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迷い込んだ洋館
あなたはＳＨＩＺＵＫＵと遊んでいた。
カラオケに行ったり、Ｂ級グルメの味を楽しんでみたりと至って普通。
しかし、楽しい一時もつかの間、大雨に遭遇し、急いで近くにある廃屋の“中”で雨宿りを決め急いで中に入った。
緊急避難なので、不法侵入とかで怒られるのは堪忍して欲しいとは思ったのかどうかは定かではない。
雨は激しく降り、風も強い。あなたは天を睨み、気象庁を恨んだ（降水確率０％っていったじゃない！ というように）。
「傘も壊れそうな勢いだね〜。」
と、ＳＨＩＺＵＫＵはハンカチで雨に濡れた自分の顔を拭く。
廃屋といっても、見た目は立派な洋館だった。ただ、中は埃っぽくて薄暗い。
ただ、この辺にこんなものあったのかな？ とあなたは思う。
奥の方から何か物音がした。
あなたとＳＨＩＺＵＫＵは振り向く。
風の所為か？ 何か居るのかわからない。
「？ 雨も止みそうにないし、此処だと寒いし、中調べようよ。」
と、ＳＨＩＺＵＫＵが笑う。
あなたは、大雨の中で洋館に雨宿りをして……と言う不吉なシチュエーションに寒気が走った（もしくは楽しそうだと思った）。
あなたが止めるにせよ進んで入るにせよ、ＳＨＩＺＵＫＵはあなたと共に入ろうとする。
「確かこんな館の噂あったよねぇ……。雨にならないと現れない廃墟の洋館……。」
ＳＨＩＺＵＫＵが言った。
「もし、其れだったら楽しいなぁ！」
先にある好奇心が、支配していた。
〈１〉
鹿沼デルフェスは、ＳＨＩＺＵＫＵの服がびしょ濡れになっているということに心配していた。
「ＳＨＩＺＵＫＵ様、先に着替えてからの方がよろしいかと思いますわ。」
「でも、こんな所にあるの？ 替えの服。」
「風邪を引いては芸能活動に支障が出ますわ。其れは避けたいこと。いくらオフでも、健康管理は大切でございます。」
「むう。あたしは別に良いのだけどなぁ。」
と、ＳＨＩＺＵＫＵは良いながらも身を震えさせていた。秋の気温は春よりも涼しく感じる。
デルフェスは色々探検したいＳＨＩＺＵＫＵを止める。
理由はそれだけである。
もっとも、ボディガードとして作られたために、この吹き抜けのロビーがどうなっているかを調べていた。埃はそれほど積もっていない。ごく普通の廃屋であるなら埃が積もっているはずだ。ＳＨＩＺＵＫＵが言うように、条件下で発生する館であるなら、綺麗に清掃され続けるのもあるだろうか？
「ＳＨＩＺＵＫＵ様、わたくしが着替えを探して取ってきますから、近くの食堂で暖を取りましょう」
デルフェスは、辺りを見渡し、食堂を見つけた。
「はあい」
ＳＨＩＺＵＫＵもとぼとぼ付いてくる。
食堂にはいると、二人は、
「わああ。」
「なんていうことでしょう。」
食堂の豪華さに、驚きを隠せないようだ。
食堂は入ると横長い広間で、長いテーブルに白いテーブルクロスが掛けられていた。等間隔に燭台も立っており、天井に豪華なシャンデリアも釣られているのである。“いかにも”貴族の洋館を彷彿とさせる食堂であったのだ。
暖炉に何とか火をつけて、ＳＨＩＺＵＫＵは暖を取っていた。デルフェスは人造なので雨が降っても問題ない。真のなる銀でも金属は金属、ケアは必要だろう。
「毛布などもあればいいのですが。」
「そこまで都合良くないよ？」
「この作りからすれば、ありそうな予感ですわ。」
数度、デルフェスはある空想具現者の異界に迷い込んでいる。似たような世界であるならば何かあるだろうと推測しているのだ。ただ、気配からは“彼の物”ではなさそうに思える。
使用人の部屋は食堂の近くにあるだろうと考えるデルフェスは、そのまま厨房を横切り、まるでこの館の内装を知っているかのように歩く。生まれた時代によく見かけた物件とほぼ同じだからだろう。
「ありましたわ♪」
デルフェスは、そこから毛布と服を数着持ってきた。
「……これなに？」
「着替えですわ。」
「いや、それよりも……何故そこまで種類があるの？」
「趣味でしょう？」
「嫌な趣味〜。」
ＳＨＩＺＵＫＵはいかにも「えーっ」と言わんばかりの反応。
デルフェスが持ってきたのは、メイド服なのである。スカート丈の長いものから、メイド喫茶にあるようなきわどい物までを！ 一気にこの館の時代考証が混乱しそうな物になった。
「風邪を引いては行けませんわ！」
心なしかデルフェスの目は血走っている。
「わかったよう。なら、使用人の部屋の所に案内させて〜！」
かくして、彼女はフレンチメイド服に着替えて、服を乾かす事にしたのだ。ちなみに、下着もあったのが不思議で仕方ない。デルフェスはそう思った。
――どういう事何なのでしょうね？
〈２〉
メイド服に着替えたＳＨＩＺＵＫＵと、鼻の下を伸ばしたデルフェスは、まず１階を探検することにした。ゴーレムの鼻の下を伸ばしている理由は聞かないでおこう。
使用人の部屋はメイド服がたくさんある以外、これといってめぼしい物はないのだが、廊下に置いている花瓶置き（コーナー？）や、応接室などの至る所に、メイド服を着せた古びたビスクドールが置かれているのだ。普通は花瓶か立派なオブジェではないだろうかと訝しんだ。
「おかしな館ですわ。」
「趣味はデルフェスさんに似合いそう。」
「ええぇ。ひどいですわ。」
と、鍵のかかっていなかった地下室にも入ってみるとはやりそこもビスクドールが沢山飾られている。ワインセラーも一応あるのだが。そこは鍵がかかっていた。
「やけに多いね。」
「何か噂とか思い出しません？」
デルフェスが聞くと、ＳＨＩＺＵＫＵが横に首を振る。
「うーん。モバイルが言うこと聞かないの。メイド服に身を包んだビスクドールの館って聞いたことがないような。可愛い熊さんを飾っている洋館ならしっているけどぉ。」
携帯を弄るも、電波が届かないらしい。
「其れは神戸の某所では。携帯がつながらないとなると……はやり世界から隔離された異界なのでしょうか？」
と、デルフェスは呟いた。
「よーし！ この館を探しまくるぞう！」
ＳＨＩＺＵＫＵはそれでもへこたれずに、２階を探検した。デルフェスは気をつけながら歩いている。
廊下も、赤絨毯が敷かれており、一層豪華な物だと感じさせる。しかし、各所に例のビスクドールがあるため、更に其れが古びているので、不気味な感じがするのである。角を曲がって其れと対面したり、勝手に落ちて目と目が合ったりすれば……、当然。
「「きゃああああ！」」
さすがの超常現象に慣れている二人でも悲鳴を上げてしまうのだ。悲鳴は廊下中にこだまする。
それほどビスクドールは時代を感じさせるほど怖くなるのである。
「お、おどろくよね……。」
「え、ええ。ここまで多いのは異常ですわ。」
と、二人は抱きついて震えていた。
よほどショッキングなビスクドールとの遭遇を重ね、何とか感覚が慣れてきた頃には２階を探検し終わった。色々高価な物がある中で、一番目立つ物がビスクドールであった。
「普通、あれじゃない？ 廊下に鎧をつけた等身大人形とかあるんじゃ？」
「どうも、この館の主による趣味かも知れませんわね」
などなど、話しをする。
そんな中で、下から香ばしい匂いがする。
「服が燃えているの？」
ＳＨＩＺＵＫＵが慌てるのだが、良く嗅ぐと、違うようだ。
「食事の香りのようですわね。」
デルフェスが首をかしげる。
二人はおそるおそる、食堂に向かい扉を開けた。
「え？」
「うそ？」
そこには、３人分の食事が並べられており、メイドが居る位置には、ビスクドールが転がっている。主人が座る位置には何もないが、その３歩後ろには同じように執事服を着せたビスクドールが転がっているのだ。
「ビスクドールが食事を作った。って、言うわけ？？」
「わ、わかりませんわ。」
ステーキに、サラダ。美味しそうなパン。と、豪華な食事が並べられている。食器は純銀製だ。
二人はとたんにおなかが鳴って赤面する。
「たべようか……。」
「其れは危険ではありませんか？」
「だって、おなかすいちゃったもん。」
確かに生理現象に逆らえるはずもない。
「私が毒味を致します」
デルフェスは言った。
「その心配は及びません」
と、別の扉から女性の声がして、二人はそっちに振り向いたのだった。
「個々の館に住んでいる者です。どうかなされましたか？」
〈３〉
「申し訳ありませんわ。勝手に色々……。」
デルフェスとＳＨＩＺＵＫＵは女性に謝った。
女性は、微笑んで首を振った。
許してくれるようである。
「いえ、雨の中風邪を引くと、大変なことになります。」
怪しさが募るわけだが、勝手に入って色々問いつめることは不作法だろう。
「久々のお客をもてなすのは、楽しいですわ。」
と、女性は喜んでいたりもした。
「あの、このビスクドールは？」
「ええ、子供の頃からの趣味でございますの。」
「そうですか。……個性的ですてきだね。」
と、食事をしながら普通に会話をする。
女性は、窓を見やり嵐が未だ収まらないという、ため息をついた。
「雨はなかなか止みそうにありません。出来れば、わたくしの話し相手になって頂ければ嬉しいのですが？」
と、女性は笑いながら二人に聞いた。
「別に良いよ。」
ＳＨＩＺＵＫＵは別段警戒していない。
何かあるのかと、心配するデルフェスをよそに、だった。
食事が終わり、服もそろそろ乾く頃だが雨が止まない。ビスクドールがいっぱい飾られている客間で少し休憩した後、女性の私室に呼び出された。
「お話するって事ですわね。」
「うん。」
と、二人は、女性の部屋に向かった。
ドアをノックする。
「どうぞ。」
ドアが勝手に開いた。
窓を眺めている女性が何かしら怪しい気配がする。
部屋には、ビスクドールが沢山転がっている。
デルフェスもＳＨＩＺＵＫＵも此の空間に異様さ、女性に恐怖を感じたが、動けない！
「可愛いお嬢さんにメイド服に合うわ。 お話はあなたが本当のお友達になってからがいいわね」
クスクスと笑いながら、女性はＳＨＩＺＵＫＵを指さした。
指が光った！
デルフェスはＳＨＩＺＵＫＵを庇おうと、前に立ち塞がろうとしたが、ＳＨＩＺＵＫＵがいた位置に彼女が居なかった。代わりにビスクドールが落ちていたのだ。
「ＳＨＩＺＵＫＵ様！」
ＳＨＩＺＵＫＵ似のビスクドールを抱え込むデルフェス。
「あなたは、メイド服を着ていない。あなたも着なさい。」
妖しい笑いを含んだ女性の声。
「わたくしの大事な友達であるＳＨＩＺＵＫＵ様似なんて事を！」
デルフェスは怒った。
「わたくしは、いつも独り。ビスクドールが友達なのよ。ここに入ったと言うことは、其れを受け入れたことと同じ！」
「ちがいますわ！ 許しません！」
女性がビスクドールを動かしはじめて、デルフェスを押さえつけようとする。
――まさか！ これは全員迷い込んだ人のなれの果て？
ＳＨＩＺＵＫＵが人形になっているためにそう考えるのはたやすかった。
ビスクドールの大きさから考えも付かない力で押さえつけられる。デルフェスは引きはがそうと考えるが、出来なかった。迷い込んだ犠牲者に乱暴は出来ないのだ！
戦い、破れ、自分もメイドのビスクドールにさせられるのだろうか！？
しかし、女性と、彼女の力は歴然としている。
デルフェスは、今は居ないがエルハンド・ダークライツの力が少し備わっているのだ！ 体をふんじばられていても、いつも使う術ぐらいは発動できる！
「あなたを、懲らしめますわ！」
「その姿で出来るものならやってみなさ……え？ ええ？」
気が付けば、女性の足が石化している。
「い、いつ術を行使したの？ なぜ？」
「それは、教えてあげませんわ」
ビスクドールに押さえ込まれながらも不適な笑いをするデルフェスであった。
女性が驚きと恐怖の形相で石化したと同時に、ビスクドールが動かなくなった。
「皆様、だいじょうぶかしら？ 元に戻るのでしょうか。」
心配するデルフェスだが、数秒後に、ビスクドール達が光り、きょとんとしている女性達がへたり込んだ姿や、寝たままの状態で元に戻っていった。
「ＳＨＩＺＵＫＵ様！」
ＳＨＩＺＵＫＵも元に戻った。
「ああ、デルフェスさーん！ こわかったよー！」
ＳＨＩＺＵＫＵはデルフェスに飛びついて泣いた。
ちょうど、雨は止んでいたようだ。
女性達を落ち着かせながら、洋館を出た後、その館は跡形もなく消え、普通の道に戻っていたのであった。此処が秋葉原なら違和感がなかったであろうが……。まあ、その程度は些細なことだ。
「たいへんだったね。」
「まったくですわ」
と、デルフェスとＳＨＩＺＵＫＵは呟いた。
ＳＨＩＺＵＫＵは怖かったが、楽しそうだったようだ。
――ＳＨＩＺＵＫＵ様は、もう……。
このあと、ゴーストネットの掲示板には“メイドビスクドールの洋館現象スレッド”がにぎわったのは言うまでもない。しかし、すでに館の女主人とおぼしき存在が石化しているため、二度と現れることはないだろうと、デルフェスは確信していた。
ＥＮＤ
【2181 鹿沼・デルフェス 463 女性 アンティークショップ・レンの店員】
■ライター通信
滝照直樹です。 お久しぶりです。
『迷い込んだ洋館』に参加して頂きありがとうございます。
今回は、趣向を凝らしてホラー風味にしたく思いましたが微妙にギャグっぽくなりましたが、いかがでいたでしょうか？
実際、こちらで洋館内の設定はあったのですが、デルフェス様のプレイングに書かれていることが興味深かく、楽しそうだとおもい、執筆致しました。楽しく執筆できました。
また、ＳＨＩＺＵＫＵは色々な冒険をすることでしょう。そのときは又宜しくお願いします。
ＳＨＩＺＵＫＵが着た好みのメイド服ってどんなものかは、デルフェス様にお任せ致します。
では、また機会があればお会いしましょう。
20061026
滝照直樹拝
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