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理科室の太郎くん
オープニング
神聖都学園、ここに一体の人体模型が存在する。
彼の名は『太郎くん』
学園創立から設置されているという古い人体模型だ。
しかし、古すぎるため廃棄処分にしようという話が最近出てきた。
…そして、その話が出てきたと同時に、夜中に『太郎くん』が廊下を走り回っている、という噂も出始めた。
「ふむ、夜中に走り回る人体模型か、どうもありがちだね」
繭神・陽一郎は噂を聞いて、呆れたようにため息をつく。
こんな話、響先生が聞いたら卒倒だろうなとも思い、少しだけおかしくなる。
「響先生の耳に入る前に、きちんと調査しておいたほうがいいかな」
陽一郎は一言呟いて、時計を見た。
時間は午前二時を少し過ぎたところ。
噂によれば一時〜三時までの間を走り回っているのだと聞く。
―カタン
「……何をしてるんです?こんな時間に、こんな所で」
懐中電灯で照らしながら、ため息交じりに陽一郎が呟く。
「まぁ、例の噂を聞きつけて―…という所ですかね?仕方ありませんね。一緒に調査しましょう」
離れて邪魔をされても困りますし、と嫌味を付け足しながら夜闇の校舎を歩き始めた。
視点→門屋・将太郎
「お前こそ何をしてるんだ?」
校内の見回りをしていた将太郎とばったり鉢合わせたのは学園の生徒である繭神だった。聞けば最近噂になっている人体模型の『太郎くん』を探しているようだ。
「貴方こそここで何を?」
「用務員のおっさんに頼まれて校内の見回りだよ、誰かさんみたいに残っている生徒がいるからな」
チラリと繭神に視線を向けながら言うが「そうですか。それはお疲れ様です」と感情の篭っていない嫌味な返事が返ってきた。
「まぁ、俺は別に気にしないが、怖がりのカスミ先生の耳にでも入ったら大問題だぜ、俺も付き合うよ」
そう言って懐中電灯を照らしながら共に校内を散策した。
「しかし、何で『太郎くん』は逃げ回っているんでしょうね」
暗い校内の中、繭神がポツリと呟いた。それを聞いた将太郎は「確か‥」と思い出したように呟く。
「廃棄処分が決まってからだよな、逃げ回ってるって噂が流れ始めたのは」
「えぇ、確かそうだったと思います」
「廃棄業者に捕まらないように逃げ回っているんじゃないのか?これはあくまでも俺の考えだがな。お前さんはどう思う?」
将太郎が問いかけると「そうですね…」と指を口元に置き、考え始める。
「僕もそう思います。タイミングが良すぎですしね」
まさか‥と呟き将太郎をじろりと見る。
「何だよ」
「まさか貴方じゃないでしょうね。走り回っている『太郎くん』って」
は?と意味が分からず将太郎は間抜けな声で返事をした。
「同じ太郎って名前がついてるじゃないですか」
繭神は左胸につけられている名札を指差しながら呟く。
「‥するとなんだ?俺は毎日人体模型の格好をして校内を走り回っている暇人という事か?」
「人体模型の格好はともかく、暇人に違いはないでしょう?臨床心理士が見回りをするなんて暇人以外に何がありますか」
どこまでも毒舌な奴だ、将太郎は心の中で呟き見回りを続ける。
すると‥理科室の近くでがたがたと大きな音が聞こえ始める。それはこちらへと近づいてくるようで音はどんどん大きくなる。
「あれが‥太郎くん」
繭神も流石に驚いたのか、小さな声で呟いた。驚くのも無理はない。目の前を物凄い速さで走り去っていく人体模型を見たのだから。
「お前はここに残ってろ、いいな。動くんじゃねぇぞ?」
分かったな、何度も念を押して将太郎は太郎くんを追って走っていった。
「ちくしょう、どこに行った?」
二階の階段あたりで太郎くんを見失ってしまい、どうしたものかと階段に座り込む。
「…………………お前は俺を笑わせたいのか?」
上の踊り場から顔だけを覗かせて将太郎を見ているのは紛れもなく、先程追いかけていた人体模型の太郎くん。
「い、いえ、笑わすつもりも脅かすつもりもありません…」
申し訳なさそうに言っているのは分かるが、はっきり言って申し訳なさと外見が全く一致しないため笑いが出てきそうになった。
「まぁ、隣に座れよ」
隣に太郎くんが座れるように将太郎は少し隅に座っている場所をずらした。すると「す、すみません」と言いながら太郎くんは控えめに座ってきた。
(俺は何をしてるんだろうか…)
真夜中の校内、隣にいるのは綺麗な女性ではなく、気味の悪い人体模型。ムードも何もあったもんじゃないと将太郎は一人ため息をついた。
もっとも、人体模型相手にムードなんてあっても困るのだが。
「で?お前は何で逃げ回っていたんだ?」
「ぼ、僕…もうすぐ廃棄処分にされるって聞いたものですから…」
太郎くんは話を続ける。彼(彼女?)は学園が創立の時から生徒を見守っていたのだという。例え、自分を気味悪がる生徒ばかりだったとしても同じ校内で過ごす家族のように思えていたのだとか。
「廃棄されたら僕は皆を見守れない、僕はずっと学園にいたいです」
太郎くんは泣きそうな震える声でぽつり、ぽつりと小さな声で呟いていく。何度も言うが相手は人体模型だ。泣きそうな雰囲気にはなっても実際に泣くことはありえない。
「学園創立からいるんだから離れたくないって気持ちはよーく分かる。けどな?他人を怖がらせたら、それこそ廃棄してくれって言ってるようなモンだろうが」
「……はい、申し訳ないことをしました…」
「だからな?」
将太郎はスゥと息を吸い込んで、低い声で呟いた。
「これ以上騒ぎを起こすんじゃねぇぞ?いいな…?」
はたから見れば悪人のような顔つきで太郎くんに言った。太郎くんはその恐ろしさのあまり「は、はい!」と素直に返事をしたとか。
数日後、人体模型『太郎くん』の廃棄はナシという事になった。その裏側には熱心な臨床心理士の説得があったから、という事は誰も知らない。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
1522/門屋・将太郎/男性 /28歳 /臨床心理士
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■ ライター通信 ■
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門屋・将太郎様>
こんにちは、お久しぶりです。
今回は「理科室の太郎くん」に発注をかけていただき、ありがとうございました!
‥なのに、納期を過ぎてしまい申し訳ありませんでした!!
せっかく発注をかけていただいたのに…本当に申し訳ないです。
話の内容はいかがだったでしょうか?
上手くキャラを出せていると良いのですが…。
それでは、またお会いできる機会があることを祈りつつ失礼します。
−瀬皇緋澄
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