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迷い込んだ洋館
あなたはSHIZUKUと遊んでいた。
カラオケに行ったり、B級グルメの味を楽しんでみたりと至って普通。
しかし、楽しい一時もつかの間、大雨に遭遇し、急いで近くにある廃屋の“中”で雨宿りを決め急いで中に入った。
緊急避難なので、不法侵入とかで怒られるのは堪忍して欲しいとは思ったのかどうかは定かではない。
雨は激しく降り、風も強い。あなたは天を睨み、気象庁を恨んだ(降水確率0%っていったじゃない! というように)。
「傘も壊れそうな勢いだね〜。」
と、SHIZUKUはハンカチで雨に濡れた自分の顔を拭く。
廃屋といっても、見た目は立派な洋館だった。ただ、中は埃っぽくて薄暗い。
ただ、この辺にこんなものあったのかな? とあなたは思う。
奥の方から何か物音がした。
あなたとSHIZUKUは振り向く。
風の所為か? 何か居るのかわからない。
「? 雨も止みそうにないし、此処だと寒いし、中調べようよ。」
と、SHIZUKUが笑う。
あなたは、大雨の中で洋館に雨宿りをして……と言う不吉なシチュエーションに寒気が走った(もしくは楽しそうだと思った)。
あなたが止めるにせよ進んで入るにせよ、SHIZUKUはあなたと共に入ろうとする。
「確かこんな館の噂あったよねぇ……。雨にならないと現れない廃墟の洋館……。」
SHIZUKUが言った。
「もし、其れだったら楽しいなぁ!」
先にある好奇心が、支配していた。
〈1〉
――今日ほど雨の日が、嫌だとおもいました。
後に彼女はため息をついて語っていた。
「あああ、まってくださいよう!」
「ずぶぬれになるよ! 急いで!」
ショートカットの少女が二人嵐の中を走る。
楽しい一日が台無し。トラブルも楽しむ余裕がなければやってられないこともあるが、其れは其れ、これはこれ。
嵐の中である建物を見つけた。廃屋のようだ。雨の所為で、視界が悪いがかなり大きいようだ。SHIZUKUはそのまま入っていくのだが。広瀬・ファイリアは、目眩を起こすのだった。
洋館事態に霊気が纏っているのだ。善悪属性は知らないがこれは“何かやばい”と本能が告げる。
(や、やめようよ! ここおかしい……ですよ。絶対!)
と、止めようとするも、寒い、服はびしょびしょ。SHIZUKUの性格は解っている。風邪を引いて今の家族に心配されると大弱りだ。更にSHIZUKUに何かあったら大変である。
圧倒的な霊気を前に勇気を振り絞って、SHIZUKUの後に付いていくのだった。
「ふ〜! びしょびしょだね!」
「はうー、天気予報の嘘つきですー!」
「まあ、まあ。仕方ないじゃない。通り雨かもしれないよ?」
SHIZUKUは笑っていた。トラブルも楽しんでいるようだ。
一方ファイリアは、怯えている。雨に濡れた服が肌について不快感と寒気がするほかに、近くに“白い何か”が歩いて通り過ぎたのだ。
「きゃああ!」
「な、何?」
ファイリアがいきなり叫んだので、SHIZUKUは驚いた。
「れ、霊が歩いているですよ〜!」
「え? ホント? どこ? なんだー、シーツかカーテンじゃない。」
“其れは”何かをかぶせていたシーツだった。SHIZUKUは其れを
「あのですね、此処何かあると思うのですよ? 霊気が漂っているのです!」
「え? 幽霊屋敷とかそう言うものかなー♪ ラッキー!」
ダメだ、SHIZUKUは興味津々にこの玄関を眺めている。
彼女は頭の中で情報を検索最中のようだ。そして、ぽんと手を叩く。
「あ! これが噂の雨にしか顕れない廃墟の洋館だ! 本当にラッキー! この目で確かめられるなんて! なんて最高なんだろう!」
「え? えええっ!?」
又、ファイリアが驚いたのであった。
「早速探検しよう!」
と、SHIZUKUが片腕を掲げて進もうとするが、ファイリアが彼女を羽交い締めにして首を振った。不満そうにSHIZUKUがファイリアを見るのだが、
「か、勘弁してくださいです! SHIZUKUちゃん、此処の人に一言断ってから服を乾かして、すぐに出るです〜!」
「えー。でもファイリアちゃん。此処は噂では廃墟だよ? 誰もいないか居ても何なのか解らないんだよ?」
好奇心旺盛なSHIZUKUに、青ざめて震えているファイリア。対極である。
「あうー。そう言われても。断って何かするのは礼儀です〜。」
「緊急回避〜。大丈夫だって。」
詭弁というか、方便というか。
風が吹いた。
「へっくち!」
「へっちょ!」
二人とも寒さで震えて、クシャミをする。前者がSHIZUKUで、後者がファイリアのクシャミ。
「うーん、此の、洋館は情報に寄れば、何か設備が残っているはずだし、タオルとかは探そう……。」
さすがに寒さには耐えられないSHIZUKUである。
食堂に向かうのはおかしいので、まずは使用人の部屋に向かう。一番近い日用品が置いてある場所だからだ。
「ごめんくださいですー」
ファイリアがおどおどと、声を出してはいる。
質素な部屋であるが、ベッドも机もクローゼットのような家具もある。広さは8畳ぐらいだろうか? それほど狭くはない。
SHIZUKUがドカドカと入って、タオルを見つけて2枚だけ取り出し、ファイリアに渡してから自分の体を拭き始めた。
「風邪引いちゃったら元も子もないからね」
「はいです」
廃墟なのにしっかり掃除されているのは不自然で、更にタオルも日向の匂いがする。外の天候とのギャップが激しいために、ファイリアは落ち着かない。元々、この館自体の霊気が圧倒的に強いのだから、覚えるのは仕方ないのだろう。
問題は服である。乾かすのは良いが、この部屋にあるのは使用人の服。問題はサイズだ。
「うーん、どうしよっか?」
と、適当に見繕って、SHIZUKUは着替え始めた。
「あうーだめですよー」
ファイリアは困っている。
「もうタオルも借りたんだし。気にしてはダメだよ?」
と、SHIZUKU。
使用人の服に着替えて(スカートは長いタイプしかないが、服の種類はどうでも良い)、服はその場で乾かすことにする。暖炉に灯をともし、一息を付いた。
窓を見ると、未だ雨は止まない。
「雨のバカ……。」
ファイリアはため息混じりで呟いた。
〈2〉
「さて、着替えたし〜。乾くまで探検しよう!」
「ええっ!! ここでゆっくりしないのですか?」
SHIZUKUの言葉にファイリアが泣きそうになっている。乾くのを待っていられないSHIZUKUと、怖くて動きたくないファイリア。本当に対照的だ。
「ファイちゃん? 此処の人に断らないとだめなんじゃ?」
SHIZUKUはにやりと笑う。
「あう、あのときはあのときなのですー。」
部屋の隅っこで怯えて震えるファイリア。
本当に探検する事が怖いのだ。
結局はSHIZUKUに論破されてしまい、泣く泣くファイリアは彼女に付いていく羽目になるのだ。彼女の生い立ちからすれば、其れは仕方のないことなのである。
「で、SHIZUKUちゃんはどこからさがすですのー?」
「うーんと、まずは地下室!」
にっこり笑うSHIZUKU。
怯えて、SHIZUKUの後ろに隠れているファイリア。
地下室に行くというのは何故か、という問いを訊くまでもないだろう。SHIZUKUが語り始めるのだから。
「たぶん、何かあるよ。きっと」
怖がっているファイリアに話しかける。
「ひいい」
「こういう館には、つきものだし〜」
お宝を目の前にして、喜んでいる探検家のようだった。
廃墟の洋館にまつわる話しは良くある。秘密の地下牢と拷問室があるとか、何か飛んでもない秘密を埋め込んでいるとかがあるのだ。
ファイリアは地下の階段で、足を止める。
霊気ではない。
臭い。かび臭さと混じって、“すでに途絶えているハズ”の臭いがする!
「まって! SHIZUKUちゃん! 血のにおいがするです!」
あの、鉄のさびたような、不快と恐怖をあおり立てる、あの臭いが地下室からするのだ。
「……。カビの臭いしかしないよ?」
SHIZUKUにはその微妙な臭いの違いが分からない。
しかし、ファイリアの真剣なまなざしでSHIZUKUは地下室の扉を開けるのをとまどったが……、ファイリアが躓いてしまった。
「え? きゃああ!」
「きゃああ!」
そのまま転がって地下室に入ってしまった。
「いたた〜。もうファイリアちゃん〜」
「あうー、いたいよぅ」
地下室は真っ暗で見えない。
二人は起きあがり、電灯をつけて周りを見てみると、カビの生えた壁が目に入る。扉が数カ所有り、看板を見ると、倉庫、貯蔵庫、ワインセラーのようだ。
「SHIZUKUちゃ〜ん。もう帰ろうよ。」
ファイリアは一つの扉が気になってしまった。見えるというのは何とも不都合なときがあるなぁとため息が出そうになる。
「ん? ファイちゃんどうしたの? そこに何かある?」
SHIZUKUが小首をかしげ、そのドアノブを握った。
「開けてはダメ。開けてはダメ。絶対開けてはダメ!」
慌ててSHIZUKUを押さえようとしたのだが、遅かった。
開けると何か奇妙な物体がぶら下がっている。
「なに……? これ?」
かなり寒い。
冷蔵庫のような寒さ。そして、おびただしいほどの棚の数とぶら下がっている物体。明かりが届かない場所もある。
「地下の冷蔵庫? うーん。氷室なのかなぁ?」
SHIZUKUは明かりがないか探し始めた。
ファイリアはその部屋の中に入りたくないが、ドア越しから覗いている。
明かりがついた。
「ああ、ファイちゃんが血の臭いって、多分これだよ」
精肉された豚丸ごと1頭分。牛もある。鶏もあった。其れがおびただしい数があり、不気味なのだが、ファイリアは安堵した。
「はうう。人じゃなくて良かったです〜」
ファイリアが泣き顔でその場に崩れてしまう
「ははは、そう言うパターンはベタだとおもう……」
笑うSHIZUKUの表情が強張っていく。
「……ひとの……うで?」
この肉達がぶら下がっている部屋のなかに、その部屋にはあってはならないモノがあった。こんなところで、マネキンをぶら下げる様な冗句でもまねはしない。するとなればホラーハウスという特定の環境だけだ。
精肉用のまな板があるテーブルには……。
「え? きゃあああ!」
「きゃあああ! ファイちゃん!?」
二人は叫び、SHIZUKUはファイリアと逃げようと、彼女の手を掴もうとしたが、手が空を切る。ファイリアが腰を抜かしており、本能的にSHIZUKUの足を掴んでしまったためである、結果SHIZUKUが思いっきり床に顔をぶつけるようにこけたのだった。
「あうあうあう! ま、まってSHIZUKUちゃーん! ファイ腰抜けてー!」
「ファイちゃんまって、落ち着いて!」
四つんばいになって階段を登って逃げていく2人。
ロビーに戻って息を切らすファイリアが叫ぶ。
「あうーだからもう帰ろうと! おもったのですよー!」
「でも、未だ雨が止まないし、服が乾いているかどうかわかんないよ? でも、出た方が良いよね」
SHIZUKUもココまで来ると何かがあると危機感を感じている。
あの異様な物体は幻影ではない。実物だった。もしかすると、この館は、人食い主人の館なのか? と、情報を整理する。
〈3〉
「もう、帰るですよ!」
ファイリアがそう言って、立ち上がる。
急いで使用人の部屋に戻り半分乾いている服をもって、出ようとする。
しかし、玄関の扉が開かない!
「え? さっきは開いていたのに?」
ファイリアが必死に開けようとするが、石の扉のように重たくびくともしないのだ。
遠くから金属音の足音が聞こえてくる。
「ファイリアちゃん! あれ!」
SHIZUKUが指さした方向に目をやる。
「!?」
殺気が充満している吹き抜けの2階に、鎧そのものが大きな剣を持っているのだ。2体。
「気付いて襲いかかってくるつもりだよ!」
SHIZUKU震えだした。
ゆっくりと向かってくる鎧。
ファイリアが必死に開けようとするがびくともしない。
外は未だ嵐で雷もなっている。
鎧が2人を剣の間合いまで納めるやいなや、大きく振りかぶる。
「ファイちゃん!」
2人は扉を諦め、横に逃げた。間一髪で剣は空振りに終わるがそのパワーは凄まじい。剣は頑丈な床にクレーターのように破壊する。
「ひいいい!」
無言の鎧は又ゆっくりと襲いかかってくる。逃げる先にはもう1体の鎧!
ファイリアはSHIZUKUだけでも逃がそうと考えるが、絨毯に足を滑らせてしまい。思いっきりこけてしまう。
「きゅーん!」
それが運よく、別の鎧から繰り出された横降りの一撃を交わすことになった。SHIZUKUも何とかその一撃を躱わしている。
彼女たちはしばらくはいつくばって、立ち上がり、キッチンの方まで走る。其れを追いかける鎧。
「キッチンには勝手口ぐらいあるはず! 逃げよう!」
大きな食堂に入ると、その場所にあった家財道具を鎧に投げ、椅子を蹴飛ばして道を遮る。鎧がバランスを崩してよろめくぐらいで、足止めにもなっていない様子だった。
そしてキッチンにはいると、包丁でドアを壊しガラスを割り始めようとするがびくともしない。
「SHIZUKUちゃん 離れて!」
ファイリアは、思いっきりタックルして、ドアをこじ開けた。
その勢いのまま転がって行くファイリア。SHIZUKUがその後を追う。
そして、2人は洋館から逃げ出すことに何とか成功したのだった。
「あーあぶなかった……でも、どういう館だったのだろうね? 今度は詳しいこと知りたいよねー♪」
何とか逃げ延びたが、あの館が何だったのか、分からずじまいだ。ただただ、恐ろしい場所と言うことには変わりない。そう言う場所がある。それだけの収穫があればネタには困らないしリベンジが出来るだろう。
「SHIZUKUちゃんはこりないのですね。はぅ〜。」
ファイリアはへとへとになっていた。
服は使用人さんの服のままだしぃ……。それに未だ、雨が止まないです〜。
嵐で出来た霧の中に、未だあの館のシルエットが見え隠れしている様な気がしてなりませんです。
せっかく平穏に遊んで、楽しい一日になると思ったのに!
雨のバカー!
ファイリアは、心の中で叫んでいた。
後に、この館の情報スレッドがにぎわいを見せることは言うまでもない。
END?
■登場人物
【6029 広瀬・ファイリア 17 女性 家事手伝い(トラブルメーカー)】
■ライター通信
滝照直樹です。初めまして。
このたびは初参加にて、「迷い込んだ洋館」に参加して頂きありがとうございます。
ホラー風味にそしてコミカルに書いてみました。いかがでしたでしょうか?
館ネタとすればだいたい幽霊か、何か猟奇的なモノではないかなぁーと思いながら書いていました。
ファイリア様の性格を上手く表現できれば幸いと思います。
では、又の機会にお会いしましょう。
20061102
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