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夢の中から
オープニング
「夢を見たんだ」
草間の目の前に座る男はそうつぶやいて草間を見た。彼はやつれており顔色も悪かった。
草間は男の言っている言葉の意味がつかめず、眉をゆがめることしか出来なかった。だが、彼の身に尋常ではない事態が起こっているのは目に見えて明らかだった。
「夢?」
「ああ、いつも見る夢なんだ。俺が夢の中から飛び出して、ある女に呼び出される夢。その女はとても妖艶で、俺はついつい彼女に身を任せるのだが、この頃ボーっとすることも多いし、体の調子が悪くて、このままじゃ殺されるかもしれない」
彼の瞳の中には恐怖という感情がありありと浮かんでいた。
「頼む、助けてくれ」
必死の形相で頼まれ、命の危険があるとなったら助けないわけにはいかないだろう。
「怪奇専門じゃないんだがな」
草間は溜息を吐き出して、彼に言った。
「わかった。対策を考えてみよう」
草間がそういって男から話を聞きだそうとしたそのとき、玄関のブザーがけたたましく鳴り響いた。
出鼻をくじかれた草間は、溜息を吐き出し、零が慌ててその来客を中へと招き入れる。
「よ! 茶しにきてやったぜ」
そういって片手を挙げながら、部屋に入ってきたのは門屋将太郎だった。
「話の出鼻をくじいた上に、茶を飲みに来たって?」
「お、依頼か?」
「……」
草間は諦めたように、まぶたを閉じてから、戸惑い顔の依頼者を見て、口を開いた。
「こいつに詳細を話してみてやってくれ」
依頼者は門屋の瞳を見て、口を開いた。
「あ、ああ。俺が夢の中から飛び出して、ある女に呼び出される夢を見ているって話をしてたんだ。その女はとても妖艶で、身を任せているうちに体の調子が悪くなった。だから、その問題を解決して欲しい、と」
「それって、サキュバスって奴じゃないか?」
門屋は零にお茶をもらいながら、言う。
「体の調子が悪いって事は、精気を吸い取られている証拠だ。それにお前エロいことばっかり考えてるんじゃないか。そこに付け込むからな、あいつらは」
「そうか」
草間が感心したように、相槌を打つ。
「解決策は、女にあわねぇことかな」
「会わないってどうすれば?」
「寝なきゃいいんだよ」
門屋はそういってぐいっとお茶を飲み干した。
「俺らが一晩中監視してやるよ。な、草間さん?」
「俺もか」
げんなりしたように草間が言う。
「あんたのとこに来た仕事だろ? あたりまえじゃねぇか。お前の家で見張って、それから痺れを切らして出てきたところをひっとらえてやるよ」
自信満々な門屋の言葉に、依頼者はこっくりと頷いた。
***
「きったねぇ」
夜になってから依頼者の部屋に着た門屋と草間。
依頼者の部屋に入った瞬間、門屋はそういって散らばった衣類を蹴飛ばした。草間も少々呆れ顔だ。
依頼者の部屋は一人暮らしの男の部屋の見本のような汚さだった。
「エロ本、Hビデオもしまっとけよ。だらしねぇ。絶対お前彼女いないだろ」
門屋はぶつぶつ言いながら、部屋の掃除を始める。エロ本などは重ねてクローゼットの中へとしまいこみ、衣類は簡単にたたむ……etc。すべての動作が終わるまで二時間ほどの時間が経った。だいぶきれいになった室内を見渡して、門屋は満足そうに頷いた。
「こんぐらいでいいだろう。って、寝るな。草間さん、あんたもだ!」
掃除に夢中になっていた門屋は眠そうにする二人を起こし、ふーっと息を吐き出した。
「話してたほうが寝ないな。そういえばあんた名前は?」
「水地」
「水地さん、か。サキュバスが表れるようになったのはいつぐらいからなんだ?」
「えっと一ヶ月ぐらい前からだったと思う」
「じゃあ、相当通いつめてるんだな」
「ああ。しかもこの頃体力がなくなってくると、すぐに眠くなって。寝るとあの女がやってくる。本当に妖艶で美しい女なんだ」
「まぁ、それがサキュバスって奴だからな。って草間さん、寝るなって!」
***
空が青白くなってくる時間帯、さすがに徹夜は厳しかったのか、門屋も疲れた表情をしていた。
もう、女は現れないかと思ったそのとき、部屋の扉のほうが青白く光を放つ。草間も門屋も、水地も、その光景を目にして眠気など一瞬にして飛んでしまったようだった。
「きたな」
「ああ」
草間と門屋の表情に緊張の色が走る。
青白い光は人型をとり、現れたのは美しい女だった。金色のウエーブがかかった髪に、豊満な胸を強調するような服を着ている。唇は血を吸ったかのような赤で、今は怒っているような表情を顔に貼り付けていた。
「あなたたち? 私の食事の邪魔をしているのは」
「サキュバスか、もうこいつに取り付くのはやめろ」
「なぜ」
「一人の人間から精気を取りすぎればそいつは死ぬだろう。他の人間のところから少しずつ取ればいい。そうじゃないか」
「……」
門屋の力説に、サキュバスは考え込むように唇を噛んだ。
「お前が来ないと約束しなければ、力で訴えることになるぞ」
握られた門屋のこぶし、草間も厳しい顔をしており、水地にいたっては恐怖の表情を浮かべていた。
女はそれぞれの表情を見てから、溜息を吐き出した。
「わかったわよ。暴力はんたーい。そいつからは手を引いてあげるわ」
彼女はひらひらと手を振った。
「一人の人間から精気を取り付くそうとするのもやめろ」
「ん〜それはどうかな」
「やめろ。でなければ帰さないぞ」
門屋の静かな怒りを孕んだ声に、女はいやそうな顔をする。
「はいはい、やめますよ。そんなに怒らなくてもいいじゃない。帰っていいかしら。朝は専門外なのよ。あーあ、今日は一食抜きだわ」
女はぶつぶつと文句を言って、姿を消した。
門屋は女の態度が気に食わなかったのか、深く息を吐き出す。だがひと段落は着いたので、依頼者を見ると口を開いた。
「これで、話はついたはずだ」
「あ、ありがとう」
依頼者は心底ほっとしたように肩の力を落とした。
「もし、今日寝て来るようだったらいつでも相談に乗るぜ。な、草間さん?」
「俺を巻き込むな」
「いいじゃねぇの」
門屋はそういって笑うと大きくあくびをした。
「ねっみー。そろそろ、俺らは帰るな」
「ああ、本当にありがとう」
「いいってことよ」
そういいながら門屋と草間は外へと出た。
二人は朝日が昇っていくのを見ながら、大きくのびをする。
「よっしゃ、かえって寝るか」
門屋はそういって、歩き出した。
エンド
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【1522 / 門屋・将太郎 / 男 / 28歳 / 臨床心理士】
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■ ライター通信 ■
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門屋さま
いかがでしたでしょうか。
また、よろしくお願いいたします。
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