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蒼天恋歌 ５ 境界線
レノアの記憶が戻る。
彼女の雰囲気、そして瞳の意志は、威厳ある声に変わる。
まるで、今までが嘘だったように。
彼女は、影そのものが動いている謎の男を睨んで、こう言った。
「まだ、あきらめないのか？ ヴォイド。 私はお前達が言うことはしないし、願い下げだ」
ヴォイドといわれた存在は、目を丸くしたような驚きを見せている。
「ほう……記憶が戻ったか……。そちらの方が好都合だ。いい加減門を開くのを手伝え」
「其れは前に断ったはずだ。私はお前達を許さない」
と、彼女はいつの間にか剣を持ち、翼を羽ばたかせ、ヴォイドに向かっていく。
レノアについてもヴォイドについても、解らなかった事が多くある。まず、レノアについて解った。門を開く存在である、そして、天使かそれに類する存在……だ、と。しかし、其れは何の門なのか解らない。しかし、ヴォイドについては、虚無の境界の関係であることは解った。つまり、虚無の境界が絡んでいることだ。
では、ヴォイドの目的は自ずと解る。芋ずる式に解る。細かな点は不明だが。
つまり、門を開くことは、虚無が作られた異次元を開くことなのだろうか？
ヴォイドは傷を負いながらも、逃げた。
レノアは、肩で息をしている。近づこうとすると、５歩先で「近づかないで！」と止める彼女。
「私は、私はこのような存在です……」
レノアは哀しそうな顔をする。
つまり、自分が普通の人間ではない、それに、これ以上は大きな危険が降り注ぐこと。
「私は、虚無の境界に狙われています。それは何故かというのは、私が、平行世界を繋げる“門の鍵”なです……」
と、彼女は言った。
「なので、あなたと……一緒には居られない……。力があるとか、無いなどの関係ではなく……。あなたの存在自体が消滅する可能性がある……から……」
彼女との距離と、あなたの距離は近くて遠い。
何かが違う、境界線。
「私は……このままヴォイドを討ちます。今まで、匿ってくれてありがとうございます……私は、あなたの優しさや強さが、大好きでした……」
と、飛び立とうとする……。
あなたは、そのときどうするべきだろうか？
彼女を追う？
なぜ、追うのか？
そのまま、立ちつくす？
それは、あなた自体が彼女の存在を拒否するためか？
レノアと過ごした日々が、ただのトラブルだけ？ それとも大事な時間？
その様々な事があなたの頭を瞬時によぎった。
雲が何かを封じているかのように、空を覆っている。まるで、“門”だ。この地上と、別の世界が繋がる境界線でもあるかのよう……。
〈光と闇と〉
レノアが覚醒し、手には光る剣が現れた。
「今までありがとうございます。公主さん。」
彼女が言う。
麗龍・公主は彼女の姿に見とれていた。一瞬にも。謎の男も、蹴り飛ばされたまま固まったままだ。
まるで時間が止まっているかのよう。
闇という隔絶された世界に光る天使。
絶望の中で見つけた、希望では、と彼女は思った。
「此処は私の問題。今は下がってください。」
レノアが、爆ぜた。
「レノア！？」
その瞬発力は、自分の光遁に似ていた。
「ヴォイド覚悟！」
そのまま剣を突き刺そうとするが、
「っち！ くそ！」
ヴォイドは、そのまま地面の闇の中に消えてしまった！
光の剣は空を切る。
この空間自体が、あの男の体の一部だとすれば！ 公主は閃く。
「未刀！」
「！？」
未刀は、公主が何をやって欲しいのか、すぐに理解し頷いた。
この空間のからくりが見えたのだ！
未刀は自分の力を解放させ、“未だ見ぬ刀”または“Ｉｎｖｉｓｉｂｌｅ Ｂｌａｄｅ”を具現化する。
「非実体を斬るなら！」
未刀はある空間の歪み・エラーを見極め、其れを一気に切り裂いた！ 彼は空間や門に対して他の退魔師より、詳しいのだ。
闇が光に変わっていく。
「でかした！」
公主が叫ぶと、懐にしまっている小刀を抜き、力を込めて、切り口に投げ入れる！
裂け目に、手応えがあった。
「な！？ なっ……！」
男は焦った。
そこから、闇の色をした“血”がしたたり落ちていき、そのまま何もないかのように消えていく。
闇はそこから払われ、元の公園に戻っていた。
投げ入れた場所に、まだ刀が宙に浮いている。そこに闇の人型が居た。
「ま、まさか……こんなこが出来るなんて！」
彼は呟いている。まさか空間のエラーを見極めることが出来るなんて思いもよらなかったのだ。出来るとしたら影斬ぐらいなのだ。
「私の力も返して貰おう。」
用心して近づく公主。
レノアも剣を持って、構える。
「ヴォイド、もう降参しろ。そして、有るべき闇に、消えるがいい。」
レノアがその男の名を言う。
「こいつの名前があるのか？」
「ヴォイド・サーヴァン。虚無の使徒です。」
ヴォイドは歯ぎしりをして、３人を睨む。
しかし、ヴォイドは右手に浮かぶ入れ墨を見て、
「まだ、終わってねぇ！」
叫んだ。
乾いた鉄の音が響くと同時に、彼を中心にして異変が起こるとしていた。
「天堂地獄を使うつもりか！」
最悪の宝具。死者は蘇り、生者は生命力を奪われ死に至るという、生死を逆転するとも言える恐ろしい力を持つ！ しかも、子の闇は鏡面の如く力を発揮する！ 使いこなせる公主が居ると言うことで“コピーしている”のだ！ このままでは、３人は愚か、周りに大被害を与えかねない！
「未刀！」
印を結び、発動を封印させようとする公主。
そのまま走り出し、斬ろうとする未刀。
しかし、発動した。効果を対人目標ではなく範囲に！
公主とレノアは、宝具により生命力を奪われてよろめくが、持ち直す。未刀はそのまま、倒れ込んだ。
「未刀！」
公主の額の目の色が変わる。澄んだ蒼より炎のように紅く、紅く。とっさに封印術から、仙術の中で回復系に切り替え行使する。しかし、自分も、無限の力を持っている訳ではない。限界が来るのである。その前に何か施さないと共倒れになる事、確実。
「このままでは！」
公主は頭の中で状況を把握する。
今動ける存在は、もう“１人”いた。
その方向に、顔も少し向けて“目”を見たのだった。
公主は未刀に少し術をかけ、走る。その早さは、常人からは視認できない。すぐに間合いが青龍刀を男に見舞う。力が入らない。
男は、公主が正気を失って、暴走しているかのように見えた。その怒気に嘲笑うかのように叫ぶ。
「そのまま力尽きてしまえ！ ……って！？ なに……！？」
頭上に光。
レノアが、苦悶の顔を浮かべながらも、
「すべてに光を照らすように、闇にいる場所無し！」
と、叫び、片手から、光線を発したのだ。
男の周りに発した闇のオーラはかき消え、宝具の力が遮断される！
「でかした！」
「今です！」
「うむ！」
公主は弧を描くように……、刀を振るう。
「覚悟しろ！」
刀には能力を込めて…… ヴォイドの横腹を力一杯切り裂いた！
爆音と煙がその場を支配する。その衝撃は、ヴォイドを数百メートルまで吹き飛ばし、粉塵を上げさせたのであった。
「ふう。 未刀！？」
未刀は、大丈夫だというサインを公主に送る。突っ伏したままで、手を挙げているのだ。
「助かった。僕でも、あの力は躱せない、から。」
「すまぬ。」
「いや、こうして生きているから。」
未刀は笑った。
３人は、斬り倒したヴォイドを見る。
ヴォイドは、起きあがるも、右手にあの入れ墨はない。
「畜生、エラー、か。」
入れ墨の宝具に機能不全を起こしたらしい。
「詰み、だぞ？ もう諦めろ。」
公主がヴォイドを睨む。
確かに、詰みだった。
このままではレノアの光などによって討滅される。
「ああ、いまの状態じゃ、あんた達にかなわねぇ。しかし、俺にとっては……役に立ってくれたぜ？」
ヴォイド、不気味な笑い声と共に言った。
あらゆる闇よりも暗く、有るのは虚無感がある声だった。
「まさか、」
公主とレノアは理解した。
空を見上げると、曇り空に有った何かがうめいている！
門が開きかけているのだ！
「ご名答。催命仙姑よ。あなた達が暴れてくれたおかげで、事が運んだ。礼を言うぜ！」
――やられた！
そう、公主や未刀の力、さらにはレノアの破壊的な聖なる力をヴォイドに向けさせることで、空間の不安定化を狙ったのだ！
不敵に笑う、虚無の闇に、公主は歯ぎしりする。
「なんて言うことだ！」
「そんな……。」
「この世界の滅びの日は近い。あばよ、もがき苦しめ。人間も仙人も。そして、その瞬間にレノア、お前の力も奪うからな！」
と、ヴォイドはそのまま、消えてしまった。
「まて！ なんて事なの……そんな……」
レノアは、その場所に走り寄って剣を突き刺したが、闇は上手く逃げてしまった。
〈説得〉
「レノア！」
公主が走り寄るが、
「来ないでください！」
レノアが５歩手前まで近寄る公主に叫んで止めた。
その声に悲痛な思いが籠もっている。
「私は、このような存在です。力あるなしに関係なくあなた達を危機に陥れたのです。側にいる、資格なんて……無いんです。」
と、レノアは言う。
公主は、バッサリ言った。
「レノア、其れは関係ないし、其れがどうしたというのだ？」
「え？ でも……。」
戸惑うレノアに、どんどん近づく公主。
「まるで昔の誰かさんのように、１人で抱え込むでない。私がこの場所にいるのも、世界が何かしらの警告がしたのだ。」
「昔の誰かさんってだれだ？」
レノアの頭を撫でる。
未刀は少しむすっとした。少しは成長したんだぞ？ という抗議に見て取れる。
「それに、ココまで来れば、そのまま逃げるわけもいかん。に何より、レノア、おぬしが居なくなるのが私には辛い。可愛い妹が出来たのだから。」
「龍、龍華さん……。う、っう、っう。」
その言葉に、レノアは泣きながら崩れ去った。
凛とした声も、今までの急変した態度も、彼女の性格からものだろう。しかし、地というのは、どこに出もいる普通の少女なのだ。
「詳しく教えてくれるか？ レノア？」
「はい……何もかも話します。もう時間がないです。」
３人は空を見る。
いつ開いてもおかしくない。門。
干渉すると、とんでもないことが起こるという世界の干渉らしい。
レノアが語り始める。
「私は都市伝説にある、帰昔線の終着にあった、力の根元を“生まれながらにして”持っています。その能力は、平行世界を繋げるか、閉じるかの門を開くことです。余り干渉しても問題ない世界を感知し、そして、その各々の世界の均衡を保つために存在しています。その鍵であり門番なのです。其れは歌によって発動・強化できるのです。」
その真実は、彼女の責任が重くのしかかっている。助けて貰いたいが、其れが難しいのだと、思い悩んでいたのであろう。
レノアは続ける。
「ヴォイド・サーヴァンは、虚無の作られた神、虚無の一部と思って下さい。故に、『有って無く、無くて有る』矛盾的存在。魂を持っていないけど意志がある物です。死神としての魂を狩る力は使えないと思ってください。彼らは、虚無は一つの空間を知りました。その危険性は最たる物で、“すでに虚無神を顕現させて、破壊を行う世界”なのです。彼らは私と家族を狙い、無理矢理にも門を開けさせようとしました。しかし、私はかろうじて逃げようとしたのです。そしてこれが結果になったのです。」
そこで彼女は話を終わらせた。
「分かった。おぬしの手助けしよう。しかし、１人で抱え込むな？」
「はい。」
「僕も空間のことならだいたい分かる。封門が仕事だ。こういう状態でも、何でも、見捨てるわけにはいかない。それに、僕は約束したし、レノアを守るって。」
未刀が言う。
レノアはその言葉を聞いて、涙ぐんでいた。
「ありがとうございます。ありがとうございます。」
「お礼はすべてが終わった後だ。」
２人に抱き締められても泣いているレノアだった。
公主は、彼女の背中を見る。
天使の翼が煌めいている。其れはとても美しく儚い物と感じている。
はじめて出会ったとき。
危機が訪れようとしたとき。
平穏な時間を過ごして居たとき。
未刀と仲が良いことに嫉妬したとき（これを思い出した時はさすがの公主も米神にしわを寄せてしまう。まあ、すぐに平静さを取り戻したが）。
その様々な想いが公主の使命感をたぎらせる。
ヴォイド・サーヴァンは、仙人として生命の均衡を守る死神として、狩らなければならない存在だと。そして、あの危険な宝具を、取り戻さないと行けないと。
なにより、レノアの本当の笑顔を見たい。公主も未刀も思うのであった。
６話に続く
■登場人物
【1913 麗龍・公主 400 女 催命仙姑】
■ライター通信
滝照直樹です。
『蒼天恋歌 ５ 境界線』に参加してくださりありがとうございます。
戦闘は派手にやってみました。宝具が怖いです。危険です。取り扱い注意です。ヴォイドにとってこれは好都合なアイテムでした。人より生命力のある公主さんであるから何とか出来たと思います。
説得については、妹分として接することとを端的に（長々言うよりかすっぱりと）、言う感じで書いてみましたがいかがでしたでしょうか？
６話も又波乱続き。戦闘はラストスパートです。レノアはどうなることでしょうか？
又の機会にお会いしましょう♪
滝照直樹
20061121
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