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<東京怪談・PCゲームノベル>


「サーカスのお手伝い、させてください!」



「あなたがお手伝いの方ね?」
 ホワイトタイガーの白虎轟牙の横に立って出迎えた柴樹紗枝は、がくがくと足を震わせる金髪少女の姿に少し驚いた。やたら幼い印象を受けるが本当に手伝いの子なのだろうか?
「ステラ、さん……よね?」
「あ、は、はいっ」
 返事をした少女はぺこりと頭をさげた。顔をあげた彼女は引きつった笑顔で自己紹介する。
「サンタ便のステラですぅ。今日は一日、よろしくお願いしますぅ。
 ところで、わたしは今日、なんのお手伝いをすればいいんでしょうか?」
 騒がしさにステラはきょろきょろと視線だけ動かした。ここはテントの中で、紗枝の背後にはステージがある。
 そう、ここはサーカス、だ。
 紗枝は連れている轟牙に手を遣り、優しく撫でる。その様子を見たステラが微妙に顔を引きつらせた。
「私はこのサーカスで猛獣使いをしている柴樹紗枝。こっちは白虎轟牙」
「柴樹さんに……えと、白虎さんですね」
 紗枝はにっこりと微笑んだ。
「ステラさんに手伝って欲しいことは2つ」
「ふ、ふたつ?」
「どちらも裏方の仕事なんだけど、動物達の世話が1つ」
「どっ、動物って……」
 ちら、と轟牙のほうをステラは見た。紗枝の声は続く。
「もう1つは……」
「あなたが手伝いの方ですのね!?」
 突然の声にステラは振り向いた。こちらに向けて歩いてくる娘はステラの前で止まると腕組みしてじろじろと眺めてきた。
「貴方様には衣装の手入れと着替えを手伝ってもらいますからね!」
「は、はぃ。あの……どちらさまですか?」
「わたくしを知らないのっ!?」
 眉を吊り上げた娘を紗枝が紹介する。
「空中ブランコの芸をしているアレーヌよ」
「アレーヌ・ルシフェルと申します」
 胸を張って言うアレーヌは人差し指をステラの鼻先に突きつけた。
「万が一、わたくしの衣装に何かしでかしたら……その時は、わかってますわよね!?」
 アレーヌの威圧にステラは後退する。それを追いつめるようにアレーヌはずいずいと近寄ってきた。
「しっかり頼みますわよ!」
 いいですね!
 そう念を押すと、彼女はフンと鼻を鳴らしてきびすを返し、来た道を戻っていった。
 唖然としているステラに紗枝は説明する。
「アレーヌの言ったように、ステラさんには衣装の手入れと、準備、それから着替えを手伝って欲しいの」
「わ、わたしにできるでしょうか……」
 すっかり不安になっているようで、ステラはもじもじとしている。そんな彼女に紗枝は微笑んだ。
「大丈夫! そんなに難しいことはさせないわ」
 ステラは安堵したようだが、轟牙のほうを見遣った。
「あの、えっと……わたし、大きい動物というか、凶暴なのはちょっと苦手なんですけど……」
「え? 轟牙は凶暴じゃないけど」
 紗枝の声に応えるように轟牙が軽く咆えた。だがその口から覗く鋭い歯並びにステラが「ぎえっ」と悲鳴をあげた。
「凶暴じゃなくても苦手なものは苦手なんですぅ!」
「そうなの? あ。安心してね。猛獣なんかの世話はしなくてもいいから」
「そ、それは良かったです……」
 胸を撫で下ろしたステラに、紗枝はくすくすと笑ってみせた。
「裏方の仕事って意外に重労働だし、忙しいの。時間が空けば興行も見せてあげられるんだけど……」
「いいえ! 気にしないでくださいっ。お仕事に来ているからには、しっかりやらせてもらいますぅ!」
「クラウンの代役、よければやってみる?」
 紗枝の問いかけにステラは真っ青になった。
「な、なにを言うんですかぁ! クラウンってピエロのことじゃないですか! 一番難しいですぅ! 無理無理!」
「まあ確かにそうかも。でも……」
 豊かな表情のステラを見ていれば、できそうな気もする。
(オーギュストクラウンとかできそうなんだけど……それも天然で)
 クラウンと言えども種類はある。ドタバタや間違いを起こして観客の笑いを誘う種類のはピッタリな雰囲気があるのだが。
(でも、素人にさせるのは確かに酷よね)
 紗枝の心情を読み取ったかのように、轟牙が低く唸る。どうやら轟牙もそう思っているようだった。



 薄暗いテントの中を、ステラは動物たちが居る場所まで案内された。
「エサをやることと、身体の手入れをお願いしたいの」
「…………」
 動物たちの騒がしさにステラはすっかり怯えている。だが、ぐっ、と拳を握りしめた。
「わ、わかりました! 頑張りますぅ」
「象はかなり食べるから、力仕事になるわよ」
「はい!」

 檻の中にいる動物たちにエサを与えてはいたが、ステラのドジっぷりに驚くしかなかった。
「す、すいませぇん……水を引っ繰り返してしまいました……」
 ずぶ濡れのステラは、様子を見に来た紗枝の前でしょんぼりと肩を落とす。水は辺りに飛び散り、ライオンの檻の中にまで届いていた。ライオンが威嚇するようにしているのを見て、轟牙が牽制していた。どうやらステラを庇っているらしい。
「せっかくお手伝いに来たのに……わたし、役に立ってません……」
 涙を浮かべるステラに紗枝は慌てた。
「大丈夫よ! 誰だって最初は戸惑ったり、大変だもの! ね!?」
「は、はいぃ」
「轟牙、ステラさんを見ててあげてね」
「ええーっ!」
 悲鳴をあげるステラが轟牙から距離をとる。
「いい虎さんなのはわかってるんですけど……やっぱり苦手ですぅ」
 がう、と轟牙は悲しそうに咆え、尻尾をだらんと垂らしたのだった。
 ステラは紗枝をじっと見ている。紗枝はその視線に首を傾げた。
「どうかした?」
「猛獣使いってことは、この怖いライオンとかに言うことをきかせるんですよね。柴樹さんて凄いですぅ」
「動物たちもきちんと訓練してるから。曲芸とかできるようになるまでは、地道にエサをあげて、一緒に訓練するのよ」
「ほー!」
 ステラは目をキラキラと輝かせた。
 紗枝は幼い頃からサーカスに居る。だからこそ、サーカスの裏方がどれほど大変なのか知っているのだ。テントを組むだけでもかなりの大人数が必要だし、日々練習も欠かせない。
「白虎さんは柴樹さんの言葉がわかるみたいですけど、ここのキリンや象はそうはいきませんよね? どうやってるんですか?」
「身振り手振りよ」
「……みぶりてぶり?」
 疑問符を頭の上に浮かべるステラに紗枝は自身の経験を思い出しながら続ける。
「こっちの意志が伝わるまで根気よくやるのが動物をしつける時に必要なことなのよ、ステラさん」
「へぇー。すごいんですねぇ」
「サーカスはとても華やかに見えるけど、それはお客さんに楽しんでもらうための努力を怠らないからなの」
 人差し指を立ててウィンクする紗枝に、ステラは小さく拍手した。



「えーっと、次は衣装ですか。どこへ行けばいいんでしょうか……」
 轟牙は紗枝が先ほどリハーサルをするために連れて行ってしまった。
 ステラはテントの中をうろうろしていたが、自転車を押して現れた娘にビクッと大仰に反応した。
 長い髪をリボンで括っている娘はステラの姿に怪訝そうにするものの、素通りしようとする。
「ここの方ですよね!? あの、バイトのステラですぅ。衣装の手入れをしろって言われてるんですけど、どっちへ行けば……」
「バイト……?」
 しばし無言でいた娘にステラが焦る。
「あ、あの……?」
「……あっち」
 娘の指差した方向を見遣り、ステラは彼女に頭をさげる。
「ありがとうございますぅ。……あの、訊いていいですか?」
「…………」
 こくり、と頷いた彼女の持つ自転車を指差す。
「自転車を使われるんですかぁ? お姉さんは何をなさる方なんでしょう?」
「……私は……オートバイ」
「ん?」
 声が小さくて聞き取れなかった。ステラが首を傾げるので、彼女はもう一度言う。
「バイクショーの練習……自転車を使うことも……ある」
「っ! バイクショー!? なんかすごそうですぅ。わたし、見たことないんですぅ」
「…………」
 無表情の彼女はしばらくして口を開いた。
「おすすめ……だから」
 見て。
 そう小さく呟いて、彼女は歩き去ってしまった。後で紗枝に聞いたのだが、彼女の名前はミリーシャ・ゾルレグスキーというらしい。



 なんとかゆっくりと作業をすることでミスをなくし、衣装の手入れを丁寧にした。散々アレーヌに脅されたので、ステラは始終緊張しっぱなしで作業をしていたのだ。
 やがて客が入り始め、そのざわめきがステラの居る場所まで届いた。

 明るいステージの上で、団員が前口上を述べている。
 客はどっと笑い、団員は丁寧に頭をさげた。
 そして、サーカスは始まった。

 テントの高い位置でおこなわれる空中ブランコ。鮮やかに客を魅了するブランコの芸人。空中で身を捻り、待ち受ける相手の元へと華麗に跳ぶアレーヌの姿に観客は見惚れた。
 鉄球のような丸い檻・アイアンホールの囲みの中でおこなわれるバイクショー・アイアンボールに圧倒される者もいる。檻の中を二台のバイクが上下左右に走り回った。その一台にはミリーシャが乗っている。
 紗枝のショーでは、思わず拳を握っている客も大勢いた。火の輪をくぐるライオンたち。床を何度も鞭で叩く音が激しく響く。
 その他にもバランス芸。綱渡り。様々な演目がされた。

 サーカスに満足した客たちが完全に去ってから、団員たちは打ち上げパーティーをおこなっていた。今日の公演も成功だったし、お客は満足していたようで、嬉しい限りだ。
「今日はお疲れ様」
 ステラにジュースを持ってきた紗枝に、彼女は慌てる。
「いえ、こちらこそ。たくさんご迷惑をおかけして、すみませんでした」
「こんなパーティーが報酬で、本当に良かったのかしら?」
「勿論ですぅ! 最近まともな食べ物を食べていなかったので嬉しいです!」
「そ、そうなの」
 へぇ、と呟く紗枝をアレーヌが押し退ける。いつの間に来たのか気づかなかった。
「これを差し上げましてよ」
 ステラに綺麗に包装された小さな箱を渡す。不思議そうにする彼女にアレーヌは腰に手を当てて言った。
「衣装の着替え、トロいなりに頑張っていらしたようだし、衣装も丁寧に扱っていたのを評価して、ですわ。中はお菓子ですの。お口に合えばよろしいですけど」
「あ、ありがとうございますぅ」
 かなり高そうな包み紙なので、中の菓子も相当高価だろう。
 紗枝の横で、轟牙が小さく咆える。そうね、と頷いて紗枝はステラに言った。
「今日はありがとうステラさん」



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【6788/柴樹・紗枝(シバキ・サエ)/女/17/猛獣使い】
【6811/白虎・轟牙(びゃっこ・ごうが)/男/7/猛獣使いのパートナー】
【6813/アレーヌ・ルシフェル(あれーぬ・るしふぇる)/女/17/サーカスの団員】
【6814/ミリーシャ・ゾルレグスキー(みりーしゃ・ぞるれぐすきー)/女/17/サーカスの団員】

NPC
【ステラ=エルフ(すてら=えるふ)/女/16/サンタクロース】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、アレーヌ様。初めまして、ライターのともやいずみです。
 最後にいただいた美味しそうなお菓子にステラは感動でした。いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!