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想い深き流れとなりて 〜５、想い深き流れとなりて
夕刻のアトラス編集部には張り詰めた沈黙が満ちていた。
とりあえず、「希望の会」の調査１日目を終え、依頼人たる碇麗香に中間報告をしようと、一同は再び編集部へと集まっていた。
「希望の会」設立者は、表向きには広報役として通っている高階幸宏であること、政治家だけではなく、暴力団とも関係があること、麗香の知り合いのフリージャーナリストがつかんだ「カンナギノゾミ」という名は、事故をきっかけに高階と知り合った今年６歳になる少女であること、また、彼女が人の望みを叶えるという能力を持っているが、それは無意識的に行使されており、彼女にかなりの負担になっている可能性があること、その能力ゆえに、彼女の両親は既に死している肉体に魂を留めている状態で、教団の地下で過ごしていること、そして、高階の目的は彼女の能力を利用して死を克服することであること、また、教団に大量のプラスティック爆弾が流れていることが判明しているが、その所在は不明であることなど、既に調査員たちの間では共有されている情報が、今一度整理された。
「なるほどね……」
麗香は深刻な顔をして頷く。
「心配なのは、その希美って子ね。それから、爆弾のことも……。話を聞いているだけならテロを計画していると考えてもよさそうね。どこを狙うのか、何を目的とするのかはよくわからないのだけれど」
麗香の言葉に誰もが神妙な顔をして頷いた。
今手を打たなければならないのは、希美の能力と、教団が――高階が、というべきか――計画しているとみられる破壊活動。
だが、どう出るべきかなかなか話はまとまらなかった。希美への精神的な影響を考えると、両親をどうすべきかが難しくなってくる。
「今日はもう遅いわ、学生さんもいることだし。また明日……、お願いできるかしら？」
麗香がそう打ち切り、皆が編集部を辞する頃には、夏の長い日もすっかり傾いてしまい、西の空には茜色の残滓が残っているだけだった。
陽射しが途切れれば、吹き渡る風は思いのほか涼しくて、暦の上ではすでに秋が立っていることを思い出させた。
『翠です。先ほど、『希望の会』に残しておいた式から連絡が入りました』
イヤホンから流れ出た陸玖翠（りくみどり）の声が、ササキビクミノを浅い眠りから引き戻した。まだ朝と呼ぶには早い時間だが、東の空は白み、夜明けが近いことを告げている。
『高階が大川愛実という少女を呼び出して、明日、神聖都学園で行われる戦没者追悼集会を狙って、会場となる大講堂を爆破するよう、指示をしました。既に爆弾は大講堂に運び込まれていて、愛実には起爆装置を手渡した模様です。狙いは、多くの犠牲者を出すことによって、『死』を否定する想いを持つ者を多く生み出し、希美嬢の能力を使って、彼岸と此岸の境界を瓦解せしめる……言ってみれば三途の川を干上げてしまうことだと思われます』
淡々と告げられた言葉は、しかしあまりに衝撃的な内容をはらんでいた。
クミノは軽く眉を寄せる。大川愛実というのは、最初の事件の被害者の妹ではないか。その彼女が「希望の会」にいるというのは、姉を失った心の痛みを埋めるものをそこで見いだしたのだろうか。心に大きな穴が空き、それを埋めるべきものを見いだしたばかりの人間というものは弱い。その支えを失わないために、どんなことでもやってしまいがちだ。あの夜、愛実を守る為に姉の朱美が、そして彼女の願いを叶えたいと思った多数の者たちが、かけずり回ったことも知らずに。
『それはまた物騒な』
『うちの学校が！？ そういや、集会やるから出席しろと生徒会長直々に連絡があったけれど……、爆破！？』
クミノがそんなことを考えている間にも、ヴィルア・ラグーンの呟きをかき消すように、弓削森羅（ゆげしんら）の声が響く。
『神聖都学園の生徒会長って繭神さんですよね。一刻も早く爆弾があることを知らせないと……』
次に櫻紫桜（さくらしおう）の深刻な声が続いた。
『繭神氏には先ほど知らせを送りました。もう耳には入っているはずです』
『じゃあ、俺は会場の爆弾を探しに行きます』
わずかな安堵の息の後、再び引き締まった紫桜の声が届いた。
『気をつけてね。私も処理技術者を手配するわ』
シュライン・エマの声がその後を追う。
「使われているのはプラスティック爆弾。粘土のように形を変えられるから見分けにくいが、起爆装置を発動させない限り、火に入れても爆発はしない。おびえる必要はないけれど、気をつけて」
翠の最初の言葉を聞く限り、運び込まれているのは爆弾そのものだけのようだ。だとしたら、扱いにあまり神経質になる必要はない。クミノは皆にそう伝えた。
『ということは、愛実さんの方を足止めするのも有効ね。携帯に履歴があるから、朝になったら愛実さんに連絡とってみるわ』
シュラインが返事を寄越してくれた。
『あ、俺も愛実先輩探します』
慌ただしく、森羅がそれに続いた。
『私はもう一度教団の方に行きます』
翠が言う。
『あ、じゃあついでに希美ちゃんの保護してもらえます？ 能力使っちゃわないように眠らせて。集会に連れてこられるかもしれないし』
そう言った森羅も今、大慌てで支度をしているのだろう、何やらばたばたいう音が聞こえてくる。
「そのことなんですが」
ちょうど話題に乗る感じで、クミノは口を開いた。
「いっそ、高階も希美もその両親もみんなまとめて集会に参加させるというのはどうでしょうか。人は死に耐えられませんからそこに人為を持ち込むべきではないはずです。その本来の姿に、高階にも、希美の両親にも気づいてもらうしかないのではないでしょうか。希美の両親もまた、全てを知るべきだと思います。悔いも罪も喜びも、もっと早く自分たちで引き受けるべきでしたから」
思っていたことを、そのまま言葉に紡ぐ。イヤホンの向こうはしばし、静まり返った。
『……希美嬢の両親の今の状況を考えると難しいと思います。希美嬢を娘と認識し、愛情らしきものを向けることはできますが、それ以上の理解は伴うかどうか……。高階の方にも、それだけの救いがあるかどうかはわかりません』
返って来た翠の声には、わずかながら躊躇いのような、迷いのような色が含まれていた。
『まあ、どちらにせよ行ってみないことには、だな』
ヴィルアのハスキーボイスが会話に終止符を打った。
すぐさま支度を済ませたクミノは、まずは神聖都学園を目指した。
外はすでにかなり明るくなっていたが、まだ人の活動する時間ではなく、人通りは皆無と言っても良かった。クミノは障気で自身の身体を持ち上げ、神聖都学園へとまっすぐに向かう。ちょうど、あの夜のように。
閉ざされたままの校門を軽く飛び越えると、門の側に神聖都学園生徒会長繭神陽一郎の姿が見えた。どうやら今来たところらしい。門に着くと鍵を開けている。
クミノはそのまま、物陰へと着地した。そして、門を入ったばかりの繭神に声をかける。
「繭神さん」
「君は？」
繭神はいぶかしげな顔をして振り向いた。
「ササキビクミノ。講堂内の爆弾撤去を手伝いに来ました」
「ああ、陸玖さんから連絡のあった。ありがたい」
繭神はほんのわずか表情を緩めると、クミノを講堂へと案内した。
そうして、大講堂へと入ろうとした時、背後から誰かの気配がした。
「浮遊霊、多数確認。企画目的、彼岸への誘導。会場に到着」
その抑揚のない声に振り向いてみれば、クミノと年頃も変わらないような少女が１人、立っていた。愛らしい顔立ちをしているが、その表情は口調と同様、平坦なものだった。
「希望の会」の関係者だろうか。クミノは油断のない視線を少女に向けた。
「亜矢坂９（あやさかナイン）すばる。追悼集会企画に参加しに来た」
少女は、相変わらず抑揚のない口調でそう告げる。
「まだ集合時間までずいぶんと間があるが……」
繭神が苦笑を浮かべた。が、すばるは意に介していないのか、軽く首を傾げただけだった。
もしも、彼女が「希望の会」の人間だとしたら、ここまで奇特な行動をとるだろうか。クミノは心中考え込んだ。繭神の方にちらりと目を遣れば、彼も考えあぐねているのか、曖昧な表情を浮かべるだけだった。
「とりあえず中へ」
このままこうしていても仕方ないと踏んだのだろう、繭神がクミノとすばるを中へと促した。
大講堂の中は、既に準備がほぼ整っているらしく、たくさんの椅子が並べられ、大きな花瓶や、燭台、祭器らしきものがその中心や、壁際に飾られていた。
「おはようございます」
今到着したらしい、背後から軽く息を弾ませた紫桜の声がした。
「俺は、櫻紫桜と言います。プラスティック爆弾がしかけられていると聞いたのですが、探すの手伝います」
紫桜は、手短かに名乗ると、すぐに本題に入った。
「それはありがたい」
「亜矢坂９すばる。すばるも、企画の事前説明と適合しない状況を検出した」
それに、繭神とすばるが返事を返した。
「繭神会長、大講堂に施した仕掛けについて詳細説明を求める」
すばるは素早く繭神に向き直り、相変わらず抑揚のない口調でそう続けた。
「もともとこの集会の目的は、学園内でも溢れている幽霊たちを彼岸へと送り、今現在曖昧になっている彼岸と此岸の境界を強化することにある。仕掛けは本来秘中の秘なんだが……」
繭神は躊躇いを見せながらも、施した仕掛けを説明した。
「了解、可塑性爆発物は会長の企図しないものと断定」
すばるが頷き。
「では、仕掛け以外のものは念のため全て排除します」
紫桜が言う。
「それがいいでしょうね。プラスティック爆弾は起爆装置さえなければ爆発性は低いので」
クミノも頷いた。
「目的、遠隔操作装置・起爆装置の無効化、爆発物不活性化処理、並びに設置・操作者の特定、確保」
すばるが確認するように繰り返す。
「あ、設置者はわかっています。具体的な人名まではわかりませんが」
紫桜が、宗教団体「希望の会」が起こした事件と、その目的を簡単に説明した。
「了解。では、爆発物の捜索、および第二次襲撃に供えて防衛結界を張ることとする」
言うなり、すばるの背中から巨大なアンテナが飛び出した。
「……」
その一種異様な光景に、誰もがしばし言葉を失ったが、今はそうしている場合でもない。
「とにかく、爆発物を探しましょう」
クミノの言葉で、一同は広い講堂の中に散った。しばしの後に、シュラインが呼んでくれたらしい人々が加わり、自然と分担区域が決まっていく。
いろいろなモノが置かれている割には、プラスティック樹脂を思わせるものは少なかった。クミノはそれらの１つ１つを念入りに調べ、繭神が意図したものではないものは、容赦なく撤去していった。
と、向こうの方で何かがぶつかったような音がした。振り向いてみると、椅子にぶつかって転んだらしいすばるが、頭を押さえながら起き上がったところだった。
「大丈夫ですか？」
紫桜が気遣いの言葉をかける。
「多少の衝撃あり。が、身体機能に異常なし」
すばるは、相変わらずの口調で返事を返す。
そうこうして、一通り講堂の中を見て回ったが、それらしきものは見つからなかった。
「この講堂を爆破しようというのなら、それなりにまとまった量の爆薬が必要となるはず……。それだけの量の爆弾をどこに隠したのか……。いっそ、高階か大川に聞ければ早いのだが……」
クミノは小さく呟いた。
「でも、それだけの量の爆弾ということになると、運び込むのも大変ですよね。一体、どうやって持ち込んだんでしょうか……」
紫桜も首をひねる。
「もしや、寄贈品を装ったとか……、少し調べてみる」
言って、繭神が姿を消した。しばしの後に、戻ってきて結果を告げる。
「『希望の会』から、初等部の教材用にと樹脂粘土の寄贈があった。それも、ここ最近。講堂の機材室に運び込まれているはず」
わかってみれば、なんとも単純な手口だった。そのまま、全員で機材室に直行する。果たして、大量の段ボール箱が無造作に積み上げられていた。
「成分分析。火薬成分を検出。可塑性爆発物と断定」
すばるが、無表情にそう断じる。
「電気的信号なし。起爆装置、遠隔操作装置ともに検出されず」
「ということは、この箱、このまま抱えて運び出しても問題はないんですよね？」
紫桜が、確かめるようにクミノを振り向いた。クミノは黙って頷く。
「では、しかるべきところに引き取って……」
と紫桜が今度は、シュラインが手配してくれた爆発物処理者たちを振り向こうとした時。
なにやら、自動車のタイヤから猛烈に空気が抜けるような音がして、夏とは思えぬ冷気が漂って来た。
「冷凍処理完了」
唖然とした顔の紫桜の横で、すばるが淡々と言い放った。
「確かに、起爆装置は取り付けられないだろうけれど、これは……」
さすがのクミノも、どう反応すべきか迷って、語尾が宙に溶けていった。
その時、イヤホンから連絡が入った。
『翠です。教団側は片付きました。希美嬢のご両親が守護霊となって彼女の能力を抑えています。高階は、今のところ放置していますが、もはや何かことを起こす気力はないでしょう。静殿の回復を待って、クミノ嬢のご希望通り、後で連れて行きます』
「回復って……、静さんどうしたんですか？」
紫桜がマイクのスイッチを入れて、翠に聞き返した。
『希美嬢のご両親を送るのに、消耗されたようですが、ヴィルアが手当をしていますので、ご心配なく』
「ご配慮、感謝します。こちらも、仕掛けられた爆弾を発見しました。少し手間はかかりそうですが、撤去します」
クミノは返事を返し、現状を報告した。
「後は、愛実さんだけですね」
紫桜が呟く。
「少し、行ってきます」
クミノは短く言いおくと、学園を辞した。イヤホン越しに聞こえていた、森羅とシュラインのやり取りから、愛実のいる位置はわかっていた。それは、あの夜、朱美が亡くなった公園だった。
再び、障気で自らの身体を押し上げ、クミノはひとっ飛びに公園に向かう。
公園に着くと、ベンチに森羅、シュラインと、愛実らしき少女が座っているのが見えた。そして、翠が反対側からやってくる。
「いっそのこと、真実をすべて告げてしまったらどうですか？ あの２人の死に高階が関わっていることを」
「……えっ？」
翠の言い放った言葉に、愛実が唖然と顔を上げた。
「考えてもみて下さい。まともな人間が人が集まる場所の爆破の指示などしますか？」
「けれど、私はあの一件は高階の意志でないと思っています。バタフライ効果で、結果がああいう形になったということで」
クミノも、そう言葉をかけた。
「どういう……ことなの？」
愛実が金切り声を上げた。
「愛実先輩、ごめん。俺たち、あの高階って人が愛実先輩に今日の集会で爆破するように指示したの、知ってるんだ。だから、どうしてもそれを思いとどまって欲しくて、愛実先輩を探してたんだ」
森羅がまっすぐに愛実に視線を向け、そう切り出した。
「あの時、愛実先輩にむかって笑ってたお姉さんを悲しませるようなことだけは、絶対にして欲しくなかったから」
「……」
愛実は、再び俯いた。
「あの夜、愛実さんが朱美さんに会ったとき、朱美さんはもう亡くなっていたんです」
クミノが静かに語り始めた。
「私たちは、朱美さんの幽霊から頼まれたのです。殺人現場を目撃してしまったために、自身は殺されてしまったけれど、その時に携帯電話で話していたあなたまで狙われてしまうから、あなたを守って欲しいと」
「そんな……」
にわかには信じがたいのだろう、愛実は頭を振った。
「その時、朱美嬢より先に殺されてしまった男の死を別件で追っていて、行き着いたのが高階というわけです。殺されたのはフリージャーナリスト、『希望の会』について調べていて、急に消息を絶ったことがわかっています」
翠がさらに言葉を続けた。
「そんな……。あたしは誰を……、何を信じたらいいの？」
愛実は泣き声になりながら、再び激しく首を振った。
「今ここにこれだけの人が今集まっているという意味を……、あの夜、皆が何のために真相を隠していたのか……、朱美さんは何を胸にあなたに笑顔を見せていたのか……、よく考えてみて下さい」
クミノはゆっくりと言葉をかけた。言いたいことをそのまま伝えることは簡単だ。けれど、クミノの役割をそれを言うことではない。ただ、真実を述べるだけ。気づくのは、愛実の仕事だ。
「愛実さん」
シュラインは、ゆっくりと愛実の手をとった。一瞬、愛実の肩が震えたが、彼女はそれを振り払おうとはしなかった。
「普段過ごしている中で、ちょっとした仕草とか、習慣のなかで、朱美さんが生きていた証とか、その存在とかが感じ取れるはずよ。今も１人とは思わないで」
優しく、子どもに言い含めるようにシュラインが続ける。愛実は空いた方の手で、顔にかかった髪をかきあげた。が、その手がはたりと止まる。
「……お姉ちゃん」
愛実がかすれた声で呟いた。
「お姉ちゃん！ お姉ちゃん！ ごめんね……、ごめんね……」
一言、声がもれると、まるで堰を切ったように、愛実は大声をあげて泣き崩れた。誰もがただ、彼女を黙って見守っていた。
「では、行きましょうか」
愛実が落ち着くのを見計らってか、翠がそう声をかけた。愛実は黙って頷いた。その途端、急に視界がゆらいで、クミノたちは神聖都学園に立っていた。どうやら、これは翠の所行だったらしい。
「さ、行きましょう。朱美さんのためにも」
いまだ呆然としている愛実をシュラインが促し、皆が揃って講堂に入った。既に集会は始まっていて、繭神が壇上に立ち、挨拶をしている。
「本日はお集りいただき、ありがとうございます。今日、この日は終戦記念日。今のこの国のために犠牲になられた方たちだけではなく、我々の身近にいてくれた人、我々を育ててくれた人、そして、不本意ながらも先に旅立ってしまった人、そんな人たちへの感謝を込めて、あるいは、我々の今の生活を見つめ直し、報告するのも良いかもしれません」
「お姉ちゃん……」
その言葉に、愛実が小さく呟く。
シュラインが、愛実の肩に手を置いた。
「朱美さんだって、愛実先輩がお姉さんのこと想ってるの、喜んでくれるっすよ」
森羅は、少しでも愛実を力づけようと囁いた。
クミノは、その様子を黙って見守る。
「今しばしの時間を、彼岸にいる大切な人のために、そして、此岸を歩む私たち自身のために。祈るということは、死者のためでもあり、生者のためでもあるはずです」
壇上の繭神の声が朗々と響く中、場内は、しんと静まり返った。誰もが手を合わせ、頭をたれ、自分なりの祈りの言葉を口ずさみ、死者のために、あるいは自身のために想いを巡らせる。愛実もまた、涙ぐみながら手を合わせる。
人それぞれ様々だったはずの祈りの波長は、不思議と響き合い、絡み合い、滔々と音を立て、ひとつの奔流となっていく。辺りを漂う霊たちが、その流れに導かれるように、彼岸へと帰って行く。此岸に残る者たちに、そっと、そっと別れを告げて。
それに気づいたか気づかないか、ただそのまま頭をたれ、眼をつむったままの人、ふと顔をあげ、瞳を潤ませる人、そして、そっと柔らかな微笑みを口元に浮かべる人。
ここに在るのは、はるか昔からずっと営まれてきた人の営為だった。自らの力の決して及ばぬ生き死にという局面に直面したときの。
人の力の及ばぬ領域があってもいい。クミノもまた、そっと手を合わせた。
＜了＞
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【5566／菊坂・静／男性／１５歳／高校生、「気狂い屋」】
【6118／陸玖・翠／女性／２３歳／（表）ゲームセンター店員（裏）陰陽師】
【6608／弓削・森羅／男性／１６歳／高校生】
【2748／亜矢坂９・すばる／女性／１歳／日本国文武火学省特務機関特命生徒】
【6777／ヴィルア・ラグーン／女性／２8歳／運び屋】
【1166／ササキビ・クミノ／女性／１３歳／殺し屋じゃない、殺し屋では断じてない】
【5453／櫻・紫桜／男性／１５歳／高校生】
【0086／シュライン・エマ／女性／２６歳／翻訳家＆幽霊作家＋草間興信所事務員】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは。ライターの沙月亜衣と申します。
この度は、当シナリオへのご参加、まことにありがとうございました。お届けが遅くなってしまい、本当に本当に申し訳ありません。最終回だというのに、とんだケチがついてしまいました。
ともあれ、皆様のおかげで、無事シリーズ完結と相成りました。最終回に一番多数のPC様にご参加いただけて、本当に嬉しいです。重ねて御礼申し上げます。
今回も例によって皆様に微妙に違うものをお届けしております。お暇な時に、他の方の分にも目を通して下されば、話の全体像が見えやすくなってくるかと思います。
自分が招いた事態ながら、今回は時間がありませんので、個別のコメントはご容赦下さいませ。
ご意見等ありましたら、遠慮なくお申し付け下さい。できるだけ真摯に受け止め、次回からの参考にさせて頂きたいと思います。
それでは、またどこかでお会いできることを祈りつつ、失礼致します。本当にありがとうございました。
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