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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


新米招き猫、がんばる!〜空の魚

 白い毛並みに碧の瞳。
 赤い首輪に金の鈴。
 どこからどう見ても飼い猫である大福は、実は普通の猫ではなかったりする。
 ただいま招き猫修行真っ最中の元化け猫で。今日も今日とて、いつか立派な招き猫になって大好きな飼い主に喜んでもらいたいと、修行に勤しんでおりました。

 が。
『なんでぇ〜っ?』
 金運を呼び寄せようとしてみたら、呼ばれてきたのは大きな金魚。
 真っ赤な金魚は青い空を悠々と街のほうへと飛んでいく。
 ……金運を呼ぼうとして貧乏神を呼んでしまった経歴持ちとしては、少しはマシなものが呼べたのかと、ちょっとは喜んでしまったのだが。
『放っておいたら、まずいよねぇ……』
 なにせ空飛ぶ1メートル級の金魚である。
 金魚だし、魚の方にはなんの害意もないかもしれないが、驚いたドライバーさんや歩行者が事故でも起こしたら大変だ。
 しかし自慢じゃないが大福は、あんな高さまで飛ぶなんてできない。それから、あんなでかいものを捕獲する方法も持っていない。


 そして大福は、走り出す。
 よろず相談所と勘違いしている、草間興信所の事務所へと……。



 その日の興信所は、数名のお客を迎えていたものの、比較的まったりとした雰囲気だった。
 茶の差し入れを持ってきてくれた空木崎辰一と、のんびりマイペースなテンポを持つ樋口真帆。武彦も平和なひと時にほっとしていたその最中。
「にゃぁ〜〜〜っ!!」
 涙を零して飛び込んできた白い猫に、武彦はあからさまに嫌そうな顔をした。
「あら、大福くん?」
 以前にも顔をあわせたことあるシュライン・エマが、白猫の名を呼んだ。
「ふにゅうう〜〜」
 すがり付いてくる大福には悪いが、シュラインはあいにくと猫の言葉は理解できない。以前のように50音表を用意しようとした時だった。
「え? 大きな空飛ぶ金魚ですか……? のんびりしてて楽しそうですね」
 真帆がにこりと人懐こい笑顔で告げた。
「あら、わかるの?」
「はい」
 大福の横にはいつの間にやら、辰一が連れていた猫二匹――甚五郎と定吉――が並んでいた。
 三匹と一人に、大福の言葉こそわからないものの甚五郎と定吉の言葉を理解できる辰一も加わり、これは今更50音表を出すより、話がひと段落するまで待った方が良いだろうとシュラインは判断した。
 人語と猫語が入り混じる会話を傍から聞いていたところ、どうやら大福がまた、妙なものを召還してしまったらしいことがわかった。
「んー……これはどうしたものかしらねえ」
 一通りの状況を把握して、シュラインはうーんと考え込む。捕獲方法はいくつか思いつくけれど、最大の問題は、送還方法がわからないことだ。
「金魚さんが普通の動物の範疇に入るかわかりませんけど、動物の言葉ならわかりますよ、私」
「探すなら、甚五郎に頼めばすぐに見つかると思います」
「とりあえず、金魚のところまで行ってみましょうか」
 ここで考え込んでいても仕方がない。話によれば金魚はただ泳いでいるだけだというし、実際に本物を見てから判断しても遅くはないだろう。
 シュラインの意見に真帆と辰一も頷き、とりあえず大福が金魚を召還してしまった現場へ向かうことにした。



 当然ながら、現場にはもう金魚の姿は見えなかった。
「甚五郎、頼みます」
「まかしとき!」
 タタッと走り出す甚五郎を見送ってから、真帆は箒を取り出した。
「私も空から探してみます。もう一人くらいなら乗せられますけど……」
「じゃあ、私も行くわ」
「にゃあ〜」
 大福もちゃっかり真帆の肩に飛び乗って、箒は空高くへと舞い上がった。
「でも実際のところ、どうしましょう。一時的になら、事務所の中に入れておいてもいいけれど」
「う〜ん……。大福くんに招いてもらうのはどうでしょう? 帰り道を知っているものが出てくるかも」
「にゃっ!?」
「え? 自信ない?」
「にゃう……」
「じゃあ、あとは……人の居ないところに放し飼いとか?」
「その辺りが妥当かしらねえ」
 地上ならまだしも、空ならば……人がいないところを探すことも難しくはないだろう。駅前マンションの空き部屋を借りられれば、そちらを水槽代わりに飼うのもアリかもしれない。
 そんなことを考えながら空から探していたところ、下で辰一が大きく手を振っているのが目に入った。どうやら、あちらの方が先に見つけたらしい。
「行ってみましょ」
「はい」
 辰一が指差した方角に向けて、真帆の箒が空を滑る。
 たどり着いたのは、とあるビルの屋上だった。といっても金魚は静止しているわけではなく、早く捕獲しなければまた別のビルに移動しなければならなくなるだろう。
「おっきい……ですねえ……。これじゃあ、すごく大きな金魚蜂を特注しなきゃいけませんね」
「むーん。桐鳳くんがいてくれればよかったんだけど」
 桐鳳の力を借りれば金魚を傷つけずに上手く誘導できたかもしれないが、今日は朝から出かけて留守だった。
「捕獲するだけなら、なんとかできると思います」
 甚五郎と定吉を連れた辰一が、金魚の方を見上げる。と、真帆が辰一を制止した。
「ちょっと待ってください。通じるかわかりませんけど、話しかけてみますね」
 真帆は大福を肩に乗せたまま、箒に乗って金魚の方へと飛んでいく。しばらくすると、金魚がくるりとこちらに向き直ってふわりふわりと泳いできた。
「無事、説得できたみたいね」
 金魚を傷つけずにすんでほっとしたシュラインだが、一方、あの金魚をどうしようか考える。答えはまったく出ていないのだ。
「まさか放っておくわけにもいきませんし……。どうしましょう」
「やっぱり、大福くんに頑張ってもらうのが一番かなあって思うんですけど。今ならほら、失敗しても多少のフォローはできると思うし」
 戻ってきた真帆も一緒に、金魚の処遇について考え込む。間違って呼ばれてしまった金魚を閉じ込めるのもなんだか可哀想な気もするし……。
「にゃう!」
 考え込んでいた三人の様子を見て、大福がぐっと気合の入った鳴き声をあげた。
「え?」
「……できるんですか?」
 真帆はすぐに。辰一は甚五郎の声を聞いてから、反応する。
「なに?」
 ひとり、大福の言葉がわからないシュラインは、真帆と辰一に疑問の声を投げかけた。
「やってみるって。うまくいくかわからないけど、帰り道を知ってる者を召還できないか、挑戦してみるって言ってます」
「えっ!?」
 これまでの大福の経歴を知るシュラインとしては甚だ不安極まりないが、本人がやる気になっているようだし、真帆と辰一からも反対意見はない――知らないとは恐ろしいことだ。
「本当に大丈夫?」
 不安が満ちたシュラインの問いかけに、大福はこくりと決意の瞳で頷いた。



 それから、金魚を還すのにかかった時間、約5時間。
 還せただけでも幸運だと思った方が良いだろう。
 何も召還されないのならばまだマシだ。突如上からツボが降ってきたり、おたまじゃくしが出てきたり――おかしな生物が出てきた時は、辰一と甚五郎が凍らせて捕獲してくれた。
 下手な鉄砲でも何度も打てば当たるものだ。最終的にはなんの弾みか、召還されたものが一斉に消えるという幕引きで解決した。
「これで還すコツを掴んでくれればいいんだけれど……」
 静かになったビル屋上で、シュラインはため息混じりに呟いた。

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   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業

0086|シュライン・エマ|女|26|翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
6458|樋口・真帆   |女|17|高校生/見習い魔女
2029|空木崎・辰一  |男|28|溜息坂神社宮司

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         ライター通信          
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こんにちは、日向 葵です。
大福くんの失敗のフォロー、ありがとうございました(笑)
毎度毎度おかしなものを呼び出す大福くんですが、本当に……そろそろ送還のコツも覚えて欲しいものです。

>シュラインさん
いつもながら、公式外のNPCを覚えていてくださってありがとうございます。
金魚さんをできるだけ傷つけないようにとの優しいご意見、嬉しかったです。

>真帆さん
はじめまして、こんにちわ!
可愛らしい魔女さんに、私も書いていてほのぼの気分になれました。
ダメ元で招いてもらう!
その恐ろしい意見(笑)、採用させていただきました。
プレイング見た瞬間、本当、知らないって恐ろしい……と思わず笑ってしまいました。

>辰一さん
いろいろとご意見いただき、ありがとうございます。
最後の最後で活躍していただきました(笑)
関東生まれ関東育ちの人間なので関西弁が怪しいです、すみません(汗)
けれど甚五郎さんを書くのはとても楽しかったですvv


皆様が少しなりとも楽しんでいただければ幸いです。
また機会がありましたら、その時にはどうぞよろしくお願いします!