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迷い込んだ洋館
あなたはSHIZUKUと遊んでいた。
カラオケに行ったり、B級グルメの味を楽しんでみたりと至って普通。
しかし、楽しい一時もつかの間、大雨に遭遇し、急いで近くにある廃屋の“中”で雨宿りを決め急いで中に入った。
緊急避難なので、不法侵入とかで怒られるのは堪忍して欲しいとは思ったのかどうかは定かではない。
雨は激しく降り、風も強い。あなたは天を睨み、気象庁を恨んだ(降水確率0%っていったじゃない! というように)。
「傘も壊れそうな勢いだね〜。」
と、SHIZUKUはハンカチで雨に濡れた自分の顔を拭く。
廃屋といっても、見た目は立派な洋館だった。ただ、中は埃っぽくて薄暗い。
ただ、この辺にこんなものあったのかな? とあなたは思う。
奥の方から何か物音がした。
あなたとSHIZUKUは振り向く。
風の所為か? 何か居るのかわからない。
「? 雨も止みそうにないし、此処だと寒いし、中調べようよ。」
と、SHIZUKUが笑う。
あなたは、大雨の中で洋館に雨宿りをして……と言う不吉なシチュエーションに寒気が走った(もしくは楽しそうだと思った)。
あなたが止めるにせよ進んで入るにせよ、SHIZUKUはあなたと共に入ろうとする。
「確かこんな館の噂あったよねぇ……。雨にならないと現れない廃墟の洋館……。」
SHIZUKUが言った。
「もし、其れだったら楽しいなぁ!」
先にある好奇心が、支配していた。
〈1〉
ササキビ・クミノはSHIZUKUをジト目で見ていた。
SHIZUKUは演技が上手いというわけでもない。実際の所、この遊びの時、SHIZUKUの鞄の中に折りたたみ傘が二つも入っていることを知ってから、
「今日は雨が降る事はないはずだが?」
「念のためだよー。念のため。」
と、かわされていた。しかし、棒読みのような気がするのは気のせいではない。
何しろ依頼といわれて、仕事の気持ちで言ってみれば、なんとまあ、遊びに行くだけという。夏という怪談にうってつけの時期はなくなったため、SHIZUKUにしてはしばらくオフが続いているので、彼女からすればそのお礼をしたかったのだろうと、色々考えてみる。しかし、彼女の頭に、「そんなたいそうなこと」が思い浮かぶのか疑問だ。SHIZUKUの頭の中は、不思議探検とパソコンなのだから。
滅多に外に出ない(出たくはない)クミノは、SHIZUKUに引っ張られるかのように、町中を歩く。カラオケという場所は行きたくないと、クミノは言ったので、
「んじゃ、B級グルメ色々さがそ♪」
と、言うのだった。
心なしか、恐怖が走る。
歩き食べるという、事を想定にすれば、絶対出てくる物。
甘味。スイーツ。
彼女の甘味の苦手は度を超す。和洋折衷の中で、何かの“派”は存在する。たとえば、和菓子の余り佐藤を使わずに果物や小豆の甘味を使うは大好きなのだが、洋菓子の砂糖やクリームがダメ。その逆もある。しかし、クミノは甘味自体がダメだった。SHIZUKUは其れを知っているのにも関わらず、彼女をケーキの美味しい喫茶店に連れ込ませるのだ。あと、ワゴン車で販売する移動クレープ屋のルートを調べされられていた。昼などは中華街のような所での飲茶だったが、殆どが甘味屋ハシゴという結果になっていた。クミノは付き合いで少しだけ食べるかと思うわけだが、近づけただけで卒倒寸前に陥る事に。鯛焼きやあんこを使う物は、固辞して食べなかった。珈琲が手放せない状態であった(タコヤキが唯一全部食べることの出来る物だった)。
拷問のようなSHIZUKUのオフ会(?)に付き合わされたあげくに、この異常な雨に遭遇したのである。
「本当は、これを狙っていたのだろ?」
「あ、やっぱりばれた? でもね? こうも一発で遭えるとは予想外だったけどねー。この洋館に。」
クミノはジト目でSHIZUKUに訊いた。ついでに、SHIZUKUが洋館といったとたんに、青筋が浮かびそうな怒りを覚えるクミノであるが。
「怒った?」
「いや、怒っていない。気にするな」
彼女は “ヨウカン”と云う語句に敏感である。甘味が大の苦手。アレルギーに近いほどの苦手なために、その言葉は禁句なのだ。どうしても怒りがこみ上げてくるらしい。
自分の能力を駆使すれば、傘要らずの彼女だが、制御不能の障壁によって雨を“遮断”すると、自分が不思議存在と言われ、24時間以上は生命を近づけさせたくない彼女にとって、厄介な事になる。人混みの中では、一番厄介な力であった。其れを緩和するための障気を発散していた。故に彼女もずぶぬれだ。この時は仕方ない。傘があっても、あの降水量ではかなりびしょ濡れになるのだった。
「たしかに、この雨の様子は尋常ではない。これが、依頼か?」
B級グルメの甘味に何とか耐えて、顔面青白い顔を何とか元に戻すクミノが言った。
「調査お願い。ね?」
茶目っ気のある笑顔で“お願い”の仕草をするSHIZUKUである。
クミノはため息をついた。
「こんど、美味しいお店紹介するから。もちろんデリバリーできる!」
「甘味なら勘弁ねがいたい。」
全く私としたことが、と顔に見せているが、この状態を回避するにあたり、自分がこの館の核を破壊するしかないだろうと思っていた。迷い込んでしまった以上、神隠しの現象の一種であることは分かる。断ってしまうと、SHIZUKUだけでも1人で先先進んでしまいそうだ。其れが怖い。
〈2〉
「私が先導する。SHIZUKUさんは後に付いてくるように。」
クミノは、どこからともなく拳銃を取り出し、軍隊が屋内を警戒して歩くような動きを見せる。SHIZUKUにも壁に背を当てて進むように言う。SHIZUKUもそれに倣った。
壁に背中を当てて、近くの扉を開け、素早く銃をその先に突きつける。廊下のようで暗い。障気により先はみえるのだが、後ろにいるSHIZUKUにはその恩恵がない。暗視ゴーグルを出しても良いのだが其れは自分にしか使えないので、全く意味がない。
その考えは捨て、次の扉を探す。途中沢山の扉などがあった。
一つ目を侵入。そこは使用人の部屋のようだ。
一見、さすがのクミノも、使用人の部屋と云えども、さすが豪邸の一室だなと、思わせる広さであった。
「へっくし。」
後ろでクシャミがした。
SHIZUKUのクシャミだ。
「風邪引くか……。」
この古びた洋館は、歩いているときに不思議な気がした。
そう、埃が全くない。常に掃除されている。ネットカフェを任せているロボットが居るが、それらが掃除しているように、綺麗である。細かいところはどうか? 省く。
傘を用意しているのにタオルはないのかと、ため息をついたクミノをよそにSHIZUKUがクローゼットを漁りだした。
「こら、何かのトラップがしかけられている!」
「もう、風邪引くからお借りしようよー。問題ないって。」
「……。」
尋常ではない、この空間に超常的トラップが在るのか警戒しているクミノとは正反対のSHIZUKUである。頭をタオルで拭いて、鼻歌を歌っているのは、気楽な物だとクミノは思っていた。
幸い、甘味の匂いも幾分とれたようで、気分は何とかましになっているクミノ。神経をとぎすまして、各所を調べていく。
1階には、其れといった物はないが、食堂とキッチンには近寄らなかった。数歩進んだときに、あの、彼女にとって苦手な存在があるときが付いたのだ。SHIZUKUを引っ張り退却したのは云うまでもない。クミノは死地をくぐり抜けた技術や昔の職業(暗殺者じゃないと誇示するが。性能はどう見ても其れだ)の勘が、こういうときに役に立っているのはどうかと常々思う。ただ、こういったことに関わってから、違うのは過去の仕事とは関係殺伐とはしていないこと。不思議な感情がそこにあった。
2階に登る。
廊下には鎧が飾っており、ハルバードなどのポールウェポンを携えていた。2体発見。
「これっていかにも動きそうだよね?」
SHIZUKUが指を差す。
「余り刺激を与えては行けない。本当に動くかも知れない。最も今壊したとして、再生しそうであるが。」
クミノは、冷静に分析する。
何かを書く音がする。そして紅茶の香りがしていた。
「人がいるな……。」
「え? そうなの?」
「人とは言えないかも知れないが。」
警戒を一層強くする。
後ろでは、わくわくしてはしゃぎたい一心の女の子。まったくクミノとは対極であった。
ノックするべきかそのまま突撃して、此処に住まう存在を捕縛確保するか悩む。自分は此処を切り抜ける自身はあるが、SHIZUKUには全くと言っていいほどない。慎重に事を進める必要がある。
「私が、その場所を制圧する。」
今の状況ではSHIZUKUの生命優先だ。
クミノはそう判断した。
〈3〉
ドアノブに手をかける。紅茶の香りは、アールグレイか? まあ、その辺はどうでも良い。
重苦しい木の扉を開けて、飛び込んだ。
そして銃を構える。
とたんに紅茶より、血の臭いが強くなった。
「!?」
「!?」
部屋は書斎のようで、扉から正面にある机に、ルネッサンスぐらいの貴族衣装を着ている初老の男が座っていた。紅茶を片手に持っているが、何かおかしい。
「血気盛んなお嬢さんだ。その分、血が美味かろう。」
「クミノちゃん! 鎧がこっちに向かってくる!」
「吸血種とその僕か!? SHIZUKUさん! こっち!」
クミノは、SHIZUKUを引き寄せ、後ろに隠す様に庇い、その部屋から逃げる。しかし、男は机に隠れていた。武器を召喚するも、相手の攻撃力とおなじぐらいにポールウェポンが出てきた。
――ああ、もうこういうときはショットガンとかでないのか!
毒突いても始まらない。手持ちのすでに召喚携帯している銃では、あの鎧を貫通させないだろう。
原因は、どうも、あの机にあるらしい。
血の臭いと紅茶の香りに混じってわずかにある、
ケーキ。
ケーキの甘い香りが、彼女の能力を落としているのだ。能力の武器召喚のレベルは「比例」から「同等」に落ちていたのである。ポールウェポンが出ただけましだ。短剣だったらリーチで勝てない。クミノは瞬間時にマイナス思考を打ち切り、すぐさま襲いかかる鎧に足払いをしかけ、倒れたところに念動力の補佐にて、鎧のベルトなどをちぎり、ばらした。
SHIZUKUは、後ろの方で震えているが、怪我はない。
お互い接敵無いのは初老の男。クミノから発する障壁が彼を阻んでいるから。
しかし、クミノもこれ以上近づけない。それは、机にケーキがあるから。
ヨウカンのような、余り匂いのしない菓子で失神するほどならば、ケーキではまず意識不明の重体になる。今まで何とかしのいでいるのは、障気による念動力により、抑えているからだ。クロスボウを召喚したものの、吸血種にどう対抗すればいいか考える。
銀のボルトにはしたが、はたして「あの男に効くか?」だ。
このところ、あらゆる弱点を克服した物が多いから困り果てている。全くなんて世の中だ、と思うクミノだが其れを考えるのは此処を出てからだ。
「私たちを現世に帰して貰いたい。」
「……。」
沈黙。
「可能ならば二度と、この世界には現れないで欲しい。」
男は答えない。
「ほむ。お嬢さんの血を吸いたくても無理があるようだ。」
紅茶を飲みながら男は言った。
「久々に、人間の生き血を吸えると思ったが誠に残念だ。」
と、呟くが。
「何故こういう物を作った?」
こういう物とはこの洋館である。
「ああ、それは答えよう。私がこの種になったときに、世界が閉ざされただけだ。それ以上も以下でもない。」
と、彼は語る。
過去に、晩餐を開き、彼は客と家族の惨殺、血を吸ったのだ。
鎧を纏い、剣を持って殺し、生きている物は拷問をしたという。
クミノは余り感心がなさそうだが刺激しては行けないと思い、聞いている。SHIZUKUは、怖がりながらも、メモを取っていた。
「鎧を簡単に倒すなら、私には勝ち目はない。安全に送り返そう。」
「……。もう迷い込むのはお互いによした方が良いな。」
と、ある程度、妥協点が付いた。ようだ。
(クミノが目の黒いうちと解釈したのだろうか)館は今後現れないこと。その代わり世界の存続は可能。その代わりクミノも積極的に関与しないというあたりに落ち着いたようだ。
鎧が再び立ち上がり(再生した模様)、道を案内するために、かしこまった仕草をしている。 SHIZUKUもこの世界の法則を聞こえたので満足したようだ。
かくして、この洋館の遭遇は、無事に怪我もなく出ることが出来た。
SHIZUKUのサイトでは、にぎやかに洋館の話が書かれているが、クミノには全く感心がない。それより、色々甘味に曝された所為で、寝込んでいた。かなり精神的にも肉体的にも参っている。当分、B級グルメも不思議事件もお腹いっぱいだと思っていた。今まで通った、甘味処の位置は把握した。匂いがきついところは通らないでおこうと、心に誓っている。
あるひ、一件のメールが届く。SHIZUKUからだった。
「先日はありがと。辛い物は好きなの? もし大丈夫なら……激辛ものの美味しいお菓子とか送るね。」
と、書かれていた。
お礼のメールだった。
非日常から日常に戻ったような気がする。くだらないやり取りが甲も心地がよい物とは考えていなかった過去を思い出す。表には出さないが。昔ならばそう言うことはなかったから。
携帯を閉じ、クミノは、ベッドに潜る。今度はどんな問題が自分に振ってくるのかと不安期待半分で、夢の中に入っていった。
END
■登場PC
【1166 ササキビ・クミノ 13歳 女 殺し屋じゃない、殺し屋では断じてない。】
■ライター通信
滝照直樹です
このたび、「迷い込んだ羊羹」ではなく、「迷い込んだ洋館」に参加して頂き、ありがとうございます。
館の真相もある程度わかり、SHIZUKUは感謝している模様です。ただ、期待通りの謝礼は出るかというと、彼女らしい形で再び、何かしら事件になるでしょう。
楽しんでいただけたなら幸いです。
ではまた機会があればお会いしましょう。
滝照直樹
20061205
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