コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談・PCゲームノベル>


Dead Or Alive !?

 妙にリアルな夢だった。
 夢だとわかっているのに、人々の悲鳴や体への衝撃がダイレクトに伝わってくる。
 あれは・・・・・・車。
 大きなトラック。
 轢かれたのは私。
 腕を動かそうともがくのに、ちっとも動いてくれなくて。
 空は青いはずなのに、真っ赤に染まっていて。
 ただぼんやりと意識が遠ざかっていくのを待つ。
 そんな夢だった。


【皆でお茶を〜樋口・真帆〜】


「樋口・真帆。17歳の高校生兼見習い魔女・・・あんたで間違いないな?」
 良く晴れた日曜日。こんな日に仕事だなんて本当に嫌になってくる。まあ、ナイトメアの休日は人間界とは異なるのであまり関係ないのだが。
「間違いないよな!?」
 なかなか反応が返ってこないので、綺音はもう一度尋ねた。目の前の少女は今初めて綺音と深紅の存在に気付いたとでもいうように目を瞬かせる。
「はあ・・・確かに私は樋口・真帆ですけど・・・何か御用でしょうか?」
 ――何かやたらまったりした奴だな
 調子が狂いそうになったが、何とか踏み止まり事の顛末を彼女に説明してやった。
 人間の命の管理をしている世界・ナイトメア。そこにある死亡予定リストに誤って真帆の名前が載ってしまったこと。そのリストは絶対で、一度名前が載ってしまったら綺音達・生命の調律師が関わらない限り確実に死んでしまうということ。
 話終わると、真帆は数テンポ間を置いてから「えっ」と声を上げた。先程からどうにも反応が鈍い。
「やっぱり私、死んじゃうんですか?今日は新作のケーキが出るのに・・・」
 驚いた様子もなくどうでもいいことを呟く彼女に、綺音は面食らってしまった。横にいた深紅が一歩前に出る。
「そうなんだ?それってどんなケーキ?」
「ミルフィーユなんです。生クリームにも苺のペーストが混ぜてあって、見た目も可愛くて・・・。もう本当においしそうなんですよ〜」
「へえ〜」
 苺ベースの生クリームを使ったミルフィーユ・・・
 確かにおいしそうだと一瞬深紅達の会話に乗りそうになってしまったが、雑念はすぐに振り払った。
 深紅の頭を思い切りはたく。
「痛っ!」
「話の腰を折るな。アホ」
「何だよー。僕より綺音の方が甘党のくせに」
「黙れ」
 もう一度叩いてやった。
「あんたさ・・・急に俺達みたいなのが現れて、今日死ぬなんて言われてさ・・・驚かないのか?普通は焦るんじゃねーの?」
「えーっと・・・」
 真帆は困ったように小首を傾げる。
「実は今朝、車に轢かれる夢を見たんです。だから、たぶんそれじゃないかな、と思うんですけど」
「夢?」
「私の夢、よく当たるんです」
 そういえば、先程目を通した彼女に関する書類に「夢見の魔女」と呼ばれる家系と書いてあったような気がする。
 事前に何となくわかっていたから、驚かなかったのか。
「で?あんたは大人しく死んでやるつもりだったのか」
「まさか。だって綺音さんと深紅さんが助けてくれるんでしょう?」
「まあ、な」
「それなら、よろしくお願いします」
 深々と頭を下げられた。彼女は顔を上げるとにっこりと微笑む。
 どうやらかなりマイペースな性格のようだ。
 深紅を見ると、「こちらこそよろしく」と同じように頭を下げている。
 ――ほのぼのマイペースが二人・・・
 綺音は肩を落とし、大きな溜息をついた。

 真帆の提案でいつも彼女が通っている道を歩くことになった。一応の事故現場はリストに書いてあったので、変に違う道を通るよりもそちらの方が確かに安全だろう。
「ところで、間違ってリストに載っちゃったのなら、消しちゃえばいいんじゃないですか?」
 真帆の提案に、綺音は首を横に振った。深紅が言葉で続ける。
「僕もそう思って一度やってみたことあるんだけどさ。水で濡らしたりしてみても絶対に消えないんだよな」
「当たり前だろ。人の命がそんな軽く扱われてたまるか」
「・・・あ」
 真帆が何の前触れもなく手をぽんっと叩いた。何事かと彼女の方を見る。
「そっか。消しちゃえばいいとか、人の命をそういうふうに軽く考えちゃいけない・・・。綺音さん、いい事言いますね♪」
「あ・・・?」
 一人で納得して一人でうんうんと頷く真帆。
 やはり独特のテンポで生きているようだ。どうにも調子が狂う。
「そうだ!お仕事終わったら一緒にケーキ食べませんか?美味しいんですよ、そこの喫茶店のケーキ」
 真帆が指差す先には、お洒落な雰囲気の喫茶店があった。人気のある店のようで、女の子達が数人楽しげな笑い声を上げながら入っていく。
「もしかしてさっき言ってた新作ケーキのお店?」
「ええ」
「だってさ、綺音」
 俺に振るな。
 内心毒づきつつ、にこにこと笑っている真帆の方に顔を向ける。
「俺はケーキは別に・・・」
「甘いもの嫌いですか?」
「綺音は超甘党だよね。いつも紅茶に砂糖7杯は入れるし。ケーキだって・・・」
「深紅!」
 慌てて深紅の口を塞ぐ綺音に、真帆は不思議そうに首を傾げていた。どうして隠したりするのかと目が問いかけている。
「・・・男がケーキだとかパフェだとか好きってさ、何かおかしいっていうか格好つかなくねえ・・・?」
「どうしてですか?」
「そりゃあ・・・」
 甘いもの=女の子というイメージがついているからで。
「甘いものって食べると元気が出るし、幸せな気持ちになれるじゃないですか。そんな素敵なものが女の子だけのものだなんておかしくありません?」
「・・・」
「と、いうわけなので食べに行きましょう?」
 満面の笑顔でそう言われてしまうと、断れるわけがない。渋々頷くと真帆は嬉しそうに「良かった♪」と微笑んだ。
 しばらくそうやって取り留めのない話を三人でしていた。真帆には周りを和ませる力でもあるのか、綺音も何時の間にか彼女のペースに乗せられていた。自然に緩んでしまう頬に落ち着かない心地がしたけれど。
 ふと
 真帆の体が傾いた。慌てて支える。
「どうした!?」
「え・・・っと・・・急に立ち眩みが・・・」
「綺音。この道って・・・」
 はっとする。何時の間にか事故現場まで来ていたのだ。ここからは気を引き締めてかからなければ。
 とりあえず真帆を連れて道の端まで移動した。
「ずっとここにいりゃ大丈夫だろ」
「どの車かなあ・・・」
「夢ではトラックでした」
 トラック。
 そんなものに轢かれたら即死だ。
 息を呑みつつ立っていると、しばらくして道の向こうにトラックの姿が見えた。
「真帆」
「・・・あれだと思います」
「・・・そうか」
 あれさえ通り過ぎてくれれば一先ず安心ということだろう。
 あと20m、10m、5m・・・・・・
「あっ」
 最初に声を上げたのは三人のうちの誰だったのか。
 体の反応が早かったのは真帆で。
 気付いた時にはすでにトラックの前に飛び出した子供に向けて、走り出していた。
「真帆!」
「真帆ちゃんっ!」
 咄嗟に深紅に目配せする。意図が伝わったらしく深紅は頷いた。
 綺音の体の中には深紅の式神である「白虎」が宿っている。深紅がその式神に命じれば、綺音は人間離れした身体能力を発揮することができるのだ。
 白虎の力を借りて走れば、間に合う!
 綺音は必死で地面を蹴り、子供と真帆の体を軽々と抱え上げるとその先の地面に転がり込んだ。すぐそばをトラックが通り過ぎていく。
「・・・ギ・・・ギリギリセーフ・・・」
 追いかけてきた深紅が綺音から泣き出してしまった子供を預かり、なだめてやる。真帆はきょとんと綺音の顔を見上げた。
「び・・・吃驚しました・・・」
「吃驚したのはこっちだよ・・・無茶なことしやがって」
「だって、綺音さん達が助けてくれるんでしょう?私、信じてましたから」
 肝が据わっているのか、単に天然なのか。
 ここまで今日会ったばかりの人間を信じきれるとは・・・
「ねえ、ちょっと綺音!」
「あ?」
 すっかり疲れてしまって動くのも億劫だった綺音は顔だけを深紅の方に向ける。
「この子供も死亡予定リストに間違えて名前が載っちゃってた子だよ」
「・・・・・・本気で?」
「ほら!」
 深紅が書類を突きつけてくる。真帆の書類の下に隠れていたらしい。そこまで目を通していなかった。
「良かったね・・・偶然だけど、ちゃんと助けられて」
「ああ・・・」
 危ないところだったが、始末書は書かないですむようだ。



 すぐに帰ると言ったのだが、お礼に奢ると言って聞かない真帆の勢いに押されて、三人で喫茶店に来ていた。
「ここ、紅茶もおいしいんですよ。綺音さんはお砂糖7つでしたよね♪」
 人がいる中でそんなことを口に出すな!
 と、怒鳴る気持ちにはなれなかった。完全に彼女のペースにはまってしまっている。
 でもまあ・・・

「綺音さんはどのケーキにします?」
「・・・・・・苺のミルフィーユ」
「何だ。やっぱり綺音も食べたかったんじゃん」
「うるせ」
「ふふふ」

 せっかく来たのだから、楽しんでやってもいいかもしれない。
 幸せそうな真帆の笑顔を見て、そんなことを思った。



 甘いケーキに、おいしい紅茶
 さあ、楽しいお茶会を始めましょう?


fin


□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

PC

【6458/樋口・真帆(ひぐち・まほ)/女性/17/高校生・見習い魔女】

NPC

【鎌形深紅(かまがたしんく)/男性/18/生命の調律師】
【紺乃綺音(こんのきお)/男性/16/生命の調律師・助手】


□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

こんにちは。ライターのひろちです。
納品の大幅遅延、申し訳ありませんでした・・・!

真帆ちゃんはほのぼのーっとしたイメージの子だったので、同じくほのぼのーっとした深紅の方と絡ませようと思ったのですが、結局綺音の視点で書かせて頂きました。
綺音はどちらかというときびきび動くタイプなので、真帆ちゃんには随分と調子を狂わされていたようです。
最後のシーンは楽しい雰囲気が伝われば良いのですが。
少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

本当にありがとうございました!&すいませんでした!
また機会がありましたら、よろしくお願いします。