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<東京怪談ノベル(シングル)>


OCCULTA 〜隠されたもの〜


  闇の中で銀糸がたなびき、金色の双眸が揺れる。
 ほの暗い森の中、鬱葱と生い茂る木々の間を真央はすいすいと抜けていく。
 木漏れ日が差すところも少なく、足元も暗い中で、常人ならばおぼつかない足取りになることだろう。
 だが真央は違った。
 真央の中にはビーストが。
 いじめっ子から逃げている最中、偶然足を踏み入れた洞窟の奥で出会った魔獣。
 解放してあげる筈が、主従契約を結ぶことになってしまった闇色の獣が彼女の中に住んでいる。
 獣の力によって闇の中でもハッキリと目が見える。
「……?」
 あてどなく森の中を歩き回っていると、忽然と小さな家が現れた。
 それだけでこの建物が普通の家ではないと真央は直感する。
 しかし、別段身構えるわけでもなく、真央はその家の中を覗いた。
 概観はログハウス風の佇まい。
 ガラス越しに統一性のない品々がディスプレイされているのが見える。
 どうやら店のようだ。
 手持ちはあったし、少し覗いてみようか。
 そう思った真央は扉に手をかける。
 同時に、ビーストが気まぐれに彼女から分離して、黒い犬の姿をとる。

――突然現れたものだ。 少し用心した方がいいな――

「大丈夫よ。 何故か…うん。 そんな気がする」
 真央の言葉は文字通りの直感でしかない。
 しかし、その言葉尻不安は一切なかった。
 我が巫女が決めたことならば、とビーストは彼女に従い共に店内に入っていった。

「いらっしゃい」
 何処からともなくそんな声が聞こえてきた。
 薄暗い店内を見渡すと、奥のカウンターに頬杖つく男の姿が見える。
 不思議と、その顔はよくわからない。
 暗くて見えないというわけではないのに。
 それに応えるように、真央はこくりと頷く。
「どれがいいかな…ビースト…何か気になるものとか、ある?」

――どれもこれも曰くありげな匂いがするな――

「曰く……ねぇ、ここにおいてある物はどういうものなの?」
 突然傍に現れた黒犬に驚くこともなく、彼女がその犬と話しているような素振りを見せても驚くこともなく、店主はそれらを必要とする持ち主が現れるまでの、謂わば仮宿だと答えた。
「ここにあるものは全て、主を必要としているんだ。 けれど、そんじょそこらの人においそれと売れるものではないのでね。 資格ある者にしかこの店は見えないんだよ」
 薄暗い店の奥にあるカウンター越しにこちらを見ている店主は、心なしか笑っているように見えた。
「ここには入れたということは、あたしが必要としてる…私を主と選んだモノがあるということよね…」
 子供のそれとは思えない流暢な物言いにも、店主は驚くでもなく淡々と質問にYesと答える。
 そしておもむろにカウンター傍にあるショーケースから小さな水晶のついたペンダントを取り出し、真央に差し出す。
「……これ?」
「君は大きな力に振り回されている節があるね。 これは君の力を最小限に抑える力のある物だ……通常であれば封印効果の強いものだが、君の力につりあう物だろう」
 そういって真央の首にそのペンダントをかける。
 細かな細工のはいった台座に、カボションカットの水晶がよく栄える。
 窓から差し込む光に、ゆらゆらと七色に輝く不思議な水晶。
「―――きれい……」
 お気に召したかな? という問いに、真央ははしゃぐでもなく浅く頷いた。
 年頃の少女ならば少しは華やいだ表情を見せてもいいはずなのに。
 こういうところは彼女のややひねくれている性格が現れる瞬間でもあった。
 手持ちで足りるかどうか問おうとすると、気持ち程度で構わないと言う店主に、思考を読まれた気分になり、少々ムッとした。
 そしてペンダントを首から提げたまま、真央はビーストと共に店を出た。
「――でも、ちょっと楽しかった――――…」
 また来ようか。
 そう思って振り返った瞬間、店は霧にように目の前から掻き消えてしまった。

――用が済んだ…ということか――

「…みたいね」
 ちょっと残念かな、と呟くに留まり、それ以上固執する様子もなく、真央はまた再び森の中を歩き始める。
 その胸には、不思議な煌きを放つペンダントが光り輝いていた。


―了―