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<東京怪談・PCゲームノベル>


イツァルテ・リダ


あぁ…今宵も月が綺麗デスね。
こんな夜は、気分が高まるというか。
足取り軽く。自然と笑みが。
何というか。とても良い気分デス。
ははは。まるで吸血鬼デスね。

行き付けの店で手頃なワインを買って。
御勤めご苦労様デス、と。
自分を労う週末恒例行事。
明日は休み。今宵は満月。
否応なしに高ぶる心。
今夜は夜更かしでもしまショウか。
御機嫌で自宅へ向かう帰路。

その蝶は私を誘いに。


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1.

月灯りに照らされて。
淡く輝く その蝶は。
私の視線に気が付くと、フワフワと舞い 逃げ行く。
桃色の蝶。見た事のない蝶。
興味はアリマスが…。
あなたが詮索されたくないと言うのなら仕方ありまセンね。
私はクスッと笑い目を伏せ、
見なかった事にして帰路を行く。
すると。
視界に再び飛び込む、蝶。
おやおや…?
私が足を止めると、蝶は頭上で旋回。
なるほど?ついて来い、と。そういう事デスか。
いいデスよ。どこへ連れて行ってくれるんデスか?
私はクスクス笑いながら、蝶の後を追う。

可笑しな話デスね。
何故でショウ。自分でも、よく理解らないのデスが。
今、確かに。ワクワクしている自分が居るのデス。
週末の雰囲気に流されて…とは別の。
不思議な感覚。
可笑しな話デスね。



人気のない路地裏。
蝶は、再び私の頭上で旋回を始める。
ここに連れて来たかったのデスか?
私は辺りを見回し首を傾げる。
特に…何もないデスが。
まぁ、良しとしまショウ。満足、デスか?
「どうぞ、お休みナサイ」
私は微笑みつつ指を差し出し、蝶に休息を促す。
それにしても、綺麗デスね。あなた。
どこから来たのデスか?
そんな事を考える私の指先に。
蝶が とまる。

パリッ―

「…?」
指先に走る、微かな痛み。
同時に。
身を包む、桃色の光。

パリパリパリパリッ―

おやおや…。
指先で休む蝶に、私は柔らかく微笑む。
エスコートが お上手デスね。


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2.

ドサッ―

「…イタタタ」
前言撤回デス。
乱暴且つ定番な展開でシタ。腰をさすりつつ苦笑。
さて…あなたは、私をどこに連れて来てくれたのでショウ?
顔を上げた途端、クラッと眩暈。
「…っと」
額をおさえ、瞬き。
おやおや…これはまた…。
凄い所に御招待されまシタね。
眩暈を覚えた原因は、その異常な景色。
空は白。雲は青。見事に色が逆転している。
拭えぬ違和感。

フワリと目の前に降りてくる蝶。
私は苦笑しつつ、蝶に問う。
「ここは何処デスか?」
当然、蝶は何も言わず。
ただ、私の頭上で優雅に舞う。
気のせいかもしれまセンが。
どことなく、嬉しそうデスね。
あなたが満足なら、良いのデスが。
さて…これから、どうしまショウか。

「あっっ!!!!」

この先の身振りを考える私の耳に、飛び込む驚声。
背後からの、その声に 私は振り返る。
振り返った先に居たのは。
これまた不思議な格好をした青年で…。
「こんにちは」
私が微笑んで言うと、青年はニッと笑い。
「おぅ。いらっしゃい」
そう言った。
…いらっしゃい?
よくわからない歓迎の言葉に首を傾げる私。
次の瞬間。

ゴオッ―

真横を走る、炎の槍。
って。えぇ…?
私は苦笑しつつ、頬を掻く。
「何やってんのよ。リグ。真面目にやってよ」
青年の声とは別の、女性の声。
青年同様、不思議な格好をした女性だ…。
「ちょい待ち。ほらほら!来たぞ」
不機嫌そうな女性の肩を叩きつつ、
青年は私を指差して言った。
人を指差しては いけまセンよ。
「嘘ぉ。ホントに来たんだ」
口元に手をあてがい、驚く女性。
うーん。そうデスね。とりあえず…。
私は立ち上がり、パンパンと服についた埃を払って2人に問う。
「盛り上がってる所 すみまセンが。ここは、何処デスか?」
青年はニッと笑って返す。
「イツァルテ・リダだ」
いや。そう言われても…。
苦笑する私を見て、青年の頭をパコッと叩き 女性が言う。
「ごめんなさい。コイツ、説明下手なの」
クスクス笑う私。
そうデスね。理解りマス。



「ふぅむ。なるほど…」
説明を聞き終えて、私は一応理解する。
ここが「イツァルテ・リダ」という異世界である事。
あの桃色の蝶は「プライツニー」という名前で、
別世界の住人を招待する際の案内係である事。
私に理解り易く説明してくれた女性の名前は「エミル」
エミルの隣で、終始欠伸ばかりしていた青年の名前は「リグ」という事。
空と雲の色が異なる原因も訪ねたけれど、
2人曰く 「その台詞 そのまま返す」 だそうで。
要するに、私の暮らす世界の空が青く、雲が白いように。
この世界では白い空・青い雲が普通という事。
うーん。まさに異世界、デスね。

「一個、質問してもいい?」
リグの言葉に、私は微笑んで返す。
「はい。何でショウ?」
「怖いとかさ、不安になったりしないのか?」
不安…デスか。私はクスクス笑い、返す。
「はい。全く」
私の言葉に、顔を見合わせて嬉しそうに笑う2人。
考えねばならない事は、あると思いマスよ。
例えば、どうやって元の世界に戻るのか、とか。
けれどね。それよりも。
「私からも質問、良いデスか?」
「ん?何だ?」
「先程の炎の矢は、魔法の類デスよね?」
「そうよ。あたし達、これでも魔士なの」
はい。きまシタね。
やはり、そうでシタか。
気になっていたんデスよ。先程から ずっと。
では…詳しく聞かせて頂きまショウか。

骨の髄マデ。


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3.

「ありがとうございまシタ。とても良い時間を過ごせまシタよ」
2人に根掘り葉掘り聞いた、
この世界の「魔術」を書き留めたメモを満足気に見つつ言う私。
「どういたしまして」
微笑んで返すエミルと。
「は〜疲れた」
コキコキと首を鳴らすリグ。
「説明したのは、あたしよ。あんたは何もしてないでしょ」
「…聞いてるだけで疲れんだよ」
「は〜ぁ…。まったくもう。ちょっと見習いなさいよ」
「うっせーなぁ。デリクが物好き過ぎるんだよ。聞き過ぎだっつーの」
クスクス笑う私。
そうデスね。その通りかもしれまセン。



「えぇと…?ここに飛び込めば良いんデスか?」
懐にメモをしまいつつ言う私に、エミルが頷き言う。
「そうよ」
ふむ…。真っ暗デスね。まぁ、大丈夫でショウ。
私は、巨大な穴の前で襟を整える。
「デリク」
ポン、と肩を叩くリグ。
「はい?」
私が振り返ると、
リグは小さな小瓶を差し出して言う。
「土産っ」
私は、それを受け取り微笑んで返す。
「ありがとうございマス。では、私からも」
「…?何だ?これ」
「ワインです。美味しいデスよ」
「酒?」
「はい。そうデス」
「マジか。やった。さんきゅ!」
バシッ―
喜ぶリグの頭を叩き。
「駄目よ。あんた未成年なんだから」
「ばーか!俺はハタチだっつーの!」
「精神的に未成年だって言ってるのよ」
「…ムッカつく」
2人の微笑ましい遣り取りに。
自然と笑みが。
おや…この感覚。
私は、クスクス笑う。



「デリク〜!絶対、また来いよ!連れて行きたいトコ いっぱいあんだ!」
そう言って、ニッと笑うリグ。
はい。勿論。
あなたが話してくれた「魅惑の果実」 いつか、私も食したいと思いマス。
あなたが話してくれた「海ウサギ」 いつか、見てみたいと思いマス。
あなたがたの師匠 「リット・ガート」氏にも いつか、御会いしたいデスね。
興味津々なのデスよ。
この世界には、不思議がたくさん。
その全てに。私は触れたいと思いマス。
その全てを。私は理解したいと思いマス。
えぇ。心から。


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ドサッ―

「…イタタタ」
帰りもこれデスか。
まぁ、良しとしまショウ。
痛みが、夢ではないと証明してくれマスから。
けれど、次は。
格好よく着地したいものデスね。
行きも帰りも。

”いつもの”空と景色。
月灯りを浴びて。
私は微笑む。



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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

3432 / デリク・オーロフ / ♂ / 31歳 / 魔術師

NPC / リグ・ヘラッセ / ♂ / 20歳 / 魔士(Class:A)
NPC / エミル・ブーゲ / ♀ / 19歳 / 魔士(Class:A)
NPC / プライツニー (桃色の蝶々)


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          ライター通信          
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こんにちは。はじめまして。
発注ありがとうございました。心から感謝申し上げます。
遅くなってしまい 大変申し訳ございません。

イツァルテ・リダ来訪記念としてアイテムを贈呈致します。
作中でリグが御渡しした物です^^
アイテム欄を御確認下さい。あっ…早めに御賞味を(笑)

とても楽しく紡がせて頂きました。気に入って頂ければ幸いです。
よろしければ また イツァルテ・リダに遊びに来て下さい。
色々なイベント・ハプニングを御用意して御待ちしております^^

2006.12/15 一檎 にあ