|
月見
ススキが生い茂り、夜になると虫が鳴く季節。
と思えば、短い秋である。
「一体何なのかの?」
田中裕介が、日本酒を持って長谷神社に向かう。
といっても、意識は 大鎌の方である。
服装は、いつもの感じである。
前もって、彼は電話にて長谷神社にて向かうと連絡した。とはいっても、文明の利器に四苦八苦する。便利になった世の中に感嘆と、ある種の恐怖から電話番号の打ち間違いで、他の人に怒られていたのは失態だった。慣れていないのだから仕方有るまいと、自分に言い聞かせている。
「もしもし、長谷神社でございます。」
可愛い女の子の声。
「おお、わしじゃわし。」
「わしとか言う知り合いはのはいません。お引き取り願います。」
その言葉に冷たさを感じた。
「あ、すまぬ。田中裕介じゃ。」
「裕ちゃん? ああ、エロ神の方ね。」
「渾名がふえたのう。」
からから笑う大鎌 in 裕介。
「ああ、月見だからそっちに寄るからの? いいか?」
「はいはい、静香と話したいんでしょ? まったく、これのどこが良いのか……。勝手に来なさい。」
電話越しでも不平不満がある様子だ。
「では、7時ぐらいには着く。」
と、同時に大きな受話器を乱暴に電話に戻す音が聞こえ、裕介は耳鳴りでうめいていた。
少女の拙い反抗であった。
「全く近頃の若い者は……。」
翁はため息をついた。
彼は日本酒を持って出かける裕介であるが、途中で、猫が近寄って来た。
「猫、どうした?」
「にゃおん。」
普通は怖がって近寄らない気配を発して小動物などを避けさせているのだがのう、と思ったのだが、ああ、この猫は……と記憶を巡らす。この猫は、影斬の出す穏やかな道場でよく見かける顔なのだ。たまに影斬と顔を合わせ、彼の住処に顔をだす宿主田中裕介の記憶からである。
「お前も飲むか?」
「にゃおん。」
猫は同意したようだ。と思いたい。
例の小麦色より何倍も可愛いので、抱っこしてあげて進む。実際自分と面と向かってであったことはないが、宿主が散々からかわれているので、少しあいたくない部類であり、世界の謎の固まり故、関わりたくない。良いことなしな存在である。
とおもったのだが、ツマミをとられて逃げていった。
「う、してやられた。」
なかなか狡猾な猫であった。
それ以外に事故もなく、トラブルもなく、長谷神社にたどり着く翁は、長谷平八郎にもてなしを受ける。
「おお、世界の鎌の翁。ようこそいらっしゃった。」
と、恭しく言う。
「うむ、それほど苦しくしなくて良い。堅苦しいことはすかんからのう。」
からから笑う翁。
「其れはなりませぬ。神器で神の位置に座する方に無礼は……。」
翁同士が会話しているところ、
居間にある卓袱台に顎をつけてジト目をしている青年が口を挟んだ。
「私も一応神であるのですが、まあ……、良いけど。」
つい最近抑止になり神になった影斬こと、織田義明だった。
「義明、おまえは別じゃ。」
平八郎がピシャリと言う。
口調は変わったとはいえ、性格のいったんは人間のままのようだ。
「で、エロ爺は、どのような用件で?」
鎌の翁に無愛想に答えた。
「この方がしっくり来るのが悲しいが、まあ良いか。」
「娘はどうした?」
「茜は、顔を見たくないのでどこかに行ったみたい。」
無愛想に答える義明。
何かあったのだろうか? と、鎌の翁はああ、と理解した。考えてみれば、自分によってかなり痛めつけられたからだし、一回出てきた時の傍若無人ぶりなども影斬が好まない類だったのかも知れない。と、思ったが、それ以外にも活力がないようだ。義明は、今までの疲れが一気に出たのだ。なので、この秋口からヘタレ具合は増している。海水浴にも、どこかに旅行にも行ってない。エルハンドが消えた後の、雑務などに追われてしまい、へとへとになっていただけであったのだ。
「お待たせ致しました。翁さま。」
優しい風に揺れる、心地良い木々の音と共に、静香が現れた。 純真の霊木にして、その精霊長谷神社が守護し、される存在。彼女は完全に姿を見せている。ちなみに、静香は普段は宙に浮いているために、足下からぼやけているはずだが、足があった。
「おお、静香殿。“指切りの約束”を果たしに来たのじゃ。」
「ありがとうございます。」
と、静香は喜んでいる。
「おじさん、何故あの裕介さんのあの性格に起因する原因に、静香さんが慕うのか、余り理解できないです。」
義明は、いつの間にか月見団子を綺麗に積み重ねた三方と、ススキを飾った、白い陶磁器の花瓶も縁側置いていた。
「そうじゃ、影斬。」
鎌の翁は義明に言う。
「?」
「途中であった猫はお前の差し金か?」
単に聞いてみた。
「どうしたんです?」
義明は首をかしげた。
「違うのか……。単にアレは自分の意志だったのか。」
「?」
「ツマミをお前の居候に盗まれた。猫だがの。結構逸品と、裕介が言っておった、気がする。」
「油断大敵ですね。現場見ないと何ともです。」
苦笑するしかない。
猫に好かれる性分とその逆にあるようだ。
「あなたの世界樹の成分にマタタビ属性が強く有れば、かなり状況は変わっていたかも知れませんね。」
「それはそれでこまるのう。」
「こら、躾はしっかりしておく物です。」
静香が飼い主(仮)をいさめた。
「聞いてみます。多分悪い知恵を誰かに吹き込まれたかも。」
と、猫で此処まで盛り上がっている。
人間とは不思議な物だと、翁は思った。
満月の月見。酒がうまかった。
小一時間談笑をして、義明は帰り、平八郎も明日の仕事のために寝るという。
いまは翁と静香は純真の霊木(ご神木)前で、茣蓙を引いて座っている。
「半年ぶりになるかの?」
「ええ、長かったです。」
同じ“樹”故に、親しみがある。また長いこと外界との接触がない翁と静香(静香は恥ずかしがり屋なので、絶対視認不可能術を書けているだけだが)の話は弾んだ。
「裕介は、女を必要としておる。寂しさがあのような趣向になっていると思うと。わしと手、別段女性などに……深い興味はなかった物よ。何かをきっかけに趣向が……」
と、酔いが回ったのか。
彼は饒舌になっていた。
宿主からの体験を聞かせる翁は堰を切ったように話している。
静香はずっと聴いていた。
「あいつも丸くなった。契約したときは本当に暗くつぶれそうだった物よ。人間という物は面白い。」
「そうです。私たちは人間と自然、その調和のために生きているハズです。」
「そうじゃのう。」
宿主と翁は意思の疎通が出来ない。
そのもどかしさ。
悲しさがある。
吐露している。
いつしか、彼は深い眠りについていた。
「寂しさが紛れるならば、わたくしは助力を惜しみません。」
翁を膝枕して、独り言を言う。
秋の長夜は寒い。
しかし、彼女の周りには春のような暖かさを、風に運んでいた。そして、彼女自身の祝福を。故に、宿主が風邪を引くことはない。
満月の夜空の下で。
長く人と関われない孤独を、お互いが癒し続けていた。
END
■登場人物
【1098 田中・裕介 18 男 何でも屋(今回は鎌の翁)】
【NPC 静香 精霊】
【NPC 長谷・茜 学生/巫女】
【NPC 長谷・平八郎 神主】
【NPC 影斬(織田義明) 装填抑止】
■ライター通信
滝照直樹です。参加ありがとうございます。
のんびりとしたもの、そして寂しさを残るような感じに仕上げてみました。
いかがでしたでしょうか?
また機会が有ればお会いしましょう。
滝照直樹拝
20061121
|
|
|