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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>





「いや……どうしたもんだろうね、これは」
 チャイナドレスに身を包んだアンティークショップの店長は、呻きながら『それ』を見つめる。奇怪なもの、異常な品には慣れてきたつもりだったが――。
「さすがに……こいつぁ……」
 それは、本である。
 もっとも普通の本ならば、蓮が動揺するはずもない。蓮を辟易させているのは、その開かれた本から突き出た――。
 腕。
 人間の肩から指先までの一本の腕が、本から伸びだしているのである。指は天井を掴むかのようにひらかれている。色はとても白い。女の腕かもしれない。
 この本は、蓮の知り合いの古書店店主が売ってきたものである。読もうと開いてみれば、いきなり腕が飛び出してきたのだ。そのまま腕は微動だにしない。『アンティークショップ・レン』におあつらえ向きだ、と言っていたが――まさかこういうことだとは思いもしなかった。
「まあ、特別害意があるようではないんだけどね……」
 この本――もとい、この腕をどうしたものか。
「いつも通り、任せてみるか」
 この店の常連には、この本を任せられそうな客が何人もいる。一体どうなるかは分からないが、まあたかが腕だ。少々不気味だが、危険なことにはならないだろう。
 そう楽観視した蓮は、さっそく常連客に連絡をとろうと、電話を手に取った。
 氷室浩介は、本から突き出した白い腕を見て、唇をひくひくと痙攣させる。表情は青ざめていた。当然だ。蓮だって初めて見たときは同じ態度をとったのだから。


「……いくらヤバい品が多いからって……ここまでくるとヤバ過ぎねえか?」
「あたしだってそう思うさ」
 はあ、と溜息を吐きながら蓮が呟いた。いい加減何とかしてくれ、という声にならない声が、蓮の全身からにじみ出ていた。
「わあーったわあーった。引き受けてやるけどよ、どうすりゃ良いんだこれはよぉ?」
 浩介は物怖じせずに、本を閉じたり開いたり、ひっくり返したりということを繰り返してみた。
「あァ――?」
 本を閉じると、まるで飛び出し絵本のように器用に腕が折りたたまれる。ページをめくってみても、また同じように腕が出てくるだけである。
 浩介はページをめくるのを諦めて、今度はページをじっと見つめてみた。とはいえ白紙である。何も書いていない。腕は白、ページも白で、腕とページは滑らかにつながっている。
 表紙は赤かったが、とはいえタイトルも作者も書いていない。装丁は普通のハードカバーだ。
「これどっから手に入れたんだよ?」
 蓮に聞いた。蓮はうーんと唸りながら、どこから手に入れたのか思い出そうとしている。
「確か……懇意にしている本屋でねえ。妙なものがあったら送ってくれといつも言っているんだが、それでそんなのが送られてきたんだろうねえ」
「ふーん……」
 蓮の答えを聞いているのか居ないのか、まだ本を閉じたり開いたりしている浩介。
「脈は……っと」
 白い腕に中指と人差し指をあげて脈をとる。んー、と唸ってから、浩介は指を離した。
「弱ぇが……あるみてえだな」
「……まあ、これだけリアルだとねぇ」
「なぁ、ちょっとペンかなんかあるか?」
 蓮に聞くと、彼女はすぐさま万年筆を持ってきた。それを白い腕に握らせようとする浩介だが――。
「握らせらんねえな」
 ただ万年筆を押しつけてもどうにもならないし、そもそも指が硬くて開かない。他のものでも試してみようかとも思ったが――おそらく同じ結果だろうと思ったので、やめた。
 あとは。
「んっ……」
「げ」
 浩介はその白い手を握る。どうも右腕らしいので、浩介も右腕を使って――思いっきり引いてみた。蓮はその様子を見て呻きをあげる。
「ぅおおお!」
 渾身の力を込めるが、白い手はぴくりとも動かない。しばらくそうしていたが、やがて疲れたのか、大きく息を吐いて浩介は諦めた。
「んだっつーんだよ、これ……」
「それを調べてもらうためにあんたに来てもらったんじゃないか」
 ちっくしょー、と、ひたすらに不気味な腕を見て、浩介は呻くのだった。


 浩介は考えてみた。とりあえずこの腕の正体は、一体なんなのか。
(本の妖精さんとか……にしちゃ、生々しいよな……)
 外見に似合わない乙女チックな発想をすぐさま打ち消し、次の可能性を考えてみる。
「なあ。もしかして同じような本が他にもあるんじゃねえの?」
「同じようなってのはどういうことだい?」
「だからよー、他にも頭が出てきたり足が出てきたりとかよ、そんなの。シリーズになってて、全部集めると一人の人間が出来あがるとか」
「……自分で言ってて嫌にならないかい?」
 うるせえ嫌になってるよ、と少々投げやり気味に言いつつ、浩介は続ける。
「その本屋には連絡とれるのか?」
「そりゃあね、なにせ常連だ」
「話つけてみてくれよ。もしあるんなら持って来てもらってくれ」
 あんたはこの店を石膏像だらけにする気かい――と蓮がぼやきながら、電話のほうへ向かう。自分でもあまり根拠のある推察とは思っていないのだが、まあ仕方がない。
「もとから不気味な店だろーが……」
 蓮に聞こえないように呟きつつ、浩介は結果を待った。


 はたして。
「美術館にでも飾れそうだねえ。――受けるかどうかは別として」
「まさか当たっちまうとはなあ」
 腕の他に、同じような本が六冊。それぞれ左足、右足、左腕、胸、腹、腰である。胸や腰のパーツを見ると女らしいが――一応、水着のような服は着ていた。ちょっと残念なようなほっとしたような複雑な気分の浩介である。
「……で?」
 望みどおりのが集まったぞなんとかしておくれ――言外に、蓮の瞳がそう語っていた。
「なあ、蓮さん。これで本当に全部か?」
 胸の本を見る限り――首がない。胸は心臓のあたりから縦に本から突き出しているのだが、首と両肩が何かで切断されたように綺麗になくなっている。両腕はあるからともかくとしても――。
「首が、ねえな」
「これで全部と言っていたがねえ」
 だとするなら、このパーツでどうにかするしかないのだろう。
「くっつければどうにかなるのかね」
 そう思い、例に本と本を組み合わせてみたが――特に何も起こらない。切断面をあわせようにも、腕や足は切断面が本に埋まっているのだから、どうにもならないのだ。引き抜けないのはさっきのことで証明済みである。
「どうしたもんかねえ」
「……蓮さんよぉ、何度も悪ぃが、ちょっと人形の頭みたいなもんねえかな。壊れた奴でもいいからよ」
「倉庫に一つ二つあったと思うが……何する気だい?」
 浩介はにやっと笑って。
「無い首にあてるのさ」


 そこからは、劇的だった。
 首――少女が遊びにつかうような小さなもので、石膏の像には不似合いもいいところだったが――を載せた体のパーツは、それだけでびくんびくんと蠢いた。
 まず腕が精力的に動き、自ら尺取虫のように本ごと引きずって這いずり回り、やがて自力で本から脱出し、胸の部分と結合した。足も同じような動きで腰の部分とくっつき、上半身と下半身が腹のパーツをつなぎにして、ひとまず閑静である。
「……嫌なもん見た」
「あんたがやったんだろうが」
 出来上がった石膏像――未だに肌は白いままだったが――は、あたりを見回すと、そそくさと出て行ってしまった。首から下は白皙の美女の水着姿だが、首から上はおもちゃの人形という、いかにもありえないものである。
「どーすんだ、あれ」
「まあ、ちゃんとした首をさがしに行くんだろうさ」
「放っといても……」
「害のあるような大層なもんが、あんな小さな本屋に行き着くとはおもえないねえ」
 確かにあの石膏像、いかにも戸惑ったような雰囲気しかなく、喧嘩慣れした浩介が感じ取れるような敵意はなかった。
「一件落着……なのか?」
「そうゆうことにしときなよ。良いじゃないか、あの像を動けるようにしてやったんだ。良い事したんだよ」
 蓮にそう言われても。
 どうにも釈然としない、浩介であった。


 ちなみに、後日談。
 今度は腕が突き出すスケッチブックがある蓮から聞いた浩介は、なかば苛立ちながらその電話をきったのだった。



<了>

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)   ■
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【6725/氷室・浩介/男性/20歳/なんでも屋】
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