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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


必死のダイエット


●序

 草間興信所に、一人の女性が訪れていた。彼女は自らを椿・加奈(つばき かな)と名乗り、一枚の本をすっと草間の前に差し出した。妙に古臭い。
「何ですか、これ。ええと……花まじない大辞典?」
「家の蔵にあったんです。私はおまじない大好きですから、読んでみたんですね。そうしたら」
 椿はそう言い、ぱらぱらと本をめくってページを開いた。そこには、表紙の古臭さを裏切らない古めかしい字が書かれてある。体重減量のまじない、と。
「これって、ダイエットの事ですよね。だから、試してみたんです」
「はあ、ダイエットねぇ」
 草間はそう言って、椿を見る。椿は誰が見ても「ぽっちゃり」していた。ダイエットに興味を持っても、おかしくなさそうな体型である。
 そんな草間の視線に気付いたのか、椿は頬に手を当てながら「やだ」と言って照れる。
「そのお陰か、一ヶ月で5キロ痩せたんです」
「5キロ、ですか」
 元の体重を聞くのが怖い。
 草間は乾いた笑いを浮かべつつ、まじないの内容を確認する。
 川原に生えている花を探す。なるべく、たくさん生えているものがいい。見つけたら、その中で一番小さな花を一本手で引きちぎる。あとは包帯などを使って、花を左腕に巻きつけるだけだ。
「今もやっているんですか?」
「もう5キロも痩せたし、やめようかなーと思ったんです」
 もういいのか。草間は「もう少ししてもいいのでは」という言葉をぐっと飲み込む。
「だけど、包帯を取ったら……」
 椿はそう言い、袖をぐっと肩まで引っ張って左腕をむき出しにする。そこには、花が腕から生えていた。腕の部分に根付いてしまっているのだ。薄紅色の花が咲き誇っている。
「医者に行く前に、見てもらおうと思ったんです。ほら、ここってこういう怪奇現象に慣れているみたいだし」
 慣れたくて慣れたんじゃないのだが。
 草間はため息をつきつつ、本に目を落とす。すると、端の方に小さく文字が書かれていた。
「……ただし、一ヶ月以上はしないように。一ヶ月以上になると花が完全に体と同化し、花が枯れれば命を落とす。花を切り落とすも然り。強制解除するには」
 草間はそこまでいい、口を閉ざす。
 花によって落とされた体重の倍を、落とせと書いてある。それも、一週間につき二倍。一週間なら二倍を、二週間ならば四倍を落とさなければ解除できないとあるのだ。
「ダイエットすれば、いいみたいですよ。それも、過激な」
 真顔で草間が申告すると、椿は「えー」と言って、同じく真顔になって草間の手をぎゅっと握り締めた。
「……何とかしてくれますよね。乗りかかった船ですもんね」
 今度は草間が「えー」という番であった。


●集合

 椿の左腕に生えている花を切れ長の青い目でじっと見つめ、シュライン・エマ(しゅらいん えま)が「それで」と呟く。
「今、何日をオーバーしているのかしら?」
「今日で二日です」
「つまりは、10キロという訳ですか」
 パティ・ガントレット(ばてぃ がんとれっと)はそう言い、肩を竦める。その際、傍らに置いてあった盲人用の細い杖がカタリと揺れた。「魔力による寄生なんていう面妖なものを、体重を落とす秘術と伝達するものの神経は分かりませんね」
「切ったり枯れたりしたら、駄目なんでぇすよね?」
 露樹・八重(つゆき やえ)はにっこりと笑いながらそう言い、椿の花をぐいっと引っ張ってみる。体長10センチといえど、力は充分。思わず椿は「いたっ」と叫ぶ。
「あら、駄目よ。何が起こるか分からないんだから」
 めっ、と藤井・せりな(ふじい せりな)が軽く八重を嗜める。
「無駄毛と一緒だと思ったでぇすよ。剃ったら濃くなるけど、抜くのは大丈夫っていう」
「違うと思います。やはり、ダイエット方法を行使するのが良いでしょう」
 マシンドール・セヴン(ましんどーる せぶん)がそう言って、ちらりと手にしている本を見た。本の表紙に、赤い夕日を背負ったボクサーの濃い絵が描かれてある。
「暇だったから来ただけだっていうのに、こんな事に巻き込まれるなんてな」
 夕月・剣龍(ゆうつき けんりゅう)は、そう言いながらちらりと草間の方を見る。草間は「仕方ないだろう?」と言って、にやりと笑った。
「お前が良いタイミングでここに来るからだ」
「仕方ないな、手伝ってやるよ」
 剣龍は再びじろりと草間を睨みつける。草間は「まーまー」と言いながら、皆に向き直る。
「俺も文献を見たんだが、ダイエットをして体重を落とす以外に良い方法はなさそうなんだ」
「強制解除と聞いていたので、正規の解除法もある筈と思っていましたが」
 パティがそう言うと、草間は肩を竦める。
「その正規の解除ができる期間を過ぎたんだよ。本来なら、一ヶ月に到達する前に解除しなけりゃいけなかったんだ」
「その正規の解除方法はどうすればよかったのかしら?」
 シュラインが首を傾げると、草間は「簡単だ」と言いながら、椿の花を指差す。
「抜けばいいだけだ。その花を」
「でも、抜けなかったでぇすよ?」
 不満そうに八重が言うと、セヴンが「だからでしょう」と言って頷く。
「抜けなかったからこそ、正規の解除方法が無理だということです」
「とはいっても、あんまり過激なダイエットをしたら倒れてしまうわよね」
 せりながそう言ってじっと椿を見る。体がぽっちゃりしているとしても、全く食べないというのは体によくない。
「花が枯れるのもいけないんだったよな?」
「ああ。現段階で、花と半同化しているからな」
 剣龍の問いに、草間が答える。剣龍は「なるほど」と言って小さなため息をつき、椿の方を見る。
「注意書きはちゃんと読まなかったのか?」
「だ、だってすっごく小さい字だったから」
「それじゃ、自業自得だ。……しっかりと減量してもらうからな」
 剣龍はそう言い、じろりと椿を見る。小さな声で「厳しいかもしれないが」と付け加えながら。
「だけど、それで美味しいものを食べても運動しない、自堕落さんな生活をしていたんじゃないでぇすかね?」
 八重はそう言って、にやりと笑いながら椿を見る。椿は「うっ」と言葉につまりつつ、渋々頷く。
「それだと、単に断食ダイエットしても根性無しだから続かないと思うのでぇすよ」
 食べても太らないという、大変ありがたい体質をしている八重の言葉に、再び椿は言葉につまった。
「あら、大丈夫よ。その為に皆がいるんだし。それに、ガリガリじゃ難しいけれど、余裕のある柔らかな優しい体つきをなさっているから充分落とせるわ」
 シュラインは微笑みながらそう言って「大丈夫」と付け加えた。
「あ、有難うございます」
「私は食事面で協力するから、肉体酷使は他の詳しい人に任せるわね」
 さらりと「肉体酷使」という言葉を使い、シュラインはにっこりと笑いながら割烹着を取り出す。
「私も食事面の方で手助けするわ。全く食べないのは良くないものね」
 せりなも頷きながらそう言い、鞄からエプロンを取り出した。
「ともかく運動しないとな。ジムとかっていう運動できる場所に行って」
 ルームランナーとか水泳とか、と剣龍が言うと、セヴンが手をすっとあげる。
「私が提案するのは、この本を用いたものです。これさえあれば、一週間後には燃え尽きる事間違い無しです!」
 セヴンの出した本は、件のボクシングっぽい表紙だ。皆がぽかんとする中、セヴンは嬉しそうに言葉を続ける。
「方法は、断食とハードトレーニ……」
「断食はいけないわ」
 きぱ、とせりなからの突っ込みが入る。セヴンは本をゆっくりとしまい、ぺこりと頭を下げる。
「大変申し訳ありませんでした。では、私からは組み手とマラソンダッシュを提案します」
 マシンドールと人間との組み手。そして、人間の限界にチャレンジせんばかりのマラソンダッシュ。確かに、激しい運動力が期待できそうではある。
「では、わたくしはロードワークについてきてもらいましょうか。この人外の膂力を持つ、わたくしの」
 力強くパティが言い放つ。魔人マフィアの頭目であるパティの行うロードワークは、想像するだけで力尽きそうになるほど体力を必要としそうである。
「なら、あたしは頭の上で常に励ましてあげるでぇすよ」
 にぱ、と笑いながら八重が言う。肉体酷使担当の三人の言葉に怯え気味だった椿が、初めてぱあっと顔を明るくする。
「励ましてくれるの?」
「勿論でぇす。お花が枯れたら、花のようにカサカサに乾いてお亡くなりになるのでぇすから」
 なむなむ、と呟きながら八重が言う。椿の顔が、軽く青ざめていく。
「それは脅しというんじゃないかしら」
 シュラインが苦笑する。
「それくらい危機感があってもいいかもしれないけど」
 せりなも、やっぱり苦笑気味だ。
「ま、皆ほどほどに頑張ってくれ」
 草間がそう言うと、椿が「ほどほどじゃ困るけど」と呟く。だが、すぐに皆が提案した事を思いだすと「やっぱり」と言い直す。
「ほどほどでよろしくお願いします」
 ぺこり、と頭を下げる椿に、皆がこっくりと頷くのだった。


●減量作戦

 早速外に飛び出したのは、パティ、セヴン、剣龍、そして八重の四人だった。もっとも、八重は椿の頭の上に乗っているのだが。
「ど、どこまでいくんです、か」
 息も絶え絶えに、椿が尋ねる。
「どこって、俺の知っているジムだ」
 さらりと剣龍が返す。
「ほら、ペースが落ちていますよ。しっかり走ってください」
 軽やかに杖をつきながら、パティが叱咤する。
「そうは言っても、いつになったら着くんです、か」
「隣町だそうですから、あと少しです」
 どう考えても「少し」ではない距離を、何事も無いようにセヴンが答える。
「む、無理です!」
「無理なんていってられないのでぇすよ。言う事を聞いてダイエットに専念するのでぇす」
 椿の頭の上で、八重が「でないと、しんじゃうでぇすよ」と恨めしそうに言う。椿は「ひい」と言いながら、ともかく走る。
 否、既に走っているという様子ではない。体を動かし、前へと進んでいるといった方が正しいかもしれない。剣龍にとっては別に気にするほどの距離ではないし、パティにとっては普段のロードワークよりも簡単、セヴンにとっては歩いているのも特に変わらない、八重にいたっては頭の上で楽ちん状態である。
 しかし、普通の人間、それもぽっちゃりという体型に区分される椿にとって、それは苦痛でしかなかった。普段から運動する事なんて殆ど無かったし、あっても軽く友達と喋りながらスポーツを多少嗜む程度であった。
 全身の毛穴と言う毛穴から、汗が噴出してくる感覚だった。拭っても拭っても出てくる汗で、全身びっしゃりと雨に打たれたように濡れていた。喉の奥が痛く、常に渇いていた。時折水分補給はさせてもらえたが、休憩とは到底言えないくらいの短時間。
「このままじゃ、死んじゃいます」
 がく、と椿はその場に膝を着く。
「もう少しです」
 セヴンが声をかけるが、椿は「もう、聞き飽きました!」と叫ぶ。
「もう体が、全然動かない、んです」
 パティは「ふむ」と呟き、椿の前に立つ。
「これしかないのでしょう?」
「そ、それは」
 椿はぐっと言葉を飲み込む。
「ちゃんと注意書きを読まなかったんだろう?」
 剣龍の言葉に、椿は唇を噛み締める。
「このままだったら、枯れて死ぬだけなのでぇす。枯れて死んじゃうでぇすよ」
 八重がぞくぞくするような口調で、椿を脅す。椿はぐっと拳を握り、ふらふらと立ち上がる。
「い、いきます」
 顔に汗やら涙やら、はたまた鼻水まで垂らしつつも決心した椿を見、皆がこっくりと頷いた。
「準備運動はしっかりしておかないと、いけませんから」
 ぼそり、とセヴンが呟いた。椿は心の中で「準備運動?」と突っ込みを入れつつも、足を動かし始めた。
 今はセヴンへの突っ込みよりも、自分の体を動かす方に意識が動いたからであった。


 電車ならば5分、バスなら30分、徒歩なら1時間かかるはずの隣町についたのは、約40分後であった。椿はジムの前で、ぐったりと倒れこんでしまった。
「大丈夫か?」
 剣龍の問いに、椿は言葉を出す事もできずに首を振った。もう一杯一杯だという意思の表れだろう。
「いい運動になったようですね」
 息一つ切らすことなく、パティが言う。
「まだまだ、これからが本番ですけれど」
 セヴンはそう言い、椿を見る。早く立ち上がり、次の運動に移ろうといわんばかりだ。
「枯れそうなら、お水をあげるでぇすよ」
 八重はそう言って、にぱっと笑う。「枯れたら、死んじゃうでぇすからね」
「み、水、くだ、さい」
 絶え絶えに主張すると、剣龍がペットボトルに入った水を差し出してやった。椿はそれを受け取り、一気にあおった。何しろ出て行った汗の量は尋常ではないし、ずっと走り続けていたせいで(しかも全速力で)喉はからからに渇いていた。すう、と喉を通る水が、なんとも心地よい。
 椿は一気に飲み干し、ふう、と息をつく。始めてもらえたちゃんとした休憩に、ようやく落ち着いてきたのである。
「それじゃ、組み手を始めましょう」
 セヴンが椿に言い放つ。椿は「え、もう?」と怪訝そうな顔をする。
「そのような顔をしている場合ではありませんよ」
 パティが静かに言う。椿は助けを求めるように、剣龍を見る。剣龍は、ぽん、と肩を手において真顔になる。
「頑張るんだな」
 ひい、と小さな叫び声をあげていると、頭上から八重が「ふっふっふ」と笑いを漏らす。
「ちゃんとしないと、枯れて……」
「死んじゃうっていうんでしょう? わ、わかりました!」
 脅しに屈しつつ、椿は立ち上がった。目の前に聳え立つジムが恐怖の象徴にしか思えないままに。


●一週間

 それから一週間、日々悲しみが増大していくかのように進化していく肉体酷使と、美味しいながらもカロリーが極端に少ない食事が続けられた。
 月曜日、いつもの肉体酷使が終わった後に、シュラインが散歩がてらの軽い運動につきあってくれた。勿論、外食にふらりと心奪われそうになるたび、にっこりと笑いながら「食べる気?」と威圧してきた。
 火曜日、今度はパティが「わたくしのロードワーク」と称するものに連れ出した。初日に体験した、隣町のジムまで走っていくという所業よりも更に遠くまで走る羽目になり、またその走る速度も尋常ならぬスピードであった。
 水曜日、次にせりなが散歩に付き合ってくれた。二人でデジカメを持って出かけていた。紅葉の綺麗なこの時期、景色をデジカメで写しながら歩けばいい運動になるからだ。尤も、椿が甘いものに心を奪われそうになるたび、ばしん、とハリセンらしき物体が空を切っていたが。
 木曜日、更に剣龍が再びジムへと連れ出した。「とにかく運動」を提唱する剣龍によって、椿は水泳とルームランナーを用いた過激トレーニングを強いられた。花が枯れないようにと、水分だけはちゃんと摂取させてくれたが、それだけだ。水分摂取のための時間以外は運動し続けるという、大変厳しいものであった。
 金曜日、ついにセヴンが「組み手を」と言った。これまでずっと、セヴンは椿を監視していた。間食も夜食も許さぬよう、常に24時間続けて監視下に置かれていた。「寝ないんですか?」と恐る恐る尋ねる椿に「私はマシンドールで、その気になれば補給無しで250時間は連続稼動が可能です」と返されてしまった。ついでに「選択肢は与えるつもりはありませんよ」とも。地獄のような一週間になります、という予言まで残した。
 そして、そんな椿と常に一緒にいたのは八重だった。もっともこちらは椿のようなハードなダイエットをするわけではなく、頭上にずっとちょこんといるだけだ。ただ、椿が少しでもサボろうとすると「枯れて死んじゃうでぇすよー」と恨めしそうに言うのである。寝ようとしても同様に、耳元で囁く。夢にまでやってきた、と後に椿は語る。
 こうして、一週間は瞬く間に過ぎていった。椿にとっては辛い一週間だったが、とにもかくにも一週間経ったのである。
「随分、ほっそりしたわね」
 シュラインは椿を見て微笑む。一週間前に比べると、目に見て細くなっている。
「ダイエットをした甲斐があったわね。これで花が抜けたら、めでたしめでたしね」
 せりなはそう言って、にっこりと笑う。
「まあ、もし駄目ならもう一週間の地獄がやってくるだけですが」
 セヴンはさらりと言ってのける。椿が「ひい」と小さく叫んだ。
「これだけ手伝ったんだから、痩せてもらわないと困る」
 疲れ気味に剣龍が言った。ちらりと草間を見「今度お前のおごりで、酒でも飲ませろよ」とちゃっかり請求している。
「抜けるといいでぇすね。駄目だったら、哀しい結果になるでぇすよ」
 ふっふっふ、と八重が言う。どこかしら楽しそうなのは、気のせいか。
「体重計に乗ってみてください。一時でも痩せているのならば、花は抜けるはずです」
 パティはそう言って、体重計を指差した。椿はこっくりと頷き、そっと体重計に乗った。
 カラカラカラ、と体重計の針が動く。
「……あ」
 椿が声を上げた。針が指し示したのは、ダイエット開始前の11キロ少ない数だったからだ。
「やりました、やりました!」
 椿は叫ぶようにいい、涙まで流し始めた。よっぽど嬉しいのだろう。
「花、抜いてみろよ」
 草間の言葉に、椿は「はい!」と頷く。そうして、そっと左腕に生えている花を引っ張っていく。
 すぽんっ!
 そのような音とともに、花が綺麗に抜けた。花は黒っぽい色になっており、抜くとすぐにからからに枯れてしまった。
 皆がそれを見、嬉しそうに笑い合う。と、その中でぼそりとパティが呟く。
「こういうダイエット方法は、間違いなくリバウンドします」
 ぴた。
 喜んでいた皆の動きが、綺麗に止まった。パティは「迷いましたが」と言いながら、口を開く。
「わたくしの経験からですが。健康的なダイエットと言うのは、数ヶ月をかけて徹底的に筋肉をつけ、代謝を高めて脂肪を落とし、最後に筋肉を脱ぎ捨てるものですから」
「今回はこれしかなかったから、仕方なかったわよね」
 シュラインが言うと、セヴンもこっくりと頷く。
「今回はこれしかなかったのですが、これからは違います」
「それもそうね。これから健康的にダイエットする事だってできるもの」
 せりなはそう言い、ふふ、と笑う。
「今度は健康的に痩せるのでぇす」
 びしっと八重が言い放つ。椿は「えー」といい、明らかに嫌そうな顔をする。
「俺はパスだ。悪いが、次は自力でしてくれ」
 剣龍はそう言って、肩を竦めた。椿がその言葉にほっとすると、ぽん、と肩を叩かれる。
「大丈夫よ。今度は健康的になるように、食事制限も緩やかなものを考えてあげるから」
 にっこりと、シュライン。
「え?」
「今度は監視を少しだけ緩くしましょう」
 ぐっと拳を握るセヴン。
「ええ?」
「あ、水道水を飲むときはレモン汁を垂らすといいのよ」
 微笑みながら豆知識を披露するせりな。
「いりません、そんな知識」
「リバウンドしない為のダイエット法、試してみるのもいいでしょう」
 パティが真顔で言い放つ。
「いえいえ、もういいですって」
「またダイエット生活の始まりでぇすね」
 にやにやと笑いながら言う八重。
「始まりませんから」
 椿は軽く青ざめる。剣龍と草間のほうを見ると、二人は目線をすっとそらした。
「俺はちゃんとやったよな、草間」
「あ、ああ。この興信所としてはばっちりだ」
「あああ、止めてくださいってば!」
 びくびくしながら叫ぶ椿に、再びダイエットの恐怖が襲いかかろうとするのであった。


<ダイエットは計画的に・了>


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員 】
【 1009 / 露樹・八重 / 女 / 910 / 時計屋主人兼マスコット 】
【 3332 / 藤井・せりな / 女 / 45 / 主婦 】
【 4410 / マシンドール・セヴン / 女 / 28 / スペシャル機構体(MG)】
【 4538 / パティ・ガントレット / 女 / 28 / 魔人マフィアの頭目 】
【 5087 / 夕月・剣龍 / 男 / 25 / 獣医・暗殺者 】

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■         ライター通信          ■
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 お待たせしました、コニチハ。ライターの霜月玲守です。この度は「必死のダイエット」にご参加いただき、本当に有難うございます。
 ダイエットは半永遠のテーマですね。切羽詰ったダイエット方法が、皆さんの個性と合間見合ってとても楽しかったです。
 マシンドール・セヴン様、初めてご参加いただき有難うございます。いかがでしたでしょうか。さらりと提唱されるハードなダイエット法が楽しかったです。監視下に置かれた椿が、ガタガタ震えていそうです。
 今回は料理組と運動組で分かれております。宜しければ両方見てやってください。
 ご意見・ご感想等、心よりお待ちしております。それではまたお会いできるその時迄。