コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


嘆きのオルゴール

------------------------------------------------------

0.オープニング

…またかい。
深夜2時半。ショップに響く声。
それは 切ない 泣き声。
棚で嘆く「それ」を、あたしは手に取る。

「何だっていうんだい。まったく…」
溜息混じりに、オルゴールのネジを巻く。
零れる美しい旋律。
それを掻き消す、切ない 泣き声。

銀色のオルゴール。数日前に買った物。
いや。買ったというよりは、買わされた…って感じだね。
ショップに並べるには、どうかと思ったけれど、
あたし好みの洒落たデザインだったから。
まぁ、いいか。と思って買ったのさ。
何となく予感はしていたけれど。
やっぱり、曰くつきの物だったねぇ…。

そう。
このオルゴール、夜な夜な すすり泣くんだよ。
何が不満で悲しくて嘆いているのか。
あたしが聞いても答えやしない。
もう かれこれ1週間さ。
毎晩毎晩 こんな時間に起こされて。
睡眠不足だよ。肌に悪いったらありゃしない。

誰か何とか してくれないかい?

------------------------------------------------------

1.

「こんばんは〜」
リン リリン…―
扉を開けて お店に入った途端、異変に気付く。
お店の雰囲気は、いつもどおり。
魅力的な商品が 所狭しと並び、
店内は 甘い香りで満ちている。
いつもと違うのは…。
「おじゃまします」
ペコリと御辞儀するあたしを見て、
「いらっしゃい」
そう返す このお店の店主、蓮さん。
同性のあたしでさえ見惚れちゃう程、綺麗な人。
なんだけど…。
「どうしたんですか。蓮さん…酷い隈」
あたしが問うと、蓮さんは溜息混じりに返す。
「厄介な物を買っちゃってねぇ」
「またですか?」
クスクス笑う あたしを見て、蓮さんは真顔で言う。
「今回は 笑い事じゃないんだよ。本気で困ってるんだから」
「ご、ごめんなさい」
慌てて謝罪。
そうよね。こんなに酷い隈を作っているんだもの。
笑い事じゃないわ。反省。

「どれですか?」
棚を眺めつつ問うと、蓮さんは手元の品を差し出す。
「このオルゴールなんだけど」
「わぁ…綺麗ですね」
美しい装飾が施された 銀色のそれは。
一瞬で私を虜にした。
「これ、いくらですか?」
「本気かい?」
「はい。厄介事を解決してから」
「助かるよ」
「勿論、値段交渉有り。ですよね?」
微笑む私に、蓮さんはクスクス笑って返す。
「あんたの頑張り次第さ」


解決の為、まずは情報収集。
蓮さんに尋ねたり、自分で調べたり。
短時間で得られた、いくつかの情報。
まず、来歴。
蓮さんがオルゴールを買ったのは4日前。
詳しい事は聞けなかったけれど、知り合いから購入。
しきりに「買わされたんだよ」と言ってる事から、
買ったというより、押し付けられたっていう表現が妥当…かな?
次に、問題物に関して。
このオルゴールが作られたのは5年前。
製作したのは、ガロンゾという職人さん。
知り合いの企業に 彼を知る人がいたのが幸い。
でも、ガロンゾさんは 今はもう故人。
生前は、結構人気の職人さんだったみたいだし、
普通に鳴る事から、壊れてる…って事はなさそう。
同時に、ガロンゾさんは、お金持ちの人限定で仕事を請け負い、
ひとつひとつ 丹精込めて製作していたらしい。
要するに、元の持ち主は お金持ち…って事ね。
元の持ち主がわかれば、解決が楽になるかもしれないけれど、
人から人へ何度も渡り巡った物の、
最初の持ち主を見つけ出すのは大変すぎるからパス…ね。


「それで?どうするつもりだい?」
蓮さんが問う。
あたしはオルゴールを見つめながら返す。
「一度、家に持ち帰っても良いですか?」
「あぁ、構わないよ。寧ろ そうしとくれ」
「ありがとうございます」

------------------------------------------------------

2.

「さて…と。そろそろ、かな」
時計を見やり時刻を確認。
深夜2時15分。
ペンを置き、原稿の執筆を中断して オルゴールを手に取る。
静まり返った部屋。
あたしはジッと、その時を待つ。
カチカチカチカチ…―
時を刻む、時計の音と 自分の呼吸が鮮明に聞こえる中。
少しずつ、少しずつ 高鳴る鼓動。
不謹慎かもしれないけれど…。
ワクワクする。どうしてかな…。

カチッ―
時計が深夜2時半を示した途端。
『ひっく…ひっく……』
オルゴールから漏れる、泣き声。
なるほど。これね。
あたしは 席を立ち、部屋の明かりを落とす。
パチッ―
薄暗い中、テーブルの上のオルゴールを見やる。
うん…何も見えない。
蓮さんの言ってた通り。姿は確認できないのね。
うーん。どうしようかな。
席に戻り、とりあえずオルゴールのネジを巻く。
零れる美しい旋律と泣き声に耳を傾けながら。
小さな声で話しかける。
「こんばんは」
『ひっく…ひっく……』
「ねぇ。どうして泣いているんですか?」
『ひっく…ひっく……』
「あなたの お名前は?」
『ひっく…ひっく……』
「………」
あたしの質問に答えず、依然 嘆く泣き声の主。
頬杖をついてオルゴールを撫でながら、あたしは言う。
「あたしに、出来る事なら 何でもしますよ」
『ひっく……』
ん?少し、泣き声が小さくなった…ような。
あたしはクスクス笑って続ける。
「あたしじゃ頼りないかもしれないですけど」
『っく……』
「あなたの気持ち、聞かせて下さいな」
『………』
泣き声がピタリと止んだ。
あたしも黙り、返事を待つ。
互いに無言の状態が数分続き、やがて。
『おねぇちゃんの…名前、は?』
耳を澄まさないと聞き取れない程小さな声で。
泣き声の主が尋ねた。
あたしは微笑んで返す。
「凪砂。雨柳 凪砂。ですよ」
『………』
しばらく沈黙。
目を伏せて返事を待つ あたし。
やがて、背中に刺さる視線。
ゆっくりと振り返り。あたしは言う。
「はじめまして」
『うん……』
長い前髪をクルクルと指に巻きながら返す、女の子。
泣き声の主。
「あなたの お名前は?」
『イ、イリア……』
「イリアちゃんね。よろしく」
俯きモジモジするイリアちゃんを見て、あたしは微笑む。
7歳、8歳…くらいかな?
お人形みたいで。凄く可愛い女の子。
そして。
その可愛らしい姿に不釣合いな…痣。
首、頬、腕、足。至る所に確認できるそれは。
4年程前に流行した、死に至る病の末期症状。
それだけで、理解できる。十分、理解できる。
この子が、何を嘆き、何を求めているか…。

『おねぇちゃん…普通の人間じゃないんだね』
「え?」
『ワンちゃんが…見えるの』
あたしは、とっさに誤魔化そうとしたけれど。
すぐに止めた。誤魔化しても無意味よね。
クスクス笑って、あたしは言う。
「うーん。ちょっと違うなぁ。これは、狼って言うんですよ」
目を丸くするイリアちゃん。
『おおかみ……』
「見るのは、初めて?」
『うん。大きくて…可愛いね』
「ふふ。ありがとう」
『ありがとう?』
「はい。このコは、あたしの大切な友達ですから」
『ともだち……』
その言葉を聞いた途端、イリアちゃんの表情が曇る。
俯き、今にも零れ出しそうな涙を堪える姿。
その必死な姿に、胸がキュッと締め付けられる。
あたしは、微笑み 顔を覗き込みながら。
イリアちゃんの頭をポンポンと叩いて告げる。
「さぁ。何して遊びましょうか?」

------------------------------------------------------

3.

「こんばんは〜」
リン リリン…―
扉を開けて お店に入るや否や。蓮さんが問う。
「どうだい?調子は」
あたしはニッコリ微笑んで返す。
「解決しましたよ」
蓮さんは少し驚いて、古書をめくりながら苦笑する。
一晩で解決するなんて、大したもんだねぇ とか。
途中で投げ出すと思ってたよ とか。
思うがままに言葉を連ねる蓮さん。
あたしは、黙って それを聞く。
少し、自慢気に 微笑みながら。


世に未練を残して亡くなった死者。
彼等は時に人に憑き、時に物に憑き 嘆く。
それは合図。
救って欲しいという、合図。
彼等の大半は、何らかの形で嘆きを解かれると 素直に世を去る。
けれど、中には 依然世に留まる者もいて。

「じゃあ、これ。オルゴールの」
カウンターに代金を置くと、
「良い買い物したねぇ」
蓮さんは、そう言って少し嫌味に笑う。
「はい。ありがとうございました。それじゃあ」
ペコリと御辞儀して 扉へ向かう途中。、
「今日は、何して遊びましょうか?」
「いいですよ。あまり得意じゃないけれど、それでも良ければ」
「わぁ。そうなんですか?凄い凄い!」
炸裂する、端から見れば異様な あたしの独り言。

背後で蓮さんが クスクス笑う。

------------------------------------------------------

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

1847 / 雨柳・凪砂(うりゅう・なぎさ) / ♀ / 24歳 / 好事家(自称)

NPC / 碧摩・蓮(へきま・れん)

NPC / イリア


□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
          ライター通信          
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

こんにちは。はじめまして、雨柳 凪砂さま。
東京怪談ウェブゲーム:アンティークショップ・レン「嘆きのオルゴール」への、
参加ありがとうございました。心から感謝申し上げます。

魅力的な凪砂さまを描写できて、とても嬉しかったです。
サクサクと読める文体の為、物足りなく感じてしまわれるかもしれませんが、
少しでも 気に入って頂ければ幸いです^^

一檎 にあ