柚葉さんを守らなければ)
 ブラックマンと二人きりにしては絶対に危険だと、忍の第十七感が告げていた。
「ブラック、悪いがそれできない。お前が柚葉さんにする修行とやら、全部見届けさせて貰うぞ」
「そうか……」
 忍の言葉に、ブラックマンは露骨に肩を落として見せる。
「出来れば、この手は使いたくなかったんだが……」
 片手で頭を悩ましく押さえながら、ブラックマンは逆の手の指を鳴らした。次の瞬間、ポンというコミカルな音を立てて、忍の視界が煙に覆われる。
「お、お前……!」
 以前にも一度体験したことがある。それは身の毛も凍るおぞましい……。
「おおー」
「すごーい」
 白霧と柚葉が同時に感心したような声を上げた。
 煙の中から出てきたのは、フリル付きのエプロンドレスに身を包んだ忍。顔には化粧もバッチリ施されている。
 一週間ほど前、このわけの分からない技で女装写真を激写された。まさかその写真を涼太に送っているとは思わなかったが。
「オノレ、ブラック……」
 両手を固く握りしめ、忍は羞恥に身を震わせながらブラックマンを睨み付けた。
「忍。変化の極意は集中力だ。静かなところで二人きりになれればそれに越したことはない」
 厳かな口調で言うブラックマンに、忍は不敵な笑みを浮かべて返す。
「甘いな、ブラック。私がこの程度で引き下がるとでも?」
 幸い、村にはここにいる四人しかいないらしい。ならば自分がこの格好でいることは、すでに羞恥……周知の事実。今更隠す必要もない。
 忍の強い心は、柚葉をブラックマンの魔の手から救うことを優先させた。
「ところで忍。ランジェリー姿はどれが良い」
「後は任せたぞブラック」
 きわどい下着のカタログを見せてきたブラックマンに、忍の心はアッサリ折れた。

 ブラックマンと柚葉と別れ、忍は白霧の自宅に招かれた。
 長老の家だけあって、さすがに他の家屋とは比べ物にならないくらい大きい。あやかし荘の本館に匹敵するくらいの広さだ。
 ヒノキで作られた頑丈な造りの平屋建て。釘を全く使用しない合掌造りには、職人のこだわりが感じられる。漆喰の塗り込まれた白い壁とピンと張られた障子からの採光、そして日本画の描かれたふすまによる間仕切りは、古き良き時代を思わせる。
 忍はいぐさの香り漂う居間に通され、運ばれてきた梅昆布茶をすすっていた。
「良い所じゃないですか……」
 ほぅ、と感慨深い溜息をついて、忍は開け放たれたふすまの向こうに映る光景に目をやる。
 中庭に咲き乱れるのは月下美人、リンドウ、十月桜、酔芙蓉(すいふよう)、コスモス、紫陽花(あじさい)。本来なら同じ時期に咲くはずのない草花が、視界いっぱいに鮮やかな彩りを披露していた。
「時間を忘れるとはこのことですね」
 ここにいると何だか、都会の雑踏にもまれてあくせくしていた自分が、もの凄く愚かな存在に感じられる。緩慢な時の流れに身を任せ、忍は肩の力を抜いた。
「まぁ、ここは外界の五倍の早さで時間が流れていますからな」
 もの凄く早かった。
「……ちなみに、私一人でここから出る方法は?」
「ありませぬ」
 思わず身構えて訊ねる忍に、白霧は涼しい顔で返す。
「この郷に入る道も出る道も、郷の者にしか見えませぬ」
 何となく予想はしていた。だからこそこの地は、誰にもけがされずに美しさを保ち続けられるのだろう。
 帰るには柚葉が修行を終えて、一緒に連れて行って貰わねばならないというわけだ。
「まぁ、ゆっくりしていきなされ。ここは食べる物も美味い。今日はワシが腕をふるってしんぜよう」
 言い終えて白霧は、ずず、と貫禄のある振る舞いで梅昆布茶をすする。太いクスノキを真横に切って作られた机の上に湯飲みを置き、老人は取り出した煙管から煙をくゆらせた。
 とにかく、こうなってしまった以上焦ってもしょうがない。現状は冷静に受け入れなければならない。郷に来た理由はブラックマンの監視もそうだが、柚葉が無事修行を終えるのを見届けたいからでもある。出来れば自分も手助けをして。
 どのくらいの期間掛かるのかは知らないが、あまりに遅いようであれば嬉璃が何とかしてくれるだろう。
 非常に儚い望みではあるが……。
「ところで、こんなにいい場所をどうして他の人達は出て行かれたのですか?」
 忍はある種の覚悟を決め、落ち着いた口調で聞いた。
 時間の流れが五倍というのは確かに痛い。
 だが、それは忍が人間だから思うことだ。人間よりも遙かに寿命の長い妖狐ならば大きな問題ではないはず。
「やはり、長くいるにはこの郷は退屈かもしれんのぉ……」
 白霧は遠い目をして続けた。
「最初に出ていったのは、ワシの娘じゃった。『でぃすこ』とかいう場所に憧れてな」
 いきなり随分前まで遡った。
「長老の娘が出ていってしまったんじゃ。コレでは示しがつかん。若い者達は元々外界に興味があった。郷を守るなどと言う考えはアッサリ捨てて、我先にと出て行きおった」
 白霧は煙管を深く吸い込み、紫煙を高い天井に舞わせる。
「柚葉も、その一人じゃった」
 その名前に、忍は僅かに瞳を大きくした。
「確か、あの子がまだ八歳の頃じゃ。わんぱくでやんちゃで、村一番の変化上手じゃった柚葉は、自分の力を多くの人間に見せびらかしたいと郷を出ていきおった」
「ちょ、ちょっと待って下さい。今何と?」
 忍は白霧の言葉に、どもった声で聞き返す。
 柚葉が村一番の変化上手? いったいどういうことだ?
「お主が驚きなさるのも無理はない。ワシも柚葉がココに来た理由を知ってビックリした。この村きっての天才児がどうして、とな」
 天才児。柚葉はそこまで言われるほど変化が上手かったのか。
「耳をピクリと動かせば大滝を逆上る鋭魚となり、片眉をちょいと動かせば天空を翔(かけ)る巨鳥になり、小鼻をヒクつかせれば大地を統べる英猿となった」
「なのにどうして今は……」
「変化のコツは皆それぞれじゃ。強く念じて出来る者もいれば、追い込まれた時にだけ出来る者もいる。柚葉は昔、自然と出来ていたことが今は出来んようになったんじゃろうなぁ」
 なるほど、良くある話だ。
 超能力なんかが良い例だ。子供の頃、そのこと自体凄いと意識せずに当たり前のように使っていた時は出来たが、世間を知って自分の優位性を感じた途端、異能力は薄れてしまう。
 柚葉もそのパターンなのだろうか。
「まぁ、ここに戻ってくれば色々思い出すじゃろ。元々才能のある子じゃ。ゆっくり時間を掛けて昔の自分を取り戻せば、すぐに何にでも変化できるようになる」
 ようやく、郷に来た意味が分かった。
 嬉璃はブラックマンが指導することになるのを知っていた。ならば別にわざわざこんな山奥に来ずとも、あやかし荘でじっくりやっていけば済む話だ。
 だが、それだけでは足りないと嬉璃はふんだ。
 この大自然溢れる故郷で、柚葉が失ってしまった大切な何かを取り戻さなければ、完璧な変化は出来ない。
 そう考えたのだろう。
 どうして嬉璃にそこまで分かるのかは知らないが、彼女のことだ。なにか特殊な情報網でも持っているのだろう。
「白霧さん。少し、この郷を案内していただいても良いですか?」
 自分が何か柚葉の手助けを出来るとすれば、それは彼女の昔を知り、さり気なく教えること。
「おお、ええとも。ワシも話し相手がおらんで退屈しておったところじゃ」
 白霧は朗らかな笑みを浮かべ、快く頷いてくれた。

◆PC:ジェームズ・ブラックマン◆
 村からは少し離れ、郷の中で見つけた大きな池。澄み切った水が張られ、かなり深いにも関わらず底に敷かれた色とりどりの砂利がハッキリと見える。
「よし、まずはここで特訓だ」
「こんなトコで何するの?」
 腕組みしてふんぞり返るブラックマンに、柚葉は小首をかしげて聞き返した。
「誰でも追いつめられれば普段の何倍もの力を出せるようになる。つまり、『変化せざるを得ない状況』に追い込まれれば、柚葉の中で眠っている力を引き出すことが出来るはずだ」
「なるほどっ。クロちゃん頭良いねっ」
 言いながら柚葉は目を輝かせる。
「で、で? ボクはどーすればいいの?」
「うむ。まずは池の中に入ってみてくれ」
「わかった!」
 元気良く答えて、柚葉は池の中に飛び込んだ。水しぶきが陽光を浴びて宝石のようにキラキラと輝く。
「柚葉、お前は今から魚に変化するんだ。尻尾など無い、な。でなければ、溺れる」
 野太い声でゆっくりと説明するブラックマンに、柚葉はすいすいと華麗な泳ぎを披露してみせた。
「でもボク泳ぐの得意だよー」
「ならばこれでどうかな?」
 ブラックマンがパチンと指を鳴らした次の瞬間、柚葉はまるで池に引きずり込まれるかのように身を沈めていく。
「ちょ、な……! 体、が!」
 ガホガボともがきながら、柚葉は突然言うことを聞かなくなった体を浮かせようと必死になった。
「今、お前の体重を三倍くらいにした。例えるなら、両足を自分自身に引かれていると言ったところか。さぁ、溺れる前に完璧な魚に変化しないと死んでしまうぞ? 尻尾などあったら邪魔でまともに泳げんだろうしな」
 どこから取り出したのか、湯気の立つコーヒーをすすりながら、ブラックマンは優しい口調で恐いことをサラリと言った。
「く、クロちゃ……! 助け……!」
「それでは修行にならんではないか。獅子は自分の子を逞しく育てるために、千尋の谷から突き落とすという。まぁ、あんなだだっ広い荒野のどこに千尋の谷があるかは甚(はなは)だ疑問だがな、あっはっは」
 どうでも良い疑問を口走りながら、ブラックマンは愉快に笑って見せる。
 そうこうしている間に柚葉の体は完全に池に飲まれ、泡だけがぶくぶくと上がってくるだけとなった。
「うーん、午後のひとときを優雅にすごさせてくれるコーヒーはとってもテイスティ」
 まるで心配した様子もなく、ブラックマンはコーヒーを楽しむ。
「やはりコーヒーはブラックに限る。この苦味こそがコーヒー本来の味。黒の伝道師として一刻も早く全国に広めねば」
 誰に話すでもなく、独り言をぶつぶつと呟きながらブラックマンはコーヒーを味わった。
 池からはすでに泡も上がってこない。鳥のさえずりだけが辺りにひびくだけだ。
「もーいーつく寝ーるーとー、おーそーうーしーきー」
「するなー!」
 鳥の歌声に合わせて口ずさんだブラックマンの額に、轟音を伴って池から現れた魚雷が突き刺さった。
「柚葉、『雷』が余計だな」
「ボクを殺す気か!」
 ポンっとコミカルな音を立てて、尻尾付きの魚雷は柚葉へと戻る。
「心配せんでも私が喪主を務めてやる」
「務めるな!」
 だくだくと額から流れ出る黒い液体を拭いながら、ブラックマンはやれやれと肩をすくめた。

 次にブラックマンが修行の地に選んだ場所は、背の高い樹が乱立する雑木林の中だった。
「うむ。これがいいな。コレにしよう」
 数ある樹の中から、高さ五十メートルはあろうかと思われる巨木をぺちぺちと叩く。
「次は何?」
 柚葉はふてくされたように頬を膨らませながら聞いてきた。
「さっきのでスパルタは柚葉に合わないことが分かった。そこで、だ。次は『どうしても変化したくなる状況』を作ってみようかと思う」
「どうやって?」
「あそこを見てみろ」
 ブラックマンが長い腕を伸ばして指さしたのは、空を優雅に舞う大鷲だった。大きな翼で風の流れを捕らえ、華麗に旋回を続けるその姿からは王者としての風格が漂っている。
「柚葉、アレになりたいとは思わんか?」
「そりゃあ、出来ればなりたいけど……尻尾が……」
 先程の魚と同じだ。たとえ大鷲に変化できたとしても、尻尾が付いたままでは空気抵抗が大きすぎる。あのように飛ぶことは不可能だ。
「柚葉。鳥になりたいと強く念じるんだ。そのためには鳥の気持ちを肌で直接感じることが必要だ」
 言いながらブラックマンは、ひょいと柚葉の首根っこを持ち上げる。
「『ブラック・ジェット』」
 低い声で短く言いきった直後、ブラックマンの着ている黒いスーツの内側からロケット噴射が始まった。
 視界はあっと言う間に上昇し、ほんの数秒で巨木のてっぺんまでたどり着く。何が起こったのかまったく理解していない柚葉を太い幹につかまらせ、どこからか取り出したロープでしっかりとくくりつけた。
「どうだ、柚葉。絶景だろう」
「あ……あ……」
 吃音を発する柚葉に、ブラックマンは空中でホバリングを続けながら言う。
「これが鳥の視界だ。さぁ柚葉、この光景を目に灼き付けて強く願うんだ。自分も鳥になりたいと。大空を我が物にしたいと」
「出来るわけないだろ! これじゃさっきと変わらないじゃないか!」
 ようやく状況を呑み込んだのか、柚葉は両足をばたつかせて抗議した。その振動で樹が大きくしなり、今にも折れそうなほどに曲がる。
 柚葉が静かになったのを確認して、ブラックマンは続けた。
「出来ないとあきらめたらそこでお終いだ。為せば為る。為さぬなら、為させて見せようコウノトリ、と言うヤツだ。それに、この方法を試したのはお前が初めてではない」
「ほ、他の人にも……?」
 出来るだけ下を見ないようにして、ぐらぐら揺れる樹のてっぺんで柚葉はバランスを取りながら聞き返してくる。
「うむ。彼もお前と同じく変化の下手くそな男でな。黒紳士養成学校で同期だった私が優しく手を差し伸べてやったというわけだ」
「で、その人……ちゃんと変化できるようになったの?」
 声を震わせながら言ってくる柚葉に、ブラックマンは腕組みして目を瞑り、小さく鼻を鳴らして自信満々に答えた。
「高所恐怖症になった」
「ダメじゃないかー!」
 柚葉の絶叫が虚しく天空に響き渡った。

 視界いっぱいに広がったすすきが、膝あたりまでを覆い隠す荒涼とした平原。
 秋の雰囲気を色濃く感じさせるこの場所を、ブラックマンは次の修行場所として選んだ。
「さて、次なる特訓は……」
「言っとくけど! 絶対に水にも潜らないし、樹にも登らないからね!」
 ブラックマンの言葉を遮って柚葉が大声でまくし立てる。よほどコレまでの特訓が気に入らなかったらしい。それでも逃げ出さずに付いてくる辺り、完璧な変化をしたいと思う気持ちは強いのだろう。
「心配するな。ここでそんなことが出来るはずないだろう」
 言いながらブラックマンは両腕を大きく広げて、すすき以外何もないだだっ広い空間を強調する。
「……でも、クロちゃんなら『ブラック・ディメンション』とか言って、訳の分からないとこに飛ばしそうじゃないか」
「良く知ってるな」
 真顔で返すブラックマンに、柚葉が顔を引きつらせて後ずさりした。
「まぁ、それは後のお楽しみということで、今回は別のことをする」
「……絶対にしないでよね」
「今回はズバリ、イメージトレーニングだ」
 柚葉の苦言を無視して、ブラックマンは修行の説明を始める。
「超能力者がよくスプーン曲げをやっているだろう。あれは心の中で『曲がれ曲がれ』と念じているのではなく、『すでに曲がった状態』を思い描いてスプーンに投射しているらしい。つまり、今回の特訓では『完璧に変化した後の自分』を頭の中で強く描いて変化してもらいたい」
 何となくまともなことを言っているブラックマンに、柚葉はふんふんと小さく頷いた。
「とりあえず自分に生態が近くて好きな物を選ぶと良いだろう。柚葉、お前が好きな動物はなんだ」
 言われて柚葉はうーん、と考え込んだ後、何かを閃いたようにポンと手を打つ。
「おさるさんっ」
「猿か、良いだろう。では自分が猿になった姿を頭に描くんだ」
 ブラックマンの言葉に柚葉は目を閉じ、眉間に皺を寄せてうーんと呻く。「さる、さる、さる……」と何度も呟きながら、柚葉は胸の前で両手を合わせた。
 柚葉が猿をよりイメージしやすいようにブラックマンも声を出す。
「柚葉。お前はサルだ。サル山に登ってバナナをむさぼり食うサル。赤い尻を掻いて相手をバカにするサル。食う、寝る、子供を産むしか能のないサル。そぅ、お前はサルの中のサルだ。このキング・オブ・サルが!」
「……クロちゃん。ひょっとしてボクのことバカにしてる?」
「まさか」
 ブラックマンは肩をすくめておどけて見せた。
「じゃあ気が散るからちょっと黙ってて」
「分かった」
 言われてブラックマンは片足立ちになり、頭で八の字を描くように回転しながらコーヒーを飲み始めた。
「……クロちゃん。出来ればじっとしてて欲しいんだけど」
「承知した」
 言われてブラックマンはその場に座り込み、柚葉に温かい視線を向けながら光速まばたきを始めた。
「……クロちゃん。出来ればアッチ向いてて欲しいんだけど」
「了解した」
 言われてブラックマンは柚葉に背中を向け、念力ですすきをロケットのように飛ばし始めた。
「……クロちゃん。そんなにボクの邪魔したいの?」
「喋ってもダメ動いてもダメ視線を向けてもダメ念力を使ってもダメ!? 私に死ねと!?」
「普通にじっとできんのか、お前はー!」
 号泣しながら振り向いたブラックマンの顔面に、柚葉の足がめり込んだ。

 コーヒーを大人しく飲むことだけを許可され、ブラックマンは一心に念じ続ける柚葉を遠くから見守っていた。
 柚葉は胸の前で手を合わせた状態でしばらく呻き続けていたが、ブラックマンが二十五杯目のコーヒーを飲み終えたところで両腕を大きく広げて叫ぶ。
「ボクはおさるさぁーん!」
 ポンッと可愛らしい音を立てて、柚葉の体が煙に包まれた。そしてモヤが晴れた時、そこにいたのはどこからどう見ても猿だった。尻尾はあるが猿のモノだ。柚葉が元々持っていた、狐の太い尻尾ではない。
「おお……柚葉。素晴らしい。やれば出来るではないか」
 感嘆の声を上げ、ブラックマンはコーヒーカップをソーサーの上に置いた。
「キーキキッキ、キキーッ」
 ぴょんぴょんと跳びはねながら、柚葉は猿の鳴き真似をする。
「ほぅ、なかなか完璧主義者だな。見直したぞ」
 感心したように頷くブラックマン。
 柚葉は猿のように素早い身のこなしで近づくと、持っていたコーヒーカップとソーサーを取り上げた。
「むっ。何をする」
「キキーッキキッキ、キーキキキッ」
 甲高い声を上げてカップに入っていたコーヒーをぶちまけ、ソーサーをフリスビーのようにして遠くに投げ捨てる。
「……柚葉、完璧な変化を喜ぶのは良いが、悪ふざけは感心しないな」
「キキキーッ!」
 しかし柚葉は聞く耳を持たず、相変わらず猿の声で鳴きながらブラックマンを挑発した。
「ほぅ、この私に挑戦する気か。いいだろう」
 静かに言ってブラックマンは背中を曲げ、両手を地面に付る。
「ギギギッ、ギッギッギギー!」
 そして歯を剥き出し、自分も猿語を使って対抗し始めた。
「キッキキキッキキーキキッ!」
「ギギギッギッギッギッギギーッギッ!」
「キキキキキ! キッキキーキッキッキキッ!」
「ギギャギ! ギョギククギョーグッ! ガガガッ!」
 果てしなく不毛なやり取りを続け、ブラックマンはようやく気付いた。
(そういうことか……)
 柚葉は猿の鳴き真似をしているのではない。
 どうやら『完璧な猿』に変化するつもりが、『本物の猿』に変化してしまったらしい。自分で自分の体をコントロールできないのでは、変化をしても意味がない。
「キキキッ!」
 一際甲高い声を上げて、猿と化した柚葉は明後日の方向へと走り始める。
「ギ、ギョギョ!」
 ソレを追ってブラックマンも駆けだした。

◆PC:加藤忍◆
 白霧が案内してくれたのは、上が見えないほどの高さから流れ落ちてくる巨大な滝だった。幅も十メートル以上はある。呑まれたらまず助からないだろう。にもかかわらず呑まれてみたいと思わせるほどの得体の知れない魅力がこの滝にはあった。見る者を一目で魅了する。言うなれば魔性の滝だ。
 滝つぼの周りには丸く大きな石が敷き詰められ、苔が表面を覆っている。苔は水に濡れて煌びやかに輝き、碧色の宝石のような美しさを秘めていた。
「ここは『月朧の滝』といってな。月の光に照らされた時が一番綺麗なんじゃ」
 白霧は滝を見上げながら、目を細めて言った。
「このままでも十分綺麗なのに、まだ綺麗になるんですか」
「ああ、満月の夜など最高に綺麗じゃぞ。機会があったら一度見に来ると良い。もしかしたら『深森の女神』に会えるかもしれんぞ」
 岩肌に張り付いていた紅葉の葉っぱをはがし、白霧は手の中でもてあそぶ。
「『深森の女神』? なんですか? それは」
「この郷の守り神じゃよ」
 白霧は手頃な岩に腰掛け、懐から煙管を取り出して火を付けた。
「もっとも、子供のように純粋な心を持った者にしか会えんと言われておるがな」
 白霧の言う『深森の女神』。それはこの郷に住む民を古より守ってくれていた守護神らしい。言い伝えでは、夕日に染まった茜色の空のように紅い髪の毛と、白樺の樹皮のように白い肌、そして人を内側から見つめるような深い藍色の双眸を持っているという。
 出会った者に万能の知恵と、強靱な肉体を与えてくれると言われていたり、生まれたことを心の底から後悔する恐怖に襲われるとも言われているらしい。
「この滝にはそんな伝承が……」
 忍は改めて滝を見上げながら、嬉璃に渡された小さなザルのことを思い出した。
「ではこの滝つぼは霊泉の一種なんですか?」
「勿論じゃ。この水を腰に付ければ、頑固な腰痛も一瞬にして吹き飛ぶぞ」
 いまいち有り難みの感じられない使用例だったが、忍は取りあえずザルを水に浸してみる。次の瞬間、手の平サイズだったザルは一瞬にして一抱えもある大きな籠となり、それ自体が淡い燐光を放ち始めた。
「ほぉ、『精霊樹の籠』か。なかなか面白い物を持っておるのぉ」
 白霧は感心しながら腰を上げ、忍が両手で持っている籠を覗き込む。
「昔はワシの家にもあったんじゃが、いつの間にかなくなってしもうた。誰が持ち出したのやら……」
 白い髭をいじりながら、白霧は溜息混じりに言った。
「ま、ワシのような老いぼれよりも、お前さんのような若い人が持っとる方が、色々活躍の場もあるじゃろ。せっかくじゃ、面白い物を見せてやろう」
 忍は大きくなった籠を脇に抱え直し、杖をついて歩き出した白霧の背中を追った。

 紅葉に彩られた山道を登り、着いた先はもの悲しい風景の広がる山頂だった。
 村が一望できる高さにある狭い山頂部は、褐色に変色した花々で埋め尽くされていた。かつては色とりどりの賑わいを見せていたであろうこの場所も、地力が弱まっているのか花が枯れきってしまい、寂しげな雰囲気を漂わせるだけとなってしまっている。
「ここは……?」
「唯一、『光雪草』が花を咲かせた場所じゃよ。名前の通り、光り輝く雪のように綺麗な花じゃった。匂いも水蜜桃のように甘くてな、風に揺られれば鈴の音のような涼やかな音色を奏でたものじゃ」
 昔を思い出しているのか、白霧は枯れてしまった『光雪草』に遠い目を向けた。
「ここは子供達のお気に入りの遊び場でな。柚葉もよくここから花を摘んで冠を作っておった」
「柚葉さんが……」
 今はわんぱくな柚葉にも、そんな女の子らしい時があったのかと、妙なところで感心してしまう。
「『光雪草』が養分とするのはそんな子供達の笑い声でなぁ。この郷から人が出て行ってからは、すぐに枯れてしまいおった」
 白霧は寂しげな声で言いいながら、忍の持つ『精霊樹の籠』を指さした。
「『光雪草』を摘んで、その籠に入れてみなされ」
 忍は言われたとおり、枯れてしまった一輪の『光雪草』を摘んで『精霊樹の籠』に入れる。茶色く、力無かった『光雪草』は、籠の中で瞬く間に瑞々しい緑の葉を付け、雪のように白い花を咲かせた。
「おお、久しぶりに見たのぅ」
 神秘的な美しさを見せる『光雪草』を、白霧は魅入られたように見つめた。
「もし、ここが柚葉さんの思い出の地だとすれば、この『光雪草』が全部咲いた光景が何かのキッカケになるかも知れませんね」
「それは無理じゃよ。『精霊樹の籠』が与える生命には限りがある。せいぜい数本の『光雪草』を咲かせるのが精一杯じゃろ。それに、その『光雪草』もあと数十分もすればまた枯れる。さっきの滝とここを何度往復しても間に合わんわい」
 確かに白霧の言うとおり、『精霊樹の籠』から出した『光雪草』は早くも活力を失い始めていた。
「その籠は中に入れた物にしか生命を与えん。いくら枯れてしまっているとは言え、『光雪草』を全て摘み取ってしまうのはなぁ……」
「……そうですね」
 もしかしたらまたこの郷にも、人が戻ってくるかも知れない。そうすればその活気で『光雪草』も花を咲かせる。非常に僅かではあるが、その可能性を奪ってしまう権利は忍にはなかった。
「そろそろ戻るか。こんな山奥まで来たのは久しぶりで、少し疲れたわい」
 腰を叩きながら下山し始める白霧に着いて忍も歩く。そして数歩進んだところで足を止めた。
(昔の柚葉さん、か……)
 かつて『光雪草』が沢山咲いていた場所を、もう一度肩越しに振り返り見る。
 咲き乱れた白い花畑の中心で、夢中になって花の冠を作る柚葉の姿が一瞬浮かんで消えた。

 柚葉とブラックマンが帰ってきたのは、日が沈んでかなり立ってからだった。
「遅かったな、ブラック。悪いとは思ったが夕食は先に食べたぞ」
 板敷きの部屋で白霧と囲炉裏を囲み、忍は出された魚料理をきれいに平らげたところだった。
「ああ、気にする必要はない」
「こんな遅くまでどこ行ってたんだ」
「ちょっと野生に返っててな。山を三つほど越えてしまった」
 言いながら首根っこを持って下げていた柚葉を前に差し出す。
「どうでしたか? 柚葉さん。成果の方は」
 柔らかい口調で訊ねる忍に、柚葉は「フーッ!」と敵愾心を剥き出しにした。
「おいおい、忍。半径二メートル以内は柚葉のなわばりだ。気安く話しかけると噛み付かれるぞ」
「お前柚葉さんに何をした!」 
 囲炉裏から火箸を抜き放ち、忍は切っ先をブラックマンに向ける。
「人聞きが悪いな。コレも修行の……」
「キーッキキッキ!」
 ブラックマンの言葉を遮って、柚葉が猿のような声を上げた。
「どうした柚葉」
「キキーッキッキ! キキッキキッキキー!」
「ふんふん」
「キキキキキー! キキッ!」
「なるほど」
「キキ、キキキ、キキッキ、キキキー!」
「分かった」
 ブラックマンは頷いて板間に上がり、柚葉を温かい囲炉裏の前で下ろす。
「『もう寝る』だそうだ」
「短!」
 ツッコむ忍の前で、柚葉はブラックマンの言ったとおり、くーくーと寝息を立て始めた。よほど疲れていたのだろう。
「やれやれ、こんな所で寝ては風邪を引くわい。どれ」
 白霧は重い腰を上げ、柚葉を抱き上げて奥の部屋へと姿を消した。
「お前、柚葉さんにどんな修行をしてるんだ」
 火箸を囲炉裏に戻し、忍は改めて聞く。
「『たった一週間で大変身。世間の目は貴女に釘付け』コースの無料体験期間を実施中だ」
 なんだその悪徳商法みたいな修行は。
「……で? 正直なところどうなんだ。柚葉さんの変化は」
「そうだな。まぁ当たらずも遠からず、と言ったところか」
 訳の分からない答えを返して、ブラックマンは囲炉裏を挟んで忍の正面に腰を下ろす。そしてどこからか取り出したコーヒープリンを食べ始めた。
「柚葉さんは昔、この村で一番変化が上手かったらしい」
「だろうな。確かにもの凄いセンスは感じる。あの猿病は根が深いぞ。だがソレを活かし切れていない。宝の持ち腐れだ」
 今、さり気なく重大なことを言った気がする。
「引き出せるのか。そのセンスを」
「出来る限りのことはやるつもりでいる。しかし、もし出来なかった場合は……」
 そこまで言ってブラックマンは言葉を切り、鋭い銀色の眼光で忍を射抜いた。
「お前を女装させてミスター八城に引き渡す」
「何でだ!」
 こうして、修行初日の夜は更けていった。

 忍がこの郷に来て一週間が経った。外の世界では一ヶ月以上過ぎたことになる。
 ここは空気も食べる物も美味しい。景色は美しく、静かだ。ただいるだけで体の汚れが洗われ、癒される。この郷の出身ではなくとも、何かに打ち込むには絶好の場所だった。
 ――しかし、柚葉の修行は一向に終わる気配はなかった。
 勿論、全く上手くなっていないわけではない。姿を変えるスピードは早くなり、変化していられる時間も長くなった。
 だが、どうしても尻尾は消えなかった。
(何か、根本的に足りない物がある……?)
 白霧の家の軒先で、ブラックマンとなぜかチャンバラごっこをしている柚葉を見ながら忍は思索に耽った。
(『変化のコツはみなそれぞれ』、か……)
 以前、白霧が言っていた言葉を思い出す。
 柚葉が昔、当たり前のように出来ていて、今は忘れてしまった物。
 何だ、それは?
(『楽しさ』、か……?)
 ふと思い浮かんだ言葉に昔の自分が想起された。
 忍にも経験がある。
 忍は子供の時、絵を描くのが好きだった。気に入った物や風景があれば、なんでも描いた。だからスケッチブックはいつも手放すことはなかった。
 絵の出来は自分でもなかなかの物だったと思う。それに他の人にも良く褒められた。『上手いね』と。
 忍はもっと褒めて欲しくて、より上手く描こうとした。
 しかしソレを意識した途端、自分でもハッキリ分かるくらいに絵は下手になっていった。
 子供の頃はその原因が分からず、結局嫌になって絵を描くことを止めた。
 時が過ぎ、大人になってあの時の自分を思い返してみると、下手になった理由がハッキリ分かった。
 最初の頃は『上手く』描こうとはしていなかった。ただ見た物をそのまま、紙に起こそうとしていただけ。
 自分の目に映った物を自分の手で永遠に記録できる。
 それだけで忍は『楽しかった』。
 しかし『上手く』描くことを意識した途端、描いた絵はどこか嘘っぽくなった。昔は人の目を丸く描かなかったし、風に揺れる布の幅を均一になんてしなかった。人の肌を肌色では塗らなかったし、水を表現するのに水色など使わなかった。
 もっと自由な発想で絵を描いていた。
 それが『楽しかった』。
 もしかしたら、柚葉が忘れているのはコレかも知れない。
 自分の才能に溺れ、変化することの『楽しさ』を忘れてしまっている。
「ブラック、柚葉さん! そろそろ一息入れませんか!」
 忍は大きな声で二人に呼びかけ、茶菓子を取りに家へと戻った。

「『楽しさ』? 変化することの?」
 縁側に座って足をパタパタさせながら、ようかんを頬張った柚葉は高い声で返してきた。
 視界の隅でブラックマンが蟻の行列を熱心に見ているが、取りあえず静かなので放っておく。
「そうです。柚葉さんは変化をしている時はどんな気持ちですか? 楽しいですか?」
「そうだねー。クロちゃんに教えて貰ってる時は、あんま楽しくないかなー。でもまー修行って辛いモンだし」
 尻尾を振りながら、柚葉は笑顔で答えた。
「けど三下をからかってる時はすんごく楽しいよ。あいつバカだから」
 言いながらカラカラと陽気に笑う。
 確かに、この表情だけ見ていると本当に楽しそうだ。少なくとも三下が絡むことに関しては。
「だからすんごい悔しー。あのバカにバカにされちゃったんだもん。絶対に見返してやるんだ」
 そう言えば柚葉が変化を完璧にしたいと思ったキッカケは三下だった。彼に変化を見破られたことの悔しさをバネに、柚葉は今頑張っている。
(悔しいと思う気持ち、ソレは確かに大切だ。けど柚葉さんの変化のコツはソレじゃない)
 もしそうだとすれば、今頃とっくに出来ていてもおかしくはない。だからこそココで方向転換しなければならない。コレまでの修行で意識してこなかった別の何かを思って変化してみる必要がある。
 『楽しさ』ではないかも知れない。三下をからかっていて『楽しい』のであれば、彼を騙す時には完璧な変化が出来ていても良いはずだ。しかし今までにそんなことは一度もない。
 可能性があるとすれば、柚葉は本当は『楽しい』と思っていないのに、そう思い込もうとしている場合だ。
(一度ちゃんと確認するか……)
 目を細め、思慮深い視線を中空に向ける。
 頭の中で今自分が出来ることの符号を組み合わせ、計画が可能であることを確認した。
「柚葉さん、ちょっと息抜きがてらに『楽しい』こと、しませんか?」

 郷に呼び出した三下忠雄を連れて、忍は山道を歩いていた。
「か、加藤さーん。本当にこんな所にいるんでしょーねー。その『エロコワイ』って幽霊」
 胸の前でデジカメをしっかりと握りしめながら、三下は震える声で聞いてくる。
 髪を目に掛かるくらいで切りそろえた、気の弱そうな眼鏡青年。着ているスーツは皺だらけになってしまっている。
 やることなすこと全てが裏目。アトラス編集部のお荷物。碇麗香のストレスのはけ口。歩く不幸の塊。
 それが三下忠雄という男だった。
「大丈夫ですよ。確かに見ましたから」
 にこにこと柔和な笑みを浮かべながら、忍はどんどん山奥へと入って行く。
 三下をこの郷に呼び出すのはそれ程難しいことではなかった。
 まず外界との連絡は携帯で取れる。勿論、普通の携帯では電波は外には届かない。だが『月朧の滝』の水に浸し、霊力のこもった『精霊樹の籠』に入れた携帯なら話は別だ。それ程長い時間ではないが、十分会話できた。暇つぶしに色々入れてみた成果だ。
 忍は碇麗香に連絡を取り、もの凄い取材ネタがあるので三下を借りますと告げた。普段、足は引っ張っても役に立たない三下だ。ダメと言うはずもなく、二つ返事で了承してくれた。そして次に三下に連絡を取り、麗香からの伝言で死ぬ気で取材してこいと言っていたと告げる。これで準備はオッケーだ。三下が一ヶ月や二ヶ月戻らなくても、誰も心配しない。
 次に三下をココに呼ぶ方法だが、ここは二足歩行の非常識、ジェームズ・ブラックマンの出番だ。彼が『ブラック・ディメンション』とかいう技を、柚葉との修行で使うのを何度か見たことがある。詳しくは分からないが、どうやら別の空間の物を自分の前に呼び寄せる技らしい。一方通行らしく、ココから外に運び出すのは出来ないようだが、外の物をココに持ってくることは出来るようだ。三下をからかうためと言うと、快く協力してくれた。
 そしてネタは今はやりの『エロ』なんとか。
 三下には、昔某所で山道を作ろうとした時にエロコワイのが出たせいでルートを変更せざるを得なかったというネタを教えてある。しかし、それ以上は何も言っていない。それがどんなモノなのか、彼が勝手に想像しているだけだ。
「あ、あの……あとどれくらいですか?」
 三下は不安そうに辺りをキョロキョロと見回しながら聞いてきた。
「もうすぐですよ。あと五分も歩けば着きます」
 そう、五分もあれば今の柚葉なら十分なはずだ。
 柚葉はブラックマンとの修行で変化のスピードも持続時間も長くなった。さらに、かなり大きな物にも変化できるようになっている。今頃、忍が言った物に化けて三下を待ちかまえているはずだ。
 忍は三下以上の期待と不安を胸に、山道を歩き続けた。
「着きましたよ」
 忍の言葉に三下は足を止め、『エロコワイ』物を探して顔を動かした。しかし、彼が想像している幽霊が出そうな気配はない。
「あの……もしかして夜までここで待つんでしょうか……?」
「まさか」
 即答した忍に、三下はほっと胸をなで下ろした。
「もう目の前にあるじゃないですか」
 さらに続けた言葉に三下の顔が、面白いくらいに引きつった。そして辺りを警戒しながらデジカメを構える。
「ど、どど……どこ、どこにいるんですか?」
 『エロコワイ』物を幽霊だと思い込んでいる三下には、目の前で大きく構えている物体が見えていない。コチラの思惑通りに。
「どこ見てるんですか。ここですよ、こーこ」
 忍は笑い出しそうになるのをこらえながら、三下に『エロコワイ』物を指し示した。
 忍が指さした物。それは巨大な岩石だった。
「へ? これ……?」
 唖然としながら、三下は高さ三メートルはある固そうな岩を見上げる。
「これが……『エロコワイ』……?」
「ええ。どこからどう見ても『えろう(大変)こわい(固い)』物ですよね」
 忍の解説をすぐには理解できず、三下は酸欠の金魚のように口をパクパクさせていた。
「だ、だって、幽霊だって……」
「私は別に幽霊だなんて一言も言ってませんよ」
 忍は得意げな笑みを浮かべて返す。
「そ、そんな……訳も分からずこんな所まで飛ばされて、取材ネタがただの大岩だなんて……」
 三下はよろよろと後ずさったが、倒れ込む前に何とか踏ん張った。
「で、でも。確かこの岩のせいで別の山道を作らないといけなくなったんですよね。なのに、その岩の後ろにはちゃんと山道が続いてる。コ、コレってれっきとした取材ネタですよね」
 何でも良いからネタにしようとする意気込みは素晴らしいが、彼がそう思うことまでコチラの計算通りなのだから可笑しくてたまらない。
「ああ、それは……」
 言いながら忍は大岩の後ろに回りこむ。
 そこには柔らかそうな狐の尻尾が付いていた。
「こういうことですよ」
 忍が岩石を軽く叩くと、ボンッという大きな音を立てて煙が舞う。
「あっははははは! ひーかかった、ひーかかった! さんしたのバーカ! バーカ!」
 中から現れたのは、腹がよじれるほどに大笑いしている柚葉だった。
「そ、そんな……それじゃ……」
「ええ、ご想像の通りです」
 忍の冷たい言葉に、三下の目に涙が浮かぶ。
「ぼ、僕帰ります! 他にも沢山仕事があるんで!」
 涙声で言い残し、立ち去ろうとする三下。
「あ、さんしたぁー、ボクと一緒じゃないとこの郷からは出られないよぉー。強引に出ようとすると迷子になっちゃうからねー」
 哀愁漂う彼の背中に、柚葉が追い打ちを駆ける。三下はぎぎぎ、と顔をこちらに向け、信じられないモノを見るような視線を投げかけてきた。
「あ、ちなみにこの郷では普通の五倍のスピードで時間が流れているんだそうです」
 さらなる忍の追撃に、三下の顔がくしゃくしゃになる。
「私もいるしな」
 いつの間にか三下の後ろに立っていたブラックマンが、彼の方をポンと叩いた。
「お、終わりだ……」
 ソレがトドメとなったのか、三下は足から順番に崩れていく。そして見るに耐えない悲惨な表情で、地面に倒れ込んだ。
「あははははははははっ! バーカ、バーカ! さんしたのバーカ!」
 そんな彼を見ながら、本当に『楽しそう』に笑う柚葉。
(やはり、私の思い違いか……)
 はしゃぐ柚葉とは裏腹に、忍は目を細めて彼女を見つめていた。
 三下をからかう時の柚葉は確かに『楽し』そうだ。こんな満面の笑顔、久しぶりに見た気がする。だが、尻尾はちゃんと残っていた。
 これらの事実が忍に伝えるのは、柚葉が完璧な変化をするコツは『楽しさ』ではないということ。
「的が外れたな、忍……」
 隣りに立ったブラックマンが、神妙な面もちで言ってくる。
「ブラック。まだお前がやっていない修行はあるのか?」
「あと残っているのは『壮絶! 悶絶! あの出来事が可憐な少女を変えた!』コースだけだが」
「そうか、もう無いのか……」
 ブラックマンの言葉を日本語に訳し直し、忍は残念そうに頷いた。
「ブラック。この辺りがそろそろ潮時なんじゃないのか?」
「……実はな。この一週間、柚葉と一緒に修行していて気付いたことがあるんだ」
 ブラックマンはいつになく真剣な表情で言ってくる。
「全ての変化体にあの尻尾が付くのは、むしろ柚葉のチャームポイントではないか、とな」
 その言葉に忍は苦笑した。
「同感だよ」
 白くなった三下を指さして笑い続ける柚葉を見ながら、忍は深く頷いた。


 あやかし荘に戻ろうと持ち掛けた時の柚葉の悲しそうな顔には、正直胸が痛んだ。絶対に嫌だとダダをこねる彼女を説得するのは、簡単なことではなかった。

『柚葉。成長とは何かを得るだけではないぞ。時には失うことで、一歩前に踏み出せることもある。お前は変化の変わりに、こんなにもお前のことを思ってくれる仲間を手に入れたではないか。お前にはきっと人を惹き付ける才能がある。ワシは……そんなお前が羨ましいよ』

 白霧の重みのある言葉。活気のあった頃の郷を偲ぶ長老の横顔に、柚葉は何かを感じてくれたようだった。
 それから数日、柚葉は誰とも口をきかずに一人だけで変化の修行をしていた。
 忍達はそんな彼女を何も言わずに見守っていた。三下が何度か柚葉を慰めに行ったようだが、全く効果はないようだった。
 さらに数日が経ち。柚葉はようやく帰る決意をした。
 一人で修行を続けていた彼女が一体何を思ったのか。忍には分からなかったが、最高の笑顔で柚葉を向かえた。
 そして、ついに明日あやかし荘に戻ることになった。


 忍は音も気配もなく、柚葉の寝室に忍び込んで彼女の寝顔を見つめた。
 障子から差し込む淡い月明かりに照らされて、柚葉の健康的な肌が白く浮かび上がる。子供用の布団でくーくーと可愛らしい寝息を立てて眠る柚葉の頬には、かすかに涙の跡があった。
(柚葉さん……お疲れさまでした)
 そんな彼女の髪を軽く撫でてあげながら、忍は手にしていた花の冠を柚葉の頭にそっと乗せた。
 それは『光雪草』で作り上げた冠。昔、柚葉がよく作っていたという。
 『光雪草』の放つ白く美しい光を浴びて、柚葉まるで女神のように輝いて見えた。
 だが、『精霊樹の籠』から生命を分け与えられた『光雪草』は、せいぜい三十分程度しか花を咲かせない。
「良い夢を……」
 小さな声で言い残して、忍は柚葉の寝室を後にした。

◆NPC:柚葉◆
 悔しかった。
 とにかく悔しかった。
 三下にバカにされたこともそうだが、いつまで立っても完璧な変化の出来ない自分自身に腹が立った。
 その気になればすぐに出来る。
 そう思って、あやかし荘にいる時には、尻尾を隠せなくても大して気にしなかった。
 でも、出来なかった。
 どれだけ必死にやっても、どれだけ時間を掛けても、結局完璧な変化は出来なかった。
 忍とブラックマンに、あやかし荘に帰ろうと言われた時には見捨てられたんだと思った。自分には才能がないからこれ以上修行を続けても無駄だと言われたと思った。
 じっちゃんに別の才能があると言われたけど、ちっとも嬉しくなかった。今、自分が欲しいのは人に好かれることでも、妙な気遣いでもない。完璧な変化だけだ。
 忍もブラックマンも力になってくれないのなら仕方ない。一人でやるだけだ。
 強く自分に言い聞かせて、柚葉は修行に明け暮れた。
 しかし何度やっても、どんなに頑張っても、尻尾のない変化は出来なかった。

『柚葉ちゃんは、どうしてそんなに頑張ってるの?』

 山奥で一人、膝を抱えて落ち込んでいた時、あのバカ三下が話しかけてきた。
 柚葉はやけになって「お前のせいだ!」と、八つ当たり気味に叫んだ。ソレを聞いた三下は、詳しい訳も聞かずに何度も平謝りを続けた。彼がそんな調子なモノだから、柚葉はあることないこと全部ブチまけて三下を罵り続けた。
 しばらくそうしていてだんだん気が晴れ始め、少し冷静になって考えてみると、自分のしていることがとんでもなく勝手なことだと気付いた。
 最初、あやかし荘で三下に変化を見破られたのは自分が未熟だからだ。あんな不自然な尻尾が付いていれば誰だって分かる。
 その未熟さを克服するために柚葉は郷に戻り、修行に没頭した。そして修行の息抜きにと三下を呼んだ。三下はからかわれるためだけにこの郷に連れてこられ、みんなからバカにされた挙げ句に、ココに閉じこめられた。
 こんな理不尽な話はない。
 なのに……なのに、何故?
 どうして三下は自分にこんなにも優しい言葉を掛けてくれるんだろう。

『ほ、ほら。僕って要領悪いからさ。とにかく一生懸命するしか能がないんだよ。でも、柚葉ちゃんは僕と違って才能あるんだから、焦って一気にやってしまわなくても良いんじゃないかな』

 違う。ソレは違う。
 自分には才能などない。あると思い込んでいただけだ。
 自分も三下と変わらない。要領が悪くて、凡人以下の才能しかなくて、それをカバーするためにがむしゃらに努力している。

『僕の仕事もそうなんだけど。嫌だ嫌だって思いながらやってたら、なかなか進まないんだよね。だから、ちょっとでも“楽しい”って思えること見つけて、それにすがって頑張ろうとしてるんだけど……まぁ、なかなか上手く行かないんだよね。あはは……』

 一緒だ。三下も自分と。
 ひょっとして彼は自分を見ているようだったから、バカにした相手にこんなにも優しくしてくれるのだろうか。
 いつもなら、「お前と一緒にするな!」って怒ってるところだけど、今は何となくその気持ちが嬉しかった。

『修行なんてココじゃなくても出来るしさ。嬉璃さんとか、天王寺さんとか、因幡さんとかと一緒に“楽しく”やった方がいいと思うんだけど……』

 別に、三下のその言葉を真に受けたわけじゃない。
 そのことは柚葉自身も前から思っていた。そろそろ、みんなの声が恋しくなってきたから。
 でも、『楽しく』ってどういうことなんだろう。
 自分はいつも『楽しく』やっている。笑うことと楽しいということは違うのだろうか。
 ……なんだろう。凄くいい匂いがする。
 昔よく遊んだ、お花畑の匂い。
 あの頃は変化なんて簡単にできた。尻尾なんて全然出なかった。ソレが当たり前なんだと思っていた。
 あの時は、みんなで朝から晩までクタクタになるまで遊んで、とうちゃんやかあちゃんに怒られて、じっちゃんに慰められて、また遊んで。
 本当に『楽し』かった。
 自分の周りにいる人達が、みんな笑いかけてくれていて――

 水蜜桃の香りに鼻腔を刺激されて、柚葉は目を覚ました。
 上半身だけを布団の上に起こすと、頭から落ちてくる物があった。
 それは『光雪草』で編まれた花の冠。昔、暇があれば作っていた柚葉の宝物。
「そっか……」
 両手で冠を下からすくい上げ、脆いガラス細工を扱うように優しく繊細な指使いで顔の前まで持ち上げる。そして鼻に近づけ、『光雪草』の香りを胸いっぱいに吸い込んだ。
「わかっ、た……。そうだったんだ……」
 独り言のように呟きながら柚葉は立ち上がり、静かに目を閉じた。

『起きよ、起きよ、若者』
 柚葉は三下の寝室に入り込み、二重に聞こえる声を発した。
『起きよ、若者。我の呼び声に応えよ』
 ううーん、と寝返りをうつ三下の顔面を、柚葉は足の裏で踏みつける。
「っぶは! な、なに、なになに!?」
 三下は突然の衝撃に飛び起き、あわてふためきながら何かを探し始めた。
 暗がりの中ようやく見つけた眼鏡を掛け、三下はコチラを見上げて驚愕に目を見開いた。
「あ、貴女、は……?」
『我が名は『深森の女神』。貴様の探しておる『エロコワイ』とは我のことだ』
 尊大な口調で言いながら、柚葉は目を細めて手で口元を隠す。
 柚葉は今、絶世の美貌を持つ大人の女性へと変化していた。
 鮮烈な印象を与える長い真紅の髪の毛。早朝に降り積もった新雪のように白くすべらかな肌。際限のない慈愛と容赦のない威圧をたたえた、深い藍色の瞳。黒地に金糸で複雑な刺繍を施した着物を身に纏い、『深森の女神』と化した柚葉は三下を睥睨した。
 ――狐の尻尾は出ていない。
「そ、そそ、そんな……ほ、ホント、本当にいる、なんて……。アレは加藤さんの作り話じゃ……」
 狂喜と恐怖に押されて後ずさりながら、三下は再び手探りで何かを探し始める。
『我がヤツを操って貴様をココに呼んだのだ。よって今貴様が見ていることは、くれぐれも他言無用。よいな』
 昔会った『深森の女神』の喋り方を思い出しながら、澄んだ声で柚葉は言った。
「は、はい……。でもどうして僕なんかを……」
『貴様の無様な私生活は我の耳にも届いておる。いつも編集長にどやされては、減給されておるだろう』
「そ、そんなことまで……。さ、さすがは『エロコワイ』……」
 声を震わせながらも、三下は何とかデジカメを構える。
『そんな哀れな貴様に特ダネだ。ほれほれ、綺麗に撮れよ。フラッシュを忘れるな』
「あ、は、はい。スイマセン……」
 言われて三下はフラッシュの設定をした。震える手でデジカメを目線の高さまで持ち上げ、シャッターを押す。一瞬だけ室内が眩い光に包まれ、『深森の女神』の姿がデジカメに収められた。
『三下……』
「は、はい」
 無事撮り終えた三下に向かって、柚葉は優しく語りかけた。
『今、どんな気持ちだ?』
「へ?」
『我を撮れ、特ダネを物に出来てどんな気持ちかと聞いておる』
「そ、そりゃあ嬉しいですよ。これで胸張って堂々と帰れますから」
『そうか……。ソレは良かった』
 そう。その言葉が聞きたかった。
 ソレが柚葉が完璧な変化をするためのコツ。
 単に『楽しい』だけではダメだった。
 他の人を『喜ばせる』ことが『楽しい』と思って変化しなければならなかった。
 昔の自分は、ソレを当たり前のようにやっていた。しかしあやかし荘に来て、三下をからかうことに『楽しさ』を見いだした途端、変化は出来なくなった。全ては誰かを『喜ばせる』ために使うべき能力だったのだ。
『ではな、三下。気を付けて帰れよ』
 満足そうに言い残し、柚葉は流れるような足運びで三下の寝室を後にしたのだった。

◆エピローグ◆
 いったい、何があったというのだろう。
 確かに、郷から戻る時から三下と柚葉の様子は変だった。妙に浮かれていたのだ。しかしそれは単にあやかし荘に帰れるからだけだと思っていた。
 少なくとも三下に関しては。
 数日後、あやかし荘に顔を出した忍は、いつもとは明らかに違う雰囲気に戸惑いの色を隠しきれなかった。
 普段なら土日返上で働いているはずの三下が、あやかし荘の縁側で恵美と一緒に談笑しながらお茶を飲んでいる。
 さらに、普段なら三下を足蹴にしてからかっているはずの柚葉が、猫に変化して彼にじゃれついている。さらにさらに、普段なら狐の尻尾が生えているはずの柚葉の変化が、完璧なモノになっている。
(ど、どういうことなんだ……)
 まるで異次元の世界にでも迷い込んだかのような錯覚。出来る悪い合成写真でも見せつけられているようだ。
「修行は上手く言ったようぢゃな、忍」
 あやかし荘の門の所で立ちつくしていた忍に、大人変化した嬉璃が話しかけてきた。地面に付きそうなほどの長い銀髪を片手で梳きながら、艶笑を浮かべている。
「……み、みたいですね」
「『みたい』って……なんぢゃ。お前らが何とかしたのではないのか」
「残念ながらソレは違うのだよ、嬉璃」
 目を丸くして聞き返してくる嬉璃に、いつの間にか後ろに立っていたブラックマンが答えた。いつもならこの不意打ちにツッコミの一つでも入れているところだが、今はそんなことどうでも良くなるほどの光景が目の前に広がっている。
「忍、どう思う?」
「さぁ、なぁ……」
 郷から帰る前日まで、柚葉は確かに完璧な変化は出来ていなかった。
 とすると、前日の夜から帰る当日の朝までに何かがあったことになる。
 柚葉が変化のコツを一瞬で掴めるような大事件が。三下への態度の変化から、彼が何らかの形で関わっているのだとは思うのだが……。
「まぁ、なんにせよ、ぢゃ。めでたく事は収まったわけぢゃな」
 細かいことなどどうでも良いとばかりに、嬉璃が話を纏めた。
 忍自身いまいち釈然としないが、柚葉が楽しそうにしているし今はこれで良いような気もしてきた。詳しい事情は後でゆっくり聞けばいい。
「むぅ……」
 ただ、ブラックマンだけは不満げに眉を顰めているが。
「ところで忍。柚葉の郷はどうぢゃった?」
「え? ああ、良いところでしたよ。出来るなら、たまに息抜きがてら遊びに行きたいものですね」
「そうか。そうしてくれると、あのジジイも喜ぶぢゃろ」
 長老のことをまるで親しい間柄のように呼ぶ嬉璃。
「知ってるんですか? 白霧さんのこと」
「ああ。まぁ、な」
 やはり何か特殊な情報網でも持っているのだろうか。
「ああ、そうそう。忘れるところでした。これ、お返ししますよ」
 白霧の顔が浮かび、忍は嬉璃から借りていた『精霊樹の籠』のことを思い出してポケットから取り出した。今は霊力を失って、手の平サイズのだだのザルに戻ってしまっている。
「ああ、それならかまわん。お前にくれてやる。ソレを持ってると下らんことを思い出してしまうんでな」
「でも、大切な物なんでしょう?」
「そうでもない。ワシがまだ若かった頃。しょぼくれたジジイの所から餞別に代わりにかっぱらって来た物ぢゃ。遠慮せずに持っていくがよい」
 ……ちょっと待て。ひょっとして、まさか……。
「嬉璃さん、貴女は白霧さんのむす……」
「こーら柚葉! いつまでも三下に甘えてるんぢゃない! 見てるコッチが気持ち悪くなってくるわ!」
 忍が言葉を言い終わる前に、嬉璃は柚葉達の所に行った。
 そうか、そういうことか。それで嬉璃は柚葉の郷のことをあんなに詳しく知っていたのか。『嬉璃』という名前は『白霧』の『霧』から来ているのかも知れない。意外な繋がりを知ってしまった。
「よしっ! やはりそうだ! 間違いない!」
 さっきから隣でうんうん唸っていたブラックマンが、顔を上げて手の平をポンッと打った。
「柚葉に完璧な変化は似合わない。やはり、あの狐の尻尾がないと物足りない」
 一人納得して何度も頷くと、ブラックマンはパチンと指を鳴らした。
 次の瞬間、縁側の方で柚葉の悲鳴が上がる。
「あー! 尻尾ー!? なんでー!?」
 見ると、さっきまで完璧な猫に変化していた柚葉のお尻に、狐の尻尾が生えていた。
「なんでー!? どうしてー!?」
 困惑する柚葉を見ながら、ブラックマンは満足げな笑みを浮かべる。
「ブラック……お前……」
「あ、あの、三下さん。碇さんからお電話です……。何だか凄く怒ってるみたいなんですけど……」
 忍の言葉に重なるように、縁側から恵美の声がした。
 持ってこられた黒電話の受話器を受け取り、「も、もしもし」と恐る恐る声を掛ける三下。
『三下ー! アンタが持ってきた“エロコワイ”とかいう写真のデータ! パソコンに落としたらウィルスに感染したわよ!』
 こんなに離れているのにハッキリ聞こえるほどの怒鳴り声が、三下の鼓膜を直撃した。
「そ、そんな……」
『とっとと出てきて何とかしなさい! でなきゃアンタクビよ!』
「は、はひぃぃ!」
 恐怖に顔を引きつらせ、緊張で全身を強ばらせて三下は返事をする。
「そうか! お前がヘマやったから、ボクの変化も出来なくなったんだ! このバカさんしたー!」
 どん底の三下に柚葉の跳び蹴りが突き刺さった。
 ははは、と苦笑しながらも、忍はいつも通りのあやかし荘にどこか安心感を覚える。
(これがホントの、『元の木阿弥(木編み)』、か……)
 木で編まれたタダのザルに戻っている『精霊樹の籠』を見つめながら、忍は何となく思った。
 あやかし荘は今日も平和だ。

 【終】

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【5128/ジェームズ・ブラックマン(じぇーむず・ぶらっくまん)/男/666歳/交渉人 & ??】
【5745/加藤・忍(かとう・しのぶ)/男/25歳/泥棒】

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■         ライター通信          ■
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 ジェームズ・ブラックマン様。こんにちは。今回もボケ全開です(笑)。色んな人にツッコまれてます。ご満足頂けていますでしょうか。私の動かすブラックマン様は、他のライター様の動かすブラックマン様とは明らかに異質な物なので、毎回「これでいいのかなー」と思いつつも「でも、こういうキャラで定着してるからなー」と自分を納得させて書いています(汗)。
 次の発注があるたびに、「あれでよかったんだー」とホッと胸をなで下ろしつつ、更にブラックマン様をキワモノキャラに仕上げていこうとする私がいます(笑)。
 と、言うわけで、また次があれば幸甚です。ではでは。

 飛乃剣弥 2006年10月29日