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問答無用、一日捕獲 〜遙貴さんと一緒〜
街角のケーキ屋さん。そのショーウィンドウに芳賀百合子はべったりと張り付いていた。
その雰囲気にはちょっと鬼気迫るものがある。
「……なんでだろう、なんでだろう……」
百合子の悩みの原因はというと。
ショーウィンドウに書かれたかぼちゃプリンの値段。
一個で500円。これは、わかる。
二個で500円、三個で1500円。
「一個買うなら、金額の変わらない二個だよね、でも……」
でも、なんで一個と二個の金額が一緒なんだろう……?
頭の上にクエスチョンマークをいくつも浮かべて百合子は首を捻る。
「……なーに、悩んでるんだ」
と、自分の上に影が降りてきて、百合子は視線をあげる。
「あれ、遙貴さん! なんでここに!?」
「暇だったから銀屋に遊びに行こうとふらふらしてたら……百合子の一生懸命な姿は遠くからでもよーく見えたからなんだか心配になって」
「えー!」
と、ちょっと笑われて百合子は苦笑する。
「で、ここのべったりの原因は……カボチャプリン?」
「そうなの! ほらほら、個数が二個で500円になってるでしょ? これ間違ってるのかなーって思って。一個買うなら金額の変わらないから二個買いたいけど一人じゃ食べられないし……」
「なるほど……」
そしてまだまだ、百合子は一人でぐるぐると思いをめぐらせる。
「食べたい、お得、でももったいない……でも食べるならお得なほうがいいし……なんで同じ値段なのー!」
むきゃー! という感じでいっぱいいっぱいになりかける百合子の肩をぽんぽんと遙貴は、苦笑しながら叩く。
「とりあえず落ち着こう、落ち着こうな。中に入って店員に聞いてみるのが一番いいと思うけど……どうだ?」
「あ」
言われてみればそうだ、と百合子は思う。
「それで、もったいないなら一つずつ、我と一緒にどこかで食べるか」
「うん! それがいいです! カボチャプリン買って公園とかかな?」
決まり、と二人は店内へ。
ミニサイズのカボチャをくりぬいて、それを容器として入っているプリン。
「いらっしゃいませ」
にこやかな笑顔で迎えた店員に百合子はずんずんと進んで行く。
「あの、なんでこれ二個で500円なんですか?」
百合子が首を傾げつつ店員に聞く。店員は笑顔を浮かべた。
「期間限定でのサービスです。おいしいのでお試しに、ということで」
「なるほど〜。それじゃ二個くださいっ!」
「500円でございます」
「あ、外で食べるからスプーンよろしく」
店員はカボチャプリンを二個、手際よく包んで百合子に渡す。
「わーい、かわいいしおいしそう!」
「はしゃいでこけないようにな」
「そんな事……多分ないよ」
と、二人は店を出る。
そして最近はどうしてるだの世間話しつつ公園へ。
ぽかぽか日当たりのいい場所にある東屋に入って、先ほど買ったプリンを開ける。
ふたをせーの、で一緒に開けて。
「生クリーム……!」
かぱっとあけるとそこは黄色ではなくて白。
生クリームでデコレーションがほどこされていたのだった。
「甘そうで、おいしそうだ……」
「もしかして、遙貴さん生クリームとか好き?」
「大好き、だな……店によって味が違ったりして面白い。ケーキ屋巡りは楽しいぞー」
スプーンぷらぷらさせながら遙貴は言って、笑う。
「見た目も可愛かったりするとほわーん、てなるよね。これも入れ物かぼちゃなのがすごくいいなぁ」
「そうだな……あ、これおいしい」
「あ、もう食べてる! ……本当だー! おいしいっ!」
一口目以降、二人はぱくぱくと無言でプリンを食べる。
そして同時に。
「「ご馳走様でした」」
と、カボチャの入れ物にぽこっとふたをした。
「おいしかったね! でも一個でやっぱりお腹いっぱいになっちゃた」
「うん、おいしいものは少しがいい。二つ食べてたら飽きてたな……」
指先で軽くカボチャをつついてみる。
なんだかまだ使い道がありそうで。
「……うーん……あ、そうだ! このカボチャ、ちゃんと中洗って、穴開けたらランプにできるよね、カボチャランプ!」
「確かに……作れるだろうな。もうふたもできてるし、あとは明かり漏れるように窓作るだけだし……」
と、百合子の視線はキラキラとやろうやろうと訴えてくる。
「やりたい?」
その問いにこくこくと縦に首をふる百合子。
遙貴はそれじゃあ、と立ち上がって。
「まず綺麗に洗わなくちゃ何にもできないな。それに窓作る道具もないから……あ、これは店に行けばあるか」
「うんうん! カボチャのランプ〜! どんな窓開けようかなー」
公園の少し冷たい水道水でばしゃばしゃとカボチャプリンの入っていたカボチャを洗う。
そしてそれを手に持って。
「ごみはちゃんと捨てて……カボチャを持って……でもいきなり行って道具貸してって言っても大丈夫かな?」
はた、とるんるん気分の中百合子は気がついて首を少しかしげた。
「大丈夫だろう。何でもあるところだし……気にしない気にしない」
「そうだね!」
二人は並んで、カボチャを持って銀屋へと向かう。
「お土産とかあった方がいいかな? あ、どうせならカボチャプリン大量に買って……!」
「あはは、いろんなやついたら数足りないだろうから……どうせならカボチャ一個とか」
「あ、確かに。カボチャ一個……どこかになってないかな?」
「カボチャ畑はこの辺にはないない。我もさすがにそれは見たことない」
「じゃあただで貰えないね。スーパーかなー」
真面目にむぅ、と眉根を寄せる百合子を見て、遙貴はぷっと吹き出す。
それに気がついて百合子はどうしたの、という顔をした。
「私、おかしなこと言ったかな?」
「いや……土産は特にいらないと思う。その気持ちだけで十分だろう」
「あ、なんかごまかしてない? ない?」
「あー……百合子はかわいいなと思って」
その言葉に一瞬、百合子はきょとんとした。
そして否定しつつ少し頬染めて照れて。
「かわいくないよー」
「かわいいかわいい。ほら、銀屋見えてきた、ダッシュ!」
「! 抜け駆け!」
銀屋までの残り少しの道を、二人は走って進む。
まだまだお楽しみは続いていく。
<END>
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
【5976/芳賀・百合子/女性/15歳/中学生兼神事の巫女】
【NPC/遙貴/両性/888歳/観察者】
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■ ライター通信 ■
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芳賀・百合子さま
お久しぶりでございます、ライターの志摩です。
おいしいカボチャプリンをありがとうございました! この時期になると必ずカボチャプリンにはまる私……プレイングをみておおっ! と思いました。意思相通!(ぇ)
お話の流れる時間の中ではこの後また騒ぎながらランプをいそいそ作っているのだろうなぁ、とどたどたを想像してまた楽しんでいただければ幸いです。
それではまたどこかでお会いする機会があれば嬉しく思います!
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