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<東京怪談・PCゲームノベル>


シークレットオーダー 7


 ■啓斗

 時期は冬。
 クリスマスがもうすぐと言ったそんな時期。
 年末なだけあってやたらと忙しいし、人も多くて買い物に行くのも一苦労だ。
 制服のまま買い物をしているのも目立つって落ち着かない。
 もう一つはこれから買おうとしている買い物の量である。
 なにしろ一回の夕飯だけでもよく食べるのなんの、作る方も財布の中も毎回苦労させられてばかりだ。
 最近は不定期にだがもう一人分増えたりもしている。
 そっちの方は量でいえば比較的楽なのだが、作りに行くにも家から距離が離れていたりするから困りものだった。
「………」
 もっとも後者に関しては仕事で忙しく、家にも帰れないような有様である。
 結果的に作るのは一人分でいい筈なのだが……。
「……はあ」
 聞いていた話では、早ければ今日か明日には帰ると言っていた。
 忙しいのなら電話に出られないだろうし、それならそれでいい。
 ため息を一つ付いてから、啓斗は携帯を操作し始めた。



 ■夜倉木

 携帯の振動に気付き、目の前にいる相手を軽く手で制し待ったをかける。
 ここで応対したら面白い状況になりそうだと、画面を確認すると啓斗からだった。
 どうやら今日は運が良い日のようだとすぐに着信ボタンを押して電話に出る。
「夜倉木です」
『いま、仕事だったか』
 すぐに反応があったことに少し意外そうなに問いかけられた。
 心配そうな口調に感じるのは、忙しくないかを気にしたのだろう。
「平気ですよ」
『……忙しくなりそうなら切るけど』
 流石に名前はここでは言えない。
 目の前にはかなりの剣幕でこちらを睨んでいる男が数人。
 派手なスーツと、人相の悪い顔立ちは一目でその手の筋の人間だと解る。
 それも極めて質の悪い部類だ。
 何人かはすでに銃口をこちらにちらつかせている。
 電話がかかってくる直前に話し合いが決裂し、これから乱闘に発展しようとしていた所だったのだ。
 双方とも熱くなっていたからちょうどいい。
 これでこちらは冷静になって、向こうは頭に血を上らせる。
 今更戦闘は避けられないとはいえ、少なくとも口をきける程度には生け捕れそうだ。
「いえ、感謝してます」
『ん、そか』
 同時に近くに誰か居ると察したのだろう。
 あまり深く聞かずに会話を続けてくれるおかげで、こっちも気楽に会話を続けていられる。
 目の前で起きている件とはまったく別の、他愛ない会話はかえって落ち着くのだ。
 不謹慎だと言われかねないが、こればかりは滅多にないことだし、感じ方の問題なのでどうにも出来そうにない。
 そして……そろそろ目の前の面々も限界が来たようだ。
「いい加減に……っ」
「………」
 頭を風通し良くされるのはごめんだと、腕に力を込めるタイミングに合わせ体をずらす。
 乾いた音が鼓膜を振るわせるのと同時に一斉に動き出した。




 ■啓斗

 騒がしくなった気配に、啓斗は軽く眉を寄せた。
「……本当に切らなくていいのか?」
『もちろんですよ』
 格闘をしているに違いない物音と銃声。
 時間にすればほんの僅かな程度だったが、これで気にするなという方が無理がある。
 だが仕事のことなら説明している暇もないだろうと何とか堪えた。
 いくらなんでも本当に会話できない状況なら、こんな口調はしていない。
 どうやら反射と思考を切り離した方が上手く行くと言っていたのは事実のようだ。
 困った癖だと軽くため息を付きつつ、啓斗も会話を続行する。
「何か帰ったときに必要な物は?」
『今のところ特には』
「そろそろ帰るなら、ついでに何か作るけど」
『それはいいですね、ぜひお願いします』
 嬉しそうな声とは裏腹に、周囲からはくぐもったような男の声が幾らか聞こえてきた。
 取りあえず戦闘は終わったようだが、今度は何か重い物を引きずるような音が聞こえてくる。
「何か食べたいものは?」
『そうですね、前に食べたサバ味噌を』
「ならついでに豆腐料理も付ける、なにがいい?」
『餡掛けが掛かっていたのがおいしかったです』
「解った、両方とも帰る頃に作っておく……って、何時頃帰るんだ?」
『状況が変わりましたから、明日の夜には帰れます』
 戦闘になってしまったから、なのだろう。
 それでもなんとかなりそうだと思っている辺りはまだいい方だ。
 例え相手が誰だろうと出来ないことを出来るとは言わない筈なのだから。
「あ、そう言えばアトラスの仕事どうするんだ」
『何か困ったことがありました?』
「どうしてだか俺の所に、夜倉木に連絡取れないかと聞きにくるんだ」
 理由を付けて遠出は出来ても、その間の仕事が無くなるわけではない。
 その代役として啓斗が手伝いに引っ張られたりしているのだ。
 難しい仕事ではないと聞いているのにも関わらず、社員と似たような仕事だったり、かなりアバウトな任されかたをしていたりもする。
 特に事務的手続きなどがそれに当たるのだが、その辺りは夜倉木が必要そうな物を事前に用意している辺りがなんというか抜け目がない。
『それは……ご苦労様です。例えば?』
「取材の手続きとか、コピー機の様子がおかしいとか」
『ひとつめは自分で調べろと伝えてください、二つめは啓斗に頼んでいいですか? 埃が原因だと思うんですが』
「もっと調子悪くなったりしてもいいなら」
『それは遠慮しておきます……っと、少し待っててください』
「ん」 
 楽しげな口調の後に扉を開け閉めする音が続いた。
 どこかの部屋に何かを投げ込んだらしいことは解るが、電話越しに聞こえる情報はその程度にすぎない。
『お待たせしました、あと暫くは暇です』
「いや……」
 時間にすればほんの僅か。
 数秒もかかっていない。
 電話の片手間に相手にされるなんて不憫だと思ったが、それは言葉にはせずにどうしても気になったことだけを問いかける。
 仕事に関することが大半だろうから、尋ねるのはたった一つだけ。
「ケガは?」
『無事ですよ、気になるなら帰ったときにでも確かめてみてください』
 これなら言っても構わないだろう。
 帰ってきたのは何時も通りの口調。
 この様子なら平気そうだと苦笑し、ハタと思い出し尋ねてみた。
「そうだ、酒は飲んでないよな」
『そっちも安心してください、飲んでません』
「ならいい」
 あまりに酷い酔い方を見かね、禁酒命令を出したのはつい最近の話だ。
 相手はもう大人なのだし、好きで飲んでいるからとは思ったが問題があるのだから仕方ない。
『さてと、そろそろ切りますね』
「ん、それじゃあ」
 何かもう一言付け足してもいい気がしたが、とっさに思いつかなかった。
 それに特に変わったことをしなくとも構わないだろう。
 取りあえずは、今日の夕飯用の買い物だ。



 ■夜倉木

 電話を切ろうとする気配を感じ、とっさに呼び止める。
「もう一つだけ」
『どうした?』
「明後日開けててください、俺の方も時間作れそうですから」
 もっと早くに言っておくべきだったのだろうが、幸いなことに今からでも遅くはない。
 電話を切ってしまえば帰るまで忙しくなるだろうし、こんなにいい気分でいられるのも今の内だけだ。
『……解った』
「良かった、じゃあ明日の夜にまた」
『ん』
 今度こそ電話を切り、そろそろ時間だと扉を開く。
 中には先ほど投げ込んだ催涙ガスの残りが漂ってはいたが、時間を空けたおかげでそれ程ダメージはない。
 しかし、元から部屋の中にいた人間にとっては別の話だ。
「う、うう……」
「この、ごほがは!」
 数人の男達がいまも咳き込んだりして床の上で藻掻いている。
 こうなってしまえば体格も武器も大した効果を為さない、手早く縛り上げれば仕事の半分は終わりだ。
 武器を取り上げ、手が出せないのを確認してから連絡を取る。
「夜倉木です。応援をお願いします」
 あとは別の場所で、こちらの望むままに話を進めるだけでいい。
 素直に頷くかが問題だが、それもやり方自体だろう。
「さて、きりきり言うことを聞いて、早く終わらせてくださいね」
 期限は明日。
 遅くても夜までには終わらせなければならない。
 出来ることなら早く帰って、よって行きたい所もある。
 携帯をしまい、すぐに答えられないのを解りつつニッと意地の悪い笑みで笑いかけた。





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0554/守崎・啓斗/男性/17歳/高校生(忍)】

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■         ライター通信          ■
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発注ありがとうございました。
楽しんでいただけたら幸いです。

戦闘と同時進行で話せるのは当人は巫山戯てるわけではなく、仕事中の場合だと昔からです。
ある程度のレベルになると当然出来ません。