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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>



プライスレス・ラヴ

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0.オープニング

「武彦さんは…本気で女性を愛した事、ありますか?」
ガチャンッ―
質問の内容に動揺したのか、
零は、いれたての紅茶をひっくり返す。
「す、すみませんっ」
慌てて割れたカップを片そうとする零。
「あぁ、いいよ。俺がやる」
「あ、ありがとう、兄さん」
紅茶をいれなおしに パタパタと台所へ向かう零。
俺は 割れたカップを手に取り 言う。
「あんたは、俺の恋愛遍歴を聞きにきたのか?」
「いえ。少し気になったものですから…」
そう言って苦笑する女。
今回の依頼主だ。

「で…?探して欲しい奴ってのは?」
「この人です」
依頼主は、懐から取り出した写真を差し出す。
写っているのは、何の変哲もない普通の男。
24、5歳って所か。
「こいつと、あんたの関係は?」
「恋人…だったらいいな。です」
「うん?」
「彼、モテるから…」
「いやいや。ちょっと待て」
写真をテーブルの上に置き、俺は問う。
「恋人じゃないって事は、知り合いか?」
「いえ。彼は私の事なんて知りません…」
「いやいやいや…」
恋人じゃない。知り合いでもない。
そんな奴を探して欲しいと言う。
どう考えてもおかしいだろ。
まぁ、何となく予想はつくが…敢えて、俺は尋ねる。
「コイツに会って、どうすんだ?」
「え、えっと……」
「…あぁ。…もういい」
頬を赤らめて俯けば、十分わかる。
ったく…うちを何だと思ってやがる。
どいつもこいつも…。
っていうか、この写真 盗撮…?

「あの…請け負って頂けます…?」
「あぁ」
高額な報酬を前払いで貰ってるからで。
まっったく気乗りはしないけどな…。
「あの…もうひとつ良いですか…?」
「何だ」
「ドアの隙間から こちらを見てる あの人は…どなたですか?」
「…は?」
俺は一瞬マヌケな声を出して。
すぐさま我に返りバッと扉を見やる。

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1.

「シュライン…何やってんだ」
呆れる武彦さん。私は苦笑して 扉を開く。

ガサガサガサ…―
両手いっぱいの荷物を、
零ちゃんに手伝って貰いながらテーブルの上に置き。
一呼吸置いて。
「何か入るタイミング逃しちゃって。ごめんなさい」
謝罪しつつ近付く私に ペコリと頭を下げる依頼主さん。
軽く会釈して、ソファに腰をおろす。
「ん」
私が座るやいなや、写真を差し出す武彦さん。
私は、それを受け取り クスクス笑う。
そんなあからさまに嫌な顔しちゃ駄目よ。
依頼主さんに失礼じゃない。

「えぇと……」
「あっ、リュナです」
「リュナさん。幾つか 質問して良いかしら?」
「はい。どうぞ」
「この写真は、いつ撮ったもの?」
「2ヶ月前です」
「ふふ。よく撮れてるじゃない」
「そ、そうですか?」
照れ笑いするリュナさん。
うん…。気持ちが理解らない事もないのよ。
恋する乙女は、恥らうもの。
でも、貴女は ちょっと特別ね。
こんなに近くまで行けるんだから、直接声を掛ければ良いじゃない。
まぁ、それが出来ないからここに来てるのか…。
私の心を読んだかのように、リュナさんは言う。
「声を掛けれれば…それが一番なんですけど…」
「そうね」
「でも、出来ないんです。その…彼、凄くお金持ちで…」
「あら。そうなの?」
「はい。いつも彼の傍にはボディガードみたいな人がいて…」
なるほどねぇ。
声を掛けたくても掛けられないのね。
私なら お構いなしに声掛けたりするけれど。
見るからにおとなしそうなこのコには無理ね。
「それに…」
「ん?」
「彼、最近 家に帰って来てないんです…」
ゲホッ ゴホッ―
その言葉に、それまで黙っていた武彦さんが自身の煙草の煙で咽る。
私に背中を擦られながら、武彦さんは言う。
「あんたのやってる事は犯罪だぞ」
「………」
俯き黙ってしまうリュナさん。
私はフォローに回る。
「まぁまぁ。少し異質だけど、捜索願いって事に変わりはないじゃない」


不満を拭えずにいる武彦さんをなだめつつ、
私はリュナさんから ありったけの情報を聞き出す。
意中の彼の名前、誕生日、血液型。
趣味、特技、良く行く店、交友関係。
必要な情報を、リュナさんは 次々と提供してくれた。
いつもなら、この辺に結構な時間と労力を費やすけれど。
お陰で事は、異様な程 迅速に進む。
「それじゃあ…お願いします」
一礼して興信所を後にするリュナさんを笑顔で送り出し。
私は小さな溜息を零す。

「はぁ…。遂に来たなぁ…ストーカー」
そう言ってソファで煙草をふかす武彦さん。
私はツカツカと歩み寄り、武彦さんのオデコを弾く。
「いて。おい、何すんだ」
「駄目よ。依頼主さんに あんな態度とっちゃ」
私の言葉に武彦さんは眉を寄せ、不満そうに言う。
「だって おまえ…。ストーキングって…」
「仕方ないじゃない。女心は複雑なのよ」
「いやいや。ストーキングに女心もクソもあるか」
少しムキになって返す姿に私は微笑み。
武彦さんの隣にススッと移動し、ジッと見つめる。
「何だよ」
一層深くなった武彦さんの眉間のシワに指をあてながら、私は呟く。
「聞きたかったなぁ。本当に愛した女の話」
「おまえ…いつから居たんだ?」
苦笑する武彦さん。
聞きたいと思うのは本心よ。
扉の前で躊躇したのが、何よりの証拠。
でも、聞きたくなかったりもするのよね。
あなたの口から、特別な女性の名前が漏れると。
何とも言えない気持ちになるから。
それにきっと…。
「両手じゃ足りないんじゃなくって?あなたが、愛した女」
「さぁ。どうだか」
私は悪戯にクスクス笑い、
武彦さんの鼻頭で 2、3度指を跳ねさせて言う。
「あなたのそういう所。私、好きよ」
目を伏せて微かに微笑み、武彦さんが返す。
「そりゃ どうも」

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2.

深夜0時。捜索開始。
とは言え 内容は ほぼ張り込み。
リュナさんから聞き出した情報の内、
最も気に掛かったのが、よく行く店。
彼が頻繁に足を運ぶバー「G12T」
この店、あまり良い噂を聞かないのよね。
だからといって確信は持てないけれど…。
「ふぁ……」
「ちょっと。緊張感なさすぎよ」
「寝不足なんだよ」
眠そうに目を擦る武彦さん。
クスクスと笑いながら、さも恋人のように。
バーのカウンターに並んで座る私達。
巧みに、店内を見回しながら…。
「裏、ね」
私が小声で言うと、
「だな」
武彦さんはワインを一気に飲み、ジャケットを羽織る。


乱雑に物が置かれ、荒れたバーの裏。
積み重なるダンボールの隙間を縫うように進む。
やがて見える あからさまに怪しい裏口。
わかりやすいにも程があるわ。
悪事を働き易い場所が こんなにも放置されている現状に。
少し苛立つ私の心。
バンッ―
煙草を咥えたまま扉を蹴り開ける武彦さん。
「なんだァ。貴様等ァ?」
フラフラとした足取りで近寄ってくる小太りの男。
「おっ。姉ちゃんキレーだなァ。へっへっへ…」
男は私の顔を見ながらニヤニヤと笑い、腕を掴む。
「………」
男の不気味な笑顔に鳥肌。
引きつり笑いで、不潔な手を払おうとした時。
ガスッ―
「うぐ……」
ドサッ―
その場に倒れこむ男。
私は煙草を踏み消す武彦さんに言う。
「乱暴ねぇ」
「とっとと終わらせたいんでね。さ。行くぞ」


元々小さなバー。
裏口から入り、そこに辿り着くまで 約3分。
足早に進む武彦さんについて、私は進む。
一応、背後を警戒しながら。
ガチャッ―
扉の奥。
視界に飛び込むは、予想通りの光景。
床に散らばる不気味な色の錠剤。
それは今、巷で大評判の。
人の心を蝕む薬。
しゃがみ、それをひとつ手に取る私と。
頭を掻きながら眉を寄せ目を伏せる武彦さん。
部屋の中央にある穴だらけのソファにダラしなく座りながら、
カリカリと錠剤をかじる 顔面蒼白の男が言う。
「よぉ…いらっしゃい。金が先だよ」
私と武彦さんは、互いの顔を見合い苦笑。

何もかもが予想通り。
自分の感を武彦さんが即座に信じてくれた事は嬉しいけれど。
同時にそれは、自分の感が的を得ている事を意味する。
理解ってた。理解っていたんだけれど。
正直、この結末は避けたかった。
自分の感が 外れてくれればと。
正直…思ってた。
リュナさん。
彼、もう写真とは 別人だわ。

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3.

「間違い、ないな?」
武彦さんの言葉に俯き、ただ一度だけ コクリと頷くリュナさん。
数十秒の沈黙の後。
昇る紅茶の煙が、人の動きで 大きく揺らめく。
「ありがとうございました」
早口で そう言い残し。ペコリと頭を下げ。
彼女は向かう。
彼を救いに。
バタン―
静まり返る興信所。
漂う何とも言えぬ不思議な空気と。
やけに響く、換気扇の音。

目を伏せ微笑む私に。
眼鏡を外してソファに凭れ、武彦さんが言う。
「シュライン」
「はい?」
「コーヒーいれて。ブラックで」

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  登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

NPC / 草間・武彦(くさま・たけひこ)

NPC / リュナ


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         ライター通信          
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こんにちは。はじめまして。シュラインさん。
発注ありがとうございました。心から感謝申し上げます。

シュラインさんと武彦のさり気ない絡みをメインに。
楽しく書かせて頂きました。少し遊び過ぎたような気もしますが(笑)
気に入っていただければ幸いです。

また よろしくお願い致します^^

一檎 にあ