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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


届く想いはイツマデも

 その店はいつもどこかにあって、どこにもなかった。
 店主も気紛れで、店に備えてある商品は曰くつき。
 そんな店に訪れる客はいるとかいないとか。
 不思議なことが絶えず起こるこの街でそんなことも当たり前になろうとしていた。

 不思議な紙の束。
 無造作に置かれたまま。
 誰かが買っていくのだろうか。
 誰も気がつかないのだろうか。
 その紙に手紙を書けば、どんな相手でも手紙が届くという。

 また今日も一通白い紙飛行機が、蒼い空に溶けるように飛んでいる。

 パティ・ガントレットは盲人用の杖をつき、盲人のフリをして歩いていた。
 目は見える。が、彼女が目を開けることは滅多にない。
 普段は目蓋を閉じ、その奥に眠るアイスブルーを隠す。
 盲人のフリは誰にもばれないほど自然だった。
 カツン。カツン。
 と、杖を突く音だけだ良く響く。
 そうして彼女はたどり着く。
 気紛れな店主がいる、アンティークショップに。
 雑多に置かれたものが店内を埋め尽くし、店内は昼夜関係なく薄暗かった。
 パティは杖を突きながら店内に入る。
 カツン。カツン。
 杖をつく音が変わらず響いている。
 杖先を左右に軽く揺らし、杖先に何かぶつかればそこを避けて歩いていく。
 その動きはスムーズで、まるで見えているかのような動作。
 ゆっくりとパティは店の奥まで歩いていく。
 その途中、ふっと彼女の足が止まった。
 無造作に棚の上に置かれた便箋の山。
 閉じた瞳なのに彼女は見えているかのように、迷うことなく便箋に手を伸ばした。
 手に持った真っ白な便箋は、薄暗い店内には似合わないような感じがするものだった。
 パティは静かにその便箋を眺める。
 眺めるといっても、彼女の目蓋が開けられることはないのだけれども。
 まるでその仕草は見ているようではあった。

 そうして便箋を手に持ったまま、また奥へと歩き出す。
 突き当たりに差し掛かるタイミングでパティの足が自然に止まる。
 ツイっと首を上げて、見据えた先にいる店主に声をかける。
「こんにちは。レン様」
「やぁ、元気だったかい?」
「えぇ、おかげさまで」
 他愛もないただの挨拶。
 パティは手に持ったままの便箋をそっとレンの方に差し出しながら、言葉を続けていく。
「レン様。本日は、髪飾りの一つも欲しゅうございますが、ありますでしょうか」
 静かな声色で尋ねるパティ。
 レンは差し出された便箋を受け取りながら笑った。
「あぁ、そうだね。あんたにはコレが似合うかな?」
 レンガ店の奥から持って来たのは、白いクレマチスの花の髪飾り。
 少し大きめのクレマチスが1輪とパールビーズがあしらえてある。
「一対になってるからツインテールにしている、あんたには丁度いいんじゃないかい?」
 ホラ。と、パティの手に髪飾りを持たせる。
「何か花がついていますか?」
「白いクレマチスだよ。それにパールビーズもついてる」
 白いクレマチスはパティの手の上で咲いていた。
 

 今、パティは白い便箋に向かっていた。
 その横には白いクレマチスの髪飾り。
 今日は白に縁のある日だと思い、パティは小さく笑った。
 レンに聞いは話ではこの便箋に手紙を書き紙飛行機を折って飛ばせば、望む相手の下へと届くという。
 半信半疑は否めない。
 それでも自分はこうやってペンを持ち、手紙を書いた。
 何を書こうと思ったのだろうか。
 どう書けばいいのだろうか。
 何故だが酷く迷ったような気分だった。
 白い便箋の上には、丁寧な文字が綺麗に並んでいた。

 『先代殿』

 書き始めはそんな宛名からだった。
 
 『あなたの夢をかなえるため、わたくしは今も夜の中におります』

 そう目を閉じたままの普段の生活。
 何か支障があるわけではない。
 だけれども目を開いて普通に生活したいと思う事だってたまにはある。
 
 『あやかしを許す世を許してはならぬ。東京を鎮め、文明を持つ人の手に全てを戻せ』

 先代の夢は自分の夢となった。
 それは何時からだろう。
 やはり先代の力を受け継いだときからだろうか。
 けれどもまだまだ自分の力は未熟だ。
 あなたの………。
 あなたの胸を借りたいと思う事だって少なくはないのですよ。
 
「わたくしはまだ未熟でございます」

 思わず想いが言葉となってしまった。
 少し自嘲気味に笑い、唇を閉ざした。

 『闇を消し去り、獣を調伏し、文明を手に入れた、バケモノを認識し、バケモノを殺すことのできる唯一の存在である人間を尊重し、その他を絶滅させよ』

 自分以外の誰も受け継げない。
 自分が受け継いだ。
 そうして先代の夢は自分の夢となった。

――――――――――世界を終わらすのはわたくしです。

「そのオモイは今も変わりませんよ」
 
 再び開いた唇から発せられた言葉は、酷く静かであった。
 何をどう思ったのかまた小さく笑い、目蓋を閉じたまま便箋で紙飛行機を折っていく。
 その手つきは器用だった。

 この東京では……………。

「自殺志願者などいないのですよ………」

 それはイイコトなのだろうか、それともワルイコトなのだろうか。
 ため息がこぼれる。
 先代へと宛てた手紙なのに、いつの間にか自分と向き合っているような気がした。
 自然と紙飛行機を折っていた手が止まった。
 やはり自分はまだまだ未熟者だ。
 こうやって手紙を書いてしまうということは、助けを求めているのかもしれない。
 かもしれない。ではなく、何か明確な答えが欲しいのだ。
 相談したいこともある。
 泣きつきたいことだってある。
 けれどもこうやって、この便箋を手に入れ手紙を書いているということはそういう事だ。
 何気なく始めたことが、いろんなことを再認識する結果となった。
 
 手紙など書くのはどのくらいぶりだろう。

 折る手を休めたまま、自然と閉じた瞳は置かれたままのクレマチスを見た。
 花の色も、便箋の色も白い。
 真っ白にこの心を戻せという暗示なのだろうか。
 心で考える言葉が自然と疑問形になる。
 自分に迷いがあるから問うてしまうのだ。
 迷いなどなければ疑問など浮かぶこともないだろう。

――――――――だからわたくしは……まだ未熟なのです。
 
 ため息ひとつ吐き出して、パティは再び紙飛行機を折り出した。
 ゆっくりとした手つき、ひとつひとつ丁寧に折り目をつけていく。
 形の整った紙飛行機が次第に出来上がってくる。

――――――――だから、あなたの胸が恋しくなるときもあるのです。

 無言のまま折り続ける。
 けれども心の中は饒舌だった。
 手紙に書いたことと同様に、オモイを語る。
 手紙はちゃんと届くのだろうか。
 もうそんなことは、なんとなくどうでも良くなってきていた。
 こうやって手紙を書いたことによって、久しぶりに自分と向き合うこととなり、色々と再認識できたのだ。
 もしかすると手紙は相手に届くのではなく、自分に届くのではないのだろうか。そんな気がした。
 
 未熟だから。
 まだまだ自分は成長できるとも思う。
 きっと大丈夫だ。
 こうやって恋しくなることもあるけれども、自分は決してひとりではないのだから。
 そうして出来上がった紙飛行機はスマートな形でよく飛びそうだった。

 彼女は紙飛行機を片手に持つ。
 ゆっくりと立ち上がり、外へと向かう。
 空は茜色に染まって、綺麗な夕焼け空だった。
 思いっ切り紙飛行機を茜色の空へと向かって飛ばした。
 紙飛行機は待ってましたとばかりに、空へと向かいなんの躊躇いもなしにパティの手を離れ、飛び立った。

 パティはいつまでも、茜色の空を眺めていた。
 あの手紙は届いたのだろうか。
 返事は来るのだろうか。
 ただ自分は後もう少し、頑張ってみようと思うことができた。


 どこにでもあって、どこにもないアンティークショップはいつものように静かだった。
 薄暗い店内。
 レンはいつものようにそこにいて、店の前を飛んでいく白い紙飛行機を眺めていた。 
 その紙飛行機がどこまで飛んで、誰に届いたのかは本人だけが知ることとなる。







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   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
 
4538 / パティ・ガントレット / 女性 / 28歳 / 魔人マフィアの頭目



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        ライター通信          
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パティ・ガントレット様

はじめまして、こんにちわ。
ライターの櫻正宗です。
この度は 【届く想いはイツマデも】 にご参加下さりありがとうございました。
初めてご参加いただきうれしい限りでございます。

納期より遅れてしまい申し訳ありませんでした。
こちらの不手際で待たしてしまうようなことになってしまい、申し訳ありませんでした。
手紙を書くということは案外自分と向き合うような感じだと思い、今回はこんな感じとなりました。
普段はマフィアの頭目としてなかなか心休まる時間はなさそうなパティさん。
できればこの時だけでも、穏やかな女性としての一面を表現してみましたが。
いかがでしたでしょうか。
お気に召してくだされば嬉しい限りでございます。

それでは、重ね重ねになりますが本当にありがとうございました。
それではまたどこかで出逢うことがありましたらよろしくお願いいたします。

櫻正宗 拝